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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十五章 闇の帷
第十五章│第二話 地図の端
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聖剣の在り処をつかんだ勇者ハンネスは、
前調律神の化身リディと共にラプセルに現れた。
激しい戦闘の最中、
海底に散ったと思われていたティフォとエリンが復帰。
ハンネスたちを滅ぼす寸前まで追い詰めるも、
堕天したリディの目論見により、
聖剣は奪われた。
呪術転移した彼らの行く先はつかめず、
アルフォンスたちは里で準備を進めながら、
新たな力を蓄えようとしている。
その裏で世界は再び『黒舌』の出現と、
中央諸国を中心とした戦乱に、
人々は飲み込まれようとしていた。
教皇ヴァレリー率いるエル・ラト教団は、
新たな団体を発足し黒舌化への対応を強める。
頭上からアオガラの澄んだ鳴き声が続いている。
この小鳥のせわしない姿を見かけるようになるのは、この辺りだと秋のおとずれが目前だということ。彼らは厳しい冬が来る前に、たっぷりと脂肪を蓄えて、里の山間を降りてゆく。
ハンネスとの再戦から、三ヶ月が過ぎた。
俺たちはまだ里に滞在して、鍛錬をしたり、アーシェ婆たちと研究したりして過ごしている。
聖剣を奪われたのに、そんなのんびりしていて良いのかと言えば、何ら気配を感じることもできない今ではどうしようもない。
むしろ、今はアーシェ婆とローゼンが研究している、新しい魔道具の完成と、ガセ爺が鍛えてくれている俺の防具の完成を待っている状態だ。
「アルフォンスよ。残りは何であったか?」
ダグ爺が夥しい返り血を拭い落としながら、爽やかな笑顔で振り返る。
「ん~っと、アオトカゲはもう二十狩り終えたし、アカは残り四十で、クロは五十五だな。皮だのウロコだのはそろってるけど、龍玉がだいぶ足りてない。
……で、霊体系だと彷徨える呪霊を三体、死鳴の魔を十五体、活きの良いままこの魔石に封じ込めろってのが残ってるな」
「ふむ……。アオが二十の、アカが四十に……」
「…………」
「…………」
「「何屋だよッ!」」
ふたりの雄叫びがハモりながら、山間に悲しいビブラートを奏でていた。
「鎧であったな? 確か造るのは鎧であったよなアルフォンス!」
「……同音異義でなければ」
俺だって聞いたことねぇよ、こんな大量の素材を使う防具だとか。龍種の素材は分かるよ? 色々使い勝手がいいから。でも、こんな大量に必要だとか、どんな巨大な鎧を作るつもりなんだあのワハハ魔神は!
龍玉なんて長年生きた龍種が、ブレスを吐くために使っていた臓器が、魔力で変質したものだ。さらに上の黄玉肝なんて指定されてたら、そりゃあダグ爺とのぶらり龍種狩りの旅が数年続いていただろう。
龍玉だからまあ何とかなるが、それだってちょっと頭おかしい数を要求されてる。
「龍種は百歩譲って良しとして、霊体系の魔物を生け捕りにしろというのもな……。なんだアルフォンス、お主はさらに禍々しくなるつもりか? 次は死霊の王にでもなるつもりか?」
「俺が聞きてぇよ……」
この会話ももう何度目だろう。今は『アネスの指輪』を魔改造すべく、ガセ爺から材料調達を頼まれ、毎日少しずつ集めている。だが、その量が頭おかしい。もう一度いうが、頭おかしい。
といいつつも、こうしてダグ爺とまた素材調達で森や山に入れたのは、ちょっと嬉しかった。
何より、エリンとの戦闘談義で毎日ときめいているダグ爺は、なんだか最近えらく元気だ。守護神として、エリンやスタルジャたちと対話して、その存在を認識されているのが良かったのだろう。
「そういえば昨日、スタルジャとエリンが模擬戦したんだって?」
「おうッ! あれは大したものであったぞ!! むほぉっ☆」
『むほぉっ☆』がちょっと気持ち悪い。いかん、話をそらすつもりが、今度は興奮させてしまったようだ。
スタルジャとエリンは夢の世界でも模擬戦を何度もしている。ただ、夢の世界では死傷してもなんら問題がない。だからどこか死生観に焦点が向かないところがある。
そのぶん全力でぶつかり合うことができるが、それは自身の生死をリスクにかけない状態だ。
それはそれで壁を超えるには良いのだけど、やはり現実で大きなリスクを負った状態での死線は、なにものにも代えがたい価値がある。
「あれは良かった……。あれは素晴らしいものであったぞアルフォンス!」
「俺も見たかったよ。アーシェ婆とローゼンとで、ちょうど魔導生命体の実験中だったからなぁ」
※
山頂に広がる風化した石畳。その円形の広場を囲うように、崩れかけた石柱が立ち並んでいる。
これがいつの時代からここにあるのかは分かっていない。おそらくかつては、柱の上になんらかの円形の構造物が乗せられ、美しい神殿のようなものだったのだろう。だが、今はそれらが崩れ落ち、瓦礫は全て片付けられている。
空は快晴。時折、ハナアブがランの花の群生地に通う羽音が、牧歌的な雰囲気をかもしだしている。午前の穏やかな日差しの中、辺りには清々しい風が吹いていた。
ここはアルフォンスとダグ爺が、武の修練場として使っていた場所である。すべて武の免許皆伝も、ここで行われた。いわば、里の武闘場とされる場所だ。
「では双方、肉体強化と補助としての魔術の使用意外は禁止。それぞれの武器で、それぞれの戦術の頂を目指し、己の力を出し切るがよい」
方や槍ではなく、魔槍フォスミレブロと同じ長さの棍を構えて、静かに呼吸を繰り返すスタルジャ。
方や爪一本一本に、強靭な魔獣の皮を巻き付け、目を閉じて何かに耳をすますように立つエリン。
ダグ爺から指摘されていた呼吸法と歩法をふたりはすでにマスターしている。そして、ダグ爺の読みの通り、彼女たちの戦闘技術は、飛躍的に向上していた。今日はその成長度合いを見るべく、ふたりの模擬戦が開かれようとしている。
ダグ爺が鞘に納めたままの曲刀を持ち、軍配のように下に向けて構えると、号令とともに上へと振り上げた。
「─── 始めッ!!」
スタルジャは棍を握り直しながら、より静かな構え方えと移行する。エリンは重心を下げ、矢のように鋭い構えをとった。
ふたりが構えた。ただそれだけのことだというのに、周囲の鳥や小さな獣たちが一斉に逃げ惑う。そして、秋の快晴だというのに、一瞬にして辺りは花曇りのような、ぼんやりとした風景へと変わった。それは、彼女たちの闘気と神気が強烈な密度で吹き上がったために、光が屈曲して起きた現象である。
思わず生唾を飲んだダグ爺の目が、大きく見開かれた。
何の前触れもなく消えたエリン。次の瞬間にはスタルジャの死角に辺り、槍の長さでは対応しづらい位置から、爪を振り抜いた後だった。スタルジャは一歩も動いていない。しかし、いつの間にか棍の握る位置が変わっていて、彼女には爪が当たったような様子は一切ない。
エリンの爪は確実にスタルジャの脇腹に直撃するコースだった。スタルジャは構えていた棍を瞬時に手の中で風車のように回転させ、エリンの爪のコースを下へとずらしていた。
直後、その場では何も聞こえなかった攻防の音が、一瞬遅れて、遠い山々に『シャリン』と乾いた音を木霊させる。
反撃とばかりにエリンの方へ顔を向けるスタルジャ。その動きが一切の無駄なく、エリンの首元へと振り下ろす動作となっていた。しかし、スタルジャは途中で振り下ろすベクトルを逃し、頭上で再び風車のように回転させながら、一歩横へと移動する。
その瞬間、それまでスタルジャの足下にあった石畳が、サクリと四本の切れ込みが入ってズレた。エリンの先ほどの振り抜いた爪で、切り裂かれていたのである。
足場が崩れるのを察知したスタルジャは、攻撃から体重移動へと動きを変えた。途中まで振り抜いていた、棍の先にあった石柱が二本、バターのように切り裂かれて崩れる。
石柱が崩れる音を合図にしたかのように、ふたりの攻防が竜巻の如き、猛烈な勢いをもって繰り広げられる。
機動力と身軽さを利用して、スタルジャの槍の間合いを崩しにかかるエリン。
そのエリンの攻めを、棍の持ち方の変化一つで対応し、槍としての殺傷力を発揮する間合いへと誘い込むスタルジャ。
「……お、おおぉ……ッ」
ダグ爺はその見事な攻防に、思わず声を漏らしていた。それは理想だった。彼が与えた知識を、後進がさらに昇華させ、より確かで優れた道へと花咲く瞬間である。
もはや人類の動体視力や反射速度では、ふたりの姿すら追うことはできないだろう。時折、ブレたように片方の姿が見えたかと思えば、すぐに消え去り、またもう片方の姿が一瞬だけ広場に現れた。それは優雅な舞を、途切れ途切れの映像で見ているかのような、異様でありながら儚く美しい優雅さすらある。
そしてその姿が交互に、または同時に見える時、一撃必殺の攻防がそこで繰り返される。何もないのに石畳が切り裂かれ、離れた場所の石柱が落ち、はるか上空まで大気を切り裂く。一般の武道者であれば、そんな不可思議な光景でしかなかっただろう。
振り抜かれるエリンの爪、棍の先がその肘をなでるようにいなし、空振りさせる。しかしその空振りが回転となり、裏拳が放たれ、ほぼ同時にしなやかな腰の動きが、鋭い後蹴りとなって突き刺さる。スタルジャはその離れ際の後ろ蹴りにさえ、棍を合わせて次の攻撃の勢いに利用する。
こうした攻防が、超高速かつ、切れ間無く続いていた。
直接的な魔術での攻撃は禁止されている。例えば補助として、風の魔術で速度を上げたりするなどは禁止されていない。しかし、ふたりとも純粋な肉体強化意外を使おうとはしなかった。お互いが、技と呼吸法、歩法の答え合わせを楽しんでいる。
で、ダグ爺はとうとう泣いた。
その時、スタルジャの棍が振り下ろされ、攻撃の出鼻をくじかれたエリンは、それを手で受けるしかなかった。しかし、スタルジャの間合いも近すぎたために、エリンの爪がその脇腹に迫っていた。
「「……今のは?」」
模擬戦のために、槍ではなく棒、爪には魔獣の革をぐるぐる巻き。今の状況は本来であればどちらの勝利となるのか。ふたりはダグ爺の審判を求めた。
「な、涙で見えん……ッ!!」
遠くでキジの雄叫びのような鳴き声があがった。
「「「─── ぷっ!」」」
三人の笑い声が、抜けるような秋の晴れた空に響く。
※
「といった感じでな。わしはもうふたりの模擬戦は、肉眼で見るのが難しくなってしもうたわ」
「……涙腺弱すぎだろ。気持ちは分からないでもないけど」
ダグ爺はカラカラと笑いながら、『まあ、老いであるな』とつぶやいた。でもそこに自虐やマイナスな響きはなく、どこか満足げだった。
『老い』それがただの弱体化ではなく、若さでは盲目的になりがちな道への取り組みに、熟達したからこその『喜び』を見出す。ダグ爺はそんな至りを感じているのかもしれない。
あの世界の凶暴を集めて固めたようなアーシェ婆ですら、ソフィアたちとの魔術講座を楽しみ、今はローゼンの人智を超えた知識と発想に、毎日興奮している。ふたりの相性はすこぶるよくて、セラ婆の魔導生命体の躯体を完成させた後、すぐに理想の魔導生命体の研究へと移っていった。
セラ婆は相変わらずおしとやかだけど、スタルジャとの毎日の対話のおかげか、シモンのことも良い方向で乗り越えて進み始めている気がする。
「で、お主の研究はどうなのだ。呪術の応用で追跡をかけるとかなんとか」
「ああ、それももう少しだな。ローゼンがもともと黒舌化で起こる、呪術的な波動を検知する術式を完成させていたんだ。こっちはそれを元に、術式の規模を広げるだけだし」
ハンネスの足取りはつかめていない。でも逃走する時に使った転移は、明らかに呪術だった。黒いムカデのざわめき。ハンネスの感情が揺れている時に、具現化されたように現れる。
呪術は魔術とは違い、念を主にエネルギーとする体系だ。魔力やマナを利用することもあるが、念が原動力となり、あくまでその補助として魔力などが使われる。むしろそういった自然のエネルギーではなく、土地柄、方位、暦、縁なんかの、念が絡みやすい環境や外的な要素が重要になる。
だからこそ、魔術での探知がしにくく、術者との距離が離れるほど察知しにくくなる。
ローゼンはギルドからの依頼で、黒舌の出現を察知するための、呪力感知の装置を完成させていた。帝国がアケルで使用していた大規模転移呪術『門』と同じく、黒舌化の予兆には『廃れた血のような臭い』が確認されている。ふたつが同じものかは分からないが、その臭気とは呪術にまつわる副産物と似ていた。
突如として頭をよぎる風景や面影、古傷が痛んだり、触れられたような感覚。幻聴、幻覚、そして臭い。これらは念という強い要素が生み出す、無意識のうちの共感でもある。
この念という強い要素に着目して、ローゼンは黒舌化への探知装置を作り、それを小型化することでギルドの領内に配置させた。その成果は目覚ましく、人々の避難、討伐の手配までの速度が飛躍的に上昇した。
呪力そのものの見分けはつけられないが、人を怪物に変換するだけの呪力など、そこらの一般人のおまじないなんかの念とは比べ物にならない規模だ。要はその普通では起こり得ない念を拾えば良い。
俺はこの発明を応用して、ハンネスが何かしらの行動を起こした時、その強い念を検知する研究を進めている。
「あのローゼンちゃんというのも、恐ろしいものよのう。まさかこの里にプロトタイプが現れるとは夢にも思わなんだ」
ダグ爺曰く、ローゼンに歯が立つ立たない以前に、立ち向かうのを想定するだけで、脳内で詰むのだそうだ。持っている懐の数というか、次元が違いすぎてとっかかりすら浮かばないらしい。うん、俺も初めて会った時は、絶望しかなかったもんね。
「あ、そういえば、ソフィアとティフォも模擬戦やるんだって?」
スタルジャとエリンの模擬戦の話を聞いて、一番燃え上がっていたのは、あのふたりだった。
「うん? そう言っておったな」
「えらい他人事だなぁ。武の師匠として立ち会わなくていいのか?」
ダグ爺は飲み屋で勘定してもらう人みたいに、笑顔で手をバッテンに重ねて『ふふ、わし無理』とだけ返して来た。
「そろそろ始まるのではないか? アーシェ婆が超強化結界で囲って立ち会うと言っておったぞ」
「……うん。魔術禁止にしたとしても、それくらいの備えは必要だなぁ。あのふたりじゃ─── 」
ズッドォォォォォォ─── ンッ!!
遠くの岩山がさっくりと斬られた。鳥たちが一斉に飛び立ち、空を埋め尽くす。
「また地形が変わってしまうのう……」
「俺はこの辺りの鳥たちが、ストレスでハゲないか心配だよ」
こぼれ斬撃でも飛んできたら即死だなぁと内心ビビりつつ、俺たちはガセ爺依頼の素材集めに奔走した。
※
「ティム? ケンちゃんが遊びに来たわよ~♪」
「おばさん……もう『ちゃん』はやめてよぉ。オレももう成人したんだしさぁ」
「うふふ。ごめんなさいねぇ、ほらケンちゃんのこと、こぉんなに小さな頃から見てたからぁ☆」
「それじゃ小さすぎて、胎児かどうかも怪しいよそれ……」
もう何度も繰り返されているやりとり。村長の孫とはいえ、家族同然に暮らしてきたこの小さな村ペコでは、身分の差などない。
ここはアルフォンスたちが旅立って最初に訪れた人里『ペコの村』である。
かつて盗賊団に人質にされ、村人を守ろうと果敢に交渉を持ちかけた村長に、見せしめで殺されたその孫ケン。そして村の入口の林道で斬られ、打ち捨てられていたティム。
彼らはアルフォンスによって蘇生され、光属性の戦士として復活。本体なら起こるはずのない強烈な主従関係の鎖を、自立する命令によって自由になり、今もこうして暮らしている。
彼らは無事に成人の儀をすませた。当時殺害された村人は全部で七名。他の五人はすでに成人していて、このふたりは村の貴重な子どもたちだった。
一度は失われた命。そのあまりにも唐突で無情な別れを経験していた村人たちは、あれからより結束を強め、支え合う暮らしを高めている。
「ようティム! なんか久しぶりだな!!」
「やあケン。って三日ぶりだろ?」
「あはは、この村で三日も会わないんじゃ、久しぶりだろ。で、どうだったんだよ辺境伯のところは」
「う~ん……。あんまり言いたくないんだけどさ」
ティムはナダリア辺境伯の元へと招かれ、昨日の夜に戻ってきたばかりだった。
アルフォンスによって解決した誘拐事件であったが、当時は便宜を図り、辺境伯にはソフィアが冒険者として解決したと報告がされていた。しかし、誘拐事件を調べていたナダリア辺境伯は、ペコの村で起きていたことを直接村人たちから聞き、その認識を改めている。
後に異例の速度でS級冒険者に駆け上がり、復活した魔公将たちを退け、ハリード自治領、レーシィステップ、アケル、シリルを解放し、現在の中央諸国以南の安全と公益を守った英雄。
アルフォンス・ゴールマインこそが真の立役者であったと。
しかし、長女のエリゼが隣国の王家へと嫁ぎ、それを表立って口にすることは出来なくなってしまった。姉妹そろって拐われたという事実は、貴族としてはもちろん、王家に連なるものとしては大きな汚点となりかねないためである。
ナダリア辺境伯はペコの村に、アルフォンスが魔術知識を置いていったこと。そして数名の村人を、中央諸国の熟練した兵士と同等以上の実力者へと、育て上げたことに感銘を受けた。
今後の防衛のため、ナダリア辺境伯はペコを中心に、手の届きにくい土地の人々にも厚い連絡基盤を設けた。そして、学ぶ意思のある者や見込みのある者を伸ばすことに、現在は尽力している。
特にティムは突出した才能と実力を見せ、十代前半からすでに村で敵う大人はいなくなっていた。それを知ったナダリア辺境伯は彼を度々首都に招いては、新たな知識や技術を与えている。今回の首都招致もその一環で、四年に一度開かれる『御前試合』の予選に彼を出場させたのだ。
「なぁんだよ。もったいぶってさ。どうせ勝ったんだろ?」
「まあ、うん……」
「戦績は?」
「……五戦全勝」
「おお~いッ! みんなぁッ!! むぐっ!」
「やめろって! また騒ぎになるじゃないか!!」
辺境とはいえ、さらに東側からやって来る、強力な魔物への防衛にあたる土地である。その辺境伯の元で行われる御前試合は、かなりの実力者が集まることでそこそこ有名だった。そのまま士官するのではなく、力試しとして参加する猛者が多いのである。
特に近年はアルザス帝国の覇権が世界に広がり、戦い方ひとつを管理されるのを嫌う求道の実力者たちは、南下してくる傾向にあった。そして御前試合予選が行われるとなった時、その参加者の顔ぶれはそうそうたるものとなっていて、過去最高の試合になるだろうとの評判で沸いていた。
「どうせすぐにバレるんだから無駄だってw こんな小さな村だぜ? 娯楽なんてお前の快進撃くらいしかないんだしさぁ」
「だからケンも出ろっていったのに」
「オレが出たって、どうせお前との戦いになるだけだからな~。オレとお前で一位二位獲ったら、それこそ騒ぎだろ?」
「うん、まあそうかぁ」
「ふふん、それにもう遅いッ!」
「? あっ、風魔術使ったな!?」
外から村の男衆の雄叫びが聞こえて来た。ケンは極小に抑えた風魔術を使い、ティムの家の外に会話を流していた。それも魔術に敏感なティムに対して、厳重な隠蔽魔術まで駆使して。
「どうりでニヤニヤしてると思ったんだよぉ……」
「「「おら! ティム出てこい!! 宴だッ!!」」」
部屋に男衆がなだれ込んで来る。担ぎ上げられて連れ出されるのを、ケンは指さして笑い、母親はニコニコで宴の料理を仕込み始めた。
ティムの実力はもう誰もが認めている。武術でも魔術でも。
アルフォンス仕込みの術式の形成は、あらゆることに対して、深い思考力と洞察力を育ませていた。そこにアンデッド最強格のグールの魔力と身体能力である。
さらに少し前、この村の黄泉返り組が、数週間寝込む事件があった。アルフォンスから流れ込む強大過ぎる力に、酷い魔力酔いを起こしていたのだ。ソフィアたちと同じく。
ケンの言う通り、二人で御前試合に参加していたら、まず彼らに敵うものはなかったであろう。
今やこの辺境の地には、盤石な防衛基盤が育とうとしている。
ここまで読んだ
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