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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十五章 闇の帷
第十五章│第四話 お姉ちゃん
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ラプセルの里での勇者ハンネスの撃退劇。
しかし滅ぼすことは叶わず、
聖剣は奪われ取り逃してしまう。
呪術転移した彼らの行く先はつかめず、
アルフォンスたちは里で準備を進めながら、
新たな力を蓄えようとしている。
その裏で世界は再び『黒舌』の出現と、
中央諸国を中心とした戦乱に、
人々は飲み込まれようとしていた。
教皇ヴァレリー率いるエル・ラト教団は、
新たな団体を発足し黒舌化への対応を強める。
そしてアルフォンスの力の増加に影響を受け、
世界各地で彼に蘇生された者たちが、
大きな力を得て動き出そうとしていた。
南部諸国同盟は大きく動き出し、
シリルはアルザスから南部諸国を守る盾として、
軍事力の増強を図っている。
針葉樹の林道の奥から、太鼓と笛の音が聞こえてくる。林道からややそれた場所に生えた広葉樹の一部は、紅葉の始まりが見られた。子どもらが歓声を上げて駆けて行くと、奥の広場は一段とにぎわいを増したようだ。
この日、鬼族の里では秋の豊穣祭が行われた。一年の実りへの感謝を、彼らの神々に捧げる日である。祭りにはユニが招かれ、多くの鬼族に囲まれて、その雰囲気を楽しんでいた。
「今年も大豊作だったねぇ。夏の御岩様の占いどうりだよ」
「御岩様……? ああ、あの妖術で岩を高く上げる行事が御岩様なの?」
「ああそうだとも。御岩様がまっすぐに高く上がるほど、その年は豊作だと古くから言われておるのだよ」
ツツジとエンザがニコニコ顔でユニに祭りの由来を説明し、由来を聞くたびにユニは目を丸くして感心している。その素直な反応に、ふたりはさらに気を良くして、老人ならではの古い習わしを聞かせていた。
「この秋の豊穣祭はね、休みなく太鼓を叩くんだよ。ほらご覧、たくさん並んでるだろう? 代わりばんこで打ち手を休ませながら、夜まで絶えず叩くのさね」
「どうしてなの?」
「お米が豊作の年には、雷がよく鳴るのさね。昔の人たちは、雷が稲を育てるって考えたんだよ。天から精霊たちが降りて来て、うんと稲を育てるってね。だからこうして秋の収穫の後には、また精霊たちが天に気持ちよく帰ってくれるようにと、雷の代わりに太鼓を叩くのさ」
「へえ〜!」
大太鼓の轟きが、確かに雷鳴の音に似ているなとユニが感心していた時、にわかに広場の入口がざわめき立った。人混みにぎわう鬼族たちが、道を開けるように左右に分かれて距離をとっている。
「うん? 何者だあれは……」
エンザが訝しげに目をそれを眺めていると、側にドウギが寄って来た。
「エンザ殿、あれは怪しげではあるが、メルキアの紹介で来た旅の者。もし、里に来ることがあれば、できる限り協力してやってくれと通達がでている」
「うん? おお、なんかそんなことを言っておったな。確か……はて、なんと言ったか」
「旅をしながら記録を残す『像写家』という者だとか」
そこに現れたのは、白金のショートヘアに薄茶と黒のストライプのキャスケット帽を浅く被り、膝下で絞られたゆったりとしたズボン姿の女性だった。
白いブラウスにサスペンダー、胸元に銀の歯車のような意匠の胸当てをつけ、縁の太い眼鏡をかけた活発そうな印象。見れば確かにメルキアの貴族院の紋章と来賓の文字が刻まれた、赤い腕章をつけている。
歳は少女のようにも見えるが、二十代前半にも見える、独特な雰囲気だ。小柄でスレンダーな彼女の姿は、一部異様な点があった。
その肩には彼女と同じかそれよりも大きな、黒い革張りの巨大な箱が乗っている。
箱は平べったい長方形で、ちょうど彼女の片目に伸びるように、先にレンズのついた黒い筒が曲がりながら飛び出していた。そして正面にあたる面には大小様々な、レンズのついた筒が飛び出している。
「あの黒いのはなんなのだ。あれで殴りかかるのではないだろうな?」
「像をその場で絵にしたり、動く絵の光を作り出す魔道具だと聞いている」
エンザとドウギが話している間も、彼女は祭りのいたるところに目を輝かせ、黒い魔道具のレンズを向けて撮影をしているようだ。周りの鬼族たちは、見たことのない人族の女にたじろいでいるが、本人は全くそれを気にしていない。
彼女はしばらく太鼓が並ぶ真正面で撮影をし、一通り気が済んだのか、また辺りをキョロキョロと見回している。
と、その視線がユニをとらえると、再び興味に満ちた顔で、ユニの方へと駆け寄った。
「はじめまして! わたくしはアリエ申しますの。世界の光景を記録する探検像写家。貴女のお名前は? なぜ、鬼族の里に? 猫族? 何族? 何色? 何結び?」
「む、結び? ちょ、ちょっと待ってほしいの!」
「あら、ごめんなさいw わたくしったら、好奇心が刺激されると、どうも止まらなくなってしまうの。あらためまして、お名前を聞いても?」
「ユニなの。アケルの赤豹族なの」
ユニがたどたどしく説明を始めると、アリエは鼻息荒くふんふんとあいづちを打ちつつ、魔道具を構えて撮影している。
「アリエ……さん? その黒い箱は何をしているの?」
「ああ、これはわたくしの発明した魔道具の『像写機』っていうのよ。こうして私の見た光景が、絵になって出て来たり、動く絵として光を出す魔石を作り出すのですわ」
そう言ってアリエが箱の横の小さなフタを開けると、ペロンとつややかな厚紙のようなものが出てきた。それをユニに手渡すと、近くにいたツツジやエンザたちもそろってのぞき込み、目を丸くして驚いた。
「こ、これはなんと精巧な絵か! 我々が生き写しで描かれておるではないか⁉︎」
「すごいの! えっ、これ今一瞬で描いたの⁉︎」
アリエは『そういう反応は美味しいですわ!』と言いながら、再び写像機を構えて彼らの反応を記録している。
「それは絵ではないの。そうね、かんたんに説明をすると、鏡にあなた方を映して、そこに映った影を特殊なインクで判子を押すように紙に押し付けた。とでも言えばいいのかしら? 他に動く像も記録できますのよ♪ ふふん」
エンザとツツジはもう完全に置いていかれている。ドウギは何とか想像には多少できているようで、腕組みをしてなんとか仕組みをイメージしようとしていた。その横で目を輝かせていたのはユニである。
「すごいの! そんな技術聞いたことがないの‼︎ インクに魔力を使うの? それともインクが動いて絵になるの? 自分で作り出したの? 今までどんなのを撮影してきたの? 何色なの? 何結びなの?」
「む、結び? ちょ、ちょっと待って欲しいのですわ! 落ち着いてひとつずつ。ね? ね?」
「あははは、ごめんなさいなの♪ 私は興味が出ると、どんどんのめり込んじゃうタイプなの!」
と、ふたりは目を丸くして見つめ合い、あははと笑い出した。並んでみれば背格好も近く、年齢も近いようだ。好奇心が旺盛なふたりは、お互いの共通点を感じて、一気に距離を縮めていった。
陽が落ちてそろそろ祭りも終わろうかという頃には、ふたり並んで縁台に腰をかけ、砕けた様子で話し込んでいた。
「へえ〜! 大恋愛の末の婚約、そして愛する殿方と、肩を並べる戦士になるために修行……。ああっ! ロマンティックが止まりませんわ☆」
「えへへ〜。でもたぶんまた、アル様はもっと強くなったの。ちょっと前にすっごい魔力が渡されてきて、起き上がれなくなったの」
「魔力の譲渡。いえ、共有・分配……。貴女のフィアンセは、とんでもない魔術師様なのね」
アリエがそうアルフォンスを認識しようとすると、ユニは『あらゆる武器に精通した武道家で、魔術の真理を極めた超一流の魔術師で、獣人族に魔術印を授け、魔公将を討ち果たし、アケルの経済を解消した、薬学と医学の知識を持つ、とある高貴な血筋の人』と説明し、アリエはさらに混乱を極めた。
「ねえねえ。わたくし、本当はメルキアのヴァンパイアを撮影しに来たのよ。でも、鬼族の話を耳にしてこちらに来てしまったわ。そして貴女に逢えたの。ねえねえ。わたくし、しばらくこの里に拠点を置こうと思うの。貴女に案内をしていただきたいわ!」
「うん! それなら任せて欲しいの! あ、一応修行中の身だから、それ以外の時間になるの」
「その修行とやらも気になりますのよ! ぜひぜひ見せて欲しいですわ☆ それはとてもとても見たいんですの!」
アリエは興味の針が振り切れたのか、早口で『何色で何結びか』まで、質問を浴びせかけている。それを笑顔で返すユニもまた、質問の応酬を繰り返して、ふたりはいつまでもキャッキャと盛り上がっていた。
ローゼンは未だラプセルから戻らない。ローゼンは『ちょっと野暮用で南部諸国同盟の方に行ってくるのです』としか、ユニには伝えていなかった。
実際は『実家へのごあいさつ』をしたいがために、アルフォンスのいるラプセルに向かったのだが、そこは伏せていた。彼女なりに、ユニを修行に集中させるための、気づかいだったのだろう。
ローゼンはユニの好奇心と発想力に、大きな可能性を見出していた。そんな折にアルフォンスがクヌルギアでの試練で大いなる力を得て、その恩恵をユニが受けたことにより、使用できる魔力操作の規模が跳ね上がった。
次から次へと湧き上がるユニの思い描く発想が、自然と術式の文法の可能性を膨らませ、魔術の真理へ前代未聞のアプローチを生み出す。ローゼンはそんなユニに、今は心揺らぐことなく、前に突き進んでゆくのが正解だと導き出していた。
そんなローゼンの思いを知ってか知らずしてか、ユニ自身も今は自分の技術や能力が上がる可能性に、常時心を傾けている。
だがローゼンは知らない。能力の飛躍的な向上と、日々進歩する魔術的な思考法により、ユニの知覚力は超常的な域に達していた。
─── お姉ちゃんは生きているの
そう直感が働いたのは、南マスラ海でエリンがティフォと共に、海面近くで巨大な魔物を討伐した頃である。
遠く離れた南の海で起きたことを、ユニは感じ取っていた。それは姉への強い思いがそうさせたのかもしれない。ふと浮かび上がった『そんな気がした』程度の直感が、根拠もないまま確信へと、当然のように移行していた。
だが、ユニは飛び出したい気持ちよりも、このまま修行に邁進して、大きな力を身につけることで『自然と再会できる』と閃きを得ている。
それがユニにとって、最高率の解答であり、超知覚と高速思考が生み出した『戦士たる道』だった。
とはいえ、抑えてはいても、常に頭の片隅には姉の存在への揺らぎはある。今は修行に複数同時並行で思考しつつ、その揺らぎとのバランスを取ることもまた修行としていた。
そして、これまでもローゼンがふらっといなくなることはよくあることだった。ローゼンを実の姉のように慕っているユニは、帰らないローゼンに寂しさも感じている。だからこそ、アリエが里に滞在することを、大いに喜んでいた。
─── 私にはお姉ちゃんがふたりいるの
エリンとローゼン。そして今日、初めてユニがひとりで新しい友人を得た。
エリンを介した関係ではなく、初対面のアリエと親交を築いたのだ。その自覚がまた彼女の好奇心という、真理への原動力を高めている。
こうして、ユニに新たな友だちがひとり加わり、鬼族の里には写像という新たな文化が持ち込まれたようだ。
※
アル様が素材集めから帰ってきた。二週間ぶりに目にした姿に、胸がキュッとなる。すぐに飛びつきたい気持ちで頭がいっぱいになるけど、私の中でくすぶる想いが後ろ髪を引く。
「オニイチャ! こんなに大きくなりおって、ええ? おい」
ティフォが飛びついて、おじさんみたいな口調で、彼の頭をなで回してる。正直、うらやましい。私もああして自分の心に素直になれたらいいのに……。そう考えてしまう自分が情けなくて、思わずうつむいていたら、彼がこちらに気がついて笑顔で手を振ってくれた。
私はそれに手を振り返したけど、どうしていいのか分からなくて、さっきまで手伝っていた素材倉庫の整理に戻ってしまった。
「分かってるの。分かっているけど……どうすれば」
倉庫の扉の前でつぶやいて、みじめな気持ちで倉庫の中に入る。
─── ソフィたちのように、ティフォもあの指輪と、誓いを交わした
あの日、私の耳と鼻に届いた、ふたりの愛の交わり。どうしようもなく胸が疼いて、私はみなが寝静まった部屋を抜け、ひとりその慰めに指で触れてしまった。
はしたない。情けない。
私がみじめな気持ちに陥っているのは、ティフォやソフィたちへの嫉妬なんかじゃない。彼女たちと同じように素直にまっすぐ彼と向き合い、気持ちを伝えようとできない自分へのもどかしさ。
私はアル様を、みんなを、そしてユニを……傷つけてしまった。
ハンネスに斬られ、海の底に沈んで、陰の神ネイと契約を結ぶまで動けなかった。海底の世界で力を蓄えていた間も、それはアル様とみんなのため、肩を並べられる戦士になるためだった。
でも結果、私とティフォは死んだものと、みんなに思わせてしまったのだ。
あの敗北の後、みんながどんなだったか、再会した後すぐにソフィとスタから聞いてる。アル様は心を閉ざして仕事の鬼となり、光の神の使命を受けて殺戮を続けて消耗した。ソフィはそんな彼を支えながら、引きこもってしまったユニをスタと一緒に助けようとしていた。
……ユニは深く大きく傷つき、そして戦士として独り立ちするべく、ローゼンの元へと歩んだ。
あの子がどれだけ大きな物を背負って歩き出したか、アル様から力が流れ込んで悶え苦しんだ後に、感じ取れるようになった。
「私はお姉ちゃん。傷ついて、立ち直って、がんばっているあの子を尻目に、自分だけ幸せになるなんて……きっと許されないわ」
ひとりつぶやいて、倉庫の中の繊維の山に身を預ける。白い綿のような柔らかいフワフワ。この里の周辺に現れる、盾のようなウロコだらけの魔獣、その内側の毛をほぐしたものだと聞いた。龍種の攻撃にも耐えられる硬い鱗を、柔らかく押し返すもの。柔らかいのに、強い弾力がある。
旅の途中で味わった王宮の上質なベッドに負けない心地よさに、私は思い切り体を沈めて、心を落ち着かせようと深く深呼吸をする。
カチャン。キィ……
倉庫の扉が戸惑い気味に開く音がした。誰かが近づいてくる音にすら気がつけないほど、私は思いふけっていたみたいね。耳がぴくんと反応して、思わず身を起こした。
「よ、エリン。ただいま」
「……おかえり、アル様」
彼は少し疲れたような顔で微笑んで、私の隣に腰をおろした。
「これ気持ちいいよな~。俺も里にいた頃は、よくこうして寝っ転がってたよ」
「うん、綿みたいに柔らかすぎない、ベッドみたいな硬さね。これならお泊りだってできそう」
彼はふふっと笑って大の字で寝転がると、里での思い出を静かな声で、ひとつふたつ聞かせてくれた。私も彼の隣に寝転がって、天井の板の木目を眺めながら、幼い頃の話をする。
「やっぱり幼いうちは、だいたいみんな考えることもやることも同じなのね」
「そう言えばエリンもユニも、箱に入り込んでそのまま出荷されたとか言ってたよなw」
「うふふ、それを言われるのは少し恥ずかしいわ。忘れてw」
何も考えずに笑って、ふと隣を見ると、彼は目を細めて愛おしそうにこちらを見つめていた。虚を突かれて、思わず顔が真っ赤になって目を逸らすと、彼の腕が私の体に回って優しく抱き寄せられてしまった。
激しく打つ鼓動が、彼に聞かれてしまうんじゃないかと、そう恥じらうほど胸が高鳴る。どれだけそうしていたのか、やがて彼の胸元に引き寄せられて、私は顔を埋めていた。
「こうしてまた、エリンといられて本当にうれしいよ。ありがとうな」
「─── っ!」
その言葉が、私の混ぜこぜになった頭の中に、まっすぐ差し込まれた気がする。気がつけば私は彼の胸に必死で顔を押しつけて嗚咽をもらしていた。
「ごめんなさい……! 心配かけてごめんなさいにゃ……!!」
彼は小さく『ん』と囁いて、強く私を抱きしめ、頭をなでてくれた。それだけのことが、これほどまでに温かく、切なく、愛おしい。私は幼かった頃、母にそうしてもらったように、ただ泣いて彼の体温に全てを包んでもらっていた。
「落ち着いた? ティフォと帰ってきた時から、何か思い詰めていたようだったからさ。気になっていたんだ」
ようやく嗚咽が治まった頃、彼がポツリとそう言う。お見通しだったのねと、なんだかおかしくなってきてしまった。
「私はユニを傷つけてしまったのよ。あのこの気持ちをほぐしてあげられるまで、私には幸せや温かな気持ちになる権利はないって、そう思っていたの……私はお姉ちゃんだから」
「お姉ちゃん……かぁ」
そういいながら、まだ私の頭をなでている彼の手の温かさ。そして自分の口から素直にその思いが出たことで、がんじがらめになっていた気持ちがスッと軽くなった気がした。
「アル様から力が流れ込んできた後から、ユニがどれだけの強い意志で、一人歩き始めたのか。どれだけ大きな力を得ているのか、分かるような気がしているの」
そう、これは気のせいなんかじゃない。今もその感覚にゆらぎがないもの。
「きっと、それはユニも同じなはずよ。あの子も気がついている。私が生きて戻ってきたって」
彼は優しく微笑んでうなずいた。
「エリンとユニと離れてから、力をつけていく度に、なんとなくそんな気がする時があったよ俺も。でも、確信が持てないから、それが変に期待になるんじゃないかって、目を背けもしてた。俺との絆だけでもそんな予感が得られていたんだ、姉妹で支え合ってきたエリンとユニだったら、離れていてもそれくらい通じ合えていたって不思議じゃないよ」
「……うん。うん! そうね!!」
もう迷いはなかった。
「私……私、アル様のことが─── 」
そこまで言った時、彼の指が唇に触れて、言葉を遮られた。
「それは俺から言わせて欲しい」
そう言って彼はきれいな箱を取り出して、その中身を私に見せる。柔らかな素材に慣れた目に、キラキラと眩しい、磨き上げられた指輪がそこにあった。
「エリン、君のことを愛している。ずっと俺といて欲しい」
「…………はい! ずっとそばにいるにゃ……!!」
すっと通された指輪を、天井に掲げて見つめる。私が焦がれたこの人との証が刻まれた。噴き上げられたその幸福は、もう私を止めることができなくしてしまった……。
ガッ!
身を起こすと同時に、彼の上にまたがると、その両手を押し付けて押さえる。
「……今だけは『お姉ちゃん』はお休みにゃ」
「っ!?」
彼の瞳がわずかにとまどいで揺らいだ。あれほどに私を魅了した彼の赤い瞳が、今はうさぎの赤い目のように儚いものに思える。この獲物は絶対に逃さないにゃっ!!
私はこの日、ひとりの女エリンとして、初恋を愛に叶えた。
─── 初恋は実らないほうがいい
誰が言い出したのかは知らないわ。
確かにこの初恋は、苦労も悲劇も伴った。でも、だからこそ言えるわね。
その分だけ、揺るがない愛を得られもしたのよって。
ここまで読んだ
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