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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第一章 辺境

第六話 卵

 はたと目覚めたら、やっぱり私は、檻の中のままでした。

 私はナダリア辺境伯の次女、モニカです。侍女と街に買物に出ていたら、男達に襲われ、拐われてしまいました。もう、ここに何日いるのでしょうか? あれから食事は与えられていますが、この座敷牢からは一歩も出られていません。
 最初はただの犯罪者集団の仕業かと思っていましたが、真犯人を知って、私は絶望してしまいました。

領主、ハンス・アーウィン公爵

 何故か昔から、お父様の邪魔ばかりしてくる男。この男に拐われたとあれば、単に嫌がらせではなく、確実に私たちの家を潰しに出たと言う事でしょう。私はもう、生きて帰れないのかも知れません。今の所、何もされてはいませんが、お父様の身に何かあった場合、私はどうなるのか……。

 あの嫌らしい目をした男、噂では耳を覆いたくなるような、下品な趣味を持った変態野郎です。もし、私がそんな事をされるなら、自害するしかありません。貴族は気高く生きるものですから。

─── カチャン

 ふと、何か入口の方から音がしました。

「だ、誰ッ!?」
「しーっ、お前、モニカな? 今出してやる」

 くりくりの赤毛で赤い瞳の、驚くほど綺麗な少女が、そこにはいました。こ、これは夢でしょうか……?

 ※ ※ ※

 アーウィン公爵の別荘は、ペコの村からほど近い、山の中の湖畔のほとりにあった。外観では二階建ての煉瓦の屋敷だが、その建物に地下室が存在する事を知る者は、持ち主である公爵と……

 そして、今まで何人か連れ込まれ、帰ってこない年端もいかぬ少年少女たちだけだろう。建築に携わった職人達も、どういうわけか、すでに全員が不慮の事故でこの世を去っている。

 今、この建物周辺には人の気配はない。見張りに立つ者もなければ、付近を歩く者もいない。その建物の中を、今、一人の少女が足音を潜め、速足で進んでいた。
 外観から見える建物の大きさとは異なり、地下は長く直線的に続いている。ようやく少女が、通路の一番奥にある、唯一の階段にたどり着いたその時……

「……きゃんッ!」

 少女の三つ編みにされた金髪を、後ろから荒々しく掴む手があった。その力に少女は足を取られ、その場に倒れ込む。

「おやおや、モニカちゃんはお転婆てんばさんですねぇ。そんなに急いだら、汗をかいてしまうじゃあないかぁ……」

 いやらしく舐める唇、舌先が白髪混じりの口髭に触れ、舌によだれで張り付くのが見えた。少女は掴まれた髪を振り解こうとするが、贅肉ぜいにくをたっぷりと蓄えた男の力には勝てず、怯えた顔を背けた。

「ほらほら、無理をするから、こんなに御髪おぐしが抜けちゃったじゃあないかぁ」

 男は少女の顔を無理やりに向け直させると、手指に絡みついた少女の髪の毛を、唇でむしり取るようにして口に含んだ。少女の顔に嫌悪の色がさすも、それ以上に恐怖に塗りつぶされ、奥歯をがちがちと鳴らせている。

 ハンス・アーウィン公爵。

 この辺境をまとめる、最も位の高い男は、政略に長け中央にもツテを持つ、遣り手の男。元は大陸中央部の国で、その手腕を振るっていたが、とある性癖が災いして地方に押し付けられた。下手に地位が高く、権力もあったため切るわけにもいかず、厄介払いというやつだろう。

 公爵は少女の後襟うしろえりを掴むと、今少女が来た通路を引きずりながら戻る。しかし、公爵は少女を閉じ込めていた部屋までは行かず、通路の途中で足を止めると、そこにあった部屋へと引きずり込んだ。

「もう少しだけ、待とうかと思いましたが、ダメですね。こぉんなに元気いっぱいな姿を見たら、やっぱり活きがイイ内にって、ねぇ?」

 何らかの魔道具だろうか、部屋に踏み入れた途端、ぼんやりと灯りが点いた。カビ臭く薄暗い部屋、中央にはベッドがあり、その両脇には白い布を被せられた台がある。
 男は少女の両腕を、ベッドに備え付けられていた、鎖の短い手錠に掛けた。

「……わ、私をどうするつもりですか!」

 男はそれには答えず、ベッドの脇の台から、少し白い布を持ち上げ、その中を見せた。

「─── ヒッ」

 少女の喉が鳴る。
 ベッドの脇の台には、所狭しと道具が並んでいる。ノコギリ、ハリ、刃物、ハサミ、太い針、注射器……。全てがベッド脇に並べられているには、違和感のある道具達であり、それらには使われた形跡もあった。
 ノコギリには赤黒い何かがこびり付いており、ペンチには白く小さな人間の奥歯が、未だに挟まったまま置かれていた。

「……お、おかしな事をすれば、お父様と、隣国の王家が黙っていませんよ!」
「ん〜? それはエリゼお姉様が、アルツ公国の第二王子とご婚約なされたからかなぁ?
う~ん。でも、残念だぁ。エリゼちゃんはね、王子様に隠れて、小汚い街の男と出来ちゃってたアバズレでねぇ。そろそろ心中した死体が見つかるはずなんだよねぇ。ご丁寧に、遺書までちゃあんと持ってねぇ」
「そ、それが貴方の狙いッ⁉︎」
「そんな事になったらさぁ、君のお父上も流石に御沙汰無しってのは……ないだろうねぇ」
「どうしてそんな事を! 父が貴方になにかしたって言うんですか!」

 公爵は腕を組むと、何かを思い出す様に頭を捻った。

「んー、君のお父上には、特になぁーんもないよ? 強いて言えば、君達の母上と君に興味があったんだよぉ♪」
「そ、それだけ? だ、だったら、私を拐うだけで……!」

 公爵は、ドブ臭いため息をついた。

「分かってないねぇ。それを守ろうとする者から取り上げて、壊すのが楽しいんだよぉ。出来れば、守ろうと頑張る者が虫の息で生きてる所に、壊れた姿を見せつけてやるのが一番イイ。ぶふっ、そう言う点では、モニカちゃんのお父上にも、興味があるかなぁ」
「……あ、貴方は……狂ってるッ!」

 公爵の甲高い嗤声わらいごえが、湿った部屋に狂ったように響いた。

「心配ないよぉ、最初は普通に、たっくさん愛してあげるからねぇ。慣れたら少ぉしずつ、刺激を上げて行ってあげようねぇ!」

 少女の脚を掴んで開くと、公爵は少女に覆いかぶさった。体をよじる少女を力づくで押さえて、あごを掴んだ。そうして押さえた顔に、粘ついた舌を出し、舐めようと……

「─── ふう。これが人間のろーらく、べつにどこもかわんない」

 急に少女の声が変わり、思わず公爵が身を起こすと、そこにはモニカの姿はなく、代わりに赤毛の少女がつまらなそうに公爵を見ていた。

「な、なんだ貴様は! どこから……! い、いい、いつから…………⁉︎」

 少女は口からゴポッと宝石を出すと、手錠に掛けられていたはずの手で掴み、魔力を込めた。

─── “ん〜? それはエリゼお姉様が、アルツ公国の第二王子とご婚約なされたからかなぁ?”

 宝石から、公爵自身の声が響くと、先程までの会話が流れ出した。

「な……⁉︎ そ、それをよこせ!」

 ビッシィッ!

「うわッ! な、なな、何だこれは!」

 公爵の両手両足が、無数の触手に絡みつかれ、持ち上げられる。

「ん、今頃、エリゼもモニカも、お家かえってる」
「き、貴様いったいなぜ! 誰に雇われたッ⁉︎」
「ん、第一村人のねがい、かな?」

 公爵は唖然としながらも、頭をフル回転させていた。

「な、なぁ、いくら欲しいんだ? 金ならいくらでも出す、私に雇われないか? 領主お抱えともなれば、色々と……」
「んー、おまえ、口臭い。いらない。オニイチャいれば、なにもいらんわい」
「なッ⁉︎ ぶ、無礼だぞ、貴族に向かって貴様! あ もしワシを裁判にかけても、すぐに出てこられる! 無駄な事なのだよ! その後、あいつら纏めて始末してやるからな!」
「……べつに? 一度はたすけた、つぎは、知らない」

 少女は興味なさそうにしつつ、また宝石を起動させた。

「い、今の会話も残したのか!」

 今の会話まで使われれば、流石に心証も危うい。公爵は流石に青ざめて、冷や汗を流しながら、少女に懇願した。

「な、何が欲しい? な、なんでもやるから!」
「ほんと? なんでも?」
「ああ、約束する、き、君の欲しいものはなんでもあげるからッ!」
「わかった……」

 グイッ!

「うぐっ! な、何を……!?」

 触手が一本、公爵の首に巻きつき、あごを持ち上げる。

「あたしの欲しいもの……お前の壊れるとこ、みてみたい」
「なッ!? ひ、ヒイィッ!」

 触手の一つが、公爵の顔の前でボコボコと、いかがわしい姿へと変形する。

「おかされる側、そのキモチから、ためすか」

 変形した触手の先から、ジャキッと鋭い棘が生えて、回転を始める。

「そうだ、おまえ、魔物でも孕め・・

 ビリィッ!

 公爵の服が飛び散った。そのまま空中で触手に押さえつけられ、四つん這いの姿勢で固定される。公爵の目の前では、次々に痛そうな触手が現れては、彼の恐怖心を煽り続けた。叫び声は、別荘の地下に押し込められ、周辺には人もいない。湖畔は相変わらず静寂に包まれたままだった。

 ※ ※ ※

「えぇ……? 汚ぁい」

 ティフォから報告を受けて、俺は思わず顔を顰めた。

「だいじょぶ、実際に突っ込んだのは、その辺にあったモノ。四つん這いの姿勢だから、ぶたには何が入ってるのか、見えない。あたしは、キレーなまま」
「で~? 公爵は壊れちゃったんですか?」

 ソフィアが村人からもらった、ご馳走の乗った皿に手を伸ばしながら『外は晴れてるの?』ってくらいの軽い調子で尋ねる。

「うん、アレはもう、使い物にならない」

 俺は一口齧ったゆで卵を手に、何となく食欲が失せて、眺めている。ティフォの手腕が発揮され、公爵が壊れるまでに、ほんの数十分だったらしい。こいつ、手慣れ過ぎだ……!

 何はともあれ、辺境伯の娘達は無事に親元へと帰り、公爵の身柄は憲兵に護送されて行った。運ばれる前、公爵を少しだけ見たが……。公爵は口からヨダレを垂らし、時折何かに怯えたように騒いでいたが、しきりに腹に手を当てて、ヘソの辺りを気にしている様子だった。

「で、マジで孕ませた……のか?」

 ちょっとだいぶ引きながら、核心に迫ると、ティフォは肩をすくめて鼻で笑った。

「まさか。孕ませたいのはオニイチャだけ。公爵のちょくちょーマンホールには、たいりょーの粘液と、鳥の卵をねじ込んで、薄い封印をかけた」
「う……っ!(こいつに俺狙われてんだよな?)」
「2〜3日は便秘、その後、トイレで産卵することに、なる」

 俺は齧りかけのゆで卵が、とんでもなくやましい物に見えて、動けなくなった。

「ティフォ……これ、いるか?」
「ん、オニイチャと、かんせつキス……ふふふ」

 そう言いながら、なぜかティフォはソフィアにドヤ顔を向けていた。なんかソフィアの髪が、風もないのになびいているが、何なんだろう。

 コンコン

 ノックに続けて、村長が顔を出す。

「御三方、用意が出来ました、どうぞこちらに!」

 村人達は、あの後にどうしてもお礼がしたいと、俺達に宴の用意をしてくれた。村の広場には、いくつものテーブルが並べられ、数え切れない程のご馳走と、酒の樽が並んでいる。俺達が外に出ると、盛大な拍手が起こり、口々に礼の言葉をかけられた。

 村に犠牲者は出なかった。怪我人も犠牲者も俺が治したのだから。ただ、第一村人のウィリーはじめ、盗賊団団長に幽星体アストラル・ボディを破壊されていた、辺境伯の兵達は助けられなかった事は悔やまれる。

 盗賊団のリーダーの証言から、この村人全員が口封じに殺される筈だった事を受け、村人達は俺達を『命の恩人』だと言った。礼なら、エリゼの護衛だった『第一村人』のウィリーに言うべきだと思うが、それを言ったら何故だか余計に村長になつかれた。恩を売るためにやったわけではないし、さっきのティフォの話で食欲も出ないが、ここまでしてくれたのだから喜んで受けなければ失礼だと思う。

 鎧を着てた時は、みんなに怯えられていたが、今はただの旅服。村人達との距離は、結構縮まったようで安心だ。

 村長の挨拶が終わり、乾杯と共に村は賑わいに包まれていた。たくさんの笑い声、初めて耳にする祭りの音楽、賑わいのある人々の風景を眺めては、外界に来たのだと実感する。俺は村人達に囲まれて、酒をガンガン注がれていたのだが、一つ気になる事があった。

 村人の内、何人かがチラチラとこちらを見ては、小声で何かを話している。やっぱり怖がられているのだろうか? 別に構いはしないが、これ見よがしにされると流石に傷つくもんだ。

「アルくん、どうしたんですか? 何だか苦しそうですけど」

 ソフィアが俺の隣に座って、心配そうにしている。

「いや、さっきからチラチラ見られては、コソコソ話されててな……ちょっと落ち着かない」
「え? ああ、アレですか」

 と、ソフィアも何だか微妙な顔をした。

「うー、すまない。楽しんでる最中に、くだらない事を言ってしまった」
「はぁ〜、気がつかないんですかアルくん。チラチラ見てるのは、みんな女の人だけですよ……」
「ん? つまり? ……ああ、乱暴者な怖い男って怖がられてるのか……ハァ」
「ちょっ、本来だったら、彼女達に塩を贈るような真似はご免ですが、アルくんの自己評価が低過ぎるのもアレなのでいいますね?」

 あん? 塩? 俺の自己評価?

「あれは、アルくんがカッコイイから騒いでるんです! チラチラ見るのは、緊張してジッと見れないだけ、コソコソ話してるのは、抜け駆けが出ないように、話す事でお互いを牽制してるんですよ」
「なぁんでそんな事を、わざわざ見えるようにやるんだよ?」
「そりゃあ、アルくんの事を気にしてますアピールに決まってるじゃないですか! 『貴方さえ良かったら声掛けてね』って言う、自分ではリスクを負わない他力本願スタイルですよ! ……チッ、あのメス猫ども!」
「俺がカッコイイからとか、流石にソフィの勘違いだろ、俺を盗賊団のリーダーって勘違いしたくらいだし。ははは」
「そ、その節は……って、これは勘違いじゃないですよ!」
「ははっ、またまた」
「アルくんはイケメンなんですよ! 自覚ないんですか?」
「は? いや、俺なんかより超カッコイイ奴いるからね?」

 ソフィアはちょっと訝しげに頭を傾けた後、何かを思い出したように尋ねた。

「ん〜? アルくん、それってアルくんの友達の事ですか?」
「そう、シモンって言ってさ、超カッコいいんだよ。ずっとそいつと遊んでたからなぁ。イケメンってのはあのレベルの事を言うんだ」
「もしかして、メルキアの用事って、その彼の事ですかね?」
「え? 何か知ってるの⁉︎」

 そう言えば里の事、ソフィアにはバレちゃっても……いいのか、俺の守護神だし。

「メルキアの至宝『マールダーの宝石』。メルキア公国にいたと言う、その二つ名を謳われた貴族の青年の名が『シモン』でしたね。八十年位前ですけど、メルキア公国は訳あって皆ヴァンパイアになりましたから、年もそのまま。だとすればご本人でしょうね。もうかなり昔に行方不明になったと聞いていますが」
「えっ? シモンって有名なの!? いやいや、まさか偶然だろ。確かにヴァンパイアだったけどさ」
「銀髪にマリンブルーの瞳、薬の知識が豊富」
「うっ⁉︎」
「それと比べていたら、そりゃあ自己評価も下がりますよ。何せ歴史に残る美男子ですから、教科書に載ってるくらいですよ?」
「ソフィ、何でそんなにすぐ分かるんだ? シモンって名前の奴、他にもいるだろ?」
「まずイケメンでシモンと言ったら、すぐに浮かぶ有名人です。さらにメルキアにアルくんが寄りたいって言ってたのが印象に残っていました。あまりあそこに行きたがる人間族はいませんもの」
「はぁ……そうなのか……」
「マールダーいちの美男子と、比べちゃダメですよ、アルくんはイケメンです! それにしても、何かアルくんは、私に隠し事多くないですか?」

 ちょっと驚きすぎて頭が追いついていかない。確かにシモンくんのイケメン度は、人間離れしてはいたけども。

「今夜話すよ全部。部外者には秘密にしてなきゃいけなかったからさ。ソフィは俺の守護神だし、信用出来るから」
「くおお! 『お前だけを信じてる』発言来ましたよコレ!」
「いや、そうは言ってないが」

 ソフィアが呆けている所に、後光のさしてる村人が8人、俺の前に一列になってひざまづいた。

「「「主人様あるじさま……我々に、どうかご命令を!」」」

 【蘇生アネィブ】と【属性反転グルスドラー】で息を吹き返した村人達だ。光属性になっただけでなく、一度はアンデッドとして生み出したせいか、俺に使役される状態になってしまうのが難点だ里でこれを編み出した時も、獣や魔獣が一時離れなくて難儀したもんだ。しかし、それにも対策はある。

「アルフォンス・ゴールマインの名において命ずる、お前達はこの地に生き、幸せに暮らせ! くれぐれも、家族や隣人を大切にな」
「「「ハハァー! 有難き幸せ!」」」

 こうして、今まで通りになるように、命令で自立させてやればいい。他の村人達は呆気に取られていたものの、すぐにいつも通りに戻った彼らに、安心したようだ。むしろ、前までより善い人になってるはずだから、多分大丈夫だろ、多分。
 ちなみにだが、彼らが一度なったグールは、アンデッドの中でも上位種だ。力が強く、俊敏で魔力も高い。 【属性反転グルスドラー】で光属性の人間に戻ってはいても、そのベースとなった能力に変わりはないので強いまま。それが8人もいるんだし、この村は安泰だろう、多分。

 それからも宴は続き、夜が更けるまで賑わいは続いていた。

 ※ ※ ※

─── さて、ソフィアちゃんお待ちかね、アルくんの過去ですよ☆

 しかし、アルくんがどこまでちゃんと話してくれるのか、ソフィはちょっと不安ですね。いえいえ、アルくんの事は大事ですし、話にくい事もあるでしょう。でも、やっぱり全部聞いちゃいたい。

 そんな事って、ありますよね! そんな時はコレッ! 飛龍草の花弁とベラドンナ、アラクネの性腺にその他、色々混ぜた……『おしゃべり散』!

 効能は、自白作用と自白作用、あと自白作用です! 更に副作用……いや、副次的な効能に、惚れ薬と同等の催淫・興奮効果のオマケ付き! 最大級の魔獣、ゴライアスエレファントホエールですら、耳かき一杯でイチコロの凄い効果!

 あのタコ娘は飲み始めると、延々に飲み続けるのは、先程知りました。今も外で一人、樽の前に陣取っています。……つまり、邪魔する者はナシ☆ さあ、お待ちかね『アルくんの全て丸っと私のモノ大作戦』決行です!

 サラサラ〜♪

「アルくん、お待ちしてました。おや、なぜだか丁度ここにカクテルがありますね。夜は長いですから、これでも飲んで、ゆっくりとお聞かせくださいね♡」

 さあ、どんな事が飛び出すのでしょう! 嗚呼、どんな間違えが起こってしまうのでしょうか♪ ソフィアの胸は暴れ太鼓乱れ打ちです!

(注釈:ここからは、序章の一から六話の『アルフォンス・ゴールマインの懺悔』につながります)

 ※中略
 

(注釈:ここからは序章第六話『盛ったよね?』ラストからの続きです)

「……所でさ、このお酒、なんか盛った?」

 それまでニコニコして聞いていたソフィアの目が、バッシャバシャ泳いだ。

「守護神が……そ、そんな事をするわけ……なななないじゃないですか! は、ははぁーん、アルくん、さては酔ってますね?」

 うん。その守護神が時々信用ならねぇんだよ、コレがまた。

「ぼく……いや、俺さ、喋りすぎてない? なんか……口調が思う通りにならないんだよね……。さっきからね、変に体も熱くなってるんだけど……」

 ピクリと背筋を伸ばしたソフィアと目が合うと、下唇をアゴにシワが入るほど噛み締めて、ギギギギ……と首をぎごちなく横にそらした。

「あれ? なにその顔、やっぱなんかしたよね⁉︎」
「スヒ…………スヒョー……」

 吹けない口笛など、吹こうとするもんじゃねぇよ、このタイミングで! 絵に描いたようなすっとぼけじゃねーかッ! ……うわぁ、怖え、俺一体なにを盛られたんだ?

「だいたい君ってヤツはねぇ! ちょっと! こっちみなさいって!」

 ソフィアの頰を両手で挟んで、無理矢理顔を向けさせる。

「…………う……うぅ、セイッ!」

 何か凄い力で押し返された。

「そんな些細な事はいーのです! さっきからお話に出てくる方々のお名前が、いちいち引っ掛かって仕方がありません!」
「ん? そんなに珍しい名前だったか?」
「龍人族のダグ爺、ドワーフ鍛治師のガセ爺、魔術師のアーシェ婆に、医師で薬師のセラ婆。そしてシモンさんですね。シモンさんはいいとして、そのお師匠様たちのお名前はなんでした?」

「ん? ダグ爺はダーグゼイン。ガセ爺はガイセリック。アーシェ婆はアーシェス。セラ婆はセラフィナ。だったよ、みんな苗字は無い」
「やっぱり。で、その方々の指導を受けて来たと」
「それまでは父さんに剣を教わってたよ。んん? やっぱりってなにさ」

 ソフィアは額に手を当てて、溜息をついてから、一気に話し出した。

「いいですか? 軍神ダーグゼイン、炎槌えんついガイセリック、闇神おんしんアーシェス、癒神ゆしんセラフィナ。全員、三百年前の勇者の闘い。聖魔大戦以前まで猛威を振るってた、大御所の守護神達です。大戦後、アルザス帝国が覇権を取り『エル・ラト教』が力を持って以降、教典の方針で信仰が廃れ、引退された古き守護神達なんですよ!」
「ははは、まさかぁ~! 気のいい老人達だぜ? 肉体だったし、守護神って精霊か神族か魔神族だから、霊的存在のはずだろ?」
「その最上位の霊的存在である、私やティフォちゃんはどうなるんですか? ほら、肉体がないって言うんですか?」

 ソフィアが俺の手を掴んで、思いっ切り自分の胸に押し付けた。ヤッバイ、何この柔らかさ! 心臓が破れそう!

「ま、まま、まあ、肉体の事は置いといて。有名な守護神だったら、民衆から慕われて同じ名前をつけられる事だって多いだろ? だからただの人違いだって」
「貴方の養父である、イングヴェイ・ゴールマインの与えられた加護は、二つ名でもある【剣聖】。その守護神は【軍神ダーグゼイン】です。先程の話からすれば、イングヴェイ氏が里に訪れたのは、ダーグゼインの導きだったと。偶然にしては、あまりにも……です」

 何だって? そんなヤバかったんかダグ爺達って。いや、本当かなぁ、うーん。

「その全員から、彼らの得意分野で全て免許皆伝を受けた。あまつさえ模擬戦とは言え、ダーグゼインを全ての武器武術において、一本とったと。そう言う事ですよね? そうなんですよね? あ?」
「はい……まあ、そうです」

 なんかソフィアに怒られてる感じになってんだけど、どうしようこれ。

「はぁ〜、道理で私が勝てないわけですよ! それだけの強力な守護神の数々から、そこらの人が受けられる加護より、遥かに強い恩恵を受けてるようなものです!」
「そこらの人の加護より……強い恩恵?」
「守護神は大抵、マールダー中の多くの人々に対して、一人で大勢に加護を与えていますよね?」

 確かにそうだ、だから人気の守護神があったりもする。

「多くの人々に加護を与えれば、それだけ各々に課せられた運命力は薄まります。求められる運命が弱いと言う事は、加護を与えられた時、背負う義務も弱まります。だから与えられる力も弱くなるんですよ」
「あ、そう言うモンだったの⁉︎」
「逆に加護を一人だけに与えた場合、守護神と人が運命を直接分かつ事になるので、強い運命で引き合うんです。背負う義務も強大になりますが、与えられる力も絶大になります」

 なるほど、例えば火の神に加護を受けたとして、同じ守護神から大勢加護を受けてると、せいぜい下級火属性魔術師スタート。一人の火の神に、一人だけ選ばれていれば、超上級火属性魔術師スタート、そんな感じだろうか。ただ、加護が強くなるほど、待ち受ける運命も重くなると。

「アルくんの叩き込まれた技術や知識は、本来なら、守護神がマンツーマン加護を与えた場合に受けられる、絶大な技能を全てもらった事になるんですよ。契約もしないまま、直接指導ですもん。破格のプライベートレッスンじゃないですか!」
「そうなの……かなぁ。ま、まあ分かったよ、そう言う事にしておこう。やっぱり幼い頃から当たり前の事だったから、説明されても彼らが守護神だったとか、ピンと来ないんだけどね」
「まあ、そうかも知れませんね。結局守護神たちも、霊的存在ってだけで、寿命もあれば、感情もありますし、運命に翻弄される生き物ですから。ただ、肉体を持って存在しているクラスは、とんでもなく上位ですけど」

 守護神って見えないもんだと思ってたし、ダグ爺達が『儂、守護神』とか言ってんの見た事無かったしね。そんな凄い人達だったなんて、思いもしなかったわ。精霊とかで肉体を持って顕現けんげん出来るって事も、それが神に近い力を持つ存在だって事も。その本人達から習ってて気付いてなかったとは。

「……そう言えば、なんで信仰が廃れると引退なんだ?」
「守護神以上の霊的な存在の場合、そこに『在る』って言うのが大事なんです。みんなに望まれて、そこに在る事が当たり前であるほど、彼らには力が湧くんです。本来、神に祈るのは自分の願い事じゃなくて、その神の健在と繁栄を祈るものなんですよ」

 なんか、寂しいな。忘れられた時が、死を迎える時か。

「だから、里のみなさんは、アルくんがいて、慕って貰えて嬉しかったと思いますよ?」
「そうだと嬉しいよ。早く旅を終えて帰ってやらなきゃな」
「今そうして想うだけでも、力になってるはずです。その時は、私も……お願いですから、一緒に連れていってくださいね?」

 少し寂しそうに、ソフィアが微笑んで言った。

「ああ、もちろんだよ。みんなに紹介したいしね」
「ふふふ。約束ですよ?」
「ああ、約束するよソフィ。俺は君をいつか里に連れて行く」

 ふと見つめ合う。少し上気したソフィアの目には、薄っすら涙が浮かんでいるように見えた。

 胸が高鳴る。

 やっぱり凄い美人だなぁ、ソフィアは……。ああ、いかん、おかしな事を口走りそうだ。話を変えよう。

「と、ところで、守護神達は信仰とか存在を信じられる事が力になるって言ったけどさ。ソフィはどうなの? なんかそう言う、君の力になる事ってあるのか?」

 ソフィアがぐっと近づいた。甘い吐息が俺の顔をくすぐる。

「ありますよ? そういうの」

 頰を染めたソフィアが、ジッと潤んだ瞳で俺の目を見つめていた。

「…………そ、それは……な……なに?」

 ソフィアの顔がさらに近づき、目を閉じた。わずかに顎を上げ、唇を微かに震わせる。その唇に俺の唇が、自然と引き寄せられ……

「邪魔するよッ!」

 ティフォが酒樽を抱えて、ドアを蹴り開けた。

「話はきいた、クソ女、おめーは、ほろびる!」
「ほほう。この私の邪魔をするとは、このタコ娘。次の世界へ送ってやりましょうか? 黄泉がいいですか? 冥府? それとも彼岸?」

 懐からするりと杖を取り出し、持ち手に手を掛ける。どうやってしまってたんだよソレ……ん? その時、ソフィアの懐から、ヒラリと何かが落ちた。

─── 『おしゃべり散』効能:自白 副作用:惚れ、催淫、興奮……etc.

「おい、ソフィ……」

 すでに封の切られた薬袋を拾い、ソフィアに突きつける。

「ッ⁉︎ さ、さあ、タコ娘! ここでは村に迷惑が掛かります、向こうで決着をつけて差し上げましょう!」
「おい、ソフィ……」
「貴女が臆しているのなら、私は先に闘いの場へ!」

シュバババッ!

 逃げられたか……。うん、やっはりうちの守護神が、時々信用ならねぇんだよなぁ。

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