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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

序章 アルフォンスの懺悔

序章|第四話 悪者

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待ちに待った『成人の儀』。
しかし、アルフォンスから発せられた魔力は絶大なもので、
神殿は吹き飛ばされ、
アーシェ婆は壁にめり込む爆発が起きてしまった。

守護神『幼女』
加護『幼女の騎士』

アルフォンスの契約した守護神とは一体───?

 結果から言ってしまおう。儀式中に現れた、あの美少女は俺の『』だった。

「オニイチャ……好きって言え!」

 俺にとって決定打はこのセリフだったが、後々、本人が語ってくれた。
 『成人の儀式』で色々爆発した後、俺たちはとりあえず身体を洗ってから、再度集まって緊急会議を開いた。だって、誰も納得してなかったもの……。


 ※ ※ ※


「で、守護神の『幼女』とは何か……だな?』

 アーシェ婆が腕組みをしてそう言った。その瞬間、全員の顔が勢いよく、一斉に謎の美少女に振り返った。

ババババッ! ……ポキィッ! ウグゥ……

 運動不足のシモンが、振り返る瞬間に首の筋をいわせてのたうち回ったが、誰もそちらを見もしない。 美少女の方が重大事だからか、それともみんなの認知力にんちりょくが追いつかないのか。なんかもう、老化とかいい始めると、色々ツッコミすら辛いんだこの里は。

ふりふりふり……

 しかし、『』本人は顔の前で手をフリフリして、それを否定した。

「いや、あんた『幼女』じゃろ、ツルペタとか、そういったくくり的になっ、わははは‼︎」

 そう言ったガセ爺は、少女から伸びた触手につかまれて振り回され、語尾の「わははは‼︎」のドップラー効果を起こしながらどこかへ飛ばされてしまった。

「あたしは、この件には、かんけーない。あたしはその『幼女』じゃない。
……それより、今はオニイチャの、話する」

 飛んで行くガセ爺を、ただ呆然ぼうせんと目で追っていた全員が『あ、それだ』とばかりに向き直る。

「しかし、とんでもない魔力量じゃったのう。それが今はだいぶ抑えられておるが……」

 ダグ爺があごひげをなでながら、眉間にシワを寄せる。それを聞いたアーシェ婆もうなずいた。

「確かに。あのまま噴き出すのに任せておれば、この里など山ごと消え失せておったやもしれんな。
魔術化したわけでもなく、ただ溢れ出た魔力だけであれだけの規模とは。
それも一瞬漏れただけでじゃぞ? それが唐突とうとつに制御されたように感じたが。アルフォンス、お主何かやったのか?」
「いや、俺は何もできなかった。……そう言えば、首とか背中とかが急に熱くなって、急に魔力が収まった気がする」
「うむ、あの規模の魔力を、人類がそう簡単に抑え込めるとは思えん。アルフォンス、脱げ」

 アーシェ婆が手をかざすと、俺のシャツが粉々に爆散した。

「ほぉーん、ほぉーん……って、おい、なんじゃその紋様もんようは⁉︎」
「「「「…………⁉︎」」」」
「ああっ、俺の一張羅いっちょうらが……。んん? 何だこれ?」

 せっかちなアーシェ婆に、一番いい服が消し飛ばされた悲しみが、即座に消え失せた。
 あらわになった自分の胸元に、黒い何かが見える。

「胸元、首回り、それから背中に大きく三ヶ所。刺青いれずみではありませんね。何らかの奇跡のようなもので、ここに顕現けんげんしているようです。これは……呪印? それも古代……いや、神代文字じんだいもじ……。
魔術印のようにも見えますが、これはただの魔術式などではありませんよ」

 セラ婆がうなる。どうやら俺の体に、何らかの呪物じゅぶつが刻み込まれているらしい。

「こ、これが何だか分かるのセラ婆っ⁉︎」
「いえ、神代文字じんだいもじによく似てはいるのですけど、これは……神言しんごん⁉︎」
「神……言?」
「ええ。人が最初に使ったと言われているのが神代文字、それは元々神々の残した文字を、人が理解出来るように崩したものなのです。いえ、正しくは文字ではなく、神の声そのものが、奇跡によって刻まれ形をなしたものが『神言』です」

 いや、それは前にセラ婆から習ったけどさ。ほんの触り程度で『ま、実際に触れることなど無いでしょうから、テストには出しませんよ』って流した話だった。それが、俺の体に? なんで⁉︎

「神の言葉は遥かに次元がかけ離れていますので、普通であれば人は聴くことすら叶いません。神の声には、その一音いちおんだけでも莫大ばくだいな情報量が含まれます。
例えば『光よ、在れ』その一言で創造神マールダーはこの世界を創られました。今現在この世界で起きていること全てまでもが、その一言に含まれていたともいわれています。
……だからこそ、この世界はマールダーそのものの意識であり、人はこの世界をマールダーと呼ぶのです」

 うん、それも習ったよ? でもさ、そんなん神話じゃん? 多分どっかのヒマな人が考え出したおとぎ話じゃん? テキトーな冗談を言ったり、嘘をついたりするセラ婆は、今まで一度も見たことがない。その彼女が真剣に語ってるってことは、これマジだったの!?

「神言は、神の意思そのものを表す形─── 」
「……そ、それがこの紋様だと? いやいや、まさかそんな……ねぇ? え? ホントに?」
「はい。例えばアルの胸に現れた、この魔法陣のような模様の中の一本の線、この一部分だけでも、人が書き起こす魔導書数千冊分の情報が含まれているとみた方がよいでしょう」
「この要素ひとつで……⁉︎」
「……制御……隠蔽いんぺい…………そしてこれは……祝福……かしら?」
「よ、読めちゃうの⁉︎」

 それまで食い入るように解読していたセラ婆は、目を閉じてため息混じりに首を振る。

「いいえ。解読はできません。しかし、ここにある意図いとは、わずかにですが感じられました。
すみませんアルフォンス、わたくしにはこれが限界です」
「いや! ここまで解っただけでも驚きしかない……さすがはセラ婆だ!」

 いや、正直これが何なのか分からなくても、セラ婆すら分からない何かが、俺に起こったことだけは確かだ。まだ何かをつかみ取ろうと、必死に目を凝らしていたセラ婆が、とうとうさじを投げたところでアーシェ婆が語り出す。

「制御、隠蔽いんぺい。つまりこの模様が、アルフォンスの体内で、あの膨大な魔力を制御しておるということか。しかしなぜ、神がこやつに関わる? 守護神は神の名がつくとはいえ、精霊の最上位種のような存在。神言が扱える守護神など、聞いたことがないぞセラフィナよ?」
「今までで解っているだけでは、守護神に関わる真の神は『調律神オルネア』とその妹『エルネア』くらいなものでしょう。真の神の中では、彼女たちしか守護神となった存在はありません。そもそもそれだけでもありえないことなのですが……。
しかし、あの魔力量ともなると、それ以上の何らかの神が関わっていても、まったく不思議ではありません」
「そうよなぁ。一瞬だけじゃったが、あれだけの魔力を行使こうしすれば、それこそ世界なぞちりにもできよう。それをあの一瞬で、完璧に制御し、今はておる。真なる神々の仕業しわざとしても、何ら不思議ではない」

 この世界における『真の神』は、創造神マールダー、光の神ラミリア、陰の神ネイ、時の神エイラ、調律の神オルネアとその妹エルネア。創世記そうせいきに名を連ねる、この六柱だけだとされている。

 『守護神』は調律神の姉妹が生み出した精霊と、そこから別れた神族と魔神族の三種族で、肉体を持たない最上位の霊的存在れいてきそんざいだ。の文字が入るが、真の神と守護神では、その存在の高さはまるで違う。そして、動植物を始め、人類は彼らのいとなみの中から現れた、肉体を持つ下位の霊的存在れいてきそんざいだといわれている。

「じゃあ……『幼女』って、一体……何なの?」
「分からん。全くもって分からん、さっぱりなぁんも浮かばん。アホかってくらい分からん」

 気の短いアーシェ婆が早くも匙を投げ出して、不機嫌そうに頭をいている。いや、この人もこう見えてとんでもない魔術の知識を持ってるんだけどね。セラ婆とアーシェ婆にかかっても分からないとなれば、もう現状どうしようもない。それくらいに、このふたりの知識は半端はんぱない。

 残りのガセ爺の知識は世俗的せぞくてきだし、ダグ爺は脳筋だし、シモンは……ハンサムだ。と、そのハンサムが手を上げて、アーシェ婆に指名された。

「魔力の制御は、体の紋様が原因だとして。アルには他に、何か変化が起きていないのかな?
今は隠蔽されてるとはいっても、魔力があるのは本当なんでしょ?」

 シモンがそう言うと、アーシェ婆がポンと手を打った。

「おお、それだそれ。おいアルフォンスよ、ちょっとそこに残った石柱に、簡単な魔術でも放ってみい」「簡単な魔術? あー【火炎弾フラム・ブレッド】くらいで良いかな」

 魔力で起こす事象じしょうは、エネルギーを加速する発火系が一番楽だ。【火炎弾フラム・ブレッド】は文字通り火の玉を飛ばして、対象物を軽く焼く、松明たいまつを使った方が早いんじゃねえのって程度の簡単魔術。魔術練習の入門で最初に憶えるやつだ。石柱なら不燃物ふねんぶつだし、すすが残るか熱膨張ねつぼうちょうでヒビくらいなら入るかもしれない。

「あの柱の……真ん中辺りにしとくかな。よーし、じゃあ行くぞ。【火えフラn】」


 タァンッ! シュゴオオオオオォォォッ‼︎ ズドォン、パァンッ‼︎
 ……ボゥンッボンッボンッボン……ボボボ……


 え? んん? いや……ちょっと待って。
 ……えぇ? 火が……ええ? なんか赤くないよ、真っ黒な火っていうか、真っ黒なほのおが荒ぶりまくって、地獄みたいになってんだけど……?

 ポカーンとしたまま振り返ると、みんなは真顔のままで、黒炎に成すがままにされる石柱を見上げていた。

 指先に魔力を込めて、術式と対象を意識した瞬間、石柱に爆炎が上がった。鍵となる魔術名を唱えるまでもなく、そして火の玉が飛ぶ間もなく、軽く焼く程度の威力などでもなく。中心部は暗い紫色、周りは漆黒の炎が、断続的だんぞくてきに青白い閃光を放って爆発する。

 いや、禍々まがまがしいのは見た目だけじゃない、もう発してる気配とか、変換された後の魔力の残滓ざんしょうまでもがことごとく地獄でやんの。炎の周りには、その影響か複数の小さな悪霊が青白い筋をたなびかせ、カン高い嗤笑ししょうを響かせながら飛び交っている。

「禍々しいのう。魔神族の使う【地獄の業火イフェン・タン】みたいじゃ。懐かしいのう、消えんのよなぁ……。あれはキツかった」

 閃光に目を細めながら、ダグ爺が遠い思い出を懐かしそうにつぶやいた。
 石柱は爆炎で半分に崩れ落ち、融点ゆうてんを超え、沸点ふってんにすら到達した石がマグマのように流れ出し、地面に赤い血筋を描き出す。黒炎は石柱を焼き尽くすと、やがて悪霊の『ヒィーハハハハハ……』という、ごきげんな嗤い聲わらいごえを残して消えていった。

「つ、次は雷撃系じゃ! あの山の木に撃ってみい!」

 アーシェ婆が動揺しつつ、遠くに見える小高い山の巨木を指した。
 雷撃系魔術の初歩と言えば【針雷ニード・スンデル】かな。文字通り針のように細い稲妻いなづまを生み出して、対象をひるませ、火傷する程度のダメージを与える雷撃系最弱の魔術。対象物がかなり遠いが、大気に働きかければここからでも楽勝だろう。

「……や、やってみる。【にっr】」


 ズッダァ……ンッ! ヴゥン……バリバリバババッ!


 天空から雲を突き破り、闇よりも黒い柱が巨木に突き刺さった。世界が閃光せんこうで白に塗り替えられた直後、仄暗ほのぐらい半透明の球体が、巨木ごと山頂の一部を包み、内部に黒い稲妻の嵐を呼ぶ。数秒遅れて衝撃波が届き、俺たちの髪や服を揺らす。

 轟音ごうおんでショック死したのだろう、真上から俺の近くに事切こときれた鳥たちがボトボト落ちてきた。ものすごく申し訳ないのだけど、今は正直それどころじゃない。

 漆黒の雷球らいきゅうは最後に巨大な髑髏どくろとなり、ゆっくりと薄れて消えていった。そこには山頂にスプーンでえぐられたような傷跡を残す山が残された。

「今度は【漆黒極雷トゥエゥル・トール】によう似ておるのう……。魔神王戦じゃあ苦労したわい」
「ちょ、丁度よい! そこに落ちとる鳥に【蘇生アネィブ】をかけてみい!」

 またも思い出に浸るダグ爺をさえぎって、アーシェ婆の指令が飛ぶ。さっき落ちてきた鳥たちは、物の見事に絶命しているが、死後間もなければ魂も近くにいるだろう。

 魔物系の類は、もう魔石を残して黒い霧になって消えてしまったが、魔獣なら死体が残ってる。外傷がいしょうも少ないし、これだけ新鮮なら肉体の再生を加速させて、魂を引き戻し【蘇生アネィブ】をするくらい楽勝だ。
 目の前の一番大きな、オオタカの魔獣の死体に、魔術のイメージを集中させる。

「今助けてやるからな! 【あねっs】」

 オオタカを中心に、その地面へと黒い光の魔法陣が現れ、青白い光の柱が上がる。


 ビキッ! グチュッ、グチュルル……


 思わず全員が顔をしかめ、その変貌へんぼうを見守っていた。焦げ茶ベースだったオオタカは、黒光りする羽根へと染め上がり、全身の筋肉を隆起りゅうきさせる。やがてゆっくりと起き上がったオオタカが、眉間に禍々しいシワを寄せてまぶたを開く。なぁんか、粘液が体の表面にいっぱいだ!

「ギシャアアアアアッ!」

 うつろな目を煌々こうこうと光らせ、よだれをダラダラ流しながら、こちらに向かって咆哮ほうこうを上げる。おかしいな、確かオオタカって「ピィ」みたいなんだ声だった気がするんだけどな。

「……【浄霊フォデング】」

 唖然あぜんとする俺たちをよそに、セラ婆が対アンデッドの即死魔術をかけた。

「グール化していましたね。かわいそうに……」
「おお? 何じゃ何じゃさっきから! どデカイ音が響いとったが、何か起きたんか? うははは‼︎」

 妹の触手に、どこまで飛ばされていたのか、いたるところにすり傷をこさえたガセ爺が戻って来た。

「……丁度良い。アルフォンスよ、ガイセリックの手当をしてやるがよい!」

 手当て。この流れでアーシェ婆のこの言いかた、回復魔術の初歩【癒光ラヒゥ】をかませって振りだろう。
 【癒光ラヒゥ】は小さな傷とか、軽度の疲労を回復する魔術で、対象箇所に小さな淡い光が浮かぶ弱い魔術だ。効果に関して色々気にかかるところだが、ガセ爺なら大丈夫のはずだ……多分。

「ガセ爺、ちょっと動くなよ。【らひっk】」
「おお、すまんの! わは……うおッ⁉︎」

 ガセ爺が青白く発光した。瞬時に傷は全て消え、すぐに光も消えたが、特に問題がないように思える。これでさっきのオオタカみたいに、目光らせてヨダレだらだら始めたら、気の毒過ぎてアレだ。

「お? 何じゃ? 急に目がよく見えるようになりおったぞ? うん? 肩も軽いし……何じゃ酒が、抜けておる! こりゃあ飲み直さんとな! わははは‼︎」
「その……なんだ、ガイセリックよ。そなた何か身体に変化はないか? 良くない方向で」

 アーシェ婆が恐る恐るといった感じでたずねる。

「なんじゃわしの心配をするなんざ珍しいこともあるもんじゃ! 良くない方向? なんもありゃせんよ、むしろ身体が軽くなったくらいじゃ!
……んん? アーシェスよ、お前さんそんなにシミがあったのか、目が良くなってようやく気がついたわ! わはは……あ、あつぅい‼︎」

 アーシェ婆の錫杖しゃくじょうの先から、熱湯が噴出ふんしゅつしていた。ガセ爺はジョボボと浴びて、なすすべなく床を転げている。

「こほん。あー、アルフォンスよ。ここまで使った魔術は、いつも通りに放ったという点は、相違そういないか?」
「あ、ああ……。むしろいつもより抑え気味にしてたくらいだ」
「ふむ。たかが【癒光ラヒゥ】で、エリクサー神霊薬級の完全回復を引き起こしたのは、まあ置いておくとしよう。
火炎弾フラム・ブレッド】は黒炎で石柱を焼き尽くし【針雷ニード・スンデル】は山をえぐるように消滅させ【蘇生アネィブ】はアンデッド上位種のグールへと転化させたか。
それも無詠唱なのは、今まで通りとして、魔術名の宣言すら必要なくなったのではないか?」
「……うん」
「……」
「……」

「その、まあ、あれだ。つまるところ、控え目に言ってお主は……。
─── 『悪役』という感じだな」

「わ、悪者いやあああああああッ‼︎‼︎」

 俺の叫びがラプセルの空に木霊こだました。


 ※ ※ ※


 と、まあこんな感じで、魔術に関しては意識するだけで発現できるようになったんだ。見た目も威力もえげつない、邪神みたいになっちゃったけどね。

 でもね、こんなのはほんのちょっとの問題だったんだ。魔術なんて使わなくてもまあ、生きてはいけるし。自分の人生を賭けてまで旅を始めることになったのは、様々な事実が発覚したからなんだ。

─── この後にね

『【アルフォンス・ゴールマインの懺悔】より』


ここまでの登場人物一覧

作者のつぶやき

ヒィーハハハハハ……

前に務めていた会社で、
こんな感じで笑うおじさんがどこかにいましたが、
退職するまで正体は分かりませんでした。

面白かったら、その分だけ押してね
本日 0/10
188

【続きは下の『次へ』】

ここまで読んだ

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