Episode
禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十二章 再起
第十二章|第十一話 領域
あらすじを見る
折れた夜切との対話。
彼女を救う極わずかな可能性に賭け、
アルフォンスたちはバグナスへとやって来た。
そして居酒屋に棲む、
異国の守護神シュウギに出会い、
夜切の復活を願う。
しかし、シュウギはアルフォンスの弱点と、
夜切自身の事を踏まえ、
その願いを蹴った。
だが、アルフォンスの想いに心動かされたシュウギは、
ひとつの勝負を持ちかける。
彼が両手に掴んだ手ぬぐいを、
上から振り下ろす一本の腕で奪い取る。
遊戯のようなその勝負に、
しかしアルフォンスは敗北する。
シュウギはそれをただの練習とし、
本番の勝負は3日後だと指定した。
ただの遊戯。
その勝負の裏に何かの意図を感じたアルフォンスは、
手ぬぐいを取る練習ではなく、
夢の中での血なまぐさい特訓に走った。
そして、何かを掴んだようだ。
「は〜い♪ いらっしゃいまっせ〜☆」
通りまで聞こえていた楽しげな客達の喧騒が、扉を開いた途端に押し返すように溢れ出す。鼻に掛かった声で、給仕がにこやかに振り返ると、お盆を小脇に抱えてペコリと頭を下げた。
「毎度ありがとうございま〜す♪ 今日も九名様ですね〜?」
「ああ。出来れば奥の方に座りたいんだけど、いいかな?」
「は〜い! もう開けてありますから、あちらにどうぞ〜☆」
「もう……開けてある?」
アルフォンスは困惑しつつ、給仕の指差したテーブル席を見る。すでに店の半分は客で埋まっていると言うのに、その辺りだけガラっと席は空いていて、その奥にただひとり盃を傾けている男の姿があった。
アルフォンス達がそこへ向かうと、普段なら直ぐに品書きを持って対応する給仕が、まるで意識から彼らを消されたかのように背を向け、慌ただしく他の客の対応に戻る。熱気と酒の臭い、揚物や焼物の脂を帯びた匂いまでもが、その周囲には届いてすらいなかった。
「やあ、約束通り参られたで御座るな」
店の半分に押し固められた客達、そしてこちら半分にはシュウギひとり。ガラリと空いた空間は、静謐な空気すら流れていた。
「よう。ずいぶんと贅沢な席の使い方してるなシュウギ」
それらを不思議そうに見やって、アルフォンスは尋ねる。
「なに、大事な客人が参られるで御座るからな。少しばかり人払いにと、意識を向けたで御座るよ」
シュウギは守護神である。一般の人々にその姿を認識させる事は無いが、彼の意図を無意識の内に、店内の人々に汲み取らせていたようだ。
「あなた、本当はかなり高位な存在ですね? これほど分かりやすく、認識外から働き掛けられるのは、相当な力です」
「いやなに、仕事場作りは、拙者に必要な事で御座るからな。大した者などでは御座らん」
ソフィアに答えながら、盃に口をつける彼の目は、ジッとアルフォンスの胸元辺りに据えられている。アルフォンスはシュウギへと歩み出て、手拭いを差し出した。
「これ返すよ。多分、今度はもう少しあんたを楽しませられるはずだ」
「洗濯までしてあるとは律儀な事で御座るな♪ ふむ、確かにお返し頂いたで御座る。
───では、準備はよろしいか」
そう言ってシュウギは、受け取った手拭いを更に小さく畳んで懐にしまった。
「ああ。いつでも始めてくれて構わない。って、なんで手拭いしまうんだよ?」
シュウギは目を閉じたままフッと笑い、席から立ち上がると、ダラリと下げた両腕をスッと前に持ち上げる。その動作と共に、彼の両手にはそれぞれ一振りずつ、古びた刀が姿を現した。シュウギはその内一振りを腰に差し、もう一振りをアルフォンスに渡す。
「これをお貸しいたそう。とうの昔に果てた魂であるが、業物である事には変わり御座らん。この勝負の間くらいは、存在できよう」
「ん……。これは確かに業物だな。握るだけで分かる。それになんだ……いやにしっくり来るな」
「これでも鍛師の神で御座るぞ? お主の立ち振舞いを見れば、最適な得物くらいは分かるで御座るよ。まあ、胡蝶の作程お主にはそぐって居らぬであろうが、遊興には申し分御座らん」
アルフォンスは検めた刃を鞘に納め、腰元に寄せて持ち直す。
「あの……ふたりとも? なんで刀持つの? 手拭いの勝負は……?」
スタルジャが困惑してそう尋ねるも、ふたりはテーブルとテーブルの間の通路に、向かい合って立つ。店の向こう側は、物々しいふたりの空気を一切認識せず、酔いの賑やかさが続いている。
店内は今。静と動、明と暗とに真っ二つに分かれていた ─── 。
ふたりの闘気と殺気が、空気を帯電させんばかりに激しく渦巻く。思わず止めに入ろうと一歩前に出たスタルジャを、ソフィアが制した。
「な、なんで……⁉︎ 手拭いの勝負じゃないの?」
「おふたりには、おふたりだけに理解出来る何かがあるのでしょう。アルくんの目に、迷いが一切ありませんから」
呪いの武器達は、ジッと向かい合う男達を見据え、瞬きすらしていない。アルフォンスと深く繋がり合う彼女達は、むしろソフィアやスタルジャよりも、この場で繰り広げられている目に見えぬ闘いを理解しているのだ。
そう、闘いは既に始まっている ───!
刀に手を添え、居合の体勢で向かい合うシュウギの額を、汗が一筋流れた。
その時、一際大きな笑い声が酔い客達に起こり、場の空気が揺れる。しかし、ふたりは微動だにせず、お互いの胸の辺りに視点を置き、遠くを見るように向かい合ったままだった。
※
─── 今朝、宿屋の一室にて
パシッ……!
「あ、あれーっ⁉︎」
パッ……!
「あら? 取られちゃいました……!」
パシンッ……!
「あ〜、やられましたぁ〜」
宵鴉、ソフィア、ケーリュアガルデの三人が、立て続けに手拭いをかすめ取られた。アルフォンスはこれで、全員から手拭いを奪った事になる。
「ちょ、どういう事っスかリーダー! なんだって急に手拭い極めてんスかッ⁉︎」
「しかもアル起き抜けでしょ? な、なんでこんな強くなってるの?」
大欠伸をひとつして、アルフォンスは潤んだ目を擦りながらニマっと笑う。
「夢の世界で最後、私はアルくんを確実に仕留めようとしました。でも、なぜか体が動かなくて……。アレと何か関係があるんですか?」
「うん、多分シュウギが言いたかった事に、辿り着けた気がするんだよ。『斬ろうとするな、斬られるな。殺そうとするな、殺されるな』ってやつに」
「「「…………?」」」
小首を傾げる全員の前で、アルフォンスは剣に手を添えるように構え、真っ直ぐに前を見つめた。途端に全員がゾクリと身を縮め、闘いの目へと変化する。
「殺気……じゃねえな、闘気でもねえ。なんだ……? 主様に握られた時みてえな、支配されてる感じに似てる」
「「あ、分かるーっ!」」
「ど、どういう事なのアル……?」
アルフォンスは構えを解いて、全員を解放すると、寝過ぎて痺れた頭を押さえながら説明する。
「斬ろうとし過ぎれば、動きを読まれるし、勝機を逃す。逆に勝負を避けようとし過ぎれば、相手の動きに気を取られて、気運を逃す。あのシュウギの言葉は刀使いにとって、常に心を置くべき極意だったんだ」
「えっと、それと手拭いに何の関係があったの?」
アルフォンスはテーブルに置いてあった手拭いを手に取り、広げて見せた。
「刀は盾を使わない両手持ちの刀剣。斬れ味も鋭いけど、使い方を誤れば反りが伸びて、二度と使い物にならなくなる。シュウギは刀を『魂』だと言ってただろ? 最初はその辺りの、刀を傷付けない話なのかと思ってたんだよ。
でもそこじゃなかった、あの言葉は俺に足りない物そのもの、刀の魂との付き合い方だったんだよ」
『『……つ、掴めたのか主様ッ! まだあれから二晩しか……たって居らぬぞ⁉︎
あの課題は……無謀としか ─── 』』
「きっとまだまだ先はある。けど、今回の課題の意味は分かったよ。さあ、答え合わせだ」
※
ぽた……っ、ぽたっ
居合の構えを取るアルフォンスのあご先から、汗の雫がひとつ、ふたつと床に滴り落ちた。ふたりが構えてから、早くも十分は過ぎ去っている。膨れ上がった闘気が周囲の空気すらも虜にして、向こう側の客の喧騒が、遠い対岸の祭りのように儚く揺れていた。
ぎゅぎ……っ!
アルフォンスの握りに柄が悲鳴を上げた瞬間。シュウギの溜めに溜めた闘気が、一本の糸のように鋭く撚り上げられて放たれた!
ピシュン……ッ
全てが一体となった刹那の閃きは、時間すらも斬り払ったように、世界から色を失わせていた。その一撃に反応すら出来ずに佇む、剣鬼の如き若者の紅い瞳を見やり、シュウギは深い溜息をつく。
「……なまじ、出来過ぎた者であったがために、斬られる流れを作ったで御座るな」
アルフォンスの成長はシュウギの想像を超えていた。彼は夜切を見て、そしてアルフォンスを見た時から、その背負ったものの大きさを、見抜いていたのである。
中途半端な技量では、ただ不運を招く。もう少しなまくらなら、手心も加えたであろう。飛び抜けていたのなら、彼を認めたであろう。だが、シュウギにとってアルフォンスは、そのどちらでもなかったのだ。
「許せ、アルフォンス殿」
停止した刻の中でシュウギは呟き、振り切っていた刃を、腰の鞘に納めんと翻す。
鞘を掴んでわずかに持ち上げた時、シュウギはその異変に気がついた……
─── 刀は、鞘に納まったままだ
今確かに自分は、鞘から引き抜く勢いを加速させて、アルフォンスを居合の下に斬った。その手応えも、体に残る気の余韻もまだ残っていると言うのに、その右手に刀は握られておらず、鞘に納まったままだったのだ。
(抜けなかった……? いや、すでに抜いた後だったか……?)
曖昧にボヤけていく己の記憶に、シュウギは全身から汗が噴き出すような戦慄を感じていた。
「……な、何が起き ─── 」
気がつけば、まるで凍りついたかのように、その指一本動かす事が出来なくなっていた。目の前で、アルフォンスはゆっくりと鞘から刀を抜き出して、シュウギの喉元へと突きつけて言う。
「 ─── 殺った……」
どくんと心臓に冷たい物が流れ込んだ。思わず吐き出した息には、己の血の臭いすら混じっているような錯覚を受け、サッと気が遠くなる。力を失い、手を掛けていた刀の柄から滑り落ちた、己の手を見つめるシュウギ。
アルフォンスはしばらく残心をした後、刃を翻して鞘へと納めた。
カチ……ンッ
納刀の音が響いて、世界は色と音とを取り戻した。
自分は抜いてなどいなかった。抜いて相手を斬り、その虚しさに溜息をつくまでが、己に見せられた幻影だったと悟り、シュウギは愕然として膝をつく。
シュウギの見抜いていた実力の程を、アルフォンスは遥かに超えた次元へと到達して、全く別物の剣士として生まれ変わっていた。
シュウギが教えようとしたのは、刀という武器の性質から、一刀の内に相手を下すための極意。斬られる前に斬る、相手に斬らせずに斬る。それは切先まで意識を通し、文字通り刀を己の魂とする、剣人一体の境地。
手拭いを取ろうと狙う相手に、その意識を働きかけ、自分の狙ったタイミングで腕を振らせる。それは大きなヒントでありながら、一朝一夕で何とかなる境地では無い。そこにアルフォンスが思い至った時にどう出るのかを、シュウギは見るつもりでいたのだ。
だが、アルフォンスはそれを遥かに超えてみせた。刀を振らせるどころか、刀を振った気にさせて、何もさせぬままに支配するなど、剣神でも無ければ有り得ぬ。目の前の男は、わずか三日の猶予の間に、数十年分もの開眼をして見せたのだ。
「……せ、拙者の負けに……御座る……。
その境地……お主は一体、何と心得たか……?」
アルフォンスは、一時己の魂となった刀の消え去るのを見届けて、ポツリと呟いた。
「刀と人とが織り成す、間合いの支配。そこにあるもの全てを己の運命で塗り替える……『領域』」
「 ─── ‼︎」
向こう側の酔い客の喧騒が押し寄せるように戻って来る。
シュウギはただただ、目の前の男の充足した表情を見上げるしか無かった 。
※ ※ ※
「……はぁ。凄いものを目にしたで御座る。やっと話せるくらいには、落ち着いて来たで御座るよ。お師様の剣を初めて見た時以来、いや、それ以上の衝撃があったやも知れぬ」
「シュウギのお師匠さんってのは、どんな刀打つんだろ。ちょっと見てみたいなぁ」
「いや、鍛冶の師では御座らんよ。剣のお師様で御座る。この国へもお師様を追い掛けて来たで御座るよ」
シュウギは懐かしそうな顔で、串焼の串を剣みたいに振っている。
「そんな凄い剣士が、この国に来てたのか。それはそれで気になるな、なんて名前なんだ?」
「うーん、それがお恥ずかしながら、拙者はほとんど相手にされず、名前すらうかがって無いので御座るよ。一方的に慕ってた次第で御座る」
「それはそれで、凄い執念だなぁ。まだ探してるなら、俺達もなんか知ってるかも知れないぞ?」
「ふむ。旅がお好きな御仁で、ひとつ所にはまず留まらぬので御座るよ。得物は刃が付いていればなんでも有り、稲妻のような剣筋で、常識は全く通じぬで御座る。人との関わりを嫌う故、まず会う事はないと思うで御座ろうなぁ」
彼がそれ程までに惚れ込むなんて、一体何の守護神なんだろ? まあ、縁があったら、名前くらいは分かるかな、守護神関係見えるようになっちゃったし。
と、魔槍フォスミレブロが、酔いに目元を赤く上気させて、座った目でシュウギに絡んだ。
「そんな事よりよぉ。夜切のヤツ、助けてくれんだろーなジョージ」
「シュウギで御座る。それはもちろん、任せるで御座るよ。今のアルフォンス殿であれば、胡蝶と力を最大限に引き出し合える、夫婦の如き絆のはずで御座るからな」
「ああん? 主様とゴールすんのはオレに決まってんだろが……シ、シウバ?」
武器達と一緒に、何故かソフィアとスタルジャまで立ち上がっている。
「シュウギで御座る。ゴールとかそこらは知らねえで御座るよ。しかし、アルフォンス殿は存分と、武器達に慕われているで御座るなぁ。 胡蝶の事は拙者に任せるで御座る。そこで少しばかりアルフォンス殿の力もお借りするで御座るが」
シュウギが夜切を治してくれる。もうそれだけで泣きそうだ。鼻がつーんとなるのを酒で誤魔化そうとしてたら、シュウギと俺の間に、夜切がボウッと浮かび上がった。
『『……最初、シュウギ殿が課題を言い渡した時、すぐに『剣人一体の境地』の事であろうと……。そう諦めておった……』』
「夜切……」
道理で特訓中もやけに大人しいと思ってた。声を取り戻して以来、元気は無かったが、声すらほとんど聞かなかった気がする。
『『シュウギ殿がそれを知らずに吹っかけるワケはない。だからこそ、主様のこれからに繋ぐ何かに辿り着くのでは無いかと……そう思った。それが最期の御恩返しになれば、それで良いと……』』
「ば、馬鹿な事を言うな夜切!」
『『いや、聞いてくれ主様。我の記憶は、あの魔術で見た通りじゃ。これまで心通わせた主人など居らず、皆、我の力に溺れただけ……。
主様が初めて……我に手を差し伸べてくれた、この世でたったひとりの“人”……』』
夜切の寂しさが、グンと俺の中に流れ込む。それにつられるように、武器達からも痛切な気持ちが伝わって来た。
『『故郷より遠く離れても、あったのは寂しさと虚しさ、そして歴代主人達の残した無念と憎悪ばかり。それを救ってくださったのだ! あの暗い部屋を斬り、我について来いと! いくつもの夜を斬れと、我の存在が意味のある物だと……』』
「…………」
『『主様が我の力を出し切れていないと感じたように、我も主様の力を出し切れては居らぬと、何度も不安に揺れた夜もある。じゃがそこに踏み込めば、これまでの主様の積み上げて来た剣の道を、あるいは邪魔してしまうのではないかと。刀として、胸が引き裂かれる想いじゃった……』』
何だよ、同じ想いじゃねえかよ……。夜切は凄い刀だから、何処かそんな不安を俺だって抱いてたよ。こいつも、怖かったんだなぁ
『『シュウギ殿の課題を超え、我の思っていた境地など、主様は遙かに超えてしまわれた。
……ふふ、愚かで女々しいと思うであろうが、そこは我が連れて行きたかったのじゃ。じゃが、我では無理だったのかも知れぬ。我は主様を愛し過ぎてしまった』』
「…………!」
『『心地が良かった。このお方と何処までも歩いて行きたいと、そう胸を焦がしていたら……。いつしか我は、主様に先を見せる事が怖くなってしもうた。今、上手くいっておるのなら、良いではないかと』』
ソフィアが口元を押さえて、微かに震えている。夜切の苦悩は、彼女が調律神の化身として、俺との関係で怯えていたのとよく似ている気がした。
『『シュウギ殿! 我の事はよい! 我を溶かし、主様に最高の一振りを! 我よりも優れ、主様を遙か高みに連れて行ける刀を、打ってはもらえぬだろうかッ』』
「馬鹿言ってんじゃねえッ! 俺は嫌だ。お前じゃないなら、刀は要らない。お前じゃないなら、剣の高みなど何の意味も無いッ‼︎ いいから黙ってついて来い」
『『…………ッ』』
「頼むよシュウギ、こいつ俺が握らないから、弱ってんだ。治してやってくれ」
そう言いながらシュウギに振り向いたら、彼は『ぬぐぉぉ』みたいに唸りながら、この中で一番泣いていた。自分より感情丸出しにしてる人見ると、ちょっと冷静になるよね?
「まあ、そのなんだ。お前を助けるために、皆んな頑張ってくれたんだし、下らない事を言ってないでお前は治る事だけ考え ─── 」
「やるで御座るよ‼︎ ああ、もう! お主らの信頼、愛、なんなんで御座るかッ! 刀も刀なら、ここに居る武器は皆誰もが、お主とその仲間を想い合ってるで御座る!」
その言葉に、普段いがみ合ってる武器達が、急に俯いてソワソワしながら顔を赤らめてた。あ、こいつらホントは仲良しだな⁉︎
「拙者がお主に、刀の扱いを誤れば『不幸になる』と言ったのは他でも無い。初めて本当の主人を知った、悲しくも美しい武器達が、志半ばで主人を失ったら、これからどう永き刻を過ごすで御座るか……」
「……!」
「拙者は鍛師の神で御座る。アルフォンス殿の背負った運命が、失敗すれば人を滅ぼすやも知れぬと聞いても、それ程心動かぬので御座るよ……。むしろ、世界に失われて行く武器、刀剣の数々に胸を痛めてしまう。皆、主人を失ってしまうで御座るからな」
「あん? て事は私のアルくんが死んでも構わねえって思ってたってことですか……」
「ソフィ、どうどうソフィだよ! そこで沸騰する!? 今は話がややこしくなるから、アルに任せよ? ね?」
ホント、最近のスタルジャは、再会直後のソフィアに翻弄されてた頃の俺に似て来たな。しかし、流石のシュウギも、マジギレモードのソフィアの迫力に目が泳いでる。
「私はアルくんさえ生きていれば、人類などどうでも良いんですよ!」
「だからそれと同じで御座るよ。拙者にとっては、人の手で生み出され、人の温もりと使命を求める武器達が愛おしいので御座る」
「あ、なら赦します」
「何しに急騰したんだよソフィ……」
シュウギは夜切に優しく微笑んだ。
「心配は御座らん。お主の主人は、お主と決めて御座る。それにお主は名刀中の名刀であるが、それを溶かした所で、良い素材になるとは限らないで御座るよ。剣の誕生も出会いの縁、その時その時に囲まれた全ての環境が、奇跡を起こした結果なので御座るからな」
『『……ぬ、主様ぁ……ぅぅっ、くっ……』』
夜切が泣いてる。早く安心させてやりたいとそう思った時、目の前にぼんやりと透けた状態で、人の姿の夜切へと変化した。ただ、その姿は今までの半分くらいの背丈で、何故か双子になって並んでいる。
「よ、夜切が……ふたり?」
「これが魔術や奇跡では治せぬ理由で御座るよ。刀は魂、折れてしまった時には、それが二分されて別々の魂となる故。ふたつの魂を撚り合わせる術は存在しないで御座る」
折れてから夜切の声がダブってたのは、単に不調なのかと思ってたけど、ふたつに折れた刃それぞれが喋ってたって事か。
「確かに魂を合成させる魔術なんてのは聞いた事がない。だから復元出来なかったのか! でもどうして別々の魂になるんだ?」
「刀の構造上、芯鉄は溶接が難しく、熱を通そうとすれば硬度と粘度を決める炭素が動く。そうなれば全く異なる性質の物になってしまう。脆くなり、曲がり易くなり、折れる刀になってしまうので御座る」
そこまでは理屈で分かる。夜切を溶かしても、良いものにはならないと言うのも納得の道理だ。
「ここまでは鍛造の道理で御座るが……。そもそも鋼の真理は、鋼の精霊を錬成する作業に御座ってな。織り成された鉄と鋼との、単なる物質が命に生まれ変わるので御座るよ。刀の形を失ったとしても、折れた部分に斬れ味のある部分が残っていれば、それぞれ別の存在となってしまうので御座る」
鋼の精霊の錬成か。ガセ爺も鍛造の工程を、よく命の誕生に例えてたけど、言われてみればそうかも知れない。
「じゃあ、一体どうやって夜切を治すの?」
スタルジャの不安げな質問に、シュウギは盃をあおって、今までに無い鋭い表情を見せた。
「並の鍛師では不可能で御座る。─── だが拙者は鍛師の神で御座る」
里から降りて来て、今までに何度も思った事だけど……『出逢いの運命』というものは、本当に不思議な奇跡を起こすものだ。俺達は今、唯一無二の助っ人と言葉を交わして居るんだろう。
それは単に彼が特別だからでは無く、もしかしたら何でも無いような人物でも、本当は出逢った全ての人々がそういう存在だったりするのかも知れない。
ここまで読んだ
このページを保存して、トップページから続きを開けるようにします。
Mail Magazine
新着通知をメールで受け取る
続きの公開や新着話のお知らせをメールで受け取れます。次の更新を見逃したくない方におすすめです。