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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第二章 バグナスの冒険者

【幕間Ⅲ】 愛刀達の挽歌

「よーし! 今夜はここまでにしよう主様。この後、我は予定がある故」
「ん? そうなのか。まあ、奥義の『水鏡の太刀」もだいぶマスターして来たしな。今日もありがとうな、夜切」

 深々と雪の降る夜、今日も夢の中で夜切に剣の指南を受けていた。今までは感覚を磨く修練が中心だったが、最近は具体的な剣技の教えを受けている。
 今夜は珍しく夜切に予定があるそうで、かなり早めの切り上げだった。バグナスに大雪が降るのも珍しいらしいし、今日はそんな日なのかも知れない。

「ああ、そうじゃ主様」
「ん? なんだ夜切…………ッ⁉︎」

 夜切の世界から戻ろうと、出口に近づいた時、背後から彼女に呼び止められて振り返った。

 ちゅっ

「ん……はぁ……。『ごほーび』を忘れておったぞ主様♪」
「も、もう! お前ら最近なにかと『ごほーび』って……」
「ンフフフ。分かりやすい感謝の表しは、良いものだな主様よ」

 ……こっちの心臓が持たねぇんだよ。耳があっついあっついだぞコレ。

「では、続きはまたの♪」

 にっこにこの夜切に手を振られながら、俺は扉を開けて夢の世界を後にした。

─── って、あれ?

 いつもなら真っ暗になって、自分でも『寝てる』って感覚を感じて意識が飛ぶのに、今日に限って世界は明るいままだった。扉の向こう側を見るのは初めてだ、夜切の世界の外は、くすんだ色の壁紙と板敷の古めいた廊下が続いていた。

「この壁紙、布か? 俺のズダ袋と同じ素材みたいだな。よく見れば床板も、里の俺の部屋に似てる?」

 と、夜切の部屋の隣に、もう一つ扉があって、そこから少し明かりが漏れている事に気がついた。

 ちょっと見てみるか。そんな好奇心でドアノブに手を掛けようとしたら、突然扉が開き、二本の細い手に引きずり込まれた。

「な、何だ何だ⁉︎ おい、はなせ……⁉︎」

 ごちゃごちゃとした部屋の奥へと、二人の小さな女の子が、それぞれ俺の手を掴んで走っていく。そのまま奥に置いてあった、白と黒に半分ずつ色分けされたソファへと、放り込まれた。

「一体お前らは……」
「たはーっ♪ やったね明鴉あけがらす! だんなの連れ込みにせいこーしたよ!」
「はっはーっ♪ そうね宵鴉よいがらす! これでだんなは、うちらのモノ!」

 宵鴉と呼ばれた方は、黒髪に黒い瞳、何処かタッセルの砂漠の民に似た、黒い衣装に身を包んでいるが、所々シースルーで露出度が低いようで高い。明鴉と呼ばれた方は、白髪にグレーの瞳、同じデザインの純白の衣装に身を包んでいた。
 褐色で艶のいい肌をした、背は低いが大人っぽさも感じる不思議な二人だった。

「明鴉に宵鴉って……お前ら、俺のか⁉︎」
「「そだよー!」」

 明鴉と宵鴉、この二振りのククリ刀は、ガセ爺が俺にくれた、やっぱり呪われた武器だ。出どころは知らないが、ふたりの格好を見るだに、暑い砂漠地帯の生まれだったりするのだろうか?
 ちなみにこいつらを握った者は、超絶な剣技を舞うように扱えるようになるが、死ぬまで人を切り刻む衝動に苛まれちゃうってぇ悪辣な呪いがかかっているそうな。

「だんなが、夜切ばっかり相手にしてるから、拉致したろーって♪」
「そうそう♪ うちらこの旅で活躍したの、子グモ散らしたくらいだしねー!」

 なんだか発想がティフォっぽいな、この子らは。しかもえらく元気いっぱいだ。正直、疲れてる時には辛い……。

「ねぇねぇだんなー。うちらとのデートはいつ?」
「ねぇねぇだんなー。うちらも名前欲しいなぁーっ♪」

 う、夜切との事も、ばっちり把握されてるらしい。何だ、武器同士で付き合いでもあんのか?

「何でお前らがそれ知ってるんだよ。夜切から聞いたのか?」
「んーん。こっちこっち!」
「ここ見てーっ! だんなー♪」

 二人が部屋の隅に行って、手招きしている。そこは壁紙が破れ、壁の隙間が露出していて、向こうから光が漏れていた。

「なんだこの穴は? …………ッ⁉︎」

 壁の向こう側から、左右不揃いな赤黒いボタンの目が、こちらを見つめていた。

「ひいっ! オニイチャ人形ッ⁉︎」
「んーどれどれー? あ、視点が近いね!」
「引きで見よーっ! 引きで見よーっ♪」

 恐る恐る覗くと、オニイチャ人形はティフォの背中に負んぶ紐で縛り付けられ、こっちに顔が向いている。どうやらティフォは誰かと話しているようだ。

「あ……全部見えるようになった。何これ、何で隙間にズーム機能付いてんの? って、あれはソフィとティフォと夜切? 三人で何を……てか、これ覗きじゃねーかッ!」
「んー? 前にだんなが夜切の家斬った時、ズバンッてあいたー!」
「そうそう、ここにあった人形が真っ二つー♪」

 あー、最初に夜切に会った時、その気は無くとも部屋を斬って、彼女を解放したけど。あの時、この部屋まで少し斬れてたのか。

「そ、それは悪かった。ごめんな」
「「いいよー! 全然きにしないー♪」」
「あ、でもには謝った方がいいかもー!」

 そう宵鴉が目の前に出して来た人形は、髪が抜け落ち、陶器の顔面がバックリ割れ、衣服の乱れた人形だった。中からザラーと詰め物が溢れ出ている。その物言わぬ、恨めしげな目とばっちり合ってしまった。

「すすす、すみませんでしたーっ! あ、やめろ、あんまり近づけると、本当に呪いの人形になるかも知れん!」
「ぱくぱく……(名前つけろー!)」
「ぱくぱく……(デートしろー!」

 二人は無理矢理、腹話術をやってるが、破片だの詰め物だのがボロッボロ落ちていた。

「僅かな命を削らせてまで、腹話術するんじゃない。もうその子は寝かせてあげるんだ……。
いや、しかし三人は何をしてるんだ」

 つい気になって、再度隙間から様子を見てみると、会話まで響いて来た。

 ※ 

「……と言うわけで、私たちの『アルくんの寵愛ちょうあいを受けよう会』も今回で三回目なわけですが。ティフォちゃん、何か議題はありますか?」
「んー、貴重な資源『ごほーび』について、だな」
「貴重な? ティフォ殿、それは貴重なの間違えでは? 言葉はあれじゃが、減るもんでもなし……」

 ティフォは肩をすくめて、ヤレヤレする。

「分かってないぞ、これだから、小娘は。いーか、夜切。むだにれんぱつすれば、へるんだ。が! ─── びっしぃ!」

 最後の『びっしぃ!』は口で言ってたが、そんな勢いで夜切を指差すと、夜切はヘナヘナと膝をついた。よく見ると、ソフィアも口に手を当てて、愕然とした表情でティフォを見つめている。

「な、なんたる不覚……。そこら辺がになっておれば、すてっぷあっぷも安泰じゃと思っておったが……。悪手じゃったとは、無念じゃあ!」
「……が失われたら……私は、アルくんに飽きられて、絞り取られて、売られてしまうのでしょうかッ⁉︎」

 ぼごーん!

たえなやッ! 小娘ども!」
「「ひいぃっ!」」

 ティフォがテーブルを殴り飛ばした。丁度こっちの覗き穴……いや、壁の隙間の隣にぶち当たり、粉々にばらけた。
 拳を振り抜いた拍子に、背中におぶったオニイチャ人形の視線が、またこっちに向いてしまった。悲鳴を本当に上げたかったのは俺の方だ。

「そ、そんなに怒らんでも……よいでh」
「ノリだッ!」
「ああ、ノリでしたか傍迷惑はためいわくな」

 ちょっとソフィアは冷静になったようだ。

「そ、それより! 『ごほーび』問題の事じゃ! で、では封印するしかないのか⁉︎」
「あっ! それですそれ! 私、結構おねだりしちゃいましたよ⁉︎ あわわわわ売られてあわわわ!」

 ああ、我を取り戻し掛けたソフィアまでもが……。夜切とソフィアは、見てるこっちがむず痒くなる程、ウロウロ落ち着きがなくなった。

 ずこーん!

「しぇからしかッ! 小娘ども!」
「「ひいぃっ!」」

 ティフォが、座っていた椅子にチョップを振り下ろして、爆散させた。その勢いで、おんぶしていたオニイチャ人形が吹っ飛び、部屋の隙間から頭が突き出して来た。

「ひいっ!」

 あれだよね、人間、動体視力で捉えていても、あんまり怖い時はスローモーションなのに身動き取れないんだよね。思いっきり目が合ったまま、高速で向かってくるのは流石に声が出た。

「あんばい、だ。すべては、虚と実、そのあんばいだ。すこしこらえて、ときにオニイチャをあせらせる。さすれば、『ごほーび』は、本当のいみで、お互いに『ごほーび』となる!」

 ……ぱち……ぱちぱちパチパチパチ!

「素晴らしい! 素晴らしいですティフォちゃん! 余りに深い言葉に、私、目からうどん粉が……」「うろこな?」
「我も年甲斐もなく、慌てふためいていたようじゃ……。このような小さき少女に、先を照らされるとは……」
「ちいさい、いうな! おまえより、としうえ、だ!」
「ははは、そのナリで何をふざけた事を、我はこう見えて二千六百年は生きておるぞ? ハハン」

 夜切ってそんなに古い刀だったのか。そう言えば、古代の戦闘技術とか精神修養の知識凄いもんな。ん? それを造った胡蝶と友達だったって事は、ガセ爺っていくつなんだ? 前に『四千年から数えとらん! わはははっ‼︎』て言ってたけど、あれガセじゃなかったんか⁉︎

「ふん、にせんろっぴゃくか。毛は生えたのか小娘。あたしは、あらうんど、さんじゅうろくまん・・・・・・・・・、だッ!」

 ごーん

 夜切からショックのオノマトペが聞こえた。

「さ、さんじゅう……ろく……まん! お、お見それいたしました。ティフォ様! ……で、ではソフィア殿は? ソフィア殿はおいくつか⁉︎」
「え? ああ、私は化身として生まれ落ちたのは最近ですね」
「ふふふ、そうか……。しかし、ソフィア殿も神であれば、天界での年齢も……そちらは?」

 ソフィアは何かを指折り数え、しばらく考え込むと、手をポンと打った。

「この星が生まれる少し前ですから、四十九億年くらいですかね! あ、誕生日は分からないんで、お祝いとか、いいですからね⁉︎」

 ぎゃびーん

「えぇ……何かもう実感が……。むしろ誕生日を覚えてる方が凄い話しでは? はぁ、我が一番歳下だったとは」

 四十九億……俺にそれを受け止める甲斐性はあるんだろうか……?

「だんなーっ! どうしたー?」
「だんなの髪、まっしろー!」
「あ、ああ。ちょっと驚いてな……。そう言えばお前ら二人はいくつなんだ?」

 やはり二人も指折り数えたり『なんたら文明が』とか『ほにゃららの乱が』とか、しばらく考え込んでいる。

「あ、分かったーっ!」
「「五千三百三十〜六十さい!」」
「そ、その三十年の開きは? それだけの長い年数でもこだわる意味があるのか」
「生まれた直後に、文明が滅びたよーっ!」
「鍛治の親方死んだり、ほんとの完成に三十年くらい、かかったー!」
「……お前らも色々あったんだな」

 二人の頭を撫でると、くすぐったそうに目を閉じて、されるがままにしている。なんかもう、数千年の話じゃ驚かなくなってんのな、俺。

「しかし、お前達はそんなに無邪気なのに、どうしてまた呪いを……魔剣になったんだ?」
「んー? すっごい量の血を吸ったー!」
「私たちを巡って、せんそー起きたー!」

 ああ、だから俺の魔力に耐えられる、極悪な妖刀なのか

 あー……聞いたらあかんヤツだったか。そう言えば、俺のズダ袋にはガセ爺から貰った呪いシリーズが一通り入ってるけど。みんなそんな感じなのかな?
 『不良在庫』とか言ってたけど、売る気あったのかすら疑問なレベルになって来たが。

「お前達は、他の武器と話した事はあるのか?」
「「あるよー!」」
「へえ、どんな奴らだった?」
「自分の目で見るといーよー!」
「そうそう、こっちこっちー!」

 そう言って、二人は俺の腕を掴んで、廊下へと走り出す。

「こっちって、他の部屋もあるのか……」
「うん、多分今、みんなも会議中ー!」
「奥に会議室あるよー♪」

─── 【第六十二回 主人様 会議中】

 黒い大扉にそんな表札が掛かっていた。

「ご、ごめん、俺、やっぱ帰るわ。また今度な!」
「えー! 何でー!」
「ぜーったい、みんな喜ぶよー!」
「ば、馬鹿! 大きい声を出すな…………ッ⁉︎」

─── ガチャッ!

─── わ、なんだ君達は! は、離せ!

─── うわああぁぁ…………ッ

 ※ 

 扉が固く閉じられると、もうアルフォンスの声は外に聞こえて来なかった。

 翌日、ソフィアは、中々朝練から帰ってこない彼を探しに海岸へ探しに行くと、彼はそこで大量の武器を並べて、延々と素振りをしていたと言う。

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