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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第二章 バグナスの冒険者

第十四話 楽に死ねると思うな

……ん、聞こえてるよ?……

……ティフォ……そのまま避難護衛班は続行だ。だが現地到着後は『白頭鮫団』も、避難先に待機させろ……

……どして?……

……今は教えられない。団員には……で、『三日間の待機だ』と言っていたと伝えて欲しい。ティフォは避難先の街に、彼らを送り次第、すぐに俺の所へ戻ってくれ……

……あいー、わかった。つたえとく。だいじょぶ? オニイチャ、つかれた?……

…… ははは、ちょっとな。心配はいらない。ティフォ、くれぐれも気をつけてな。頼んだぞ?……

……ふふ。なんかやさしー。すぐいくね!……

 ティフォとの念話が切れて、俺はその場に膝をついた。彼女のいつも通りの声と、表情からは判りにくいその優しさに癒やされはしたものの、この惨状にやりきれない気持ちが重く重くのしかかる。

「何て、何て馬鹿な事を……ッ!」

 港近くの石畳の上に、ダイクの顔の一部らしき破片を見つけた。
 俺が瞬間移動して来た時、街は強烈な光に包まれ、爆風が吹き抜けた。衝撃波が抜けた後、街のほとんどの建物がしゃくられたように消え、その中で蹂躙される魔物達の姿を見た。

 毒蛇の王冠を着けた三つの顔、その目が左右別々に動いて、生き延びた魔物達を探しては、七本の腕で掴み、考え得る限りの暴虐を繰り広げていた。

 あの姿は里の講義で知っている。

─── 【深淵の神アスタラ】

 神と名がつく、悪魔の一柱だ。これと契約を結べる魔術は存在しない。召喚魔術とは違い、魔力も術式も必要とはしないが、禁じられた古代の詩を特定の願いを込めて詠み上げる事で、一方的な契約がなされる。
 それは術者の魂を代償に、この邪神の精神の一部がこの世に影響を及ぼすだけ。制御など出来ず、魂の重さの分だけ、アスタラの暴虐が破壊を生み出す。

 そして術者の魂は永遠に虜となる。

 かつて、アーシェ婆とセラ婆から、この怪物の話を別々の講座で、それぞれ念を押されて説明された。人には気安く手を出してはいけない詩があると。人の輪廻は繰り返す。それを捨ててまで守る価値のあるものは、存在しないと。

「これじゃあ、蘇生も出来ねぇよ」

 そう呟いた時、視線を感じて顔を上げると、邪神の全ての目が俺を見ていた。もう既にオモチャとなる魔物を、全てくびり殺してしまったのだろう。
 辺りは耳が痛くなるほどの静寂に包まれていた。

「何、見てんだよお前」

 怒りで魔力が噴き上げた。こんなモノがいなければ、人はその力を欲しないものを! こんなモノがいなければ、ダイクは生きられたものを!

 それが八つ当たりだと、分かってる。それが、事態を予測出来なかった自分への怒りだとも、分かってる。それが、自分が居れば何とかなったという思い上がりだとも、分かってる。
 だが、怒りは抑えられなかった。邪神を睨む俺を、邪神はただ見つめていた。

「ダイクの魂を……返せぇッ!」

 そう呟いた時、邪神はを浮かべ、何事かを呟く唇の動きを見せて消えて行った。その微笑みが、俺を理解して慈しんだように思えて、余計に怒りが湧き上がる。

「ソフィアに伝えなきゃ」

 ティフォに繋いでもらっていた念話に、ソフィアのイメージを浮かべる。

…………………………

 応答がない。

 もう一度、イメージからやり直す。

…………………………

 胸騒ぎがする。俺は街の状況確認を捨て、ソフィアの向かった地点へと、飛翔魔術を発動した。どの道、この街にもう用事はない、あの犠牲者達の眠る、倉庫すら消えてしまったのだから。

 ※ ※ ※

─── 数刻前、避難護衛班が出発し、峡谷にてソフィアが別れた後

 ソフィアは退避警護班から、充分に距離を取った事を確認すると、音もなく空に浮かび始めた。

(ティフォちゃんの強引な『ごほーび』の後、私もどさくさで何とかかんとかしようとしましたが、不発に終わりました……)

 整った両目に、憂いの影を落として、何事かを考えている。

「ここは手柄を立てて、正々堂々と間違いが起こりかねない『ごほーび』を、取り立ててやりましょうぞ!」

 そう独り呟くと、握り拳を掲げた。ティフォから貰った情報で、すでに『霧の女王』の根城はおおよそ掴んでいる。ソフィアは上空から、位置確認と地形を確認しつつ、同時に霧の発生位置もつぶさに観察し始めた。

「あー、ティフォちゃんの情報と一致しちゃいました♪」

 峡谷から少し外れた岩山に、半球状にえぐれた不思議な地形がある。前任者のリディが使った【聖なる灯】の後であろう。三百年の時を重ねて、周囲の森が覆っているが、よく見ればあの痕を中心に、放射線状に吹き飛ばされた線が薄っすらと残っていた。その中に一本、街の方へ続く峡谷の道と繋がっている一際深い傷痕を、ソフィアは見つけた。
 【聖なる灯】から照射された熱線が、たまたま街への道と、方向が一致してしまったのだろう。その威力を知るソフィアは、その瞬間を想像して、顔を曇らせた。

「あれでは当時、街に残っていた人も無事では済まなかったはずですね……。
一先ず、あの爆心地痕が『霧の女王』の本拠地と見ていいでしょうね。ティフォちゃんの情報、地形に残された痕跡から見て、おそらく間違いありません」

 更に爆心地から魔力が弱い噴水のように、溢れ出してるのを確認し、ソフィアはそう確信した。

「あら、もう気がつかれてしまいましたか」

 爆心地痕から、大量の蛇と灰色のもやが溢れ、明らかにこちらへと向かってくるのが見える。

「少しでも、皆さんが動きやすくなるように『皆殺し』にでもしておきますかね~♪」

 久し振りのソロ任務であるのに、何故か彼女の心は少し浮かれていた。想い人を当てども無く探す張り詰めた一人の戦いから、今はその想い人の為の戦いへと変わっていたのだから。
 と、ソフィアは眼を閉じ、スッと片腕を上に挙げた。指先は何かを示すように、一瞬の間を持った動きは、楽団の指揮をするようにも見えた。

─── 【 そ の 足 は 岩 の 如 く 】

 静かにが告げられた。運命と因果に、強く影響を与える神の言葉は、それそのものが魔術である。それに見合うだけの運命や因果を持たない者は、成す術なくその意思に飲まれる。彼女の眼下では、時を止めたかのように、霧も灰色のモヤも、その中にいる魔物でさえもが動きを止められていた。

 ス……ッ

 眼を開けると同時に、掲げていた手を振り下げ、彼女は望む事象を思い描いた。

「……切り刻まれなさい」

 かつてアルフォンスの鎧に格子状の傷をつけた神の奇跡『切り刻む』神威は、今、眼に入る範囲の敵全てに行使された─── !

 カカカカカカカカカカカッ

 霧の中に潜む魔物達は、指先程の大きさの賽の目状に刻まれ、呻きひとつ上げる事なくばら撒かれる。上空からは、線の走る音すら届かず、砂埃すなぼこりと魔物の消滅する黒い霧だけが確認出来た。それを一瞥すると、ソフィアの眼はクレーターの中心に向けられる。
 その刹那、すでにそこに彼女の姿は無く、ただ風だけが吹いていた。

 ※ 

 音もなく、静かに降下し続ける。爆心地痕の中心にあった、巨大なクラックは、何処までも地下深くへと続いている。入口の光はすでに遥か遠くなり、大地の巨大なクレバスが一本の髪毛のように細く、もう陽の光を満足に届けてはくれなかった。

「これは……氷河?」

 ソフィアがそう呟いた時、岩盤の層を抜け、所々艶を放つ、氷漬けの世界が現れた。ソフィアは指先に光を灯し、その光景に眼を奪われていた。延々と続くかに見えた、青白い氷の層には、やがて変化が見られた。

「─── 浮幽蛇……。いえ、これは太古のワーム類の群れ……」

 氷の層に半透明の蛇に似た生物の群れが、長く大きな帯のように、氷河の中に幾条も閉じ込められている。

(『霧の女王』の生み出した魔物は、この風景に影響を受けていたのでしょうか……?)

 そう考えていると、氷の層は再び岩盤の暗い層へと移り変わり、更に下へとクラックは続く。

 そして、地底の空洞に終点が訪れた

「ようやく見つけました。貴女が『霧の女王』この地を統べる魔族……」

 指先の光では届かぬ、深淵の闇の先に何かが動いた。辺りには質量を感じさせる程の、凝縮された魔力が瘴気しょうきを孕み、埋め尽くしている。

「…………人……か」

 暗闇の中に、寒気がする程の、済んだ声が響いた。刹那、点々と等間隔に灯火が燃え上がる。ぼんやりと地底の空間が、橙色の明かりに照らし出された。濃厚な湿気と冷えた空気、石灰質の遺跡のような天然の広間に、愉快げな声が響く。

「…………いや、この匂い……うふふふ……。貴様は─── オルネア……調律の神であろう……?」

 やや青味がかった灰色の長い髪、鍾乳石のような乳白色の肌には、透き通った鱗のハイライトが規則的な模様を描いている。白を基調に、濃い灰色の縁取りが入った衣装を朱色の帯で留め、袖からは頬杖をつく腕とは別に三本の腕が気だるそうに伸びていた。裾から伸びる下半身は、青黒い鱗にびっしりと覆われた、大蛇の尾をなしている。

 玉座に浅く腰掛けた状態でも、ソフィアからは見上げる大きさ。その地底の女王は、真っ直ぐに近づくソフィアを、ゆっくりとまぶたを開けてあらためた。白目は無く、瞳孔すらない金色の眼球が、薄暗い地下空間の影に妖しく光る。

「オルネアとエルネア。この世の大きく歪んだ偏りを調律する、双子の神。適合者を選び出し、自らも奇跡を以って、使命を執行する─── ええ、私が『調律の神オルネア』その化身です。
最近の魔族は、お勉強がお好きなのですね。私の事を知るとは、ただただ魔王に付いて回るお遊戯をお辞めになられたのでしょうか?」

 ソフィアは微笑みを浮かべ、おっとりと地底の女王へ言葉を返した。

「ふふふ。貴様がここにいると言う事は、適合者がこの世に現れたと言う事か。それもこの近くに来ていると……。あははははははッ! 随分と待たされたものだ。
……待っていたよ。オルネア、我らが魔王フォーネウス陛下の仇」

 鋭い牙を見せ、女王はわらうと、鮮やかな青色の舌で唇を湿らせた。

「─── 妾こそは魔公将が一人『霧の女王』エスキュラ。この様な奈落まで、神が一人で参られるとは、ご苦労な事だ……。善いのかね? お前の玩具を、お供させずに」
「何か問題でも? 矮小な毛虫ひとつに、何故、手数が必要なのでしょうか。あなたになどに、私の適合者は勿体ない」

 ソフィアが杖を取り持ち、ゆっくりと持ち手に指を掛ける。

「ふふふ、流石は神か。随分と不遜ふそんなものだ。その顔が歪むのを、是非とも目にしたい」

 カッ!

 女王の指先から、稲妻が迸る。揺らめくように体をブラしたソフィアは、次の瞬間には玉座の上空から、斬撃を放っていた。

 キュンッ! チュイン!

 弦を弾くような音が響いた時、既に玉座が細切れとなって、崩れていた。

 ブンッ!

 着地する寸前に、女王の尾が唸りを上げて、ソフィアを刈り取る。しかしヒットする瞬間に、その打ち据えられるはずの姿が、幻のように掻き消えた。

「ふぅ。余り舐めないでいただきたいですね。この程度で私を『待っていた』とは、見通しが甘過ぎませんか?」

 女王の背後で、ソフィアは刃を拭っている。

 ボト、ボトン……ッ

 白磁の陶器のような、艶やかに光る二本の腕が、鱗をきらめかせて床に転がり落ちた。

「く……ッ、なるほど、もう既に適合者とはかなり深い契約段階にあるようだ。これ程とは流石に想定していなかったが」
「なら、それを後悔してちりに帰っていただきましょう」
「くくっ、うふふふふふ……クックックッ」
「……何がおかしいのですか?」

「なぁに、大した事でもない。見通しならば、立てておるわ」

 女王の手の平に、黒い宝玉が乗っている。その宝玉の中心が紅く光ると、赤黒い霧となって広間を覆い尽くした。

「…………これは⁉︎ は一体何……を!」

 ソフィアが胸元の服を硬く掴んでよろめいた。体から急激に力が抜け、視界の光度がガクンと下がる。権能で向上していた肉体の強化が、全て消えていた。

「このに懐かしさは覚えぬか? お前達の神威も権能も、神の意志が創り出した、事象の賜物たまもの。それを拒む強い神の意志があればどうだ? そう、全てを憎み、全てを拒む神の心に包まれたのなら」

 女王は宝玉の消え去った手の平を見ながら、口元をニヤリと歪めた。

「再度、問おう。この『感情』に懐かしさを覚えぬか?」
「くっ、この力の気配……。まさか……エルネア!?」

 女王はソフィアに顔を向け、満足そうに微笑んだ。

「ふむ、流石はだな。この恨みの念の塊から、やはりその気配を嗅ぎとるか。そう、これは貴様の妹、もう一柱の調律神エルネアの思念。─── あののな」
「裏切者……? あの子が一体何を……グッ!」

 ズサァ……ッ

 腹部に凝縮した魔力の一撃を受け、ソフィアの体が吹き飛ばされ、床を転がる。

「恨み、憎しみ、拒絶……! あの成り損ないの神が、ろくに使命も果たせず必要ともされず、痛め尽くされ吐き出し続けた呪詛! これはその呪詛を固めたものだ。神ともあろうものが、あのような醜態を……あははははははッ! アーハハハハハハハハハハ……」

 女王の嗤笑ししょうが狂ったように渦巻いた。埃に汚れたソフィアがよろめきながら起き上がる。眼には射殺すような殺気が宿っていた。

「……妹に…………エルネアに……何をッ!」

 ピュンッ! キィ……ンッ!

 ソフィアの剣閃が走る。床から天井まで立ち上がった鍾乳石の柱が、ザラザラと崩れ落ちた。と、死角から溜息が聞こえた。

「ほう。人の身に成り下がりながらも、これだけの剣技を誇るとは。あながち、権能に溺れた駄作ではないようだ」
「婚約者が、中々見つからなかったもので。世界を剣だけで渡るのは、よい修練でしたよ? エルネアは、今どこに?」
「ふん、死んだよ。もうどれだけ経つか憶えてもおらぬがね……。途中からは、お前の名を呟くだけの骸だった。ククク……裏切者にはお似合いの最期であろうなぁ」

「だから『』とは、何を言って ─── きゃう……っ、くうッ!」

 カラァン……ッ

 ソフィアの手から、仕込み杖の刃が落ちた。女王から放たれた、二匹の蛇が真っ直ぐにソフィアの両手首を貫き、背後の岩壁に打ち付けた。

「案ずるな。貴様も直ぐに天界に戻れる……」
「グッ‼︎ く……ぅ……ぁ……ぁ……」

 女王の五本の爪が、ゆっくりとソフィアの鳩尾みぞおちに、突き刺さって行く。

「どうした。人の子のような声で鳴いて。……ああ、お前も妹のように、我々のなぐさみ者にでもなるか?
貴様ら思い上がった神族など、人の世に何の光ももたらさん。死すらくれてやるのは惜しいからのう」

 苦痛に目元を紅く染めながら、ソフィアは女王を鋭く睨む。白いコートと僧服が、ジワジワと朱の滲みを広げて行く。

「もう少しここで待つとしようか、貴様の選出した者が現れるまで、契約の力をほとんど失い、最早ここに辿り着く事すら出来ぬかもしれんがなぁ。その時は、妾の可愛い下僕達が、引き摺り出してくるであろう。目の前で、くびり殺してくれる……」

 ソフィアは屈辱と苦渋に眼を伏せ、唇を噛んでいた。先程ソフィアが斬り落としたはずの、女王の二本の腕はもうすでに再生を終えている。女王には、ダメージの蓄積が全く見当たらなかった。

(どうしよう……アルくん……来ちゃダメ……)

「フフフ、随分と大人しくなったではないか。それまでは、もう少し貴様で、楽しませてもらうとしよう」

 女王が手の平を上に向けると、白い霧の塊が浮かび上がった。段々とその霧は渦巻きながら変化し、無数の浮幽蛇へと変貌を遂げる。

「微弱とは言え、適合者との繋がりは残っておろう。死なぬ程度に、貴様をここで鳴かせ、誘き寄せるとしようか。まずは手足の内側から、この低級な存在に、まれる苦痛を味わうがいい!」
「……………………ッ!」

 その時、ソフィアの肩に、一匹の黒い蜘蛛が這い上がり、尻の先から遥か上へと伸びる糸を引いた。

(……? この子は…………!)

 ヒィィィィィ……ン…………

「おや、この反応……適合者か……? オルネアを抑えられ、大した加護も無しに来るとは、殺し甲斐の……グッ⁉︎」

 女王の言葉の途中、空洞内が急に明るくなり、天井の巨大な亀裂から光源が現れた。直後、女王の胸に突如大型のナイフが突き刺さり、その衝撃で巨体が空洞内の壁面へと吹き飛ぶ。大蛇の尾をなびかせて、後頭部から岩壁に打ち付けられると、壁面に大きなヒビが走った。
 すぐに女王は起き上がり、獰猛な肉食獣の如く喉を鳴らして、その光源をにらみつける。

「な、何だ貴様のその禍々しい魔力はッ! 貴様、本当に人間……ぐぎゃあぁぁッ!」

 さらに数本のナイフが、女王の胸元に突立ち、岩壁を崩壊させながらめり込む。光源は高速でソフィアの前に降り、漆黒の鉄靴で石灰質の床を踏みしめた。

 トン……

 その見た目に反する、極静かな着地音。圧倒的な落下の速度と慣性を殺し切り、物理的な法則を超える、驚異的な身体能力が垣間見えた。
 その男、漆黒の鎧に身を包んだ髑髏どくろが、ゆっくりと立ち上がる。

 キキン……ッ

 ソフィアの両手首に突き立っていた、石化した蛇が斬り落とされ、ソフィアの体が前のめりに倒れる。その体を男の腕が抱き止めた。

「あ……あぁ……アルく……ん」
「待たせたな、ソフィ。……瘴気にやられ掛けてるな、ちょっと待ってろ─── 【清浄グランハ】【癒光ラヒゥ】」

 瞬時にソフィアの傷が消え、顔色に赤みがさした。

「神気が弱ってるのか? ここは瘴気が濃い、これを着けててくれ」
「え、あ、アルくんこそ……もがっ」

 荊の冠をいただいた髑髏の兜を脱ぎ、ソフィアに被せると男は立ち上がり、背後に迫った女王に顔を向けた。若い男の顔と、地に手をついた半身蛇の人外が、接触すれすれの距離で睨み合う。

「貴様ァ……この女の目の前で、この世の全ての苦痛を味…… 」
「テメェ……俺のに何してくれてんだ……?」

 男の手が女王の首を掴み、その巨体を引き摺り倒す。キュウッと気道を鳴らし、成す術なく女王の体は鍾乳石の柱を薙ぎ倒し、地面へと押し付けられた。

「…………済まないが……俺は今、気が立ってる。
─── おい、楽に死ねると思うなよ?」

 地底空洞内の瘴気が、男の禍々しい魔力に押し潰された。

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