Episode
禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第一章 辺境
第一章|第一話 旅立ち
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加護を受けてから起きたアルフォンスの異変。
それは魔術だけではなく、
通常の武器が持てないと言う致命的な問題だった。
魔力の爆発的な向上で、
武器の性能を高めるはずの闘気が強すぎて、
耐え切れずに弾け飛ぶ。
ガセ爺の見立てにより、
その欠点を補うには、
通常の武器ではなく、
呪われた武器が最適だと判明した。
山雲雀の澄み切った鳴き声が、ラプセルの里の山々に響く。
春が過ぎ、初夏には少し早いこの時期、いつもならベリー類を含めた山菜摘みや、繁殖を終えた動物なんかを狩るのにいそしんでいただろう。里のためにいつもより早く、多めに収穫を終えてあるし、もう準備は万端。
まあ、里のみんなのことだから、俺がいなくても何の苦もなく生活するだろう。必ず帰ってくるつもりだけど、今までのお礼代わりに、少しでも何かしたかった。
─── 成人の儀から一年
十七歳になった俺は、あの時の決意のままに、今日旅立つ。
「オニイチャ、さびしい?」
家から出てすぐ、俺の隣を歩く赤髪の美少女が、心配そうに俺を見上げている。
「まあ、な。でもティフォがいるから大丈夫だ」
そういって頭をなでると、くすぐったそうに目を細めて、抱きついてきた。
「あたしも、オニイチャがいるから、だいじょぶ。旅から帰ってきたら、セラ婆のりゅーまちのために、また赤い飛びトカゲいっぱい獲ってあげよ?」
「ははは、薬の材料はたんまり集めて置いたから、しばらく大丈夫だろ。優しいなティフォは」
俺の妹のティフォ。どこかの世界の神だったという少女で、ひょんなことから俺のペットになり、うやむやな感じで妹になった。今は俺の魔力を喰らって生きている。
あれ以来、性獣化はしていないので、ギリギリなんとか平和に暮らしてきた。進展? かわいい妹に手を出す兄など、この世に存在せんだろ……せんよな?
「かー、ほんとに仲がいいのう! くっついてしまえばええもんを! わははは‼︎」
「ガセ爺……ほんとにいつも通りだよなぁ」
「なんじゃ? 泣いて止めて欲しいんか、アルフォンス! わははは‼︎」
「およしなさいなガイセリック。旅立ちのはなむけくらい、静かに温かく送り出しておやりなさいな」
茶化しておどけているのは、鍛治と武器、経済の師匠ガセ爺。
それをお淑淑やかに諌めながらも楽しそうに笑う、精霊術と薬学、そして学問の師匠セラ婆。
「それにしてもアル、この一年でまた背が伸びたでしょう? 少し前までシモンより小さかったのに……本当、男の子の成長とは目を見張るものがありますね。今、何cntくらいあるのでしょうか?」
(1cnt=1cm、シント:アルザス領の流通貨幣、旧アルザス小銅貨の直径に由来)
「この間測った時は195cntだったよねアルは。僕は178cntだから、横に並ぶと大きいなぁって思うよ。ダグ爺は280cntだったっけ? みんな大きいよね〜。これでも僕、街では大きい方だったんだけどなぁ……」
「おお? なんじゃ、儂の省エネボディを馬鹿にしとるんかシモン! 辛辣じゃのう! わははは‼︎」「ふふふ……おやめなさいなガイセリックったら。そう、アルはそんなに大きくなったのですね。今度帰ってきたら儀礼服でも仕立ててみることにしましょうか?」
「セラ婆。俺多分、儀礼服着ることないよ。悪いってば。セラ婆が元気でいてくれたら、俺には何よりなんだからさ」
セラ婆は少し目に涙を浮かべて、それでもいつも通り優しく微笑んでくれている。
「アル。これを渡しておくよ」
「短剣……いや、宝剣?」
「うーん、もしメルキア公国に寄る事があれば、きっと役に立つから。後、これ……」
そう言って超絶イケメンのヴァンパイアにして友人、歴史と社会風俗の師匠でもあるシモンが、美しい宝剣と小さな書簡を渡してきた。
「もし、僕の妹に会うことがあったら、これを渡してやってくれないか? まだ、生きているかは分からないし、出来たらでいいんだけど……。邪魔になるようなら、捨ててもかまわない」
「おう! 任しとけって、水臭いなぁイケメンのくせに」
「ま、またそういうことを……もう! こ、こぉいつぅ☆」
いや、照れる表情も捨てがたいが、笑うとマジでカッコいいわ。俺、生きてていいのかな? 世界のイケメン人口比率下げたりして、彼に迷惑かけてないかな?
「おう、アルフォンス。そんな浮かれておると『幼女の騎士』は務まらんぞ」
「……くっ! やっぱりキツイなその加護は。おう、アーシェ婆、その『幼女』とやらを取っ捕まえて『淑女』に出世させるくらいには、頑張ってくるさ!」
「はっ! 言うようになったではないか。
……まあ、お前のことだ、心配はしておらん。精々、健やかにな」
この里ラプセルの番長で司祭、俺の魔術の師匠アーシェ婆は、悪態をつきながらも目元が少し泣き出しそうに見えた。
「うむ、アルフォンスなら問題なかろう。なんせ儂らの息子じゃて」
「ダグ爺……。うん、俺もみんなのこと、大事な父さんや母さんだと思ってるよ。シモンは自慢の親友だけどな。出来ることやってくるだけだ、頑張るよ」
「ば、バカもん……泣かすでないわ!」
俺の養父イングヴェイの形見の曲刀を握りしめ、ダグ爺は涙を見せないように上を向いた。
「えぇ……。僕もアルくんのパパがいいなぁ。でも、こんな僕を友達だと言ってくれるのは、君くらいだからね。我慢するさ♪」
「シモンみたいなイケメンが親父だったら、俺、絶対生きるのツラくなるから!」
俺に付き添いながら、こうして軽口を叩いたり、からかいあったりして歩いた。 湿っぽい別れは、昨日の内に済ませてある。ここにいるのはみんな、俺の師匠で家族で友人で親だ。俺が帰るのはここしかないと思ってる。
小さな秘境の里だけど、七歳から過ごしたここが俺にとって世界の全てだった。
俺は自分の守護神と会い運命を確定するため、実の両親に会い、イングヴェイの意思を見届けるために旅に出る。
「ここらでいいよ、そろそろ魔物が出る辺りだ」
里の境界から出て大分歩いてるのに、まだ誰も立ち止まろうとしない。心配してくれてるのかな、本当にみんな優しいんだよなぁ。そう思って振り返ると、少し離れたところで、なぜかみんな微笑みながら、ただこちらを見ている。
「……なんだよ、気持ち悪いなぁ」
「オニイチャ、おっきい黒トカゲ、くるよ?」
確かに靴底に重い振動と、迫り来る魔力を感じる。
「おう。わかった」
─── グオオオオォォォォッ‼︎‼
ティフォの指摘からすぐ、森の樹々をなぎ倒しながら、巨大な黒い影が襲いかかる。ひと睨みくれてやると、脚を止めて体を大きく広げ、威嚇の咆哮を上げた。
全身を黒鉄の鱗に包まれた、ドラゴンの中でも最大級の龍王種『黒殻王龍』のかなり若いオスだろう。この里の周りは、この黒トカゲと赤トカゲがよくウロチョロしてる。ここら辺では、中堅よりだいぶ格下って感じだろうか、25metくらいだ。(1met=1m、メット:『エル・ラト教』の祭壇の木製の台座『メット』の規定の高さに由来)
こいつからは、赤身が多くて上質な肉と、色々使えるいい素材が取れる。 二ヶ月に一度くらいしか出くわさないけど、見つけた時は最優先で狩ってた。肉美味しいし。
「オニイチャ、あたし手伝う?」
「んー? ああ、手伝いはいい。……【着葬】」
言霊をつぶやくと、俺の体は青白い光に包まれ、瞬時に全身鎧が装着される。同時に目の前には、鞘に納められた曲刀が浮かんだ。
骨、髑髏、蛇、牙、鱗をモチーフにしたような全身真っ黒の鎧は、どこまでも清々しいほどに禍々しい拵え。兜は髑髏そのものに、荊の冠があしらわれ、目の部分がぼんやり光を灯している。
……ォ ォ ォ ォ ォ ォ……
黒光りする鎧のあちこちから、白い霊気が垂れ下がり、小さな唸り声が騒めいていた。俺の身長でこれを着けると、ゆうに2metは軽く超えてしまう。(※2met=2m)
うん、ガセ爺の悪ふざけの総決算だ。
完成した時に舌出しながら『やり過ぎちゃったかの☆』とか言ってたしな。しかも俺の魔力の影響か、実はまだ性能も禍々しさも絶賛成長中。把握しきれないほどの仕掛けや、強化術が織り込まれていて、身につけた方が動きやすいくらいだ。
武器もいくつか用意してくれたが、今取り出したのは、かつてのガセ爺の友人の作。青白い光を纏い、適度な反りと厚み、波のような刃紋を浮かべた、変わった両手持ちの曲刀だ。
銘はなんかややこしいので、メモってあるけどまだ覚えてはいない。斬れ味は、今までの人生で出会った刃の中では随一で、恐ろしいほど良く手に馴染む。
ズン……ズン……ズン……
鉄靴が歩く度に地面にめり込み、足跡には黒い魔力の光が宿る。近づく度に黒殻王龍は、広げた体を元に戻し、心なしか後退した。旅立ちに気合入り過ぎて、殺気出し過ぎたかもしんない。
曲刀の鞘をつかみ、柄に手をかけたまま、ゆっくりと間合いに入る。
─── キンッ!
斜め上へ逆袈裟に抜刀し、鞘に曲刀を戻す。黒殻王龍は戸惑ったような顔をしたまま、ただ硬直している。
「とっとと行こう、ティフォ……」
俺には今、ようやく分かったよ。里の皆が戻ろうとしなかった理由が。
グジュ……
黒い霧が立ち込め、濡れた音が立った。それと同時に、黒殻王龍の首の中程に、細く赤の線が斜めに走る。やがてその線には、プツプツと赤い玉が数珠のように連なり、まとまって流れ落ちた。
シュバァァァァァ…
赤い線は氾濫し、辺りに鉄錆の臭いのする霧を吹き上げ、黒殻王龍の首は体から泣き別れて倒れた。傷口からはシュウシュウと音を立て、肉体に残った生命エネルギーや魔力が抜け出し、妖刀と鎧を通して、俺の体へと流れ込む。辺りには妖刀の影響か、小さな悪霊達が羽虫のように飛び回っては、嗤笑を響かせていた。
それを見届けて、俺はみんなからそそくさと逃げ出すように、ティフォの手を取って歩き出す。
「おお! やっぱトコトン禍々しいのう! わははは‼︎」
その声を皮切りに、里の住人たちが次々に声を上げた。
「いいのうアルフォンス! 痺れるくらい黒くて邪じゃあ!」
「黒い! もうとにかく黒いよアルくん!」
「こんなに黒くて……情け容赦なく黒くて……立派ですよアルフォンス!」
「ゆけ! 暗黒仮面よ! 世の全てを縊り殺してやるのだ! 世界を漆黒に染め上げて参れ!」
……やいのやいの……やいの……禍々……やいの……
騒ぎたいだけかッ! なんか黒いのが、褒め言葉みたいになってるじゃねーか!
ガセ爺の仕立てた、この悪役然とした装備が完成した時に判明したのは、どうやら彼らはこういう世界観が好きっぽいってことだった。俺より思春期か? それもだいぶこじらせてる感じだろうか?
段々と遠くなる住人たちの声を背に、俺は何度か手を挙げて『行ってくる』のジェスチャーを返す。
「─── 行け! 暗黒の幼女騎士! 運命を塗り潰せ!」
アーシェ婆の、妙にいい声が背後から響いた。
「聖王歴304年翡翠龍の月。聖騎士に憧れた一人の青年は、数多の運命に導かれ旅に出る。しかし、勇者による魔王討伐から三百余年、奇しくもその平穏な日々は、微かな変異と共に世界へと暗雲をもたらそうとしていた。
……それをまだ青年は知らない」
アーシェ婆のそれっぽい語りを最後に、辺りの空気が変わり、俺たちは樹海の中へと足を踏み入れた。勝手な語りを入れないで欲しいし、暗雲とか縁起でもないから、本当にやめて欲しいと思った。
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