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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第二章 バグナスの冒険者

第十話 はじめてのデート

─── 【風牙陣エアソード・ウォール】!

 雪の塊が所々にこびりついた森の中、湿った落ち葉を舞い上げて、リックの魔術がウッドウルフの群れに風の刃となって襲いかかる。おおよそ魔獣に当たったとは思えない、なたで木板を叩くような音を立て、大半のウッドウルフが鮮血と共に宙を舞った。

「アル君! そっちに流れるよ! 目閉じて!」

─── 【閃光弾フラッシュ

 群れの残りが斜面を駆け、こちらに向かおうとする目前に、リックは白銀の杖を構えて光の球を撃ち込んだ。

 ギャワン!

 群れの先頭に激しい閃光がほとばしり、暗い森に目の慣れた狼達が、飛び上がってもんどりを打つ。閃光で行動不能に陥ったものは7〜8程、後続の12〜3頭は、先頭の塊を飛び越えてこちらに迫る。

「さぁ夜切よきり。……掃除をしよう」

 そう呟くと、俺の愛刀は、確かに返事を返す。感覚が研ぎ澄まされ、切っ先までが俺の肉体へと成りかわり、視覚情報の精度が別次元の世界となった。

─── 【斬る】

 複数の手応えが重なって伝わって来た後、刀身にまとっていた青白いオーラが、俺の周りに輪を作り、消えてゆく。刃に伸びついた血を払い、鞘に納めた。

 ウッドウルフ達は体を斜めに傾けて、俺を避けるように過ぎ去る。そして数瞬の後に、ことごとくが体を半分にして、斜面を滑り落ちた。向こうでは、リックの閃光にのたうち回っていた全ての狼が、水平に四つに裂けて崩れ落ちる。

「しまった。張り切り過ぎだ! あれじゃ素材が……」
「ははは! いいじゃない、今回の目的は魔獣じゃないんだし、これでお目当ての実も採りに近づけるよ!」

 今、俺はリックと二人、得物のテストを兼ねて、バグナスから少し離れた、森の中に採取依頼を遂行していた。

 『石像の迷宮』で手に入れた白銀の杖は、あれから直ぐにリックに渡せた。本人は持った瞬間に、驚きに満ちた表情を見せ、『あーでもない、こーでもない』と性能を使いこなそうと夢中になっていたのは見ている方が嬉しいくらいだったよ。
 俺の方も、夜切の言霊を実戦で試したかったし、依頼の同行を約束していた。

 バグナスに今年初めての雪が降ったり、お互い別の依頼で動いていたりと忙しく、今日ようやくこうして合流できた。リックと冒険出来てるのは、ソフィアが忙しくしてるお陰もある。ソフィアは今、ギルドからの依頼を渋々といった感じで受けて、世界を行ったり来たりしている。S級冒険者の義務なんだそうだ。
 最初は俺と離れたくないからと、全部断ろうとしていたが、それだと非常に立場が危ういとガストンが俺に泣きついて来た。

 移動が一瞬で済むからと、転位魔術を教えたら、ソフィアは何とか受けてくれた。神は天界では何でも出来るし、神からすれば人の使う魔術はお遊びみたいなものらしいのに、意外にも地上では知らない魔術が多いと言う。当たり前にやっていた事を、地上の術式でどうにかするのは、非常に面倒くさいんだとか。
 転位魔術はその中でも、術式がかなり緻密で高度な魔術で、一般には知られていない。教えたら一発で憶えられたのは、かなりショックだったけど、本人は楽しそうだ。ん~、そしてティフォは毎日フラフラと遊んで暮らしている。

「やっぱり凄いよ、この杖! 魔力の制御補助が性能高すぎて、魔力がほとんど要らなくなったよ! 本当にこんなのもらっちゃっていいの?」
「いいって! 役に立ちそうなら良かった。俺からの昇級祝いだと思ってくれよ。使ってくれるなら嬉しいしさ。しかし、リックも狼恐怖症、大分克服したよなぁ!」
「まあね、迷宮のトラウマがやっぱりまだあるけど、この辺は狼系の魔獣が多いからさ。いつまでも怖がってらんないよ」

 確かにこの辺りは狼の仲間が多いから、心配ではあったけど、余計だったようだ。何度か同行を重ねて、リックの余所余所しさは、大分抜けて来た。やっぱり一緒に何か仕事をするのは、一番打ち解けるのが早い。今はただの同じ年の友達として、普通に付き合ってくれている。それが俺は心底、嬉しかった。

 ※ ※ ※

 今日受けた依頼は、この近辺の森で取れる『ナパの実』の採取だ。ナパの実は、普段は洗濯洗剤なんかの材料に使われる実で、栽培もされている。この街では、その栽培した大ぶりな実を、加工した状態で売られている。余り果実のままで見る事はない。
 ゆっくり育ったナパの実は、洗剤としては使える部分が少ないが、その皮が着色料としての用途がある。特にこの季節の、この地域の山で取れる実は、寒さと乾燥のお陰で、より皮の色素が鮮やかになると言う。年末には何処の家庭でも、このナパの着色料を使って煮た、豆の煮物が並ぶらしい。それには、今の時期まで落ちる事なく、雪に耐え熟成した果実が極上とされる。

 ただ、この実がなる樹は、山の急斜面に多く、何かと魔獣に出くわしやすい環境に生えるものが多い。それを討伐しながら、お小遣い稼ぎにもなり、腕慣らしにもなると言う、今の俺達にもってこいの依頼だ。
 リックは結婚資金と生活費、俺は春からの旅の再開に向けての資金調達を兼ねている。

「じゃあ集めよっか。僕、木に登るから、アル君受け取る役、お願いね!」

 そう言ってするすると木に登るリックは、彼の生まれ育った地方でも、この文化があったらしく、手慣れた様子で見つけては木に登っていた。
 それからも途中途中、何度か魔獣の群は現れたが、彼と二人、得物の手応えを噛み締めるくらいには、問題なくさばいていた。

 ※ 

「それにしても、アル君の剣凄いよね! また一段と遠くまで、同時斬り出来るようになったじゃない! あ、また仲良くなったの?」
「ははは。うん、毎晩寝かしてくれないからなぁ」

 ぱっと聞くと、『また仲良くなった』とか『毎晩寝かしてくれない』とか、彼女とホニャララしてるみたいな話だが待ってくれ、剣の話だ。

 流石は妖刀だ、毎晩夢に現れては、俺になんやかんや持ちかけてくる。体の疲れとか、睡眠不足にはなっていないが、寝た気がしないと言えばそんな感じだ。耐久力の弱い人だったら、段々と弱っていって、取り殺されるコースかも知れない。不完全な契約が生んだ、俺の禍々しい性質が、好転してるんだろう。彼女いるいないの話と比べれば、何とキナ臭い話なんだろうかとも思う。

「彼女かぁ」
「うん? アル君、何か言った?」
「い、いや! 何も……」

 何を隠そう、俺は童貞だ。いや、隠すまでもない。高齢女子ふたりと高齢男達、俺を抜いて最年少でも百歳超えの、『平均年齢が神話』みたいな里に暮らしてて、どうしろと言うのか。ソフィアとティフォと言う、卑怯なくらい可愛い子ふたりに挟まれて、純潔を守っている事を褒めて欲しいくらいだ。

 ……手を出さない理由は無い。無いけど、流れってあるじゃない? そこに至るまでが大事っていうかさ。って言うか、拒まれたら今後がアレだし、どうなって行きたいかも、決め切れてない。やっぱり、恋人として段階を踏んで、じゃないと不誠実な気がする。よくよく考えてみると、俺はデートらしいデートも、した事がないじゃないか。
 ソフィアとの祭りの夜は、ティフォの捜索からの流れだし、やはり『デートだ』と意識して、誘う所からがデートだと思う。

─── あれ? もしかして俺、遅れてね? 急に不安になって来たぞ⁉︎

「いや、あるな!」
「へ? どうしたの急に」

 ここは、彼女持ちのリックに聞くのが、一番手っ取り早いんじゃないか!

「あ、あのさ、デートって、なにす……いや、どんな所に行ってる? ほ、ほら、俺、この街来たばかりだろ? そう言うのに向いてる場所とか、まだ知らないからさぁ、うん。あははは」
「うーん、デートかぁ。簡単な所だと、港から少し離れた繁華街の、服屋とか雑貨屋がある所を周ったりかなぁ。あとは、たまに来る見世物とか誘うかな。ご飯なんかは、いつもよりお洒落な所がいいけど。うーん、やっぱり港近くよりは、繁華街の方が多いよ」
「うんうん、そうか、うんうん、何より何より」

 流石は彼女持ち、スラッスラ出て来るじゃないの。なるほど、基本的にはお洒落なお店が戦いのフィールドなんだな?

「でも、仲よかったら、港から砂浜とかを、ただ歩くだけでも楽しいよね。賑やかな所とかは、お互いに楽しい面を探すためで、ふたりだけでも楽しくなったら静かな所でゆっくりみたいな」
「そうだよね、そ、そう言うもんだよ。うん」

 ん? つまり、最初は情報戦で、親愛度が深まったら、白兵戦って事か。もしくは、最初は遠距離の飛び道具、慣れて来たらナイフでって、暗殺術の修練方法に近いか。なるほど、要は戦闘訓練と同じ……いや、分からん。自分で何を考え出してるのか、全く分からん!

「あ、そうそう。丘の上の教会があるじゃない? あそこの鐘の前で愛を誓い合うと、一生固く結ばれるってジンクスがあるよ!」
「へえ。そりゃあ是非ともやってみたいな……」
「それって、ソフィア様の事? ティフォちゃんの事?」
「ッ⁉︎ ……ま、まあホラ、色々あるんだよ俺にも」
「やっぱり凄いなぁ、アル君は。男として羨ましいよ!」
「…………………………」

 二人に何の答えも出てないとか言えない。曖昧な笑顔を返し、華麗に場を濁す。そうこうして、目的の果実を大量に確保した俺達は、街へと帰る道すがら、冒険の事、将来の事、色々と話しながら歩いた。

 ※ ※ ※

ぬし様。特訓をしようではないか」
「……はい」

 いや、毎晩やってるが? 何故に改めて言うのか。今夜も黒アゲハが夢に現れ、俺は夜切の世界に連れて来られていた。あれから毎晩、ここで夜切との一体感を高め、技術と心構えを磨くレッスンが開かれている。
 いつもは興奮気味な夜切が、グイグイ進めててくる感じで、前置きもなく始まるのだが……。今日は何故か、夜切は正座をして出迎え、静かにそう言った。

「何事も手心のない実践は、命に関わる危険を招く……分かるであろう、主様」
「まあ、そうだな」
「戦さには如何いかなる所作にも、必然とも言える判断と、先を読めるだけの経験が必要。そうであるな主様よ」
「何から何まで、その通りだ」
「時にその……予行練習と言うものも、練兵には必要。いや、必然で義務だ! ……分かってんだろうな、ええッ? 主様よ」
「そうだけど……。え、俺今、怒られてんの?」
「怒ってなどおらんッ! 言質……いや、なんでもないッ! 予行練習は必要だ、そう主様も言うのだな?」
「………………」

 何だよ、なんか今日は面倒くさい感じだけど、俺、なんかしたっけ?

「返事はッ⁉︎」
「はいはい」
「返事は一回でよろしい! 『予行練習は必要だ』、さん、ハイ!」
「……よこーれんしゅー、は、ひつよー、だ。これでいいか?」

 うんうんとうなずく夜切、切り揃えられた前髪が、その度に踊っている。大声を張り上げていたせいか、顔が上気して、長い髪が細く頰に張り付いていた。こうして見ると、凄く整った美人さんだが、妖刀なんだよな……と思い直す。

「では明日、午後の四時に我らは『さんせっと大通り』の入口、噴水広場で、落ち合うとしよう」
「サンセット……て、あの繁華街のか? え? 街中で訓練するのかよ⁉︎」
「何を言われるのか主様よ。市街戦の想定も、戦さでは外せぬ事。ああ、そうじゃ。格好も想定せんとな。んー『ぎるどの要人警護依頼』辺りか。そうじゃな『貴婦人を接待しながら護衛』。
……このこんせぷとで行こうではないか」
「なんか、えらく具体的な設定だなぁ」

「当たり前じゃ! あ、そうそう。接待じゃから甲冑などといった野暮な装備はなしじゃぞ? 良い店にも入れる、パリッとした服装で来る事、よいな主様」
「ん……まあ、そうか。分かったよ、それで行こう」
「あ、あの鼠色の『こぉと』なんか、ぴったしだと思うぞ? ぜ、是非、着て参られるがよい」
「あん? ああ、あの綺麗目なやつか。了解」
「ふふふふふ……。では明日! 今夜はしっかりと休養を取られよ、主様!」

 そう言って、夜切が手を振った所で、俺の意識は途切れた。

 ※ ※ ※

「おい、何でこんな所にあるんだよ……」

 陽がやや傾いて黄色く染める噴水の縁に、夜切が立て掛けられてあった。朝起きて日課の朝練をしようとしたら、ベッド脇にあるはずの夜切はなく、慌てて探していたんだが……。

「盗られたりしたら、どうすんだ?」

 いや、よく見ると禍々しい気が夜切から立ち込めていて、人の注意を逸らす呪いが掛かっている。これなら誰にも気づかれなかっただろう。 『捨てたはずなのに、いつの間にか近くにあった』的な、ホラーにありがちなパターンはこういう仕組みだったか。

─── いや、そもそも、普通の人が手に取ったら死ぬわ

 溜息をついて、夜切に手を掛けた時、頭上に影がさした。夜切のどこか不安げな声が、上から響く。

「……ま、待った?」
「いや、今来た所だ」

 噴水の縁に立つ茶色のブーツの足が目に入った。黒いタイツにプリーツの細かく入った淡い朱色のスカート。灰色のキルトジャケットに臙脂のマフラー。白いニットの帽子から、暗い青のラインが入った黒髪が、艶やかにジャケットに流れていた。

 ん? 夜切⁉︎ 実体化してるのか⁉︎

 いや、この格好はなんだ? 初めてキモノ以外を見たが。これじゃ普通にキレイなお姉さんじゃないか⁉︎ 思わず見惚れていたら、夜切は肩を震わせてうつむいた。

「……! くふふふ……」

 なんか夜切が膝でぴょんぴょんしながら、口元を押さえている。何なんだ?

「お前、こんな所に勝手に……」
「大成功じ……ゲフンッ! いや、何でもない。さあ、行くぞ主様! 予行練習じゃ!」

 そう言って、俺の手を取って、夜切は早足で歩き始めた。ほんと、何なんだ……?

 ※ 

〜噴水広場 目撃者の話〜
 ええ、何か急に男の人が、噴水の所で剣みたいなの持って、独り言を……。『やれやれ』みたいな雰囲気で、大通りに歩いて行きました。ちょっと、目がおかしかったかなぁ……。

〜大通り食器店『銀の匙』店員の話〜
 時折、風変わりな剣を手に、食器と見比べながら『これは割れやすそうだ』とか、『すごく綺麗だな、長くいけそう』とか言ってましたね。食器は繊細なので、剣で何かするのは、おすすめ出来ません……。目が虚で少し怖かったです。

〜大通り服屋『ビーチローズ』店員の話〜
 かなり長く、店内をお歩きに。時折、曲刀ですかね、剣を掲げては何かを呟かれてました。良くないと思いながらも、聴こえてしまいましたが『お前が世に存在してたら、似合ってたかもな……』と、苦しそうに仰っていました。察するに……亡くした恋人にでも、語りかけていたんでしょうかね? とても遠い目をされてました。

〜大通り喫茶店『マリンビュー』給仕の話〜
 そちらのテラスにお座りになりました。お向かいの椅子に剣を立て掛けられてて、お水をお持ちしたら、何故かもう一杯をお求めになって、そのお向かいの席に。クリームを乗せたコーヒーを、あ、うちのおすすめなんですけど、二杯頼まれました。瞳孔が開いてるというか、目が特徴的でしたねぇ。ほら、人間族で紅い瞳も珍しいですから。

〜大通りレストラン『海猫亭』店主の話〜
 いやあ、よく食う兄ちゃんだったよぉ! 全部二皿ずつ頼んでさ、綺麗に平らげていくんだから! どちらかってーと、女の子に人気なディナーコースだったけどな? よく食う割に、なんかこだわりあるね、あれは。相当ハラ減ってたんだろ、目がとろーんってしてたなぁ。大丈夫かね、あの兄ちゃんは。

 ※ 

 陽がすっかり落ち掛けた丘の上で、夜切の指示の下、教会の開放されているテラスへと登った。

 訓練とか言っていたが、特に戦闘行為はなかった。俺はその間、接待の想定通り、夜切と会話を弾ませながらも警戒と想定を怠らなかった。なるほど、普通に会話を意識しながら、周囲に気を巡らせるのに、よい訓練だったと思う。
 夜切はテラスの手摺に寄りかかり、沈みかけた夕陽を背負って、こちらを向いた。

「うん! 中々のものであったな、主様よ。最後の仕上げに、我の名の由来を話そう」
「名の由来? ああ相棒を深く理解するのも、武器の扱いには大事だもんな」

 そう言うと、夜切はくすぐったそうに微笑んで、『相棒か』と囁いてから、静かに語り出した。

「宵闇露切如音無ノ太刀 胡蝶─── 。『宵闇露切如音無ノ太刀』とは、真夜中の空を舞う、夜露になる前の漂う水の粒を斬るように、音もなく全てを斬る刃。そう言った我の斬れ味をさしておる」
「なるほど、元々からよく斬れる刀だったんだな」
「『胡蝶』とは我を生み出した、刀匠の名。女人禁制の鍛冶場に憧れ、類稀な才能を持ちながら、誰にも認められず忌み嫌われた……。憐れな女じゃった」

 夜切はうつむき、寂しそうに呟く。

「『胡蝶』は他の刀匠連中や、豪族につけられたアダ名。故事によるものだ。とある花園の花に憧れた蝶が、自らも花になったが、一人、色の違う花となってしまった。そこにある事を良しとされず、己も苦しみ続けた蝶の化身。それが胡蝶の由来」
「…………」
「胡蝶の打つ刃物は、宮廷を唸らせる程、美しく優れていたが、ことごとく妖刀でな。やがて胡蝶自身も救われぬ身を嘆き、狭く暗い世界にこもり、孤独に死んだ」

 初めて夜切と出逢ったあの部屋は、もしかしたら胡蝶のいた場所の、再現だったのだろうか。夜切が座っていた、暗い夜の部屋が頭に浮かんだ。

「『宵闇露切如音無ノ太刀 胡蝶』それが我の名の由来。世に在る事を望まれず、我が身を闇に潜め続けて来た……。主よ、そんな我を解放してくれた事、心の底から感謝しているのだ。このような不吉な所縁ゆかりを持つ刃だが、どうか我を側に置いていて欲しい……」

 夜切は初めて逢った時のように、静かにまぶたを閉じた。頰には一筋の涙が、わずかな夕陽をもらい、輝いている。俺はそんな夜切のはかなさに、思わず手を差し出していた。

「宵闇露切如音無ノ太刀 胡蝶。お前はもう、俺の刀だ。過去も、その由来も、主人である俺のもの。ひとりで悲しむことは許さん」

 当たり前だ、大事な相棒が嘆いてたなんて、悲しいだろ。

「哀しい出来事はあったかも知れないが、それはお前が望まれたからこそつけられた、親からの名だ。だが、これからは俺の元『夜切』として、夜を切り、いくつもの朝を迎えて欲しい。よろしく頼むよ、夜切」

 夜切が驚いたように顔を上げて、恐る恐る俺の手を取った。顔を傾けて微笑むと、逆光だった夕陽が、反射を受けてはっきりと照らされた。

─── リーンゴーン、リーンゴーン……

 協会の最後の鐘が鳴る中、夜切は俺の胸に飛び込んだ。

「嬉しい…………。はぁ……これで予行練習も終わりじゃな。いや、もうこれは立派な本番の『でぇと』と言っても良いものであった。ふふふ、これであの小娘共に、差をつけたぞ……」
「………………は?」

 夜切の肩を抱いていた腕を、思わず離した。

「何を頓狂とんきょうな声を上げておるのか主よ。今日一日は立派な『でぇと』じゃったろ?」
「はぁっ⁉︎ 『接待しながら護衛』の予行練習じゃなかったのか⁉︎」
「それはそういう真摯な気概で臨めと。そう言う事じゃ。はぁ、教会の鐘の前で愛を誓い合う。これで我らの仲も一生、安泰じゃ♡」

 イッツ、謀られた!

 今日一日の出来事が、走馬灯のように巡り出して、呆然としていた。走馬灯、素敵だけど速いよね。

 ちゅっ

「では主様、これにて我は帰るぞ? また夜にな……ふふふふふふ」

 夜切の唇が触れた頰に手を添え、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。我に返った時には、俺一人、愛刀を握っているだけだった。

 二柱の女神に揺れる中、初デートは妖刀と。挙句、知らぬ間に愛を誓い合っていたとは……。

─── 俺、ダメ男だぁ……。

〜〜〜〜アルフォンスのズダ袋の中〜〜〜〜

☆白と黒のククリ刀の会話
宵「ねえねえ、明鴉あけがらす!」
明「ねぇねぇ、宵鴉よいがらす!」
二人「「これ、わたしたちも、攻めちゃってイイ系じゃない♪」」
二人「「ありよね、ありよね♪」」

明「わたしたちで!」
宵「だんなを!」

「「かどわかそー☆」」

─── 『愛刀達の挽歌』続……かない


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