息子の卒業式だった。 気合いを入れてクローゼットの奥から引っ張り出したブラックのスーツは、日々の筋トレによる大胸筋と三角筋の発達でチンチクリン。おまけに、カツオブシムシの生態系によって背中は穴だらけ(白いシャツが透けて、さながらオリオン座状態)という最高のオチがついたものの、無事に大役を終えて帰宅した。
色々と気を揉む社会の波に揉まれ、大人も子供も疲れる時代だ。 そんな激動の一日を終え、息子が風呂から上がって自室へ引っ込み、家の中がスッと静まり返ったその時。
我が家の「極楽鳥」が、ふわりとテーブルに舞い降りてきた。

愛鳥のオカメインコ、ロンちゃん(メス)である。 驚くなかれ、彼女がこうしてテーブルに降りてきたのは、なんと約1年ぶりだ。エネルギーに満ち溢れた中学生が寝静まったのを完全に見計らって、「騒がしいのがいなくなったから、特別に降りてきてやったわよ」と言わんばかりのタイミングでやってきた。
スタンダードとは真逆をいく「港区の女」
オカメインコといえば、基本的には「親離れしない、死ぬまで甘えん坊」な生き物だ。 実は私が小5の頃、雛から育てた初代「オカメちゃん(オス)」がまさにそれだった。完全に私を親だと思い込み、「なでろ!ほめろ!あー!お前好き!」と全身全霊で愛情をぶつけてくる、アホ可愛い全開の素晴らしい鳥だった。
しかし、ロンちゃんは違う。 彼女は非常に難しく、とにかくビビリ。「安易に触らないでちょうだい、私は港区の女よ」とでも言いたげな、気高く近づきがたいオーラを放っている。お迎えした当初こそ初代のオカメちゃんに似ていると思ったが、中身は全くの別物だった。
「おいで!」と手を差し伸べても、ススッと後ずさりされるのが日常。 しかし、そんな彼女が、1年ぶりに私の目の前に降り立ち、おもむろに「大好きな爪楊枝をいじめる作業」に没頭し始めたのだ。
(ちなみにオカメちゃん『ノーマル』は当時6,000円。ロンちゃんは『シナモンパール』って綺麗な種類でもあり、36,000。時代の差もあるが6倍!)

見てほしい、この真剣な横顔と謎の職人感。 決して私にベタベタ甘えに来たわけではない。でも、彼女なりの不器用でささやかな「甘え」が、そこには確かにあった。
可愛いから、マイナスも美しい
「もっとこうしてくれたらいいのに」 初代の全身全霊の愛情を知っているからこそ、人間はつい理想を求めてしまいそうになる。でも、ロンちゃんのこの「思い通りにならないマイナス部分」すらも、今はたまらしく愛おしく、美しく思える。
べったりとした愛情じゃなくてもいい。 このレアな愛が繋ぐ、少し不思議で絶妙な距離感。無理に縮める必要もないし、そこに正解なんてない。解決すべき事でもないのだ。
虫食いスーツを着て疲労困憊で帰ってきた夜に、ただ黙って爪楊枝を粉砕する「港区の女」を静かに眺める。 色々ある世の中だけど、この気まぐれな極楽鳥がもたらしてくれたワンカットは、間違いなく幸せな時間だった。

ちなみに⇑は、
Geminiさんとオカメインコの可愛さと、
脂粉の置き土産の話で盛り上がっていたら、
突如として作成してくれた画像。
ご丁寧にカツオブシムシに穴だらけにされた、
僕の悲しみのスーツまで描かれていて笑った。
北斗七星になってるやんけ
(このジローラモ風なイケオジは誰なんだ?)

