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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第七章 キュルキセル地方

第八話 紡がれる希望

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ローオーズ領ホーリンズの街。
警備庁舎内に突入する極光星騎士団。
その最上階では、
ブラドを失った怒りと悲しみに呑まれるセオドアと、
同じく苦しみ、そしてセオドアの正体に憂いを持つアルフォンスの殴り合いが勃発した。

庁舎に突入したほとんどの聖騎士達は、
エリンとユニの赤豹族姉妹の前に崩れ、
この突入作戦のリーダーであったカールは、
ソフィアの前になすすべ無く倒れる。

セオドアは理解する。
アルフォンスは怒りや疑念に呑まれたものではなく、
大切な存在を守るための憂いであったと。

セオドアは全ての事情を明かせないとしつつも、
アルフォンスを裏切ることはないと宣言する。

しかし、蟲使いから受けていた毒がにより、
アルフォンスはその場に倒れてしまう。

「ん? どしたオニイチャ」
「ああッ! ティフォちゃん! 『ミナミマスラマダラウミヘビ』の血清、持ってませんか⁉︎ 『ヒノミサバクコブラ』でも代用出来ます、へ、蛇毒です! 悪精系の!」

 崩れた天井からスタルジャと共に現れたティフォは、慌てふためくソフィアの説明を聞き、フンスと鼻息をひとつ吐いた。

「ん、ヘビ毒な? ちとどいてろ」
「え? ティフォちゃん持ってるんで……」

 ちゅっ、じゅぼぼぼぼぼぼ……

「「「……あ、うわぁ……」」」

 仰向けに倒れ、脂汗を流して浅く呼吸をしているアルフォンスに、ティフォは覆い被さる。

「よ、弱ってる寝込みを……。あ、いえ、毒はおそらく腹部ですよ⁉︎ 口から何を!」

 じゅぼぼぼぼぼぼぼぼ……

 慌てふためくソフィアを、片手を上げて制し、ティフォは構わずハードバキュームを続ける。

「ぷはっ、ひさびさの、かんのーのたんのー」
「う、げほっ、げほっ……ティフォ、人前ではハードタイプは止めろって言っただろ……げほっ」
「「「………………!?」」」

 アルフォンスが上体を起こすと、ソフィアが恐る恐る手をかざし、何かをうなずくと弾けたように抱き着いた。

「ん、あたしは『全怪物の王』。ヘビ毒など、あしうらの、こめつぶどーぜん」
「……は、はは。例えは目も当てられないけど、助かったよティフォ……げほっ」
「ん、よきに、うやまえ! とはいえ、ちとオニイチャ、ながすぎたな。しばらくは動かないほーが、いい」
「て事は、やっぱりキスする必要、無かったんじゃ無いですか」

 放心状態だった赤豹姉妹は、ただただふたりで手を取り合って、泣き出してしまった。

「……ごめん、心配……掛けちまったな。大丈夫だから俺……。泣かないでくれ」
「ふぐぅ……ああう、ひっく」
「心配だったにゃあ! 本当に……心配だったんだから……ッ、うえ〜ん」

 しばらくふたりが泣くのを、何度もアルフォンスは頭を撫でて、大丈夫だと言い続けていた。やがて、泣き止んだユニは、アルフォンスの手を握りしめて、消え入りそうな声でブラドの最期を尋ねる。アルフォンスは、全員を見回した後、淡々とここで起きた事を話し始めた。

─── ブラドの姿は、シャリアーンの刺客が、蟲を使って幼体化したものだった事

─── その幼体期に生まれた、独立した便宜上の人格でしか無かった事

─── 残されていた記憶は、幼体化を解く鍵であり、ここに戻ってくるための伏線だった事

─── そして、刺客の任務は、ただここにアルフォンス達を呼び寄せるだけだった事

─── 魂を持たないブラドは、蘇生魔術などは適用せず、刺客が覚醒した時から消えてしまう運命にあった事

「そんな、じゃあブラドは、幻だったって言うの!」
「いいや、それは違うよスタルジャ。ブラドは最期まで、自分が在る事を自覚してたし、俺を助けるために一時は体の主導権まで奪ってた。あれは、人格そのもの、ブラドって人間が確かに存在した証拠だよ」
「お、おお、ブラド……ブラドぉ……。く、お、親父どのッ‼︎ おで、ぐすっ、俺ァよお……アンタに謝んなくちゃなんねぇ」
「……セオドア」

 セオドアが地に頭を付けて、何度も頭を下げるのを、アルフォンスは困った顔で止めたが、彼は聞き入れそうにも無かった。

 困り顔で頭を掻いた時、アルフォンスは目を見開く。
 頭を掻いていたその指を、何かに気がついたように、顔の前で自分の手を検めた。途端に体を起こそうとする彼を皆が止めるが、無視して歩き出す彼を、姉妹が両脇から支える。彼が目指した先は、ブラドの死体が散らばる、すでに黒く変色を始めていた辺りだった。

 未だ薄っすらと渦巻く、アルフォンスの魔力が、そこに小さな魔力溜まりを作っていた。その中には、注意深く見なければ気がつかない程、わずかに光を発する丸いものが浮いている。戸惑うように手を差し出して、その光に近づけて行くと、親指にはめていたアネスの指輪が同じくぼんやりと光を発した。

─── 『アナタの魔力、意思、愛情その他を吸収して、巨大なタンクになってるですよ』

 ローゼンの言葉が脳裏に浮かび、アルフォンスは指輪を通して祈るように、その小さな弱々しい光に願った。

「ブラド、こっちへ来い……共に生きよう!」

 弱々しい光が、こちらに返事をしたような気がした。そう思った瞬間、それは吸い取られるようにして、指輪の中へと入って行った。

─── アル……おとーさん……

 確かに聞こえた。

「は、はは……よか、良かったブラド……。ただの記憶……なんかじゃないんだ。こんなに……思念が出せるじゃないか……」
「思念、それだけじゃありません。強い何かがブラドの意思に力を与えていますねこれは」

 屈み込んで見ていたソフィアが、近くにいたセオドアを振り返った。その手にしっかりと握られていたのは、セイジンキキョウを象った、青魔鋼のペンダント。

「人の想いを宿す、願いを叶える鉱石。ふふふ、神は奇跡を『行使』しますが、奇跡を『起こす』のは、いつも人の想い……ですものね……ぐすっ」

「な、なんだよ、分かるように言ってくれよ! た、助かるのか⁉︎ ブラドの奴、助かるのかよ親父どのッ‼︎」
「今はまだ、分からない。俺の魔力を糧にブラドの強い思念と、セオドアお前の想いがそのペンダントを通して力を与えて、ブラドの思念がし掛けてたんだ。まだ、微弱な存在だし、どこまで安定して大きくなれるかは分からないが……。いつか必ず、俺が救ってやる」

 セオドアが泣崩れると、つられて皆、泣きながらお互いを抱き合って、その希望にすがっていた。

「ん、オニイチャ、敵のはんのーあり」

 ティフォの言葉に、その場にいた全員の顔が変わった。

 ※ ※ ※

「ひぃ、ふぅ、みぃ……。がぁッ、数えるだけ無駄だ! えれえ数だぜ向こうさんは」
「ん、いま外に見えてるのが全部で二百くらい。あと東のたてもの、中に約四十。あっちの倉庫に八十未満、川のていぼーのかげに六十強。下水でこっちに向かってるのが五十、ぜんぶシャリアーン」
「な、なんでそんな分かンだよッ⁉︎」
「ダメなの、理論的に考えたら、ティフォ様にはついて行けないの」

 帝国方面に潜んでいたシャリアーンは、すでにティフォがやってくれたし、街にいた極光星騎士団関係はスタルジャが焼き上げた。それなのにこの数、ティフォの見立ては凡そだが、ほぼ正確だろう。今までとは違い、シャリアーンの殺気があまり隠されていないのは、一体なんなんだ?

「多分これ、時間稼ぎでしょうね」
「ん? そうなのか?」
「さっき極光星騎士団の団長のナントカに、お説教兼ねたカマかけしたんです。多分、この一連の教団騒動は、ここで何かを起こさせる為の伏線。おそらく、教団上層部内の、権力争いが発端だと思います」
「権力争い?」
「シャリアーンの今までの攻勢が、どうにも回りくどいんです。そもそもキュルキセルの大森林で、わざわざ網を張ってるのは、いくら私達の進路から計算したとしても効率が悪いんですよ」

 うん、確かにそうだな。大森林は縦長の盆地とは言え広大だ、網を張るには人員がかなり多くなる。

「ここまで私たちをおびき寄せた、その手腕には舌を巻きますが……。この街で決戦を仕掛ける理由が無い」
「確かに。ここは中立国の主要都市のひとつだ。ここで騒ぎを起こすのは、周辺国からの印象もだだ下がりするはずだ」
「カマかけした時、出て来た責任者の名前は『オウレン枢機卿』です。彼はかなり高齢ですが、教団きっての帝国派の第一人者です」

 世界に広がる一大宗教の組織だ。そりゃあ派閥もあれば、権力争いもあるだろう。

「エル・ラト教には、帝国との協調を提唱する帝国派と、教団の単独強化を提唱する教団派の二大派閥があるんです。教団は公国として、公には独立をしてますけど、教団のみでは限界もありますから。力を借りるか、己で力を持つか、今は帝国派の方が圧倒的らしいですけど」
「……なるほどね、派閥の中での序列争いか」
「ローオーズ領は中立国として、他国の意向に偏りを持たないと標榜ひょうぼうしていますから、今回の極光星騎士団の介入は外交上かなりの問題。ここをわざわざ決戦の場にするとか、愚策どころか自殺行為です。これは、帝国派か教団派、どこかの誰かさんが流れじゃないですかねぇ?」

 今俺の抹殺を企てているのは教団だ。ただ異端者がいるからと、他国の意向を無視して、他国内に勝手に兵力を派遣したら確かに問題だな。

「私達をここで足止めして、公然とした敵として処理する、何らかの手立てが必要でしょう。この街の警備庁には、根回しがあったのは明確ですけど、公に他国の介入が必要だったと納得させる事実が必要です。例えば、ローオーズもしくは、近隣国の国軍が交戦したとする事実を作る」

 確かに、警備庁舎の職員の動きは、この騒動に沿っていた。つまり、最初から教団の息がかかっていたとしか思えない。この反帝国、反エル・ラト教団のローオーズ領内でだ。

「これで出てくる軍がどこの国の所属かで、仕掛けの大きさが分かるんですけどね。ローオーズであればただの内輪揉め、周辺国であればアルくんの世界指名手配狙い。帝国だった場合は……。いえ、流石にありえませんね……」

 ソフィアがそう呟いて、難しい顔をしていると、横で聞いていたセオドアが腕組みをして、大きく頷いた。

「なるほどな、つまり教団がってんだな、うん」
「あー、良いかセオドア、よく聞け。理由は理解しなくていい、今来てるシャリアーンは、どっかの軍隊が来るまでの時間稼ぎって事だ。どちらにしろ、シャリアーンとは闘う事になるが、出来る限り速くここから脱出するのが目標になる」
「間に合わなかったら、どーなりやがるってんだ?」
「このローオーズもしくは、どっかの国の軍隊と交戦。その原因として、国際的な悪者に俺達……。いや、特に俺がされるんだよ。教団が狙ってたのはだからな」

 別にのんびり世界旅行したいわけじゃないから、教団に睨まれるのは構わないけど、国際的にとなれば出入国が至る所でキツくなる。

「─── んじゃあ、は関係ねえな」
「そうだな、俺達に巻き込まれる事はない、アースラと一緒に逃げろ。ふたりだけなら身軽に動ける。身元もまだ割れてないしな」

 そうだ、彼らは関係ない。警備庁で入国審査を受けたわけでもないからな。ちと言葉は寂しいが、運命を共にする仲間ってわけでも無いし。

「違ぇよ。俺らが暴れてる間に、ってンだ」
「ハァッ⁉︎ 話を聞いてたのかセオドア!軍隊が来るかも知れないんだぞ、お尋ね者にされるかも知れないんだぞ! シャリアーンどもなら、俺ひとりでも……」
「その身体でかよ?」

 耳が痛い。毒は抜けたが、身体中あちこちが痛む、正直立って話すのだけでも精一杯だ。

「それこそお前に関係無い!」
「嬉しいねぇ、俺も大分、アンタが分かるようになって来たぜ。そう言うと思ったよッ‼︎」

 ズド……ッ

「…………ぐっ……う、セオドア……何を……!」

 セオドアに腹を強打された。部屋で殴り合ってた時とは、重さが全く違う。肉体強化? いや、これはさっきとは、まるでモノが違う!

「ほれ、おねーさん方。大事な婚約者連れて、とっとと、ここを離れな」
「セオドアさん……恩に着ます……」
「…………や……めろ、セオ……ドア……」

 闘気を打ち込まれたのか、全身に力が入らない、回復魔術に集中すら出来なかった。

「へへ、親父どのよ、過保護ってモンだぜ? こういう時はよ、こう言われた方が力が出んだよ。『お前に任せた』ってな!」

 テラスの縁に飛び乗ったセオドアが、両腕を広げて全身に力を漲らせる。隆起した筋肉に革鎧が弾け、黄金色に輝く体毛が体を包み、絶大な闘気が覆う。

「…………獅子の……獣人……?」
「へっ、答え合わせはまた今度だ。アンタらの用事が済んだら、また会おうぜ! アースラ、行くぞッ‼」
「うふふ、久しぶりに血がたぎりますわね。わたくし、変温動物なのですけれども」

 セオドアの隣に立ったアースラは、青味がかった白銀の鱗に覆われた龍人の姿になっていた。軽く種族ジョーク入れたりしてるけど、普段の言動とか、特殊な術の遣い手だとか、その姿が妙にしっくり来てしまった。

「アルフォンスさん。本当に色々ありがとうございました。無事、目的を遂げて下さいましね。……ブラドの事、何卒よろしくお願いします」
「オラッ、行くぞアースラッ‼︎」
「うふふ、ハイハイ。それでは皆様、ごきげんよう!」

 彼らが飛び立ってすぐ、獅子の咆哮ほうこうが大地を揺るがした。シャリアーン達が、陣形も取らずにセオドアへと殺到して行くのは、何らかの特殊能力を使ったのだろうか?
 そんな事を考えるうち、俺はいつしか眠りに落ちてしまった 。

 ※ ※ ※

 カップの湯気が、糸を引くように流れた。空では時折風の鳴る音がするが、森の中は静かなもの、こうして時折風が通る程度だ。明日には雨が降るかも知れない。

 あれから二日が過ぎ、俺の体調も万全、義父さんの指定していた『ケファンの森』まで後二〜三日もすれば着く所までやって来た。セオドア夫妻は、まだ現れないが『用事が済んだらまた会おうぜ』と言う言葉を信じるしかない。結局、彼らに助けられてしまった。

 パチ……パチパチ……パキッ……

 今は夕食も終えて、こうして焚火を前に、思い思いの時間を過ごしている。そう言えばこんな静かな夜、義父さんに焚火の前で、本を読んでもらった事があった。昔の記憶に少し穏やかな気分になった俺は、荷物から一冊の本を取り出した。

「ん、オニイチャ、それなんの本?」
「これは『勇者物語』だよ。聖魔大戦を子供向けに、勇者の話だけ書いた絵本さ。随分とボロっちくなっちゃったけど、小さい頃は夢中で読んでたんだ」
「読むの?」
「ああ、ブラドに聞かせてやろうかなって。ほら、読んだ事無かっただろうし」
「ん、ティフォも聞きたい」
「じゃあ、そこに座って、読んでやるよ」

 ドガッ

「んー、ティフォ、そこは俺の膝だなぁ」
「これでいー。読んで、はよ」

 そう言うわけで、ティフォを膝の上に、勇者物語を読む事にした。スタルジャも近くに寄って来たので、少し大きな声で。

 ※ 

─── むかし昔の、その昔

 光の神ラミリア様のお見守り下さる、このマールダーに、突然平和の終わりが訪れました。魔王フォーネウスは、一晩で四つもの国を滅ぼし、こう言ったのです。

『か弱き人族よ、奴隷か、死か、選ぶがいい。不服とあらば、抗え。死にゆく末期の悲鳴まで、我が魔族のにえとなろう』

 世界中の人々は恐怖に震え、王様達はどうすれば自分達の国を守れるか、頭を悩ませてしまいました。今まで魔族が現れ、闘った事があるのは、世界にひとつきり、アルザスだけ。魔界と海を挟んで並ぶアルザス王国は、今までずっと、魔族が魔界からやって来るのを防いで来た強い国です。

 そして、そのアルザス王国は、最初に滅ぼされた国のひとつでした。

 それだけ、魔王フォーネウスは強力で、魔族も魔物も、今までとは比べものにならない力を与えられていたのです。魔族は世界各地に音も無く現れては、全滅しないように人々を殺して、姿を消すのを繰り返していました。全ては人々の恐怖と、絶望の心を、魔王フォーネウスが食べるためだったのです。

 そうして世界は闇に包まれてしまいました。人々は絶望し、魔族の奴隷になる道を選ぼう、そう考え始めてしまいました。

 でも、光の神ラミリア様はちゃんと私達を見守っていて下さいました。アルザスの若き王様は、ラミリア様の加護に守られ、生き残っていたのです。

 そして、ある日。アルザス王の夢に、調律の神オルネアが現れ、こう言いました。

『この地のどこかに、私の加護を受けた勇者が現れます。アルザス王よ、彼を求めなさい。世界と協力して、勇者を助け、このマールダーを救うのです』

 アルザス王は世界中の王達にその話を聞かせ、共に闘う約束と、勇者を探す約束をして周りました。 『勇者が現れる』その言葉と、アルザス王が生きていた事、それだけで世界の人々は勇気を取り戻しました。あきらめかけていた闘いを、世界中の人々が協力して、少しずつ闇を払って。

 そして、勇者はマールダーに現れました。

 貧しい村に生まれ育った普通の男の子は、成人の日の儀式で、女神オルネアの加護を受けた聖騎士だと分かったのです。心優しく、あきらめない心を持って育った男の子は、勇者としてアルザス王に呼ばれ、魔族と闘う運命を受け入れました。

『おお、勇者よ。世界の希望、オルネアの聖騎士よ。世界は勇者を待っていたのだ。世界各地の魔族を倒し、魔王を倒し、このマールダーに再び光輝く平和を取り戻すのだ』
『王様、私はまだ強くはありません。私には勇気と、闘う力しか無いのです。でも、魔族を倒して希望を集め、必ずや魔王を倒してみせましょう!』

 アルザス王は勇者の旅のお供をする、頼もしい仲間を集めました。

─── 大きな体に千人力の力、どんな武器でも振るえば天下一、戦士ランバルド

─── 杖を振るえば山を焼き、息を吹けば海を凍らせる魔術の天才、大魔導士リディ

─── 風より速く駆け、罠と嘘を見破る、世界一の冒険者、テレーズ

─── ラミリア様に愛され、どんな傷も病も癒す、奇跡の聖女シルヴィア

 世界に名だたる四人の若き天才達は、勇者と共に苦難の旅に出て、魔王を倒す誓いを立てたのでした。

 ※ 

「うわぁ、一晩で四つの国とか、絶対世界滅びるじゃん。勇気とか言ってる場合じゃないよね⁉︎ 単純に力で圧倒的差があるんだよ?」
「スタルジャ、童話だから。多分、勇気以外にも色々やってたはずだから」
「なんでおーさま、仲間四人とかしぶちん? 軍隊できょーりょくすれば、もうすこし、話はやくない?」
「…………すげえ強ええんだろ、多分。なんで俺が弁護してんだ? ……続き読む?」
「「「はよ!」」」

 なんか聞き手が増えてんな。

 ※ 

 オルネアは勇者にこう言いました。

『世界を自分の足で歩き、闘いなさい。その地に勇気を与え、希望を増やすのです。それが世界を満たした時貴方に、真の聖騎士の資格と、その力が与えられるでしょう』

 勇者は歩きました。大きな街、小さな村、険しい山の上、谷底の霧の中。多くの人々と出会い、魔物を倒し、魔族を払い、人々に勇気を与え希望の種をまきました。

 しかし、魔王フォーネウスは、そんな勇者の活躍を嘲笑っていました。魔族には桁外れに強い悪魔達、魔公将が居たからです。

─── スライムの王

─── 霧の女王

─── 不死の夜王

─── 暗黒の覇者、賢剛王

 今まで勇者が倒して来た魔族など、彼ら四柱に比べれば、子供のようなものでした。勇者は旅を続け、少しずつ力を蓄えながら、闇を払い……。とうとう魔公将のひとり、スライムの王のいる砂漠の国に、たどり着きました。

 スライムの王は、手下のスライムを使い、あっと言う間に街を呑み込む強敵でした。触れた物はなんでも溶かし、どんなに立派な剣や盾も、すぐにボロボロにされてしまいます。
 スライムの王に負けた砂漠の国の王様達は言いました。

『スライムの王は倒せない。切っても切れず、焼いても戻る、触れば溶けて死んでしまう』

 勇者は考えました。四人の仲間と知恵を絞り、人々の話を思い出して、たくさんたくさん考えました。そして勇者は、スライムの王に挑みます。

『神の選んだ勇者だと? 人間風情に何が出来る。お前を溶かして、最期の悲鳴まで魔王様へ捧げてやろう』

 激しい闘いが始まりました。スライムの王は、大きさも形も、硬さも自由自在の怪物でした。切ってもくっつき、焼いても戻り、鋭く尖った針のように伸ばした体で、鉄の鎧にも穴が開いてしまうのです。

 戦士ランバルドが盾になり、鋭い針を斬り払い、冒険者テレーズは風の魔術で撹乱。大魔導士リディは、火、水、土、風、光、闇……全ての魔術で応戦し、聖女シルヴィアは彼らの傷を癒し続けます。

 勇者はただじっと、スライムの王の体を観察し続けているだけでした。いつしか、観察すらを止めて、目を閉じてしまいます。そんな闘いが一晩続いた頃には、ランバルドの盾が破れ、テレーズの足は鈍り、リディは魔術の知恵が尽き、シルヴィアは魔力が底をついてしまいました。と、突然勇者は叫びました。

『テレーズ、明かりを消せ!』

 テレーズは城の蝋燭全てを、風の魔術で消し去り、いっぺんに暗闇へと落とします。貼り付けたような暗闇の中、勇者は暗がりに慣れた眼で、微かに光るスライムの核を斬りつけました。無敵に思えたスライムの王も、たまらず形を崩して、砂となって消えてしまいました。

 スライムの王に、勇者達が勝ったのです。光を取り戻した砂漠の国の人々は、大喜びで笑い、泣き、希望を持ちました。勇者は皆に見送られ、また旅立ちました。

 ※ 

「え⁉︎ それってアル様達が、ハリードで戦ったって奴にゃ?」
「おお、興奮気味だな。そうそうそれだよエリン、オルタナスって名前だった。人に乗り移るとか、魔術を使えなくする術とか、思えばあいつも進化してたんだよなぁ」
「アルくんが【斬る】事象に開眼した時ですね。なんかもう懐かしいです」
「そうだったなぁ、その時にティフォに触手仕込まれたんだったなぁ」
「ん? おるた……な……す? だれ?」
「ほら、ハリード太守に化けてたヤツだよ、でっかいスライムの」
「……………………あ、うん……」
「絶対、覚えてないよなそれ⁉︎ 一応、魔公将だぞ? 有名人だったんだぞ⁉︎」
「オニイチャは、ふんだ米粒のこと、いちいちおぼえてるの、かね? いーからつづき、はよ!」
「「「はよ!」」」

 なんか米粒に例えるの多くないか? そんなしょっちゅう踏んでんのかティフォは。掃除しろとか、そう言うレベルじゃないぞ。

 ※ 

 次に訪れたのは、霧の国でした。細い谷が続く霧の谷に、小さな村がいくつもあって、港街もある海に近い国です。そこに現れたのは霧の女王。真っ白い霧で全てを包み、何も見えなくして、逃げ遅れた霧に食べられてしまうのです。唯一、霧が嫌がるのは火の力。

 いくつかの国は兵隊を出して戦いましたが、覆いつくす霧には敵わず、すっかり食べられてしまいました。人の使う火の魔術では、霧を払い切る事は出来なかったのです。勇者達も何度も挑みましたが、霧に迷わされて、女王にはたどり着けませんでした。疲れと傷ばかりが増え、悔しがる勇者をあざ笑うように、霧は毎晩人々を呑んで行きました。

 ある夜、霧を払う方法を考え疲れて寝ていたリディの夢に、オルネアが現れてこう言いました。

『神の灯を授けましょう。霧に戸惑う人々を、この灯で導くのです』

 リディが目覚めると、不思議な力が湧いているのに気が付きました。その日、今までで一番大きな霧が街を襲った時、リディはその力『聖なる灯』を使いました。するとどうでしょう。強く暖かな光が、霧を全て吹き飛ばし、白い世界がすっかり晴れたのです。

 しかし、リディはそのあまりにも強い神の御業に、全ての魔力を使い果たして、動けなくなってしまいました。それでも聖なる灯は、煌々こうこうと辺りを照らし続け、勇者達は霧の女王にたどり着く事が出来ました。

 でも、霧の女王は不死身でした。霧を剣では切れません、盾で防ぐ事は出来ません。女王のお城の中までは、聖なる灯は届かなかったのです。しかし、その時、激しい戦いで空いた、壁の穴から、一筋の光が差し込みました。それはランバルドの兜に当たり、キラリと強く輝いています。

 勇者は閃き、剣を掲げると、霧の女王へと反射させました。不死身の女王も、これにはたまらず身を縮め、霧を少し弱めたのです。
 それを見たランバルドは攻撃を止めて、壁を壊そうとしますが、霧が巻き込んで邪魔をされてしまいました。勇者は諦めずに、光の反射で霧の女王を追い詰めますが、霧はすぐに回復してしまいます。

 それでも女王は戦いにくたびれたのか、城の底にある穴へと逃げ込みました。聖女シルヴィアは、その瞬間を逃さず、聖なる魔術で女王を封印しました。

 辛くも勝利を収めた勇者達でしたが、霧の国の人々は大喜び。ようやく、この地にも希望が戻って来たのです。この封印は、魔力を取り戻したリディによって、お城ごと隠してしまいました。

 今でも霧の国の何処かに、恐ろしい霧の女王を閉じ込めた場所が残っています。霧の国でもし見つけても、絶対に触れてはいけないと、今でも言い伝えられています。

 ※ 

「この話だと、霧の中にいる浮幽魚とか、浮幽蛇の事は伏せられてるんですよね。まあ、子供向けにはグロ過ぎますか、人に卵産みつけたりしますし」
「あれはキツかったなぁ」
「それに『聖なる灯』だって、光の届く範囲全てを灰にする、無差別大量殺戮技ですからね。実際に地形が変わった跡ありましたし」
「うわぁ、お伽話って、実際はそうなんだ……。じゃあ、リディさんって人、ちゃんと場所選んで使ったの? じゃないと危ないよね」
「そんな余裕無かったんじゃないですかね。それで滅びた街の痕跡もありましたよ」

 そう、リディの放った『聖なる灯』の痕跡は、未だにあの土地の地形にハッキリと残っていた。公に出来ない国家の事情を隠すためとは言え、地図上から消された街や集落の人々。その関係者は当時、何を思っただろう。

「え、そんな強い魔術で倒せなかった女王と、アル様はどうやって、戦ったの? 聴いてるだに無理無理なの」
「素手でイってましたよねアルくん。返り血ザブザブ浴びてて、惚れ直しちゃいました」
「え、霧の女王、血が出るんだ。で、最後はどうなったの?」
「自殺しちまったんだよ……。何でだろな。ああ、目玉片っぽ持ってるけど、見る?」

 エスキュラの残した魔眼。人体に産み付けられた浮遊魚の卵を消す事は出来たし、おそらく霧に関わっていた魔物の制御に作用するのかもしれない。今となっては確かめようもないが。

「あ、うーん、いい……かな、別に(苦痛に耐え切れなかったから、自殺したんじゃないの?)」
「ん、霧な、うん、霧はすごかった。続きはよ」
「……お前、まさかそれも覚えてないのか!?」

 ティフォはエスキュラ戦の時は、その場に居なかったから、仕方がないっちゃ仕方がないか。

「米粒の話はどーでも、いい。いいから、続きはよ!」
「「「はよ!」」」

 気がつけば全員で、あーだこうだ言いながら、勇者物語を読んでいた。皆んなそれぞれ、興奮してるって事でいいのかな?

 ブラドもこの方が賑やかで喜んでくれるかも知れない。焚火を囲んだ皆んなの表情、ブラドに感じた人の存在の儚さは、より今この瞬間がかけがえのないものだと教えてくれた気がする。

 そんな事を思いながら、勇者物語の朗読を再開した。

作者のつぶやき

幼少期にやっていたおままごとみたいな遊びで、
『毒薬を作る』なんて事をやっていた記憶があります。

よく使ったのは、
庭の片隅に生えていたミョウガとかの匂いが強い植物。
それらを平べったい石で刻んですりつぶして、
ドロドロの液状にするというもの。

使う当てもないし、
よく考えたら単なる薬味だったなぁとか思い出しました。

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