Episode
禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第一章 辺境
第一章|第六話 卵
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里を出て最初の村でまさかの『初恋の少女』との再会。
あまりに速いその展開にうろたえるアルフォンス。
しかし、それだけではなく、
ソフィアはアルフォンスの守護神だと判明する。
それも聖魔戦争の英雄、
勇者と同じ『調律の神オルネア』の化身だった。
再会に興奮し過ぎて野獣と化すソフィアを落ち着け、
再度契約更新を行うも、
結果は
─── 守護神【触手と美女】
─── 加護【触手と美女の騎士】
と言う残念な結果だった。
はたと目覚めたら、やっぱり私は、檻の中のままでした。
私はナダリア辺境伯の次女、モニカです。侍女と街に買物に出ていたら、男たちに襲われ、拐われてしまいました。もう、ここに何日いるのでしょうか? あれから食事は与えられていますが、この座敷牢からは一歩も出られていません。
最初はただの犯罪者集団の仕業かと思っていましたが、真犯人を知って、私は絶望してしまいました。
─── 領主、ハンス・アーウィン公爵
なぜか昔から、お父様の邪魔ばかりしてくる男。この男に拐われたとあれば、単に嫌がらせではなく、確実に私たちの家を潰しに出たということでしょう。私はもう、生きて帰れないのかも知れません。今のところ、何もされてはいませんが、お父様の身に何かあった場合、私はどうなるのか……。
あの嫌らしい目をした男、噂では耳を覆いたくなるような、下品な趣味を持った変態野郎です。もし、私がそんなことをされるなら、自害するしかありません。貴族は気高く生きるものですから。
カチャン
ふと、何か入口の方から音がしました。
「だ、誰ッ!?」
「しーっ、お前、モニカな? 今出してやる」
くりくりの赤毛で赤い瞳の、驚くほど綺麗な少女が、そこにはいました。こ、これは夢でしょうか……?
※ ※ ※
アーウィン公爵の別荘は、ペコの村からほど近い、山の中の湖畔のほとりにあった。外観では二階建ての煉瓦の屋敷だが、その建物に地下室が存在することを知る者は、持ち主である公爵……。
そして、今まで何人か連れ込まれ、もう帰ってこない年端もいかぬ少年少女たちだけだろう。建設に携わった職人たちも、どういうわけか、もうすでに全員が不慮の事故でこの世を去っている。
今、この建物周辺に人の気配はない。見張りに立つ者もなければ、付近を歩く者もいない。その建物の中を、今、一人の少女が足音を潜め、早足で進んでいた。外から見える建物の大きさとは異なり、地下は長く直線的に続いている。
ようやく少女が、通路の一番奥にある、唯一の階段にたどり着いたその時 ───
「……きゃんッ!」
少女の三つ編みにされた金髪を、後ろから荒々しくぞんざいにつかむ手があった。その力に少女は足を取られ、その場に倒れ込んだ。
「おやおや、モニカちゃんはお転婆さんですねぇ。そんなに急いだら、汗をかいてしまうじゃあないかぁ……」
いやらしく唇を舐める舌先が、白髪混じりの口髭に触れ、舌によだれで貼りつくのが見えた。少女はつかまれた髪を振りほどこうとするが、贅肉をたっぷりと蓄えた男の力には勝てず、怯えた顔を背けた。
「ほらほら、無理をするから、こんなに御髪が抜けちゃったじゃあないかぁ」
男は少女の顔を無理やりに向け直させると、手指に絡みついた少女の髪の毛を、唇でむしり取るようにして口に含んだ。少女の顔に嫌悪の色がさすも、それ以上に恐怖に塗りつぶされ、奥歯をがちがちと鳴らせている。
ハンス・アーウィン公爵。
この辺境をまとめる、最も位の高い男は、政略に長け中央にもツテを持つ、遣り手の男。元は大陸中央部の小国で、その手腕を振るっていたが、とある性癖が災いして地方に押し付けられた。タッセル王国王族の血を引いていて、地位が高く、権力もあったため、切るわけにもいかず。厄介払いというやつだろう。
公爵は少女の後襟をつかむと、少女が必死に進んで来た通路を、引きずりながら戻ってゆく。しかし、公爵は少女を閉じ込めていた部屋までは行かず、通路の途中で足を止めると、そこにあった部屋へと引きずり込んだ。
「もう少しだけ、待とうかと思いましたが、ダメですねぇ。こぉんなに元気いっぱいな姿を見たら、やっぱり活きがイイうちにって、ねぇ?」
何らかの魔道具だろうか、部屋に踏み入れたとたんに、ぼんやりと灯りが点いた。カビ臭く薄暗い部屋、中央にはベッドがあり、その両脇には白い布を被せられた台がある。男は少女の両腕を、ベッドに備えつけられていた、短い鎖の手錠で拘束した。
「……わ、私をどうするつもりですか!」
男はそれには答えず、ベッドの脇の台から、少し白い布を持ち上げ、その中を見せた。
「─── ヒッ」
少女のノドが鳴る。
ベッドの脇の台には、ところ狭しと道具が並んでいる。ノコギリ、ハリ、ナイフ、ハサミ、太い針、注射器……。ベッド脇に並べられているには、どれも違和感のある道具達であり、それらには使われた形跡もあった。
ノコギリには赤黒い何かがこびりついており、ペンチには白く小さな人間の奥歯が、挟まったまま置かれていた。
「……お、おかしなことをすれば、お父様と、隣国の王家がだまっていませんよッ!」
「ん〜? それはエリゼお姉様が、アルツ公国の第二王子とご婚約なされたからかなぁ?
う~ん。でも、残念だぁ。エリゼちゃんはね、王子様に隠れて、小汚い街の男とデキちゃってたアバズレでねぇ。そろそろ心中した死体が見つかるはずなんだよねぇ。ごていねいに、遺書までちゃあんと持ってねぇ」
「そ、それが貴方の狙い……⁉︎」
「そんなことになったらさぁ、君のお父上もさすがに御沙汰無しってのは……ないだろうねぇ」
「どうしてそんなことを! 父が貴方になにかしたっていうんですか!」
公爵は腕を組むと、何かを思い出すように頭を捻った。
「んー、君のお父上には、特になぁーんもないよ? 強いて言えば、君たちの母上と、君に興味があったんだよぉ♪」
「そ、それだけ? だ、だったら、私を拐うだけで……!」
公爵は、ドブ臭いため息をついた。
「分かってないねぇ。それを守ろうとする者から取り上げて、壊すのが楽しいんだよぉ。できれば、守ろうと必死になっている者に、それが壊れた姿を見せつけてやるのが一番イイ。ぶふっ、そういう点では、モニカちゃんのお父上にも、興味があるかなぁ」
「……あ、貴方は……狂ってるッ!」
公爵の甲高い嗤声が、湿った部屋に狂ったように反響していた。
「心配ないよぉ、最初は普通に、たっくさん愛してあげるからねぇ。慣れたら少ぉしずつ、刺激を上げていってあげようねぇ!」
少女の脚をつかんで開くと、公爵は少女に覆いかぶさった。体をよじる少女を力づくで押さえて、あごを鷲掴みにする。そうして押さえた顔に、粘ついた舌を出し、舐めようと……
「─── ふう。これが人間のろーらく、べつにどこもかわんない」
急に少女の声が変わり、思わず公爵が身を起こす。そこにはモニカと入れ替わった、赤毛の少女がつまらなそうに、あおむけで公爵を見上げていた。
「な、なんだ貴様は! どこからッ!? い、いい、いつから…………⁉︎」
少女は口からゴポッと宝石を出すと、手錠にかけられていたはずの手でつかみ、魔力を込めた。
─── 『ん〜? それはエリゼお姉様が、アルツ公国の第二王子とご婚約なされたからかなぁ?』
宝石から、先程までの会話が流れ出した。
「な……⁉︎ そ、それをよこせ!」
ビッシィッ!
「うわッ! な、なな、何だこれは!」
公爵の両手両足が、無数の触手に拘束され、持ち上げられる。
「ん、いまごろ、エリゼもモニカも、お家かえってる」
「き、貴様いったいなぜ! 誰に雇われたッ⁉︎」
「ん、第一村人のねがい、かな?」
公爵は唖然としながらも、頭をフル回転させていた。
「な、なぁ、いくら欲しいんだ? 金ならいくらでも出す、私に雇われないか?
領主お抱えともなれば、色々と─── 」
「んー、おまえ、口くさい。いらない。オニイチャいれば、なにもいらんわい」
「なッ⁉︎ ぶ、無礼だぞ、貴族に向かってキサマッ!! あ もしワシを裁判にかけても、すぐに出てこられる! ムダなことなのだよ! その後、あいつらまとめて始末してやるからな!」
「べつに? 一度はたすけた、つぎは、知らない」
少女は興味なさそうにしつつ、また宝石を起動させた。
「い、今の会話も残したのか!」
今の会話まで使われれば、さすがに心証も危うい。公爵は青ざめて、冷や汗を流しながら、少女に懇願した。
「な、何が欲しい? な、なんでもやるから!」
「ほんと? なんでも?」
「ああ、約束する、き、君の欲しいものは、なんでもあげるからッ!」
「わかった……」
グイッ!
「うぐっ! な、何を……ッ!?」
触手が一本、公爵の首に巻きつき、あごを持ち上げる。
「あたしの欲しいもの。 ─── お前の壊れるとこ、みてみたい」
「なッ!? ひ、ヒイィッ!」
触手の一つが、公爵の顔の前でボコボコと、いかがわしい姿へと変形する。
「おかされる側、そのキモチから、ためすか」
変形した触手の先から、ジャキッと鋭い棘が生えて、回転を始める。
「そうだ、おまえ、魔物でも孕め」
ビリィッ!
公爵の服が飛び散った。そのまま空中で触手に押さえつけられ、四つん這いの姿勢で固定される。公爵の目の前では、次々に凶悪な触手が現れては、彼の恐怖心を煽り続けた。叫び声は、別荘の地下に押し込められ、周辺には人もいない。湖畔は相変わらず静寂に包まれたままだった。
※ ※ ※
「えぇ……? 汚ぁい」
ティフォから報告を受けて、俺は思わず顔を顰めた。
「だいじょぶ、実際に突っ込んだのは、その辺にあったモノ。四つん這いの姿勢だから、ぶたには何が入ってるのか、見えない。あたしは、キレーなまま」
「で~? 公爵は壊れちゃったんですか?」
ソフィアはご馳走の乗った皿に手を伸ばしながら、『外は晴れてるの?』ってくらいの、軽い調子でたずねる。
「うん、アレはもう、使い物にならない」
俺は一口齧ったゆで卵を手に、何となく食欲が失せて、眺めていた。ティフォの手腕が発揮され、公爵が壊れるまでに、ほんの数十分だったらしい。こいつ、手慣れ過ぎだ……!
何はともあれ、辺境伯の娘たちは無事に親元へと帰り、公爵の身柄は憲兵に護送されていった。運ばれる前に、公爵を少しだけ見た。公爵は口からヨダレを垂らし、時折何かに怯えたように騒いでいたが、しきりに腹にヘソの辺りを気にしている様子だった。
「で、マジで孕ませた……のか?」
ちょっとだいぶ引きながら、核心に迫ると、ティフォは肩をすくめて鼻で笑った。
「まさか。孕ませたいのはオニイチャだけ。公爵のちょくちょーマンホールには、たいりょーの粘液と、鳥の卵をねじ込んで、薄い封印をかけた」
「う……っ!(こいつに俺狙われてんだよな?)」
「二〜三日は便秘、その後、トイレで産卵することに、なる」
俺は齧りかけのゆで卵が、とんでもなくやましい物に見えて、動けなくなった。
「ティフォ……これ、いるか?」
「ん、オニイチャと、かんせつキス……ふふふ」
そう言いながら、なぜかティフォはソフィアにドヤ顔を向けていた。なんかソフィアの髪が、風もないのになびいているが、何なんだろう。
コンコン
ノックに続けて、村長が顔を出す。
「御三方、用意が出来ました、どうぞこちらに!」
村人たちは、あの後にどうしてもお礼がしたいと、俺たちに宴の用意をしてくれた。村の広場には、いくつものテーブルが並べられ、数え切れないほどのご馳走と、酒の樽が並んでいる。俺たちが外に出ると、盛大な拍手が起こり、口々に礼の言葉をかけられた。
村に犠牲者は出なかった。ケガ人も犠牲者も俺が治したのだから。ただ、第一村人のウィリーはじめ、盗賊団団長に幽星体を破壊されていた、辺境伯の私兵たちは誰も助けられなかった。それだけは悔やまれてならない。
盗賊団のリーダーの証言から、この村人全員が口封じに殺されるはずだったことを受け、村人たちは俺たちを『命の恩人』だと言った。礼なら、エリゼの護衛だった『第一村人』のウィリーに言うべきだと思うが、それを言ったらなぜだか余計に村長になつかれた。恩を売るためにやったわけではないし、さっきのティフォの話で食欲も出ないが、ここまでしてくれたのだから受けなければ失礼だ。
鎧を着てた時は、みんなに怯えられていたが、今はただの旅装。村人たちとの距離は、けっこう縮まったようで安心だ。
村長の挨拶が終わり、乾杯と共に村は賑わいに包まれていた。たくさんの笑い声、初めて耳にする祭りの音楽、賑わいのある人々の風景。ようやく外界に来たのだと実感する。俺は村人たちに囲まれて、酒をガンガン注がれていたのだが、一つ気になることがあった。
村人のうち、何人かがチラチラとこちらを見ては、小声で何かを話している。やっぱり怖がられているのだろうか? 別に構いはしないが、これ見よがしにされると、さすがに傷つくもんだ。
「アルくん、どうしたんですか? 何だか苦しそうですけど」
ソフィアが俺の隣に座って、心配そうにしている。
「いや、さっきからチラチラ見られては、コソコソ話されててな。ちょっと落ち着かない」
「え? ああ、アレですか」
と、ソフィアも何だか微妙な顔をした。
「うー、すまない。楽しんでる最中に、くだらないことを言ってしまった」
「はぁ〜、気がつかないんですかアルくん。チラチラ見てるのは、みんな女の人だけですよ……」
「ん? つまり? ああ、乱暴者な怖い男って、怖がられてるのか……ハァ」
「ちょっ、本来だったら、彼女たちに塩を贈るような真似はご免ですが、アルくんの自己評価が低過ぎるのもアレなのでいいますね?」
あん? 塩? 俺の自己評価?
「あれは、アルくんがカッコイイから騒いでるんです! チラチラ見るのは、緊張してジッと見れないだけ。コソコソ話してるのは、抜け駆けが出ないように、話すことでお互いを牽制してるんですよ」
「なぁんでそんなことを、わざわざ見えるようにやるんだよ?」
「そりゃあ、アルくんのことを気にしてますアピールに決まってるじゃないですか! 『貴方さえ良かったら声かけてね』っていう、自分ではリスクを負わない他力本願スタイルですよ!
……チッ、あのメス猫ども!」
「俺がカッコイイからとか、さすがにソフィの勘違いだろ、俺を盗賊団のリーダーって勘違いしたくらいだし。ははは」
「そ、その節は……って、これは勘違いじゃないですよ!」
「ははっ、またまた」
「アルくんはイケメンなんですよ! 自覚ないんですか!?」
「は? いや、俺なんかより超カッコイイ奴いるからね?」
ソフィアはちょっと訝しげに頭を傾けた後、何かを思い出したようにたずねた。
「ん〜? アルくん、それってアルくんの友達のことですか?」
「そう、シモンって言ってさ、超カッコいいんだよ。ずっとそいつと遊んでたからなぁ。イケメンってのはあのレベルのことを言うんだ」
「もしかして、メルキアの用事って、その彼のことですかね?」
「え? 何か知ってるの⁉︎」
そう言えば里のこと、ソフィアにはバレちゃっても……いいのか、俺の守護神だし。
「メルキアの至宝『マールダーの宝石』。メルキア公国にいたという、その二つ名を謳われた貴族の青年の名が『シモン』でしたね。八十年位前ですけど、メルキア公国はワケあってみんなヴァンパイアになりましたから、年もそのまま。だとすればご本人でしょうね。もうかなり昔に行方不明になったと聞いていますが」
「えっ? シモンって有名なの!? いやいや、まさか偶然だろ。確かにヴァンパイアだったけどさ」
「銀髪にマリンブルーの瞳、薬の知識が豊富」
「うっ⁉︎」
「それと比べていたら、そりゃあ自己評価も下がりますよ。何せ歴史に残る美男子ですから、教科書に載ってるくらいですよ?」
「ソフィ、何でそんなにすぐ分かるんだ? シモンって名前の奴、他にもいるだろ?」
「まずイケメンでシモンと言ったら、すぐに浮かぶ有名人です。さらにメルキアにアルくんが寄りたいって言ってたのが、印象に残っていました。あまりあそこに行きたがる人間族はいませんもの」
「はぁ、そうなのか……」
「マールダーいちの美男子と、比べちゃダメですよ、アルくんはイケメンです! それにしても、何かアルくんは、私に隠しごと多くないですか?」
ちょっと驚きすぎて、頭が追いついていかない。確かにシモンくんのイケメン度は、人間離れしてはいたけども。
「今夜話すよ全部。部外者には秘密にしてなきゃいけなかったからさ。ソフィは俺の守護神だし、信用できるから」
「くおお! 『お前だけを信じてる』発言、来ましたよコレッ☆」
「いや、そうは言ってないが」
ソフィアが呆けているところに、後光のさしてる村人が八人、俺の前に一列になってひざまづいた。
「「「主人様……我々に、どうかご命令を!」」」
【蘇生】と【属性反転】で息を吹き返した村人たちだ。光属性になっただけでなく、一度はアンデッドとして生み出したせいか、俺に使役される状態になってしまうのが難点だ。里でこれを編み出した時も、獣や魔獣が一時離れなくて難儀したもんだ。
人間でもこうなってしまうのか……。しかし、それにも対策はある。
「アルフォンス・ゴールマインの名において命ずる、お前たちはこの地に生き、幸せに暮らせ! くれぐれも、家族や隣人を大切にな」
「「「ハハァー! 有難き幸せ!」」」
こうして、今まで通りになるように、命令で自立させてやればいい。他の村人たちは呆気に取られていたものの、すぐにいつも通りに戻った彼らに、安心したようだ。むしろ、前までより善い人になってるはずだから、多分大丈夫だろ、多分。
ちなみにだが、彼らが一度なったグールは、アンデッドの中でも上位種だ。力が強く、俊敏で魔力も高い。 【属性反転】で光属性の人間に戻ってはいても、そのベースとなった能力に変わりはないので強いまま。ある意味で聖戦士の誕生だ。それが八人もいるんだし、この村は安泰だろう、多分。
それからも宴は続き、夜が更けるまで賑わいは続いていた。
※ ※ ※
─── さて、ソフィアちゃんお待ちかね、アルくんの過去ですよ☆
しかし、アルくんがどこまでちゃんと話してくれるのか、ソフィはちょっと不安ですね。いえいえ、アルくんのことは大事ですし、話にくいことだってあるでしょう。でも、やっぱり全部聞いちゃいたい。
そんなことって、ありますよね! そんな時はコレッ! 飛龍草の花弁とベラドンナ、アラクネの性腺にその他、まあなんか色々混ぜた……『おしゃべり散』!
効能は、自白作用と自白作用、あと自白作用です! 更に副作用……いや、副次的な効能に、惚れ薬と同等の催淫・興奮効果のオマケつき! マールダー最大級の魔獣、ゴライアスエレファントホエールですら、耳かき一杯でイチコロのすごい効果!!
あのタコ娘は飲み始めると、延々に飲み続けるのは、先ほど知りました。今も外で一人、樽の前に陣取っています。……つまり、邪魔する者はナシ☆ さあ、お待ちかね『アルくんの全て丸っと私のモノ大作戦』決行です!
サラサラ〜♪
「アルくん、お待ちしてました。おや、なぜだか丁度ここにカクテルがありますね。夜は長いですから、これでも飲んで、ゆっくりとお聞かせくださいね♡」
さあ、どんなことが飛び出すのでしょう! 嗚呼、どんな間違えが起こってしまうのでしょうか♪ ソフィアの胸は暴れ太鼓乱れ打ちです!
(注釈:ここからは、序章の一から六話の『アルフォンス・ゴールマインの懺悔』につながります)
※中略
(注釈:ここからは序章第六話『盛ったよね?』ラストからの続きです)
「……ところでさ、このお酒、なんか盛った?」
それまでニコニコして聞いていたソフィアの目が、バッシャバシャ泳いだ。
「守護神が……そ、そんな事をするわけ……なななないじゃないですか! は、ははぁーん、アルくん、さては酔ってますね?」
うん。その守護神が時々信用ならねぇんだよ、コレがまた。
「ぼく……いや、俺さ、しゃべりすぎてない? なんか……口調が思う通りにならないんだよね……。さっきからね、変に体も熱くなってるんだけど……」
ピクリと背筋を伸ばしたソフィアと目が合うと、下唇をアゴにシワが入るほど噛み締めて、ギギギギ……と首をぎごちなく横にそらした。
「あれ? なにその顔、やっぱなんかしたよね⁉︎」
「スヒ…………スヒョー……」
吹けない口笛など、吹こうとするもんじゃねぇよ、このタイミングで! 絵に描いたようなすっとぼけじゃねーかッ! ……うわぁ、怖え、俺一体なにを盛られたんだ!?
「だいたい君ってヤツはねぇ! ちょっと! こっちみなさいって!」
ソフィアのほおを両手で挟んで、無理矢理こっちに向かせる。
「…………う……うぅ、セイッ!」
何かすごいい力で押し返された。
「そんな些細なことはいーのです! さっきからお話に出てくる方々のお名前が、いちいち引っかかって仕方がありません!」
「些細かなぁ……ん? そんなに珍しい名前だったか?」
「龍人族のダグ爺、ドワーフ鍛治師のガセ爺、魔術師のアーシェ婆に、医師で薬師のセラ婆。そしてシモンさんですね。シモンさんはいいとして、そのお師匠様たちのフルネームはなんでした?」
「ん? ダグ爺はダーグゼイン。ガセ爺はガイセリック。アーシェ婆はアーシェス。セラ婆はセラフィナ。だったよ、みんな苗字はない」
「やっぱり。で、その方々の指導を受けて来たと」
「それまでは父さんに剣を教わってたよ。んん? やっぱりって何さ」
ソフィアは額に手を当てて、溜息をついてから、一気に話し出した。
「いいですか? 軍神ダーグゼイン、炎槌ガイセリック、闇神アーシェス、癒神セラフィナ。全員、三百年前の勇者の闘い。聖魔大戦以前まで猛威を振るってた、大御所の守護神たちです。大戦後、アルザス帝国が覇権を取り『エル・ラト教』が力を持って以降、教典の方針で信仰が廃れ、引退された古き守護神たちなんですよ!」
「ははは、まさかぁ~。気のいい老人たちだぜ? 肉体だったし、守護神って精霊か神族か魔神族だから、霊的存在のはずだろ?」
「その最上位の霊的存在である、私やティフォちゃんはどうなるんですか? ほら、肉体がないっていうんですか?」
ソフィアが俺の手をつかんで、思いっ切り自分の胸に押し付けた。ヤッバイ、何この柔らかさ! 心臓が破れそう!
「ま、まま、まあ、肉体のことは置いといて。有名な守護神だったら、民衆から慕われて同じ名前をつけられることだって多いだろ? だからただの人違いだって」
「貴方の養父である、イングヴェイ・ゴールマインの与えられた加護は、二つ名でもある【剣聖】。その守護神は【軍神ダーグゼイン】です。先ほどの話からすれば、イングヴェイ氏が里に訪れたのは、ダーグゼインの導きだったと。偶然にしては、あまりにも……です」
何だって? そんなヤバかったんかダグ爺たちって。いや、本当かなぁ、うーん。
「その全員から、彼らの得意分野で全て免許皆伝を受けた。あまつさえ模擬戦とは言え、ダーグゼインを全ての武器武術において、一本とったと。そういうことですよね? そうなんですよね? あ?」
「はい……まあ、そうです」
なんかソフィアに怒られてる感じになってんだけど、どうしようこれ。
「はぁ〜、どうりで私が勝てないわけですよ! それだけの強力な守護神の数々から、そこらの人が受けられる加護より、はるかに強い恩恵を受けてるようなものです!」
「そこらの人の加護より……強い恩恵?」
「守護神はたいてい、マールダー中の多くの人々に対して、一人で大勢に加護を与えていますよね」
確かにそうだ、だから人気の守護神があったりもする。
「多くの人々に加護を与えれば、それだけ各々に課せられた運命力は薄まります。求められる運命が弱いということは、加護を与えられた時、背負う義務も弱まります。だから与えられる力も弱くなるんですよ」
「あ、そう言うモンだったの⁉︎」
「逆に加護を一人だけに与えた場合、守護神と人が運命を直接分かつことになるので、強い運命で引き合うんです。背負う義務も強大になりますが、与えられる力も絶大になります」
なるほど、例えば火の神に加護を受けたとして、同じ守護神から大勢加護を受けてると、みんなはせいぜい下級火属性魔術師スタート。一人の火の神に、一人だけ選ばれていれば、超上級火属性魔術師スタート、そんな感じだろうか。ただ、加護が強くなるほど、待ち受ける運命も重くなると。
「アルくんの叩き込まれた技術や知識は、本来なら、守護神がマンツーマン加護を与えた場合に受けられる、絶大な技能を全てもらった事になるんですよ。契約もしないまま、直接指導ですもん。破格のプライベートレッスンじゃないですか!」
「そうなの……かなぁ。ま、まあわかったよ、そういうことにしておこう。やっぱり幼い頃から当たり前のことだったから、説明されても彼らが守護神だったとか、ピンと来ないんだけどね」
「まあ、そうかも知れませんね。結局は守護神たちも、霊的存在ってだけで、寿命もあれば、感情もありますし、運命に翻弄される生き物ですから。ただ、肉体を持って存在しているクラスは、とんでもなく上位ですけど」
守護神って見えないもんだと思ってたし、ダグ爺たちが『儂、守護神』とか言ってんの見たことなかったしね。そんなすごい人たちだったなんて、思いもしなかったわ。精霊とかで肉体を持って顕現できるってことも、それが神に近い力を持つ存在だってことも。その本人たちから習ってて気づいてなかったとは……。
「そういえば、なんで信仰が廃れると引退なんだ?」
「守護神以上の霊的な存在の場合、そこに『在る』っていうのが大事なんです。みんなに望まれて、そこに在ることが当たり前であるほど、彼らには力が湧くんです。本来、神に祈るのは自分の願いごとじゃなくて、その神の健在と繁栄を祈るものなんですよ」
なんか、さびしいな。忘れられた時が、死を迎える時か。
「だから、里のみなさんは、アルくんがいて、慕ってもらえて嬉しかったと思いますよ?」
「そうだと嬉しいよ。早く旅を終えて帰ってやらなきゃな」
「今そうして想うだけでも、力になってるはずです。その時は、私も……お願いですから、一緒に連れていってくださいね?」
少しさびしそうに、ソフィアが微笑んで言った。
「ああ、もちろんだよ。みんなに紹介したいしね」
「ふふふ。約束ですよ?」
「ああ、約束するよソフィ。俺は君を、いつか里に連れて行く」
ふと見つめ合う。少し上気したソフィアの目には、薄っすら涙が浮かんでいるように見えた。
胸が高鳴る。
やっぱりすごい美人だなぁ、ソフィアは……。ああ、いかん、おかしなことを口走りそうだ。話を変えよう。
「と、ところで、守護神たちは信仰とか、その存在を信じられることが力になるって言ったけどさ。ソフィはどうなの? なんかそういう、君の力になることってあるのか?」
ソフィアがぐっと近づいた。甘い吐息が俺の顔をくすぐる。
「ありますよ? そういうの」
ほおを染めたソフィアが、ジッと潤んだ瞳で俺の目を見つめていた。
「…………そ、それは……な……なに?」
ソフィアの顔がさらに近づき、目を閉じた。わずかにあごを上げ、唇を微かに震わせる。
その唇に俺の唇が、自然と引き寄せられ───
「邪魔するよッ!」
ティフォが酒樽を抱えて、ドアを蹴り開けた。
「話はきいた、クソ女、おめーは、ほろびる!」
「ほほう。この私の邪魔をするとは、このタコ娘。次の世界へ送ってやりましょうか? 黄泉がいいですか? 冥府? それとも彼岸?」
懐からするりと杖を取り出し、持ち手に手をかける。どうやってしまってたんだよソレ……ん? その時、ソフィアの懐から、ヒラリと何かが落ちた。
─── 『おしゃべり散』効能:自白 副作用:惚れ、催淫、興奮……etc.
「おい、ソフィ……」
すでに封の切られた薬袋を拾い、ソフィアに突きつける。
「ッ⁉︎ さ、さあ、タコ娘! ここでは村に迷惑がかかります、向こうで決着をつけて差し上げましょう!」
「おい、ソフィ……」
「貴女が臆しているのなら、私は先に闘いの場へ!」
シュバババッ!
逃げられたか……。うん、やっはりうちの守護神が、時々信用ならねぇんだよなぁ。
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