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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第七章 キュルキセル地方

第二話 セオドアとアースラ

「ガツガツ……! ああ、ありがてえ、ありがてえ!」
「ごくごく、んぐッ! ぷはぁッ! ありがとうございます、ありがとうございます!」
「いや、礼はいいから、落ち着いて食えよお前ら……」

 獅子のたてがみのような、剛毛の金髪ボサボサ頭は、思わず見とれるほど毛の量が多い。太いもみ上げと髭が繋がって、首から上はほぼ毛だ。体のデカさはセバスティアンよりやや上か、丸太のような腕と、戦士然とした無骨な革の軽鎧。男の名はセオドアと言った。

 もう一人はやけに細い体ながら、ソフィアよりも背が高く、吊り目が印象的な女。長い橙色の髪を腰元まで伸ばし、驚く程に肌が白い。白いローブを纏い、先に扇型の刃のついた長い魔術杖を持っている。女の名はアースラと言うそうだ。

 ふたりは傭兵として、諸国を旅しているらしい。傭兵と聞いてシャリアーンの関係かと構えたが、今は無職で旅の途中なんだそうだ。

「しっかしあん時ゃあビビったぜ! 網に掛かった途端に身動き取れなくなっちまうし、なぁんも出来ねえまま吊り上げられてよ? どうしたもんかと途方に暮れてたら、槍を持ったおふたりさんが来るじゃねぇか」
「で、ティフォさんの『食べる?』ですからねぇ。失礼ですけど、おふたりをどこぞの食人族か何かかと思ってしまいましたのよ」

 まあ、一晩吊るされて参ってる所に、槍持った少女が自分達を指差してそう言ったら、そりゃあ混乱するわな。と、スタルジャが珍しく、初対面のふたりに興味津々な様子で話しかけた。

「ねえ、ふたりはどうしてこんな森の中にいたの?」
「いやぁ、天領サァルヘイムによ、夕陽が二つ見える場所があるって聞いてよ? 仕事もねぇし、いい加減戦場にも飽きたしな、思い切って旅でもすっかてなもんよ」
「で、このおバカさんは、ろくすっぽ地図も見ないで『夕陽が二つ見えるっぽい匂いがする』とか何とか、何の根拠もない大いなる行動力で、盛大に遭難してた所でしたの。食料も尽き、歩けば同じ所をぐるぐるぐるぐる。わたくし、数日前から遺書をしたためていた次第ですのよ」
「─── ⁉︎ アースラ、おめぇ。うぅ、俺ぁそこまでお前を追い詰めて……。うぅ、ガツガツ」

 ふたりはタッセルの北に位置する、小国のせめぎ合う山岳地帯、メジャルナ地方を点々としていたらしい。

「その『二つの夕陽』ってのは、タッセルの遥か北東の小国ブエラ王国の話だぞ。遭難したどころか、旅立ちから真逆の方向に進んでんじゃねえか」
「「─── ッ⁉」」
「肉、もっと食うか?」
「「おかわりっ‼︎」」

 んー、元気な事はいい事だ。その後も何度かおかわりを繰り返し、その頃にはすっかり俺達とも打ち解けていた。

「しっかし、この森はおっかねぇなぁ。アンデッドか? 嫌ーな魔力に取り囲まれてるみてえだが」
「ああ、そりゃあグール達だな、味方だから心配は無い」
「「グールッ⁉︎」」

 まあ、そう言う反応の方が自然だろうな。一体でも、A級冒険者ならソロだとヤバイ位の相手らしいしな。その話の流れから、全ては話さないが暗殺者集団に狙われてる事と、ローオーズ領に沿って北上している事を話した。

「かぁ〜ッ、ここでも教団かよ! 何だってあいつらは、俺達のいく先々で嫌な話を聞かせやがるンだか」
「ん? あんたらも教団とやり合ったのか?」
「直接ではねえけどな。ほれ、ちょっと前にタッセルで魔族騒ぎがあったろ? 貴族の中に魔族が紛れ込んでたってやつだ。隣のハリードじゃあ、太守が入れ替わってたってぇ話だが、あの騒ぎでタッセルもハリードも帝国になびいたんだ」
「わたくし達のメジャルナ地方の小さな国々にも、急速に帝国と教団の話が盛り上がりましたの。いくつかの国は教団を受け入れてしまって、元々小競り合いの絶えない土地でしたけど、力関係が変わって激化してしまいましたわ」

 彼らは特定の国に属していたわけではなく、転々と小競り合いのある土地に移動しては、そこに雇われて傭兵家業を営んでいた。とは言っても、血みどろの殺し合いと言うよりは、お互いの力を見せ合う示威行動ばかりだったようだ。

「急にな、戦に流れる血が増えちまったんだ。武器も戦略も、ガッチリ死体を増やすためっつうのかね、ゴリゴリの殺し合いよ」
「そのせいでしょうか、残った国々も教団を受け入れた方がいいのではと、慌てて動き出したのですが、それらには教団は力添えをしませんの。まるで対立状態を操作しているような……」
「ふーむ、教団や帝国の考えそうな事ですね。対立の構図と規模が安定していれば、利益を狙い易くもなりますし、大きく加担する必要もないですからね。長くそこに留まる形を取られましたね」

 なるほど、大きく加担してすぐに対立が決してしまえば、その後の教団の浸透は乗るか反るか極端になるが、バランス良く長引けば必要とされる時間も馴染みも良くなるだろう。確実に教団の必要性を上げてるのか。シリルの支配もそうだけど、本当に老獪ろうかいと言うか、見通しの立て方が老獪だ。
 大陸北端の帝国が、大陸南端の小国を押えてどうするつもりなのかは分からないが、タッセルとハリードの掌握の一環なんだろうか。

「そんなもんでよ、気楽な力比べじゃあなくなっちまって、殺せと言われりゃあ殺すけどな。何とも窮屈でよ」
「この旅でいい場所があればと、淡い期待も抱いていましたのよ」

 傭兵ってもう少しビジネスライクな生き方だと思ってたんだけどなぁ。彼らは純粋に闘う事を楽しんでいるみたいだ。何とも獣人族とか鬼族を彷彿とさせるな。

「力を見せて食って行きたいんだったら、ダルングスグルとかアケルの貿易路で、護衛の仕事でもすりゃあ良いんじゃないか? 野党だの魔物だの、腕に覚えがあれば引く手数多だろう」
「「─── ‼︎」」
「草原と遊牧のダルンかぁ。なかなか良いなそれ、うん。何か俺ぁ、ビビっと来たぜ?」
「そうですわね。アケルは少し……あれですけど、ダルンなら」
「ん? アケルはダメなのか?」
「あー、ちょっと身内が居てな。あんまし関わりたくねぇんだそいつとは。それに俺はほれ、蒸し暑い場所は苦手なんだよ。蒸れちまう」

 あー、剛毛だもんな。アースラの方も血圧低そうだし、気候的に体力削られそうだよな。

「ダルンならここから南下するルートはキツい。このままローオーズ領を西に横切って行けば『栄光の道』に繋がる交易路がいくつか出てくるはずだ」

 そう言って地図を示すと、ふたりはうんうんと頷いて、目を輝かせていた。

「よーし、俺ァ決めたぜ! ダルン目指して栄光の道を進む。途中にいい場所があればそれでもいい」
「ええ、それが宜しいですわね。そういたしましょう」

 ふたりはきゃっきゃ言いながら、ハイタッチを繰り返している。まあ、仲良いんだな本当に。

「取り敢えずはよ、あんたらもローオーズ領に行くんだろ? 飯の礼っちゃあなんだが、それまであんたらの護衛をさせてくれよ!」
「お願いですの、もうふたりで森をさまようのはこりごりなのですのよ。ここは皆さんとご一緒させて頂きたいですし、わたくし達も腕には、それなりの自信がありますわ」

 うーん、正直な所、護衛は必要ないんだよなぁ。隠さなきゃいけない事が多過ぎるんだよ、俺とかソフィアとかティフォとか、スタルジャだってダークエルフだって話が広まったら騒ぎになりそうだし。エリンとユニだって『獣人が魔術⁉︎』何てレベル遥かに超えてるしな。

 かと言って、このふたりがどれだけの腕かは分からないけど、俺を狙う暗殺者集団の巻き添えになったりしたら寝覚めも悪い。これは、下手に断るより、護衛されてるフリしながら、このふたりを安全な場所まで送ってやる方がいいか。

「……そうか、恩に着るよ。ローオーズ領の最初の街までお願いしようかな」
「おうっ、任せとけ! んじゃあアル、短え間だがよろしく頼むぜ」

 求められた握手からは確かな力強さと、日向にいるような、鷹揚おうようで暖かな魔力が感じられた。『悪い奴ではない』勘ではなく、彼にみなぎるエネルギーがそう言っている。信用とまでは行かなくても、疑う必要は無いかも知れない。

 こうして、一時の仲間にセオドアとアースラが加わる事となった。

 ※ ※ ※

 

「─── もう行くですか」
「ああ、貴女には本当に世話になった。何と礼を言えばいいのか分からない。今は返せるものが無くて申し訳ないが、国に帰ったら必ずや……」

 極光星騎士団の象徴、白銀の鎧に身を包んだ女騎士が、旅の出で立ちでローゼンに別れを告げる。以前ほどでは無いにせよ、体力と魔力が戻った彼女は、むしろ顔立ちに余裕が出ているようにも見えた。しかし、ローゼンの表情にはどこか影があり、女騎士を心配する気持ちを隠そうとはしていないようだ。

「お礼など全く無用なのです。お部屋の片付けを手伝ってくれただけでもお釣りが来るですよ。それより貴女、本当に教団へ帰るですか?」
「無論。私の帰る場所はそこしかない」

 女騎士の顔に憂いは無かった。ローゼンは眼鏡の位置を直し、小さな溜息をひとつ、顔を逸らして言う。

「最悪、貴女、死ぬですよ?」
「ふふ……貴女もそう言うのだな。アルフォンスにもそう言われたよ。私だって経典を愛して止まないが、教団の意向に犬死など御免だ。まあ、上手くやるさ」

 単身、無許可でアルフォンスを追い、その彼女の捜索に充てがわれたグレッグ司教とセバスティアンが。組織から失われるには、二人の地位は高い。近いうちに調査の手は、この鬼族の里にも伸びてくる事だろう。彼女ひとりに支払った代償は、教団にとって安いものではないなずだ。

 更には聖剣の力の喪失。聖剣への細工はアルフォンスにより、ほぼ完璧に仕上げられているが、それだって何処で発覚するか分からない。

「私は命の重さとか、くだらねえ精神論を言うつもりはさらさらねえですが。流石に自分の手で救った者が、すぐに殺された、なんてのは気分が良くねえのですよ」
「……返す言葉も無いな。だからこそ、命を無駄にはしないと、マールダーに在わす全ての神々に誓おう」
「はぁ、神はそう言う役割はしねえですよ。分かったのです、ちょっとそのまま待つです」

 ローゼンは一度部屋に戻り、何かを探しているようだ。何かを盛大にひっくり返すような騒音が、ローゼンの家から響いている。

 体調が良くなってから、片付けの苦手なローゼンに変わり、女騎士が大掃除をしていた。また、部屋が元どおりになったのかと、待ち惚けを食う女騎士は、他人事ながら暗澹とした気持ちになった。

「げほっ、お待たせなのです。これを貴女に差し上げましょう」

 埃まみれになったローゼンが差し出したのは、一本のペンダントだった。銀の鎖に繋がれた、ほんのりと青味がかった透明の石が、プラプラと揺れている。

「これは……? 済まない、宝石の類にはとんと無頓着なのでな、一体これは何なのだ?」
「宝石ではねえのです。人工精霊石なのですよ。これに魔力を込めて念じれば、魔力が続く限り透明になれる魔道具みたいなものなのです。名付けて『ペピンズストーン覗き野郎の石』。相当な相手でも無い限りは、貴女を認識する事は出来ないでしょう」
「─── ‼︎ そ、そんな大事な物、受け取るわけにはッ」
「命を大事にするのでは? いいから私が笑ってる内に受け取るです。それにこれは暇つぶしに作っただけですから、私には全く必要の無いガラクタなのですよ」
「そ、そう言う事ならば……。かたじけない、ありがたく頂戴する。何から何まで本当に済まないローゼン殿」

 そう言って受け取ったペンダントを首に着けると、ほのかに魔力が混じり合う、暖かな存在感を示した。紛れも無く魔道具なのだろう、自分の給料だったら何年のローンになるか、そんな事を考え出したら女騎士の胸が痛んだ。

「アルさんと私、ふたりに命を救われたと思っているのなら、ゆめゆめ油断はしない事なのです。人の運命など、実に簡単に唐突に終わっちまうものなのです」
「この魔道具といい、時折感ずる底の知れぬ力といい。いつもはぐはかされてしまうが、貴女は本当に何者なのだ……?」

「ふふふ、なら、はぐらかされたままの方が、気楽でいいじゃないです? 知りたがりは早死にするのです」

 表情は相変わらずぎこちない微笑みのまま、それなのに女騎士は巨大な山を押しているかのような、途方も無い何かを感じて諦めた。

「世界は広いな……」
「へ? 何か言ったですか?」

 女騎士の小さな呟きに、キョトンとした表情のローゼンからは、もうその何かは姿を隠していた。女騎士は溜息をついて笑うと、姿勢を正して魔力を循環させた。

「いや、なんでもない。本当にお世話になった。救われたこの命、大切にさせてもらう」
「なら帰るなと言いたいですが、意味はないですね。どうかお達者で」
「ははは、ローゼン殿も。それでは─── 」

 飛翔魔術が発動し、女騎士の体がゆっくりと上空に浮かび上がると、矢のように北西へと飛び立った。しばらく空を見上げていたローゼンも、ふぅと溜息をついて、部屋へと戻るとガクリと崩れ落ちた。

「嗚呼……。これをまたひとりで片付けるですか……」

 女騎士への餞別せんべつ捜索の痕跡は、地上最強の一角であるローゼンに、膝をつかせる破壊力があったようだ。

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