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クラフト作品に手を出す

2015年頃、僕はモニターの前で突っ伏していた。

夫婦でデザイン事務所を立ち上げて6年目、
それこそ印刷物からWeb制作と、
手広くデザイン業で暮らしてきて、
新たな局面に差し掛かっていた。

オリジナルデザインのアパレルブランド設立

元々はデジタル作業ばかりの毎日に、
妻が『うああっ! 手でなんか作りたいぃ!』と、
壊れたのが発端だった。

最初はブローチやネックレスなど、
ちょっとした手作りの商品を、
minneに出品する所からスタート。

しかし、時間とコストの問題から、
儲けは月数百円。

というより、すでに多くの作家さんが定着していて、
まさに群雄割拠の時代
まず売れないのだコレが……。

本業があるから致命的ではないとは言え、
対価としてこれが続くと、
心は疲弊するもの。

それまで『手でなんか作りたいぃ!』から、
『ちょっとくらいチヤホヤされたいぃ!』に変わっていった。

☆minne・Creema・Amazonでクラフト作家として
暮らすようになるまでの話はこちら
minne・Creemaで売上月10万円を達成するまでにやったこと


大人向けのイラストとは何か?

『自作のイラストをシルクスクリーン版に起こしてTシャツにする』

当時の僕らの持つスキルや環境だと、
これが一番速いと判断し、
『サーカス熊さん』
『サーカスぞうさん』
の2種類が誕生した。

なぜ『サーカス』かって?

大人向けのイラストTシャツとなると、
その年齢層にふさわしい設定が必要になる。

そして作り手である妻の『最も譲れないもの』は、
『かわいい』ものであること。

例えば熊さんイラストひとつでも、
絵描き歌で行けそうな、
まんまるで構成したゆるキャラ風から、
『熊出没注意!』って4WDの後ろに貼られていそうな、
劇画タッチなリアル熊さんまで色々。

・かわいい
・大人向け

それらを単発で終わらせずに、
シリーズとして世界観を持たせるには、
何かテーマが一つあると良いだろうと考えたのだ。

『サーカス』

楽しく夢のようでありながら、
ワクワクとスペシャリティがあり、
でもどこか物悲しい雰囲気。

何より動物が独特な世界観で描きやすい。

発売から数日、
注文通知が結構な頻度で鳴り響き
僕ら夫妻は『手でなんか作りたいぃ!』を忘れて、
必死でシルクスクリーン印刷に励んでいた。


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『かわいい』との戦いとジレンマ

さて、冒頭の僕が『モニターの前で突っ伏していた』理由。

これまで2つのイラストは妻が描いたもの。
僕だって描きたい描きたい!

デザイン事務所の仕事をこなしつつ、
いざ、モニターの前に座ると、
完全に手が止まってしまったのだ。

これまでデザイン事務所として、
散々イラストは作ってきたし、
大まかなイメージは湧いてくる。

しかし、いざ描こうとすると手が止まるのだ

元々デザインは幅広くやっていたが、
ややモダンデザイン寄りだったし、
美大のアトリエで作っていた作品は、
ミニマルか抽象絵画ばかりだ。

・超リアル
・味のある描画
・シュール表現

は経験があっても、
可愛らしい絵で人の心を動かそうなど考えたこともなかった。

僕はラフを重ねて慎重に本番で臨むタイプではない。
いきなり刷毛に塗料を付けて挑むか、
いきなり木材を電動工具で加工を始めるタイプ!

モニター上で少し描いてはデータ破棄から始め、
それも諦めると、
裏紙に『かわいいっぽいイラスト』を殴り描く。

それはもうリハビリ生活のように、
何度も何度も『かわいい』を探る修行だった。

で、何度か出来上がったイラストを妻に見せるも、
『ちょっとかわい過ぎない?』とボツをくらう

かわいいは正義じゃなかったのか!?

とは言え、
ブランディングでブレはご法度。

妻の立ち上げたchoco-rail(ショコレイル)に求められる、
大人のかわいい世界は死守しなければならない。


マレーグマ脱走事件

僕は動物好きである。
見るのも好きだし、
実際に共に暮らすのも好きだ。

なんなら心が疲弊した時に、
延々とウォンバットの画像検索結果を眺めて、
事なきを得る時もある。

そんな時に目に止まったのが、
東山動植物園で起きた、
マレーグマのマーチン(3才)の脱走事件だった。

マレーグマは幼い頃のオモシロ映像番組で、
大好物のみかんがなくなると、
ヒステリックに頭を掻きむしる映像が記憶に鮮明だった。

『何か、中におっさんでも入ってそうだな』

そんなイメージ(失礼)がある動物のマレーグマ。

画像を見ながらふふふとほくそ笑んでいたら、
頭の中に電撃が走った。

『ちょっとかわい過ぎない?』とボツをくらうなら、
この危うい雰囲気を持ったマレーさんに教わればいいじゃない!

描いた、僕は描いた。

妻に最初に見せた時、
『いや、ちょっと怖い』とボツにされたものの、
その表情に確かなものを感じていた。

思い出すのはウォルト・ディズニーの
「すべては一匹のねずみから始まった」の名言と、
鼻や耳を大きくデフォルメしていく彼の取り組み方のお話。

数度目で明らかな手応えを感じたイラストを持ち、
料理中だった妻の横におずおずと立つ。

『んあ! いいじゃん!』

ようやく聞けたお許しの声に、
僕はへへへと照れ笑いを浮かべるのだった。

↓ブランドコンセプト用のショート動画
※下に記事はまだ続きます


刷り上がりに感じた手応え

完成したイラストをスキャナーで取り込み、
Illustrator上で印刷に耐えるよう調整。

出来上がったイラストデータを元に、
シルクスクリーン版を作る流れだ。

それまでシルクスクリーン版も自分で作成していたが、
ここで初めてプロの製版屋さんにお願いすることにした。

それまで自分で露光させて作っていた版は、
ほんのわずかな条件変化で、
全く違う性質のものが出来てしまうものだった。

シルクスクリーン版は、
乳剤を寒冷紗にまんべんなく均一に染み込ませ、
透明なフィルムに黒で印刷したイラストを載せて露光。

黒いイラストで覆われた部分が硬化せず、
それ以外の部分が硬化した段階で速やかに洗い流す。

そうすることで、
乳剤が反応しなかったイラスト部分は寒冷紗剥き出しに、
それ以外はインクを通さないようになる。

この時に露光が強すぎたり、
乳剤の状態がよろしくないと、
イラスト部分の乳剤まで固まって、
一切インクが通らなかったり、
細かい部分が埋まってしまう。

初めてのプロの製版。

ワクワクしながら、
テスト用の布に初のマレーさんを刷った時、
僕と妻は『ムホッ! ムホホホホホホ❤』と、
しばらく人語を失った

プロの仕事は素晴らしかった。
エッジの効いた刷り上がり、
こちらの使用するインクを尋ね、
完璧な寒冷紗の目のサイズで返してきたのだ。

そして何より、
僕の初めての大人かわいいイラスト、
『サーカス マレー熊さん』は、
強烈な手応えを感じさせていた。

モニターで見ている感覚、
用紙に印刷した時の感覚、
これらとは異なり、
実際に布に印刷した時の感覚は大きい。

ただのイラストを布に乗っけたものから、
一体化した統一感が、
命の吹き込まれたマテリアル感が出る。

この瞬間は止められない。


その後

売れた。
これはもう本当に売れた。

初動、数日で1日数着、
すぐに二桁を超えて、
看板商品へと躍り出た。

特に反響が出るようになったのは、
ボディとなるTシャツのカラーを、
『大人びた色合い』のものから、
『オーソドックスな定番カラー』に変えたことだった。

ネット販売だと、
サムネイルや商品写真での色味が、
実物と異なることがよくある。

微妙な色合いのものは、
避けられる傾向にあると気が付き、
オーソドックスな白Tシャツにした時に、
明らかに反応が変わった。

あれから10年以上が経つ。

特集に乗ったりすることで、
他のイラストが大きく売れる時期もあるけれど、
未だに売上No.1はマレーさん。

増やした新作、
消えていった作品は色々あるけれど、
夫婦そろって人語を失ったあの時の興奮は、
今でも僕らの活動の原点だと言っていいだろう。

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