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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

序章 アルフォンスの懺悔

序章|第一話 あやふやだけどキレのいい思い出

 誰がいいだしたのかは知らないが、この世界にはこんな言い伝えがある。

『初恋は実らない方がいい』

 何でも、運命が動き出して間もない人生の早春そうしゅんは、あわ曖昧あいまいな恋心なんかで、色づけるもんじゃないのだとか。その後の運命が、色々と不運になるらしい。とはいえ、みんな理由を好きずきにくものだから、本当のところどうしてよくないのかは、よくわからない。

 あの思い出は十年くらい前、確か五歳ごろだったはずだ。

 旅の途中に体調を崩した父さんの療養りょうようで、一時期滞在した街の近くだったけど、いまいち街のことまでは憶えていない。こまどりが綺麗な声で鳴いていて、どこかの森の中だったけど、まだ木剣すら持ってなかったからそんなに深い森ではなかったはずだ。


─── おおきくなったらね、およめさんにしてほしいな!


「えっ⁉︎」

 新緑の淡い木漏こもれ日の中で、同じくらいの年頃であるその子は、確かにそう言った。困惑こんわくする僕をよそに、彼女はニコニコしながらぴこぴこと、ひざで弾みをつけていた。その度に白金の髪が、流れるようにサラサラとれて、エメラルドの瞳をまぶしそうにまたたかせてたのが印象的だった。

 うん……正直、食い入るように見てたと思う。

 本当は聴こえていたけれど、あまりのことに思わず聞き返してしまった。だってこんなに綺麗な女の子、今まで見たことなかったし、遊んでる間も何度か見惚みとれてしまっていたくらいだ。女の子に対してそういった感覚を持ったのも初めてだった……。
 天使って本当にいるんだね、違いがはっきり分かるんだねって思ったよ。

 そんな美少女からの『およめさんにしてね』宣言だよ?

 まあ、彼女のセリフはもちろんだけど……。
 何よりもね、何よりも驚いたのは、その子と出逢ったのは……
 ─── そのだったんだよ

 なんて言うか、早熟そうじゅく過ぎだよね? さすがに自分も幼いとはいえ、聞き違えもしくは恐ろしく素っ頓狂すっとんきょうな美少女と相対してたのかなって、ものすごい違和感いわかんがぐるぐるしたさ。

「……えーとね。おおきくなったら、あなたのおよめさんになりたいの!」
「う、うん! いいよ!」

 この時、おそらく人生初の助平心すけべぇごころが生まれ、人生初の対人的な違和感は、ものの見事に、即座に、刹那せつなに、粉々に……すっかりまるっと負けたよね。そしてこの子との初恋フラグが確定した瞬間だったとも思う。……断る理由? ねえよ、そんなもん。

「ほんとう⁉︎ はうぅ〜っ! すごく、すっごくうれしい!」

 こちらの両手をつかんで、ぎゅうっと抱き着きながら、パアッと明るく咲いた彼女の顔が近づいた。

「…………も、もちろんさ!」
「やったあ! えっと、じゃあね、えっと……」
「ゆ、ゆびきりし─── 」
「けいやく、しよ!」
「……け、けいや……く?」

 なんか小さくて、頭が痛くなるような小さな文字が、びっしり詰まった羊皮紙ようひしと、先っぽに山葡萄やまぶどうみたいな色のインクがしたたる羽ペンを渡された。

「これ……なんてかいてあるの? こんなもじ、みたことないよ?」
「うん? だいじょうぶ。あとでゆっくりみればいいよ!」

 困惑するこちらをよそに、彼女は隣に立って顔を寄せ、羊皮紙のそこかしこを指差した。
 いい匂いがしてた、と思う。

「ここと、ここと、あと、ここになまえかいてね」
「……あ、あのさ。けいやくって、なぁに?」
「うーんとね、やくそくをね、りこー・・・するためのものだよ!」
「……うぅん、よくわからないよ。なまえをかけばいいの?」
「そうそう! ただ、なまえをかくだけ・・でいいんだよ」
「ふーん」

 ちょうど覚えたてだった文字で、やっとこさ名前を書き終えると、その子は何かをポッケから取り出していた。

「けいやくしょは、わたしがもつから、しょーこにコレもっててね!」
「……なんだか、すごくキレイな、いしだね」
「そうだ! なくさないように、むすんであげるね!」

 そう言って彼女はインクの色に似た、きれいな石のついた首飾りをかけてくれた。契約けいやくとかいうの、まだ読んでないんだけどなぁとか思ったけど、それどころじゃないよね。首飾りのひもを持った美少女が、かけてくれるって言うんだよ? それどころのハズがないじゃないか!

「……うんしょっと。これであんしんだね!」
「あ、ありがと」

 顔がぐっと近づいて、なんだか全身が震えるくらいドキドキして、気のせいか首飾りまで脈打ってたような───


 ※ ※ ※ 


 あー、うん。やっぱりこの辺りから記憶がバッサリ切れてんだよなぁ……。

 ああ、ごめん。怖い話とかじゃないんだ。その子とはその後しばらく、毎日のように遊んでた記憶もあるしね。いつお別れしたのか、どうやってサヨナラしたのか、あの時くれた首飾りがどうなったのかもやっぱり覚えてないんだなぁ。

 ……ごめんね。これって初恋が実ったってことでいいんだろうか。とにかくね、この後からの人生はあまりはなやかなものではなかったし、不運であったとは思うんだ

『【アルフォンス・ゴールマインの懺悔】より』

作者のつぶやき

契約書はちゃんと見ましょうねという。

僕の初恋はかつて見事に砕け散りましたが、
その後の人生も色々大変でした。

この少年の場合、
この運命がとんでもない引鉄となります。
『契約書は大事』そんなプロローグでした。

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