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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十二章 再起
第十二章【幕間XIV】ユニの弟子入り
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姉エリンの意思。
獣人族の戦士であること。
強かった姉と、慎重な性格の自分とに、大きな違いがなかった事に気がついたユニ。
ハンネスたちとの悪夢のような戦闘で、己の実力が足りていないと感じていたユニはローゼンに弟子入りする事を決意した。
仲間たちはその意思を快諾し、ユニを支えようとしている。
そうしてローゼンとの、偉大な戦士になるためのユニの挑戦は始まった。
ローゼンに弟子入りする。
その決意をアル様は快く受け入れてくれた。ううん、アルって呼ばなくちゃなの。彼は私を『戦友』だと、お姉ちゃんと同じように言ってくれたのだから。
初めて、私は自分の意思を、誰かに真っ直ぐ語れた。
彼を好きだと思う気持ちが、憧れや焦がれから、もっと近い安心感に変わった。アルと共に歩きたい、彼と支え合える自分になりたいと今はそう思える。
スタにも私の決意を話しておこう。そう思って部屋に行ったら、何も言う前から彼女は私を抱き締めた。
「ユニ……嬉しい。顔を見せに来てくれて嬉しいよ……!」
「心配かけて……ごめんなさいなの」
スタはいい匂いがする。草原の清々しい風に、ほんのり香るお花の匂い。こうしてよく抱き締めてくれる彼女は、ちっとも似ていないのに、何故か母様を思い出させる。私がお部屋にこもって考え続けてるのを、すごく心配してくれていたし、今は本当に喜んで興奮してくれてるのが分かる。
そんな優しい匂いに包まれながら、スタは家族なんだってつくづく思う。
「 ─── 何か、決めたんだね……」
「くすっ、スタは本当に母様みたいなの。お見通しなの♪
……うん、私は決めたの。少しの間、皆んなと離れてローゼンの所に修行に行く!」
スタはすごく悲しそうな顔をして、でも目に涙を浮かべながら微笑んで、また抱き締めてくれた。
「ぐす……っ、うん、分かったよ。すごく寂しいけど、ローゼンだったら安心だもんね……ううっ」
「えへ……。アルさ……アルと同じこといってるニャ♪ えへ、ありがとうねスタ……グスっ」
アルの胸で散々泣いたのに、まだ涙って出てくるんだなぁ。お姉ちゃんのことではもう泣かないって決めたけど、こうやって優しくされて、嬉しくて泣くこともあるんだって思い出せたの。
しばらく抱き合って泣いて、ソファで手を繋いだままスタと色々話した。たくさん泣いたからか、自分の気持ちをしゃべることを決意したからか、スタと今までで一番たくさんおしゃべりができた気がする。
スタはよく『ずっとひとりだったから、姉妹が欲しいって思ってた』と言っていた。私を妹みたいだとも。今はなんだかお姉ちゃんみたいだけど、スタがそう言わないのは、私にお姉ちゃんのことを思い出させないようにしてくれているのかなと思うと、胸が苦しいくらいに温かくて愛おしい。
「私に足りないのは、闘う術と、前に出るためのカンなの。思いつく限りの術式を、ローゼンに助けてもらって武器にする。ローゼンの闘い方を憶えてくるの」
「うん。ユニならきっと大丈夫だよ! アマーリエも大丈夫だって! だから心配はしないでおくね。応援するからね……!」
そう言って、でもスタは『さびしいんだけどね』って、笑ってくれた。
─── 私は大丈夫だ
こんなに支えてくれる家族がいて、私のやろうとしていることを肯定してくれるのなら、もう迷うことなんてないの。
※
アルフォンスへの決意表明から数日。今後の事をソフィアとスタルジャと話し合い、色々と細かい事を決めたユニは、ローゼンの元へと旅立った。
彼女の意思を特に喜んだのはソフィアだ。
戦力としてのユニを高く評価していた彼女は、まだまだ発展途中のユニが、より力を求める事に感激すらしていた。エリンの意思を継ぐその意思に、ソフィアはユニの信ずる獣人族の誇りを、偉大なものだと肯定する。
ユニは頼れる存在なのだと、ソフィアは明確にその態度を示した。それはユニを獣人族の戦士と認める事であり、彼女を戦友として称賛する事と同じである。
スタルジャからは家族の温もりを受け、ソフィアからは歩むべき己の承認を受けた。ユニは覚悟の後ろに、いつでも背中を押す、温かな手がある事を知り、憂いは絶たれた。 慎重であった控えめさは、正解を導き出す確固たる意思へと、成長したのである。
ローゼンの元へと向かうまでに、ソフィアとスタルジャは役立つであろう術式や、戦闘の考え方を教えた。アルフォンスが各地で奔走している間、ユニはふたりからの集中的な講座を受け、更に多くの物を吸収して伸びる為の土台の数を増やした。
※
「 ─── じゃあ、行ってくるニャン♪」
とは言え、里心が付くからとユニは見送りは断り、簡単な挨拶だけでローゼンの元へと転位して行ったのである。
※
「きゃうぅ……っ‼︎」
ローゼンと繋ぎ合った両手から、雷撃の術式が流れ、ユニは身をこわばらせて悲鳴を上げる。頭と両肩の上に置かれた、布袋に穀物を詰めたお手玉が、それぞれポトリポトリと床に落ちた。
「……もう、限界なのです?」
ローゼンの抑揚の無い言葉が、静まり返った室内にポツリと放り出された。分厚い眼鏡に隠されて、その表情は読み取れない。ユニは毛を逆立てて、薄っすらと蒸気をその身から漂わせながらも、お手玉を拾って乗せ直すと、ローゼンに両手を差し出した。
「まっ、まだまだぁ〜なの……っ!」
「フフ。その根性、嫌いじゃないのです」
ローゼンはそう言って、両手を繋ぐ代わりに、人差し指を立てユニに語りかける。
「でも、根性論で育つのは非効率。重要な事は、理解と経験なのです。さて、ユニちゃんは先程、炎の術式も、水の術式も体内に受け、制御できたですね?」
「はいなの。そのふたつは通り道が分かったし、どこに意識を置けば、綺麗に魔力が流れるかは感覚でできたの。でも雷は速くて突然で、何が何だか分かんない……」
「その通り、ユニちゃんは感覚が鋭いのです。炎や水、土などの魔術の術式は、魔力を現象に変え、制御しながら出力を上げて行くのが基本。対して雷撃は一度高めたエネルギーを、一気に押し流すものなのですよ。そこに使われる原理は、炎と水、風の原理が混ざっている複合魔術なのです」
ユニはお手玉を乗せたまま『うーん』と、唇に指を当てて考え、パッと目を輝かせた。
「理解完了、なの! もいっちょお願いなのローゼン!」
「くすくす。おやすい御用なのです♪」
ユニはその後、何度か感電しつつも、雷撃の術式制御を完全にマスターしていた。
獣人族は魔術が使えない。それは特性として、彼らの魔力が肉体強化に特化している為に、外に働き掛ける魔術の術式を体感的に理解出来ないからである。
しかし、ローゼンはかつて獣人族の中にも、優秀な魔術師がいた事を知っている。それはまだ、魔術が特別な儀式では無い頃。生活の中に根差した、人類にとってのもうひとつの、いわば第六感だった太古の昔の事。
現在の世界に存在する魔導書の知識は、それこそ天文学的な項目数にのぼるだろう。それは果たして、進化の末の優れた知識なのか。それとも現象のひとつを再度理解するための回り道なのか。もしくは連想ゲームの如く脇にズレたお遊びなのか。その知識の総量が、太古の魔術に比べて大きく進歩しているかと言えば疑問である。
太古を知らぬ現在の人類では、今の常識と比べられるような文献もないために、何が根本的に変わってしまったのか分かりようがない。だが、プロトタイプとして、永遠を生きて来た彼女には、まるで子供達の自由研究を眺めているようなものであった。
アルフォンスの夢の世界での修練で。ツェツァルサガトのローゼン道場で。彼女の指導を見ていたユニにとっては、ローゼンに師事を受ける事は、重く厳格なものをイメージしていた。しかし、それはフタを開けてみれば、大きく異なっていた。それは遊びながら知識と経験を得る、赤豹族の子供達が行う狩りの練習にも似ていると、ユニは感じている。
だが、それはローゼンにとっても同じ事。がむしゃらに真実を求めるのではなく、わくわくと目を輝かせて挑むユニの姿に、知識を追い求めて生きて来た彼女にとっては、『好奇心』というその大切な根源を思い出させるものであったのだ。
─── そして、ユニは知らない
実は今、彼女が受けている術式の制御訓練は、アルフォンスが十年掛けて闇神アーシェスから受けた、最高の魔術講座と同等以上のレベルである事を。
(……これなら無詠唱魔術くらいあっと言う間にイケるっぽいのです。フフフ、じゃあ、ダーさんがヤキモチを焼いちゃう所まで、とっとと連れてっちゃうですかね〜☆)
ふたりはお互いに別々な楽しさにムフフと笑い、また新たなステップに向かう時には、夢中になって時間を忘れていた ─── 。
※
「はぁ〜♪ 薬湯、すっごく気持ちよかったの! ありがとうなのローゼン」
「汚れは清浄の魔術の方が効率いいんですけどね〜。お湯に浸かるのは、心と神経を休ませるのに一番いいのです♪ さて、ちゃあんと髪の毛を乾かすですよ〜」
そう言ってローゼンはユニの髪に手をかざし、乾いた温風を当てながら、タオルでわしゃわしゃとする。ローゼンに掛かれば、濡髪の水分など水魔術の神秘で一瞬に乾かせるが、敢えてそうしていた。
ユニもそのこそばゆさと楽しさに、キャッキャと笑いながら、見様見真似で自分でも温風を出そうと術式をイメージする。まるで子に生活のあれこれを教える親の如きやりとりではあるが、ローゼンはこうした関わりから閃く方が、ユニにとっては最適ではないかと思えていたのである。
今日まで行われていた、術式の体感レッスンはこうしたユニの好奇心と、想像以上に噛み合っていたのだろう。数回試みた程度で、ユニの手からも不安定ながらも温風が発せられていた。
そこには指先で描く魔術印も、背中に仕込まれた【従動開放】の術式も使用されてはいない。自前の術式イメージのみで、詠唱することもなく、合成魔術を発現していた。
魔術を扱えぬという獣人の常識を、たった今打ち破ったにも関わらず、本人はただ『できたできた』とはしゃいでいるだけだ。そんな姿にもローゼンは驚きと共に、ユニの持つ資質の高さと、何より楽しんでいる姿に微笑んでいる。
「さて、ユニちゃん。今日は修練初日お疲れ様でしたなのです」
「はいなの! ありがとうなのローゼン♪」
ソファに座り、体を向け合うと、ふたりはそう言って姿勢を正した。
「 ─── 私に弟子入りする時の『条件』は憶えているですね?」
「……ぅ。は、はいなの……」
「ムフ、ムフフフ……な、ならば、よ、よろしいのですね? あ、後で『やっぱイヤ!』とか、受け付けないのです……フフフ」
ローゼンの両手の指がワキワキと動くのを、ユニは不安そうに左右の目で追い、観念したように耳を伏せて呟いた。
「す、好きにして……いいの。今日教えてもらったことだけでも……お釣りが来るの……」
伏せた目が、恥じらいと共に揺らぐのを、ローゼンは舌舐めずりをして、白い手を伸ばす。その手がユニの首の後ろに回り込むと、ローゼンはユニのほんのりと紅潮した湯上りの首筋を見て微笑み、チラリとヴァンパイアの証である牙を覗かせた……。
ぐい……っ、コロン
ユニの体が引き寄せられ、ローゼンの膝枕に頭が乗せられる。そして、ユニの柔らかな髪の毛を、優しく緩やかに指先で愛でた。
「はぁ……これこれ、これなのです。はわぁ、くっそ幸せなのです☆」
「う、う……ん。ちょっとくすぐったいの」
最初は肩を硬らせていたユニも、やがてうっとりと目を閉じて、されるがままになっていった。
─── 一日一回、好きなだけモフらせろ
ローゼンの出した条件はこれである。ローゼンと赤豹姉妹の出会いは、勘違いから挑んで敗れた姉妹を、ペットとして飼う事になった事件がきっかけであった。その後、アルフォンスの婚約者ふたりだと知り、泣く泣く憧れの『猫と一緒』生活を諦めたローゼンは、代わりに紹介されたベビーモスの友達ケルベロスを愛で過ぎて、一度は逃げられている。
その強烈な愛情の激流に、ユニは自分が壊されるのでは無いかと、不安に思っていた。
「あ……うーん。何だか気持ちよくなってきたニャ……」
「フフフ、可愛いのです♪ こうしてユニちゃんを愛でられる日が来るとは。ムフフ……」
ケルベロスの逃亡に反省したローゼンは、もう愛の重圧地獄を卒業していた。今彼女にあるのは、純粋に『家族を撫で、体温を感じ、触れ合える喜び』である。
「なんかね……最近、みんなが家族なんだって、心が温かくなることばかり……なの」
「そうですね。私も同じなのです。ダーさんの所に集まった私たち婚約者連合は、この世に生み落とされてから、初めて自分で築く家族なのです」
ローゼンには親の記憶は無い。土塊から創り出された、ブラド神族の試作品たる彼女には、そのルーツを感じられる存在が無い。
ユニは獣人族である。獣人族の多くは、家族を大事にする性質から、自分の築いた家庭を何よりも大事にするもの。ふたりにとって、今はお互いが姉妹であり、また時に親子のような存在になっている。
「お姉ちゃんがね……もう居ないのは、やっぱりイヤなの……」
「……はい」
「でも、私にはこんなにいっぱい家族がいるの」
「……はい」
「お姉ちゃんの分まで幸せになって、お姉ちゃんが知るはずだった全部のことを、私が代わりにやるの……」
「……はい」
「えへ……。この前ね、スタに抱き締められて、心配されて、大事にしてもらえてね。なんかスタちゃんが母様みたいって思っちゃった」
「くすくす。スタちゃん、そんな所あるですよね~」
「ローゼンもね、今、そんな感じだよ?」
ローゼンは驚いた顔をしたが、眼鏡の下に隠されたその表情を、膝枕で撫でられているユニには分かるはずも無い。
「……あかん。ダーさんと出逢って以来、涙腺が弱って来ちまったですよ……もう」
「えへへ。優しい家族への嬉しさで泣くのは、仕方ないニャ〜♪」
やがてユニはローゼンの膝で眠りに落ちた。ローゼンはふつふつと湧く喜びと、胸の奥の温かさに、ユニとの会話を反芻している。そうしてしばらくの時を過ごした彼女は、ポツリと呟いた。
「やっべぇのです……。あ、脚が痺れ……。こ、こういう時って、起こしてどけてもいいですかね……⁉︎あ、はわわ、そんな事を考えたら、と、トイレにまで行きたくなっ……!」
猫飼いあるあるのひとつではあるが、彼女にはそれすらも愛らしい存在があることの、不安と喜びなのだと噛みしめる。
膝の上で家族が眠る。その喜びも、その後の対応も、ローゼンにとっては初めての事であった。
こうしてふたりの生活が始まる。ユニの覚悟は、ローゼンの与える知識と経験を、余す所無く成長に変え、ユニの素直さはローゼンに家族の温かさを教えた。
アルフォンスは知らない。
このふたりの生活が、人類史に残る奇跡の始まりである事を。
─── 今はまだ、温もりに微睡む、穏やかな時の幕開けであった
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