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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第二章 バグナスの冒険者

第十六話 力ある者の責任

「ッ来いッやァッ‼︎‼︎」

 屈強な大男が上半身裸で、両腕を広げてそう吠えるのは、筋骨隆々な獣人族の大男。野太い指には黒光りする鉤爪かぎづめ、鋭い牙を剥き出して、虎顔の金色の眼が鋭く光る。

「ォラアァッ‼︎」

 俺はその両手を掴み、ガッチリと力比べの体勢に持ち込んだ。

「おら、アドルやっちめぇッ! チビの人間なんざ一捻りだろッ‼︎」
「おおい! 誰も人間の方に賭けねぇのかッ? これじゃあ、賭けになんねぇだろ……」
「では、私が彼に賭けます! 彼に金貨一枚!」

 ソフィアが猪顔の大男に、金貨を一枚掲げて見せた。突如、賭け金が跳ね上がり、男達のボルテージが急上昇する。

「うおおおッ! いいのかよネェちゃん! 大損こくぜ⁉︎」
「がははははっ! じゃあ俺も半銅貨一枚、人間の兄ちゃんに賭けてやるぜ!」

 気がつけば、いつの間にか大勢の観客に囲まれている。何でこんな事になったのか……。

………… オニイチャ、あぶくゼニ、かせげる。ちょっとひっぱれ…………

 ティフォの念話が耳元で囁いた。何が泡銭あぶくぜにだか……いや、お金は大事だ! よし、沸かすだけ沸かしておこう。

「なぁんだよ! もう押されてんじゃねぇか兄ちゃん! 腕がひっくり返って来てんじゃ……」
「うおおおッ⁉︎ 盛り返しやがった!」

 力比べにあえて押されつつ、盛り返してを、数回繰り返すと、更に賭けに参加する者が増えていく。もう少し、勝たせておくか? 今の所、アドルの方にガンガン賭け金が集まってるようだ。

「……グググ……て、テメェ! 本気出してねぇな⁉︎ 力にバラツキがあり過ぎなんだよッ!」
「へへ、アンタはどうなんだ? まだまだいけんだろ?」
「こなクソォッ!」

 アドルの腕の筋肉が更に盛り上がり、俺の腕にさっきまでとは比べ物にならない力が掛かった。

「行けッ! 押せ押せアドルッ‼︎」

………… オニイチャ、もーいーよ…………

「どっせぇぃッ!」
「うを……ッ⁉︎」

 一気に力を入れて、アドルの腕を下に引き、手首をひっくり返す。バランスを崩したアドルが、前のめりに倒れるのを、俺は脇に引っ張って派手に転ばせた。

「はあッ⁉︎ オイ、嘘だろアドルッ!」
「こ、こんなもん八百長だ八百長!」
「とっとと、どけやアドルッ! 次は俺だ!」
「おほっ! 大将が来たぜ! 賭けだ賭け!」

─── ここはバグナスの首都に向かう、峡谷の道の途中、獣人達の港

 亜人の中では、かなり人間族と交流を持っている方だが、やはり軋轢あつれきはある。街に入った時からジロジロと見られていたが、昼飯を食ってたら、何人かにイチャモンをつけられた。最初は無視を通していたが、ティフォの肩を掴んだ奴を転ばせたら、殺気立った連中に囲まれて勝負を挑まれた。

『力比べとビーチフラグ、どっちがいい?』

 そうチーター顔の男に凄まれ、迷わず力比べを選んだらこの通りだ。いや、ビーチフラグでも何とかなるが、何が悲しくて、浜辺で野郎と駆けっこせにゃならん。そうして俺は、日がとっぷり暮れるまで、街の屈強な大男達と力比べをする羽目になった。

「がはははは! 儲かった儲かった! なぁ兄ちゃん、稼がせてもらった礼だ、呑み行くぞ呑みに! 心配すんな、ちゃあんと奢ってやるから!」

 ソフィアに釣られて俺に賭けてた、熊耳の爺さんが、俺の腰に手を回してグイグイ押してくる。獣人族は耳や尻尾なんかの、体の一部が動物のタイプと、ほとんど動物で人型のタイプに分かれているらしい。不謹慎ではあるが、若い女の子なんかだと可愛く見えたりするが、老人に熊耳のと丸い尻尾が生えているのは、少し微妙に思えてしまう。
 俺達の後を、興奮が冷めやらない様子の獣人達がゾロゾロついて来た。みんな呑みたいらしい。次は呑み比べとかじゃねぇだろうな?

 ※ 

「そうかそうか! レーシィステップで魔族が出たか!」

 熊耳の爺さんは、何を言っても俺の話を言い直して繰り返すばかりだが、本人は至って満足そうだ。多分、聞いてないんだと思う。周りで聞いていた獣人達は、目を丸くしている辺り、爺さんの反応がおかしいんだろう。

「……ま、魔族って。そういやぁ、ハリードとタッセルでも騒動あったんだろ⁉︎」

 流石にこの地方にも、噂が流れて来ていたらしい。皆が口々に魔族の噂や、最近の魔物の傾向について話し始めた。

 ─── と、その中で気になる噂話が、耳に入ってきた

「……最近、密林国アケルでも、何だか魔物が急に増え出したって言うじゃねぇか。やっぱ、魔族が絡んでんじゃねぇか?」
「ああ、俺も聞いたぜ! 夜になるとスケルトンがわらわら出てくるってよ! それ以外にも死霊系の魔物が多くて、爪が通用しねぇって言ってたわ」
「俺らは魔術がからきしだかんなぁ。攻撃が効かねぇってんなら、相性最悪だ。
スケルトンと言やぁ、何でも最近『死神の騎士』ってのが、ちょくちょく色んな国に出てきてるって言うしなぁ」

 密林国アケルは、俺の両親に会うために、バグナスの次に通る予定の国だし、聞き捨てならない話だ。
 アケルは獣人達が多く住む密林地域と、人間の住む開拓された土地とで、二分する国だと言う。ここにいる彼ら獣人達も、アケルの出身だそうだ。この小さな港町は、獣人達にとって出稼ぎのメッカで、アケルとの取引で生計を立てていると言っていた。

「俺達は春になったら、アケルを通る予定なんだが、そんな噂が出回ってるのか? それと『死神の騎士』ってのは何なんだ?」
「おお、あんたらアケルに行くのか? あの国はいいぞ、何せ俺達の故郷だからな!
噂はアケルの港で、直接現地の仲間から聞いたからホントだと思うぜ? あんたら、魔術は使えるのか? 使えねぇってんなら止めた方がいいかもしんねぇな。アケルの先に行くなら、最悪、南海西側の北マスラ王国から、山越えルートもあるしよ」

「山越えは翼竜が出るから、余計ヤバイだろ。えーと『死神の騎士』だったら、タッセルの方から流れて来た噂だよ。何でも王冠被ったの怪物が居てよ、背丈なんかは、俺達でも見上げる程のおっかねぇ奴だって話だ。
呪いの曲刀を振り回して、ハリードのお尋ね者を皆殺しにしたってんだからヤベェ。それによ、小さな女の子をさらって連れ回してるってぇ聞いたぜ。とんだヘンタイ野郎だよな!」

 ん? 王冠被った全身真っ黒のドクロ? ハリードのお尋ね者を皆殺し? しかもロリコンだと? やっべぇ奴がいるもんだ。

「ああん? 兄ちゃん達はアケルに行くんか! じゃあ、もし密林で獣人に会ったら、これを見せるといい! ほれ、持ってけ!」

 そう言って、爺さんが黒っぽい石の付いたチャームを投げてよこした。焦げ茶色に黄土色の縞が入った石を、銀細工で紐を通せるようにした物だった。

「綺麗な石だな、これは?」
「虎目石ってな、ほれ、黄色い筋が虎の目みたいだろ? これを持ってる奴は、獣人族に友好的だって証でな、人間族の取引相手だとか友達に渡すもんだ。儲けさしてもらったし、いい勝負見せてもらったからな、礼だ!」

 未だ残る獣人族との軋轢あつれき、これは旅には役立ちそうだ。

「ありがとう! これは助かる!」
「がはははは! イイって事よ!」
「おうおう、そうだそうだ! 確かにいい勝負見せてもらったぜ。あんた人間族のクセに、えっれぇ馬鹿力だよな!」

 急に虎顔のアドルが、興奮気味に会話に入って来た。その言葉に、周りの獣人達も身を乗り出して、口々にアドルた似たような事を言い出した。獣人達はとにかく脳筋と言うか、勝負事が好きらしい。
 やがて酒が進み、皆の武勇伝合戦が始まり、酒舗の賑わいは更にヒートアップして行った。

 ※ ※ ※

「これが……『エスキュラの眼』か。魔力は感じるが、特に目立ったものはねぇんだな」

 ガストンが宝玉を掴み、明かりに透かして眺めている。レーシィステップを出てから八日間、俺達はバグナスのギルドに帰還して、今回の依頼の報告をしていた。

「ああ、ただ浮幽魚の卵は、これをかざしただけで消え去ったんだ。おそらく配下への女王の権限が、この中に詰まっているのかもな」
「なるほどねぇ……。しかし、これでもし、次が起こっても、犠牲者は大幅に減らせるじゃねぇか。大手柄だぜ!」

 やはりダイクの事を思い出すと、胸が締め付けられるようだ。ガストンに『ルーキー』と呼ばれ、思わず彼の最期を思い出してしまった。肉片となっても、街を守ろうとした彼は、やはり偉大な存在だったと思う。

「……ダイクの奴は残念だった。状況から聞くだに、仕方がないのは、仕方がないんだが……。やっぱり、生きて帰ってきて欲しかったぜ……」
「済まない。俺がもう少し早く、街に戻れていれば、救えたかも知れない……」
「いや、お前が気にする事はねぇな。むしろお前がいなければ、残りの団員達と避難民も危なかっただろうよ」

 ガストンはそう言って、宝玉を見つめると、肩をすくめた。

 ティフォが仕事の話では、借物みたいに静かにしてるのは何時もの事だが、今はソフィアまで目を閉じて聞いていた。妙な沈黙が漂う中、ガストンはバツが悪そうに口を開いた。

「あー、これは伝えるかどうしようか迷ってんだが、実はこの宝玉な、エル・ラト教が欲しがってんだ」
「は? こんなものを何故? これはレーシィステップにあるべきだろ?」

 エル・ラトと聞いて、帝国の気配を察知したのか、ソフィアも流石に目を見開いた。

「奴らが言うには、この宝玉の力を分析して、浮幽魚の卵はもちろん、魔物の制御にも使えねぇかって考えてるらしい。まあ、後は聞こえの良いおとぎ話でも作りてぇんだろ」

 うーん、確かにそれはありそうだ。これを証拠に美談を作り上げ、何らかの宣伝に使ったり、経典の信憑性向上にしたりと、そう言う点で使い道はあるだろう。

「……うーん、あんまり良い話じゃない気がするなぁ」
「ま、そうだよな。レーシィステップの新町長がどんな判断を下すかは分からねぇが、そっちにもエル・ラトの奴らは働きかけるだろうよ」

 魔族だけでなく、帝国の動きもキナ臭い今、教団も何を考えているのか分からない所がある。

「とりあえず、断っては置いたが、そう言う事になってるってのは覚えて置いてくれ。状況が落ち着くまでは、この宝玉はお前が持っていて欲しい。
後な『白頭鮫団』の連中が、お前のパーティに入れてくれねぇかって相談が来てる。オメェは野郎共も垂らし込むのが上手ぇのな」
「そいつも断っておいてくれないか? 今の所、春から中央を目指して旅をする予定には変わりがないんだ」
「ああ、分かってるよ。奴らにもその事は伝えてある。悪い話じゃあねぇと思うが、正式に断っておく。……しかし、ホントに行っちまうのか?」

 ガストンは眉を寄せて、寂しそうに言う。

「元々、それが目的で旅をしてたんだ。俺もこの街が気に入ってるから、目的を遂げたら、その時はまたしばらく居るつもりだ」
「まあ俺に止める権利はねぇからよ。それに、多分お前は近々の内に、S級に昇格するだろうぜ?」
「俺が? いや、今回の依頼も中途半端な成果だったろ。条件にある『国レベルでの信用』には届かないんじゃないか?」

 実際に今回の依頼は『住民の避難』『街の存続』『魔族かどうかの見極め』『出来れば魔族の討伐』だった。避難は街の方ですでにやっていたし、街の存続に関しては、破壊神のせいでほとんどの建物が失われている。魔族討伐は、確かに俺が深く関わったが、最終的にはエスキュラは……自害した。

─── 正直、今回の依頼に達成感がなかった

「お前がどう自己評価しようが、中央はお前への今回の報酬、大幅な引き上げを決定してるんだ。白金貨四百枚だ」(白金貨一枚=日本円で約10万円、およそ四千万円)
「は⁉︎ 元は白金貨二十枚だっただろ⁉︎ なんで二十倍も跳ね上がってんだ⁉︎」
「この貿易の中心地バグナスの、国難指定クエストを解決。A級のダイク率いるベテラン集団『白頭鮫団』が先導した、上級冒険者百二十人体制でやり遂げられなかった事をだ。『霧の女王』の討伐だけでなく、問題の大きかった浮幽魚の解決策まで、引き出して来た」
「……まあ、そうだな」
「街の住民の避難は、すでにほとんどを現地の自警団が終わらせていたとは言え、その自警団の避難成功にも関わってる。ギルドからの提示は『レーシィステップの存続優先』で、一時的な退避が出来りゃあ御の字だったんだぜ?
国どころか、周辺国との連合まで想定した規模で、奪還を模索しようとしてたんだ。俺は妥当な線……いや、報酬としてはまだ手緩いんだが、それは最高位S級への昇格を想定しての事だろう」

 ……確かに街が完全に壊滅していたら、その奪還に国が動いた場合、軍事予算は跳ね上がっていただろう。非公開ではあるが、レーシィステップの麻薬栽培の件もある。土地の人間をすげ替えるのは、大きな痛手を負う事になっただろう。

─── 人を動かす事は、金が掛かる

「……それでも、昇格は納得がいかないし、その報酬額は受け入れられない」

 本心だった。エスキュラの言葉に未だ動揺があるのも、この気持ちの要因だが、ダイクと自警団の犠牲者を救えなかった事が、達成感を喪失感に変えている。ガストンはボリボリと頭を掻いて、腕組をした。

「まあ、お前の気持ちも分からなくはねぇ。自分の目標に誠実なのは、冒険者として見上げた根性だぜ? ……ただな、お前には力がある。その分、ハードルも上がってんだろうが、今回は上級の冒険者達が束になって、必死こいても無理だったんだ」

 ガストンの声にやや力が込められた。

「それをお前が、想定以上の解決にまで引き上げた。そいつらの気持ちも考えろ。お前が成果に納得が行かねぇって、報酬まで辞退したら、あいつらのやった事はなんだ?
奴らの報酬にまで価値がなくなっちまう。これはな、って奴なんだよアルフォンス」

 何も言えなかった。ガストンの言う通りだろう。プロはただでは仕事はしない、報酬分の責任と技術を提供する義務があるからだ。俺のやった事を俺が低く見積もれば、彼らの仕事の価値を下げてしまう事になる。

「…………分かった。ガストンの言う通りだ」

 納得はいかない。だがそれは俺の気持ちの問題であって、報酬や評価と言う、システムにまで強要する事じゃあない。
 任務達成の書類にサインして、レーシィステップの一件は終結した。

 ※ ※ ※

「ええ〜ッ‼︎ 岩袖鳥、食べちゃったんですか⁉︎ あんな可愛い生き物を! 鬼畜ですアルさん! あはははは!」

 最初の麦酒数口で、もう真っ赤な受付嬢アネッサが、俺達の帰還の旅で食べた『岩袖鳥の香草焼き』の話に物言いを入れた。

「主人様、あの鳥は可愛らしさから愛好家も多いのです。アネッサさんはそのぬいぐるみを毎晩抱いて寝ているくらいなのです」
「ちょ、エレノアさん! 何でそれ知ってんですか! ああ、この間、うちに泊めたや。あははは!」

 なんか知らない内に、二人は仲良くなってたようだ。

「はぁ〜い♪ 『面長鴨の香草焼き』お待たせぇ!」

 鼻に掛かる声で、給仕の女性がまだジュウジュウ音のする焼き立ての一皿を持ってきた。

「はぁ〜! 面長鴨の香草焼き! この時期のはまた美味しいんですよね〜! あははは!」
「んだよ、面長鴨だって同じ鳥じゃねぇか。これだって可愛いだろ、生前の姿はよぉ」

 上機嫌で更に取り分けるアネッサに、ガストンが辛辣な一言を漏らす。
 俺達はレーシィステップの報告の後、またガストンに誘われて、この港近くの居酒屋に訪れた。メンバーは前と同じ、ガストン、アネッサ、エレノアと俺達の六人。それに今回は丁度ギルドに来ていた、リックとミリィの二人も加わっていた。

「はうぅ……ダイクさんがぁ、街の人たちがぁ……」

 リックは泣上戸だった。乾杯の一口で麦酒を半分程、喉を鳴らして飲み、その後はずっとこんな感じだった。

「こらリック。ここは御三方のお帰りを祝うんでしょ! ほら、鴨だよ? リックこれ好きでしょ?」

 ミリィはリックの肩を叩きながら、リックの皿に香草焼きを取り分ける。

「あぁ……鴨がぁ、面長鴨がぁ……」

 ……こんな面倒くさい奴だったか? 酒は人の意外な一面を見せるもんだ。

「はぁ……。リックさんとミリィさんは本当に仲睦まじいのですね。わたしは羨ましいのです」

 エレノアが、俺の方をあざとくチラ見しているがスルーだ。

「鴨は秋のもんだと思ってたけど、これもいいなぁ。旨味が濃くて」
「ガン無視とか、そう言うつれない感じも、主人あるじ様の魅力なのですわ。ふぅ〜♡」

 いや、ホントに面長鴨てのが美味いんだよ。脂っこさが秋の物より落ち着いてて、鴨肉の味が強くなってる気がする。……まあ、逃げたのも正直な所だが。

「面長ってのはよ、夏の間は密林国にいるんだよ。冬が近づくとこの辺りに戻って来るんだが、この地域はそう冷え込まねぇから、脂も少な目なんだ。しかも森林と岩山でたかが多いからな、奴らは峡谷を一日中行ったり来たり、肉が引き締まってんだよ」
「それでこの歯応えかぁ!」
「それにこっちは冬に実をつけるチルあしが群生してっからな、そればかり食ってんだけどよ、あれは生薬にも使われる実だ。この時期の面長は肉質が良くて、旨さも抜群よ!」

 んで、やっぱり美味い物には酒だ。今日のはタッセルの乾燥地帯で作られた、辛口のワイン。麦酒の喉越しも良いけど、こういう旨味のある肉料理には、ピリっとした酒がいい。

「くう〜ッ!」

 最近、これを言うために飯を食ってる気がするな……。と、ガストンがテーブルに身を乗り出して、耳打ちをして来た。

「『仲睦まじい』で思い出したんだがよ? お前ら一体どうしたんだ? 前ここに来た時より、グッと三人距離が近くなってねぇか? さてはお前、二人共……」
「ば、ばッ、ちょッ! 何言ってんだガストン⁉︎」
「いやあ、なに、女二人の方はオメェにしっとりだし、オメェはな〜んか二人を気遣ってる気がしてな……?」

 前にこの店に来たのは、バグナスに到着してすぐの頃だ。あの後、初の迷宮でティフォに告白され、夜切と初デートをこなし、夢の中でまで二人とスキンシップ。最近は何かと『ごほーび』をねだられて、実際俺も完全に彼女達をバリバリ意識している。

「はぁ~。こっちの問題もあったんだよなぁ」
「うん? 何か問題でもあるんですかアルくん。一人で悩むより、二人で寄り添う方が前向きになれますよ? ……あの夜みたいに」
「うん、オニイチャ、今日は、ティフォが夢の中まで、一緒の日だよ? きいたげるね」

 ああ、ソフィアのは、帰りの野営でエルネアの話を聞いた時の事か。んで、ティフォは夜切の世界で、今夜は彼女と特訓の日だ。
 あれ? 二人の言い方、やばくね?

「『』『』……。ふあぁッ! アルさん、やっぱりもう既にお二人を! この肉欲ドクロッ! エロ級冒険者ッ! あはははは!」
「ちょ! 違う! 違うから!」
「あぁ……肉欲がぁ、エロ級への昇格がぁ……」
「リックはもう寝てろ! 本当に違うんだ!」

 慌てて訂正しようとするが、二人の言った事はある意味正しく、それに皆んなに説明するにはまたも特殊な状況だ……。余計に言い訳っぽくなりそうで困る。

「はぁ、いいなぁ。私も彼氏欲しい。あはははは!」
「わたくしもです……憧れますわね。……チラ」
「まあ、俺もそろそろ身を固めねぇと、孤独死しちまいそうだしなぁ」
「拙者も」
「だぁから、オメェは誰なんだよ⁉︎」

 そのまま話は結婚観だの、浮いた話だのと、遅くまで呑みは続いた。最後のは本当に誰だったんだろう……。

 何はともあれ、俺は春の旅立ちに向けて、準備を整える日々を送る事になった

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