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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十二章 再起
第十二章|第十話 酒場の住人
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ソフィアとの契約を取り戻し、
呪いの武器たちとも、
再び繋がれるようになった。
しかし、ハンネスに折られた夜切は、
折れた姿のまま。
折れた刀を治す方法は無い。
だが、夜切にはとある記憶があった。
それは可能性が限りなく低いものの、
アルフォンスはそこに賭ける。
訪れたのはバグナス首都ポートメリアの片隅にある居酒屋。
そこで宴会を楽しむアルフォンスたち。
再注文を重ねる声に混じり、
『拙者も』と便乗する声。
それは異国の守護神。
鍛師(かなち)の神シュウギだった。
居酒屋の客達は、夜が深まるに連れて、賑やかさが増す。何処かの席で、誰かが冗談でも言ったのだろうか、大笑いが起きているのを、他のテーブル客も負けじと大きな声で語らい、一段と喧騒に溢れかえっていた。
─── 最果ての刀鍛冶シュウギ
腕を懐深くに組み、瞑想するように眼を閉じた彼の周囲だけ、静まり返っている。
※
「……どうして? どうしてダメなんだ⁉︎」
「この魂を見れば分かる。お主は『刀』の使い方を、分かって居らぬ。それはこの魂の幸せにもならなければ、使うお主も不幸になるで御座る」
「おいコラおっさん……! てめぇあっしのリーダーの何処が『分かってねえ』ってんだ?つまんねえ言いがかり吹っかけてっと、叩き割んぞッ!!」
斧ケーリュニヴルが、急沸騰して殺気立つのを、スタルジャが止める。他の武器達もソフィアも、一触即発の張り詰めた空気を放っている。 だが、俺と夜切だけは、彼の言葉に胸の奥を貫かれたように、黙り込んでしまった。
「拙者を滅ぼせば、この刀の魂は永遠に泣き別れたまま。それでも良いなら、どうぞ思う様、滅ぼせば良いで御座るよ」
「皆んな引いてくれ、頼む……。シュウギ、あんたの言う通り、俺はまだこいつを使いこなせていない」
『『…………主様……』』
夜切の消え入りそうな声が響く。シュウギは目を閉じたまま、盃を煽った。
「それでも俺には、こいつしか居ないんだ……」
「何やら訳ありのようで御座るな。本来ならば魂の扱い方を知らぬ者の言葉を聞く気は無いが……。
これだけの武器と心を通じ合わせておるのなら、これらに免じて話だけは聞こう」
俺は呪いの武器しか扱えなくなったこれまでの経緯と、これから起こるであろう闘いを話した。そして、今まで夜切と交わして来た、彼女との出来事、なぜ彼女で無ければならないかも告げた。
夜切は俺にとって武器以上の存在だ。
これ程に対話を重ねられた剣は存在しないし、これから先も出逢えないだろう。シュウギは刀を『魂』だと言ったが、俺にはその通り、夜切は魂であり、俺の魂の一部なのだから。
「ふぅむ、なるほどで御座るな……」
「俺の扱い方に誤りがあるのは、彼女との修練でも時折感じていた。それが彼女を不幸にしていたのなら、しっかりと謝りたい。
…………頼む! シュウギ、俺の何が間違っていたのか教えてくれ!」
頭を下げた先で、盃を煽り、テーブルにトンと置く音がした。
「 ─── 『求道は童の心たれ、こだわりはひとつ所に突き詰めず、楽しきを求める所に突き詰めよ』……か。ふむ、お師様の言う通りで御座るな。まさかこちらの世界でそれを知る事になるとは」
シュウギはフフッと楽し気に笑い、俺の肩に手を乗せた。
「面を上げられよアルフォンス殿」
「…………」
「お主はただ拙者に『治せ』とは迫らなかった。それどころか、この妖刀へ謝る為に、拙者の教えを乞うた。面白い。なるほどこれだけの力を秘めた武器達に、囲まれるはずで御座る」
そりゃあ治して欲しいけど、俺が夜切を悲しませているのだとしたら、それこそ彼女を持つ資格は無い。もしかしたら、それは他の武器達にも関わる事かも知れない。それを治せとか偉そうに言えるもんか。
「事情は分かったで御座る。お主に刀の扱いを教えよう。そして、その胡蝶の魂の修理も引き受ける」
「ほ、本当か……っ⁉︎」
「 ただし、これで拙者に勝てたら。で御座る」
そう言ってシュウギは、帯に挟んでいた手拭いを取り出した。その両端をそれぞれ両手で掴むと、ピンと左右に張って俺の前に差し出す。
「お主は手を振り下ろして、この手拭いを拙者から、ただ奪い取るで御座る」
何だこれ……? 何かの遊びだろうか?
手拭いを掴むシュウギの両手は、ただ握っているだけで、巻き付けたりはしていない。もちろん、俺が手を振り下ろせば、彼も強く握って抵抗するだろう。彼は鍛冶場の神だ、重い槌を振るう腕っ節はかなりなもののはずだ。前腕の筋肉は盛り上がっているし、腱も強そうだが……。
両手で握る彼の方が有利にも見えるが、冷静に考えてみれば、振り下ろして取るこちらの方が力を出せそうにも思える。
「さあ、構えるで御座るよ……」
言われるままに俺は腕を上げて構える。上段に構えているような感覚で、最も手拭いに振り下ろすのに勝手の良さそうな間合いを図った。シュウギは力む様子も無く、ただ俺の胸元辺りに視点を置いて、静かに呼吸をしている。
ただ、それだけなのに、何故か真剣で向き合っているような感覚。
彼は微動だにしない。しかし、何故かその時、彼が次の瞬間には、真剣を鞘から抜いて掛かるような錯覚に襲われた。
「……くッ⁉︎」
シュウギの手首がピクリと動いた刹那、俺の腕は勝手に振り下ろす挙動に移っていた……!
堰き止められていた力は、一気に流れ出して止められず、むしろ振り下ろす流れへと走り出す。
ガシ……ッ!
シュウギの手に掴まれた手拭いは、ギシッと軋む音を立てて、俺の手を受け止めていた。
「……‼︎ (腕を……振らされた……)」
シュウギはニカッと笑い、手拭いをくるりとまとめてテーブルに置き、盃を口に運ぶ。
「 ─── お主、かなりの実力者で御座った」
「殺気……じゃない。い、今のは……⁉︎ いや、俺の……負けだ……」
完敗だった。俺の『誤り』も聞く事は許されない。皆の口から、悲痛な溜息が漏れ、夜切からは悲しみを含んだ念が伝わって来た。
「いや、実に楽しい一本で御座った。落ち込む事は無い、拙者もそれ程意地悪ではないで御座るよ。三日後、またここに参られるがよい」
「「「 …………!」」」
「初めての遊戯で、いきなり一本勝負では、やり込んでいる拙者が勝てて当然。この手拭いはお貸しするで御座るから、お主はここに居られるご婦人方を相手にでも練習して、再びここに来られるがよろしい」
そう言ってシュウギは手拭いを俺に渡し、隣にいる弓セルフィエスには追加注文をするようお願いしていた。
「ありがとう……シュウギ」
「いやいや、礼には及ばん。勝負は拮抗する程に、面白きもので御座る。それに、お主らの空気は、なかなかに心地良い」
シュウギは勝負の事など無かったかのように、今までの旅の話だとか、修羅の国の思い出を語り出す。最初は敵意剥き出しだった武器達やソフィアも、途中からは芝居だとか吟遊詩人に興奮する子供のように、目をキラキラさせていた。
旅人の話は楽しい。勝負は終わっていないと言うのに、俺は人里に出たばかりの頃の、ワクワクする感覚を思い出していた。その日、閉店まで楽しんだ後、別れ際にシュウギは俺にポツリと言った。
「アルフォンス殿。『斬ろうとするな、斬られるな。殺そうとするな、殺されるな』で御座る」
「斬ろうと……するな、斬られるな……?」
「お主には魂が御座ろう。今は斬れぬものなれど、魂ならば語れるはずで御座る」
そう言って店の隅にフラフラと歩いて行くと、ゴロンと寝っ転がって眠り始めた。
謎かけのような彼の言葉が、ずっと頭の中を離れなかった ─── 。
※ ※ ※
『『……主様の剣は直剣で培われた剣技。それを崩すのは、危ういかと見守ってゆくつもりであった……』』
元々、俺がダグ爺から仕込まれていた剣技は、長剣、盾を持っての片手剣、小剣、レイピア系の刺突剣が主で、全てが直剣の類いのものだった。刀の扱いはダグ爺自身も経験が無かったのだから仕方がない。
成人の儀から一年間、呪いの武器しか持てなくなった俺は、数あるガセ爺の呪い在庫シリーズから夜切を選び修練を積んだ。得意だった長剣、片手剣もあるにはあったが、俺は初めて見るこの曲刀に惹かれた。
魅入られたって訳じゃないが、何故かしっくり来て、切っ先まで俺の感覚が行き渡るのは、夜切だけだったからだ。だが、同じ刃でも直剣と刀とでは、その扱いも構えも、攻撃と防御の概念すらも違う。
『『主様は恐ろしい速さで、刀の使い方を覚えておられた故、扱いに別段問題は無い。じゃが、違和感は続いておったのだ』』
「……うん。もう直剣を使ってた頃からの違和感は、俺自身には見当たらない。最初は踏み込む脚も違うし、叩き割るんじゃ無くて、撫で斬るって感覚も戸惑いはしたけどな。ただ、何処か夜切の力を最後の最後で、引き出せてない気はしてたんだ」
シュウギの言う『誤り』は何だったのか、今はそこに焦点を当てて、夜切と腹を割って話している。
『斬ろうとするな、斬られるな。殺そうとするな、殺されるな』。彼の言葉は何の為の言葉か、それは明らかに刀の道を指すものだろう。聞いた瞬間に、何かが頭の中で繋がりかけた気はした。
極意とはそういうもの、言葉にして表し切れるものではないし、後になって分かるヒントみたいなものが多い。里の修行でそんな感じのはよくあった。
「弓の道は違いますけど、闘いを避けるのも、確かに技術ではありますわね。主様の場合は、避けられぬ闘いに身を置かれてますから、矛盾してしまうのですけども。わたくしのように、闘いを求めて来た存在には、無理問答にしか聞こえませんわ」
「うん。闘いを避けるのも戦術のひとつだし、闘わせないのも戦術だよな。俺の刀の扱いに、その辺りで何か欠けてるって事なのかなぁ」
夢想弓セルフィエスが、薄っすらと輝く豊かな銀髪を揺らして、何かを取り出す。
「多分、ここに主様のお名前をお書きになれば、自ずと答えは ─── 」
「婚姻届はしまってくれ。サインはしないからな? あ、自分で書くな! 犯罪だろそれ⁉︎」
定期的にサインさせようとして来るし、本人も断られた所で特にリアクションもなく、普通にしまってる。その冷静さがまた怖い。
「アルが手拭い掴んでる時は、殆ど勝ててるじゃん。それも上手くはなってるし、続けて練習すればいいんじゃない?」
「俺はタージャから一回も取れて無いんだけどな。それに多分、上手くなる事がこの試練のテーマじゃ無い気がするんだよ」
途端に魔斧ケーリュニヴルと、双剣の片割れ明鴉が立ち上がる。
「そうっすよ! こんなんただの嫌がらせに決まってるっスよ‼︎ とっとと身柄さらって、バリアントにせんのーでもさせりゃいいんスって!」
「そだよだんなーっ! こんな遊び極めたって、一銭も入って来ないんだよーっ?」
「テメーらはサクッと取られた雑魚だからって、ぎゃあぎゃあ言ってんじゃねーっての」
魔槍フォスミレブロの突き刺すような突っ込みに、ふたりは飛び掛かる。そう、俺は筋肉バカの斧と、キョロキョロ落ち着きの無い双剣の片割れにしか勝ててない。ソフィアとスタルジャは神懸かった反射神経と空気読みで無敵だし、他の武器達も異様な駆け引きの巧さで強敵。
総当たり戦もやってみたが、意外や意外、双剣のもう片方の宵鴉は二位。最強なのは杖のケーリュアガルデだった。
双剣姉妹が双子なのは分かり切っているが、実は斧ケーリュニヴルと杖ケーリュアガルデも、同じ者に作られた言わば姉妹。斧と杖は性格から見た目まで正反対で、だからこそ勝負に違いが出るのは分かる。ククリの姉妹の場合、ふたりとも天真爛漫なのは同じだが、明鴉は腹黒、宵鴉は天然。
それくらいしか違いが分からない。
「姉妹の性質の違いがヒントになるかとも思ったけど、違うか……」
「性格とかそう言うんでも無いのかも知れませんね。あ、そうだアルくん! 夜切ちゃんに記憶映像の魔術掛けてみたらどうでしょう? 彼女は修羅の国の猛者の間を渡り歩いて来たわけですから、刀使いの何かが分かるかも知れませんよ?」
「……⁉︎ そ、それだッ‼︎」
『『むう……あまり参考には、ならぬと思うが……』』
部屋に漆黒の球体が浮かび、中心がぼんやりと光ると、段々と明るくなってゆく。映像が浮かぶ前から、音が出始めるのはいつものパターンだ。
『血だ……血が欲しい……! この美しい刃を覆う醜い水滴め……血と脂で洗い取ってくれよう……くひひひ』
『この剣さえあればいい……。ずっと眺めていたいと思えてしまいまする。ほら、この刃紋は私の迷いを吸い込んでくれているようではありませぬか……。我が身を肉の鞘として、この刃を納むれば、あの男に穢された我が身の汚辱も、あるいは祓われるのでは……ふ、ふふっ、ふふふ……』
『まずい……不味い不味い! この妖刀を手にしても、この男に勝てぬか……。だが、迷いは無し。全てを喰らえ妖刀よ、我が全てを捨て、一太刀に賭ける……く、くくく』
『おとうちゃん、おかあちゃん、ごめんね。でも、どうしても大好きなおとうちゃんと、おかあちゃんの中身が見てみたいの。うふっ、苦しませないからね? すぐ終わるよ。すぐに終わらせるからね。だってその方が、キレイに開けそうな気がするもん、ふたりのお腹。くすくすくす』
赤黒い視界で、そりゃあもう血みどろな映像が、途切れ途切れでわんさか。
『『我を持った者は、己の願望を叶える事に囚われるからのう……。我の美しさと願望しか、頭に残って居らぬ。……参考にはならぬであろう?』』
双剣「「はえ〜っ! やっぱ夜切は誰が使っても、キレイに斬るねーっ☆」」
杖「くすくす。なんだか〜、私の波動に染まっちゃった人たちみたいになるんですね〜♪ ひとつのことに〜、夢中になる人って〜、やっぱり綺麗ですよね〜! くすくす〜」
ソフィアとスタルジャは、ちょこちょこと映る、修羅の国の人々の格好とかに、きゃっきゃしてる。うん、ふたりとも血に慣れ過ぎだと思うんだよ。
じゃあ、当の俺はと言えば……
『『主様よ。今出て来た者共は、元我が主人達よ。我に命を捧げ、普段以上の並外れた力を得て、ああなっておるのじゃ。主様は我の波動に呑まれぬから、こうはなれぬじゃろ? 観ていてもつまらなかろうに……』』
「いや……済まない。さっきの果し合いの男達の記憶、もう一度見せてくれないか?」
『『……物好きじゃのう。まあ、主様に覗かれるのは、正直……イヤでは無いがの……///』』
夜切を握った人々の記憶は四十数名、何度か封印されていたが、結局誰かが辿り着き彼女に魅入られていた。ただ、何だろう。夜切を持ったからおかしくなったと言うよりは、その破滅に向かう思想とか、情念を持ってた人が辿り着いただけのようにも思える。
「力に頼り過ぎなんだよなぁ。自分を変える努力とか、現状を変えるのを、他力本願に偏り過ぎって言うかさぁ」
「んー、皆んなアルみたいに強くないから。辛いことがあると、フタされちゃったみたいに、動けなくなっちゃうんだよ。だから夜切みたいにスゴイ力を手にしたら、きっとそればっかりになっちゃうんじゃないかなぁ?」
「……そうだな。急に力を得たら、本当ならそんな環境から逃れられたり、気にも留めなくて良くなるはずなのに、下手したらそこにばっかりこだわるかもな。いや、俺だって強くは無いよ。嘆いても無駄なんだって、散々味わっただけでさ。だからとっとと、自分の考え方変えちゃった方が早いって言うかね。その場で抗う方が無駄だって思うんだよ」
成功体験が自信を作るとか言うけど、実は成功体験なんて、大して輝かしいもんじゃ無いのがほとんどだと思う。どんなに小さな事でも、視点が変えられたんだって、自分の変化を認めてやる事が、その後の行動力に大きく作用するんじゃないかなぁと。
「そっかぁ、そういう積み重ねが、自信になるのかな。抜け道を早く見つけられる方が、焦らなくなるもんね♪」
「そうですよスタちゃん。何事も自信ですよ。私なんか女神として堂々としてるでしょ? 余裕ですよ余裕☆」
「……再会したばっかの頃のソフィは色々必死で、人質ごと変態公爵のいる地方を消滅させようとかしてたよな?」
「わぁわぁ! わぁわぁーっ‼︎」
ソフィアが顔真っ赤にしてポカポカ叩いて来る。この子、何でここでカッコつけようとしたんだろ。
しかし、刀の扱い方か……。もしかしてそんな事より、今は手拭い取る練習しといた方が良いのかなぁ。
「なんだってシュウギはこれを課題にしたんだろう」
『『あやつは……我の刀身を見て、一発で主様の何かを見抜いておった。気まぐれや思いつきで言い出した事とも思えぬ……』』
だよなぁ。あの時、俺は確かにシュウギに初動を取らされた。あれは殺気のフェイントとか、そういうものじゃない、何か別の意識だった。
「だって。アルくんと、そこらの貴族の小娘の命なら、アルくん取るに決まってるじゃないですかぁ……」
「うんうん。分かるよ、良くはないけど分かるよソフィ。だから落ち着いて、ね? そんなに頑張んなくっても、もうアルはソフィのこと大好きでしょ? ソフィの方がアルを焦らすくらい、もう仲良しじゃん♪」
「私の方が……アルくんを……焦らす! そ、そそ、それ頂きましょう!」
「いや、だからソフィは必死にならなくたって……。『余裕ですよ☆』って言ってたあのソフィはどこにいっちゃったの?」
スタルジャの慌てる姿が、かつての俺と被る。いや、そんな事よりも彼女の言った言葉が、何かを繋ぎ掛けた。
─── 『 ソフィの方がアルを焦らすくらい、もう仲良しじゃん♪』
思わず俺は立ち上がっていた。
「アル? どうかしたの?」
「スタルジャ、ソフィ。それに皆んな、ちょっと協力して欲しい事がある」
※ ※ ※
アルくんが壊れちゃいました。
夜切ちゃんの思い出覗いてた後、急に立ち上がった彼は、夜切ちゃんに頼んで夢の世界へ行きたいと。まあ、ここまでは分かるんですよ。
問題はこの絵面。
スタちゃんがアマーリエの杖を槍に変化させて、アルくんに強烈な薙ぎ払いからの五段突き。目の覚めるようなスタちゃんの攻撃を、闘気でガチガチに固めた砂の棒でさばいてます。あんなサラサラした砂粒の集まりを、闘気だけで武器にまとめるとか、とんでもない集中力が必要でしょうに。
それでも流石は私のアルくん、やや遅れ気味ではありますが、ちゃんと対応しきってます。
ガォンッ!
スタちゃんの背後から突如現れた、魔斧ケーリュニヴルちゃんが、落雷のような振り下ろし。アルくんは砂の棒の根元で受け切りましたけど、芯で止め切れずよろめいています。そこにスタちゃんの攻撃、それにも反応しましたが、ケーリュニヴルちゃんの追撃を交わし切れずに、吹き飛ばされてしまいました。
「うっわぁ……。今のモロに入ったよ。見てるボクまで痛い……」
「夢じゃなかったら〜、死んでました〜」
そう言って心配そうに見ているダガーちゃんと杖ちゃんですが、彼女たちも、もう何度かアルくんに一撃を浴びせて膝をつかせています。アルくんはよろよろと立ち上がり、スタスタとまた闘いの場へ。次は弓のセルフィエスちゃんと、双剣姉妹のタッグを指名してます……。
─── 二人一組で頼む。ひとりがメインで俺を攻めて、もうひとりは隙を突いて、本気で仕留めに来て欲しい
いくらアルくんが強いとは言え、スタちゃんはもちろん、武器ちゃんたちだってとんでもない実力者ばかりです。武器そのものなのですから、それぞれの極意を余す所なく発揮する、伝説級の猛者ばかり。それを肉体強化もせずに、砂粒を闘気でまとめるなんて、超難易度の高い作業をしながら。ドMなんてもんじゃありませんよ?
完全に集中し切っている彼は、私たちのタッグの指定意外、ほとんど口を開いて居ません。それをもう何時間やっている事やら。
「ソフィ……。フォスミレブロと組んでくれ。メインはフォスミレブロ、仕留めはソフィで頼む」
「はい ─── 」
私と魔槍ちゃんが選ばれました。心配しかありませんけど、彼の目が本気である以上、私も彼のために本気で行くしかありません。
私は仕込み杖を引き抜き、魔槍ちゃんの後方に立って、神気を練り上げ始めた。
※ ※ ※
─── 二日目、深夜
「ぐは……ッ‼︎」
スタルジャの振り下ろした、白い槍の太刀打ち部分が、完璧に首に入ってしまった。夢の世界だから死ぬ事はないが、流石はスタルジャの一撃、穂先を逃れても柄の直撃だけで意識が飛ぶ。闘気操作が乱れて、棒状にしていた砂が、サラッと地面に崩れ落ちてしまった。
「だ、大丈夫⁉︎ 少し休んだ方が ─── 」
「……っ、ぐっ……。大丈夫だ、もう少しだと思うんだ……出来るまで……やる」
「出来るまでって……何を……?」
口で説明するのが難しい。ただ、あの時感じたイメージは、多分こうでもしないと形に出来ないと思ったんだ。
「もう少し……。もう少し……」
自分に言い聞かせるように呟いて、地面に散らばった砂に闘気を巡らせ、手の中に再び棒として凝縮させる。
夢の世界で二日目。起きても直ぐに無理矢理寝て、この修練を繰り返して来た。現実だったら、もう何度死んだ事だろう。夢の中とは言え、痛覚や苦しみは現実とは変わらない。時折、体が嫌がって、力が入らない事もある。
でも、こういう境地でもなけりゃあ、手を伸ばしてる先は掴めない。
揺れた脳は未だに視界をぼやかして、像が三重くらいにブレている。こんな感じは、里での修練で何度も陥ったもんだ。
世界が静かで、自分の呼吸音だけが響いている ─── 。
「……次はフォスミレブロと、ソフィで頼む。仕留め役はソフィ、君に頼む」
「…………はい」
ソフィアの覚悟の決まった返事が聞こえた。彼女はもう数え切れないくらい、俺の仕留め役をやってくれているが、毎回苦渋の表情を浮かべる。それでも覚悟を持って、彼女は本気で仕留めに来てくれていた。
辛い事をさせてしまっているのは分かる。だが、ソフィのその想いが、俺を奮い立たせてくれる。
魔槍フォスミレブロ、彼女もまたそうして、本気で当たってくれていた。『悪魔の五爪』と呼ばれた、悪夢のような五条の斬撃は、槍というリーチと破壊力に恵まれた武器の性質と相まって強敵だ。
この砂の棒切れと相性の悪い槍の絶技と、ソフィアの強力無比な神威。
フォスミレブロとソフィア、このふたりのタッグが一番難しい。闘気で砂を固めるために削がれる意識、肉体強化なし、各武器の頂点とも言える強敵と、その隙を縫って襲い掛かる仕留め役。
「すぅ……っ、行くぜ主様───」
艶ひとつない闇そのものの黒い槍。爪のように反り返った刃に彫られた、細い三日月のような銀の溝。その穂先の根本の太刀打ち部分に浮かぶ、薄っすらと青い流動的な模様が、幻影を引き連れるようにゆらりと残像を宙に残した。
「ああ、頼む」
黒い穂先に掘られた銀の三日月と、太刀打ちの青黒い模様が、距離感を大きく狂わせる。槍の一撃を交わしても、ほぼ同時に襲い掛かる青い爪の斬撃が、本体以上の重さを持って追撃してくる。ほんと、この槍は反則だよ。これで狙われた者達は気の毒だし、この槍に魅入られて破滅していった者達にも同情する。
いや、槍だけじゃ無い。俺と旅をしてくれている、武器達はどれを取っても規格外の存在ばかりだ。それだけに、彼女達を手にして来た者達は、その実力を遥かに外れた事に手を出し、散っていった。
ガッ! ガガガガガ……ッ‼︎
フォスミレブロの猛連撃も、その呼吸は馴染んで来た。闘気を巡らせた砂の棒は、俺の反射神経より先に、彼女の攻撃へと吸い付くように受けにいってくれる。
それらの悪夢の暴風の中、最も身動きが取れない局面で、ソフィアが動いた。彼女の刃に、凝縮された神気が陽炎のように揺れる。『斬り刻む』神威が、一本の斬撃のように収束されて放たれるのだろう。これを止められなければ、現実であれば即死だ。
胸が高鳴る、いや、鼓動ばかりが大きく聞こえている。ソフィアが神威を発する動きに入った瞬間、大きくなる一方だった鼓動が急に静まり返った。
─── 何故かその時、義父さんに撫でられた、あのゴツくて温かい手の平の記憶が、脳裏に浮かんだ
我に返れば、そこには手を突き出したソフィアの姿。俺の意識が、一気に彼女へと向けられる。
「え……?」
ソフィアの動きが止まり、彼女の目は見開かれていた。彼女の口から漏れた、その小さな呻きに、俺は思わず微笑んだ時。
─── フォスミレブロの攻撃が俺を貫いた
全身から噴き出す自分の血飛沫を、仰向けに倒れながら見つめ、受け身も取れずに地面に打ち付けられる。
「ちょ……っ、おい、主様ッ‼︎ なんで最後に気を抜いたッ⁉︎」
フォスミレブロが俺に駆け寄って、不安そうに銀色の瞳を震わせていた。薄水色の髪がさらりと流れて、彼女のライラックの花に似た香気が鼻をくすぐる。
「 ─── あ、アルくん……今……のは⁉︎」
ソフィアの困惑し切った声を耳に、俺の意識は本当の眠りへと、引きずり込まれていった。
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