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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第五章 妖精王の国

第十四話 ぽんこつオニイチャ

「ほう、これ程とは……。精霊神の加護を受ければ、魔力は跳ね上がるものじゃが。これは歴代でも随一と言ってよかろう。んん、ただ……なんじゃ、妙に禍々しいのう」

 元々ミィルは金色に輝く妖精だったが、俺のポンコツ魔術の影響で、どこか俺っぽさが入ってしまった。戴冠かんたいの儀式を済ませたミィルの魔力は、途方も無く跳ね上がっているのだが、禍々しさも比例して上がっちゃった感じだ。

 光が消えてミィルの姿がしっかりと見える。紫色になっていた髪色は、紫がかった黒に近い色に。すみれ色の瞳は、やや赤味がかって、目元に強さが現れていた。羽はより黒さが増して、光を吸い取ったように艶すら無く、紅い目玉の模様が宙に浮いているかのような錯覚を覚える。その自分の姿と、膨大な魔力を確かめた後、ニヤリと笑う口元には鋭い八重歯が光っていた。

─── 悪者か?

 とっとと契約者署名をスタルジャに変えて置けば良かったか……。いや、それだとティータニアの目には、止まらなかったし、そのお陰でジゼルは巫女になれるわけだ。うーん、成るように成る運命だったって事にしておこう、もう分かんないもん。よくは分からなくても、何だかここに全ての出来事が集約されているようにも思える。

「どうじゃ? 妖精族の頂点に立つ者の気持ちは。悪いものでもあるまい?」
「んー、そうかも。今なら月の位置くらい変えられそうな気がする♪」
「……多分、マジで出来るし、どんな災害に結びつくか分かんないから止めておこうな。気分とか変わった所は無いか?」

 うーんと小さく唸りながら、手の平をグーパーすると、周囲のマナが反応して光の粒を振りまいた。

(マナに触っただけで精霊を生み出してる⁉︎)

「変な感じはないよマスター。お腹が空いた気がするくらい?」
「まあ、ここ何日も闘ってたなら、腹も減ってるだろう。後で何か作ってやるよ……って、マスターってなんだよ?」
「んん? だってマスターじゃん、あたしの契約者署名にアルフォンス・ゴールマインって書いてあるし」

 まあ、そうなんだけどさ。急にマスターとか呼ばれると、落ち着かないって言うか、慣れてない。もしかして、魔力が爆上がりして、俺との契約も強まったとかか?

「まあミィルが嫌じゃないなら、それで良いんだけどさ」
「んふふ♪ マスターのそう言うやさしーとこ、大好き〜☆」

 んん? ものっ凄く色っぽくなってるが⁉︎ これ、害虫から雌の目に変わってんぞ!

「これはもしや人と妖精の婚姻が、再び起こるやもしれんのう。ウィリーンとエルデのように」
「いや、ねえから─── 」
「「な、なりませんッ!」」

 何故かアネスとジゼルが、顔を真っ赤にして食い気味で否定に入って来た。あー、神聖な妖精の女王だもんな、人間の俺とくっつくとか考えたくもないよな巫女さんなら。

「……おほん。ではジゼルよ、これで妾は女王ではない。其方の肉体に宿る事で、巫女としてアネスに仕える事も出来よう。普通の娘として生きる道もあるが……どうする?」
「お願いします。私を巫女にして下さい!」
「ジゼル……貴女は……。それではずっと私とここに縛られる事になるのですよ?」
「いいの。おかあさんと一緒に、この国の皆んなを守って行きたいの……お願い」

 アネスは複雑なんだろうな、巫女として生きて来た誇りもあるけど、その辛さも知ってる。それを愛する娘にさせるのは、反対したいけど、応援もしてやりたい。そんな所か。そう言えば、巫女の契約は女王ティータニアが結んだんだよな?ちょっと見てみるか。おお、あったあった。
 ホールの中央の凹みの所に、契約が刻み込まれているのが、薄っすらと見えてる。

(……なんだ、別に場所に縛られる項目は、マナ調節の力の代償には、それ程必要でもないじゃん。これなら試しに書き換えてみるか?)

「えーっと、そいそいっ、そそいそいっ」
「あ、ぽんこつオニイチャ、だから魔術がぽんこつだって」
「おい『ぽんこつオニイチャ』ってなんだよ! ……て、あ……あぁッ⁉︎ そうだった……!」

 ぼふんッ!

 ジゼルから白煙が噴き上げて、ホールにデカイ煙の輪っかが巻き上がって行った。マナがジゼルに向かって流れ出し、脈打つように魔力が膨張している。

「何じゃっ? 其方、一体何をしたッ!」
「え⁉︎ け、契約内容を書き換えてみただけだよ? 一生、外に出ちゃダメって所、イジれそうだったから」
「何でじゃ? 何で人間のそなたに、古代精霊言語の魔術式をイジれる⁉︎ ひっ! じ、ジゼル⁉︎」

 魔力の膨張が止まった。もうもうと立ち込める白煙の中、巨大な気配が奥にうごめいているのが感じられる。

「はー、ビックリした! 今のって、アルフォンスさんがやったんですか? いきなりは驚くじゃないですかぁ」
「「「……ッ⁉︎」」」

 ホールに巨大な白い影がそびえ立っている。輝く白い毛に覆われた、長大で剛健な体躯、ホールに長く伸びた尻尾。ぴょこんと小さな耳に、つぶらな瞳。

 そこには巨大な白いイタチが立っていた。

 やや間があって、ジゼルは自分の体を見渡し、慌ててキョロキョロしている。感情の昂りに反応したのか、周囲には青白い狐火が現れて、フヨフヨと漂い出した。自分でやっておいてアレだけど、一口に言って、魔力量だけで言えば、S級指定の化物だと思う。これ、軍が出動するレベルだよ……。

「ちょ……え? なにこれ⁉︎ い、いやぁぁ……ッて、あ、戻れる」
「お、落ち着くんだジゼル! え? 戻れんの?」

 シュウと音を立てて、白い光のシルエットが縮んで行くと、元の獣人の姿へと戻っていった。服は別として。

「え! あッ、きゃああぁぁッ!」
「ご、ごめんッ‼︎」

 慌てて顔を覆って目を閉じている間、アネスが魔術で服を作ってあげている音がした。正直に言おう、見てしまった……。

「ぷ……っ、あは、あははははは! 何じゃこれは、本当に契約が変わっておるではないか! 『月に五日は聖地にいる事』じゃと? そこらの人間の仕事より楽になっておるぞ⁉︎」
「「ええっ⁉︎」」

 アネスとジゼルの頓狂とんきょうな叫びが木霊した。

「そ、そんな……私の今までの苦労は……」
「まあ、その、なんだ。契約内容はお互いの利益あってのものだから、よく見直す事も大事って事で……」

 がばっ!

 アネス母娘に抱き着かれた。何か泣きながら笑ってるし、結果オーライって事でいいんだろう。あまりにグイグイ来るもんだから、三人でステップを踏む感じになって、それを見たティータニアが大笑いしていた。

「何にせよ、これで君達も聖地に縛られる事なく、この地を守っていけるようになったんだ。これからは母娘と叔母の三人で、色々と楽しんで生き続けたらいい」

 がぽんっ ……ちゅっ

 アネスに兜を外され、頰に口づけをされてしまった。お、お母さん、娘さんの目の前ですって……。

「…………ごめんなさいねぇ、こんな昂ぶった気持ちは初めてで、もう抑え切れなくなってしまったの……」
「ああっ! おかーさんズルイっ! 私だって……‼︎」
「いや、あの……ちょっ! うひぃ」

 両サイドから母娘でキスされ、戸惑うというか、脳の処理が追いついて行かない。髑髏どくろ兜の口からは、桃色の吐息がシュウシュウ出ていた。助けを求めて三人娘を見てみれば、ほのぼのした光景を見るかの如く、ただニコニコしているだけだ。どうしてこういう時は、連携してくれないのか?

「ん、でも今回のオニイチャ魔術、バグが軽すぎ?」
「そう言えばそうだな……。いつもだと、もっと邪悪な何かが起きるんだが」
「え? マスターの魔術って、邪悪なのー?」

 言えない、ドス黒い羽でパタパタ飛び回るミィルに、お前がソレだとは、言えない。ジゼルには多少、狐火が飛び交うくらいの禍々しさがあったが、それくらいのものだった。後で分かる感じの、ヤバイのじゃなければ良いのだが。

「まあ、何にせよ世話になったのう、適合者よ。名は何と言ったか?」
「ん? ああ、自己紹介がまだだったな。俺はアルフォンス・ゴールマインだ。適合者って知ってるって事は、やっぱり妖精だからか」
「うむ。神聖に近いからのう、超知覚が備わっておる故、大いなる運命に関わりある事は自然と分かるようになっておる。しかし、そなたは先程の魔術といい、精霊との繋がりといい、懐かしい匂いがするのう」
「……ああ、闇神おんしんアーシェスと癒神ゆしんセラフィナ、炎槌えんついガイセリックが俺の師匠なんだ」

 途端にティータニアとアネスから、ギョッと聞こえて来るくらいに、驚かれてしまった。

「『夜の神』に『朝の神』に、その上『炎槌ガイセリック』じゃと⁉︎ 道理で精霊言語の契約など、一瞬で書き換えられるはずじゃ……」
「まあ! 聖剣の創造主のお弟子さんだったのですね! お召しになられた甲冑から、聖剣に似た加護を感じるとは思いましたが、そんなご関係だったとは」
「色々あってね。今はまだ、訳あって話せないが、みんな元気にやってるよ」

 それから話せる範囲で、アーシェ婆達の事を話していたら、突然ティータニアがあごに手を当てて難しい顔をした。

「時にアルフォンス、其方の苗字はゴールマインと言ったな。そなたはもしやイングヴェイと言う名の者と、何か所縁ゆかりがないか?」
「んん、まぁいっか。……イングヴェイ・ゴールマインは俺の養父だ」
「やっぱり! あのめ、こんな子までこさえておったか! いや、髪色や目、耳の形も違うが……」

 ん? 色魔? 養父さんが⁉︎

「ちょ、ちょっと! 色魔って、こんな子までって何だよ⁉︎ イングヴェイって、剣聖イングヴェイの事だよな? ハイエルフのイングヴェイ」
「ふう、それで合っておる。養父じゃったか、ならば聞かぬ方が良かろう。その様子じゃと、何も知らぬようであるしのう。あのバカは元気でやっておるのかの?」
「養父さんなら十年以上前に死んだよ。高齢エルフ特有の病気だった」

 ティータニアは驚いた顔をした後、寂しそうに俯いて、深く静かに溜息をついた。

「ハイエルフとはいえ、人じゃからなぁ……。やはり先に皆、居なくなってしまうものだのう。と、言う事は、そなたが最期まで看取った家族に相違ないな?」
「ああ、養父さんが俺を拾ってくれてから、ずっとふたりで暮らしてたよ。口下手で物静かだったけど、よく笑いかけてくれる優しい父親だった」

「く、口下手……物静か……。想像がつかんが、だとすればそなたの父親として、真っ当な男になったという事じゃな。なれば彼奴の最期は、そなたのお陰で幸せであった事じゃろう」

 何か物凄く含みがあるけど、養父さん本当に何やったんだ⁉︎ 何となくダグ爺から、若い頃はやんちゃしてたって話は聞いた事があるけど……。

「……しかし、この地はまた建国と同じく、かの三柱に救われたと言う事かの」
「ふふふ、そしてやっぱり、人と妖精と精霊が揃わなければ、この国は立ち行かないと言う事ですね」
「ふむ、では妾ももう一働きじゃな。次にこの体で顕現けんげん出来るのは、何年後かは分からんが、その時までゆっくりと魔力を溜め込むとしよう。ジゼルよ、近う寄れ」

 ティータニアとジゼルの体が重なり合い、ティータニアの魔力も気配も、ジゼルの中に消えて行った。

「おっと、忘れておった」

 ジゼルが突然、ティータニアの声で喋り出した。

「そなたに何の礼も返さんとは、妖精の沽券こけんに関わるからのう。どれ、これならいつかそなたを守ってくれる事じゃろうて─── 」

 そう言って、アネスの体に手をかざすと、彼女の体から銀色の光る粒子が舞い上がる。それが小さく集まり、ポトリと俺の手の平に落ちた。銀色に光る指輪。それはどこか鼓動を感じる、不思議な力で満ち溢れている。

「アネスとひとつになった聖剣と、この地の想いの詰まったものじゃ。今は何の力も出せぬが、それをそなたが持ち、様々な事に遭遇する度に成長していくであろう」
「成長する指輪か。ありがたく貰っておくよティータニア。この地を、ふたりをよろしく頼む」
「ふふふ、なるほど、養父に似てタラシじゃの♪ 任せておけ、もうアネスを泣かせたくはないからのう……。この地を今一度立ち上がらせた暁には、そなたに正式な恩返しをするつもりじゃ」
「いや、礼なんていいよ。指輪も貰ったし」
「阿保、そなたはどれだけの事をしたと思っておる! 小さな事なら小さな礼で良いが、大きな事には大きな礼が必要なものじゃ。力ある者には、それを受ける義務もあるんじゃからな? まあ、首を洗ってまっておれ☆」

 そう言ってウィンクをした瞬間、キョトンとしたジゼル本人の表情に戻った。しかし、早くもティータニアを受け入れた影響が出たのか、目元を掴んで頭を苦しげに振っている。

「無事、ジゼルと同化したようですね。ティータニアの魔力の器は、それは大きなものです。普段は顕現こそ出来なくても、貴女の中からしっかりと支えてくれるでしょう」
「うん。あ……凄い、国中の事が精霊達から教えてもらえるんだ……。うぅ、頭が追いつかないよぅ」
「最初のうちは、気分が悪くなる事もありますからね、今はゆっくり休んで慣れる事です」

 ジゼルは『でも』と、残念そうに俺の方を見る。アネスはその背中に手を添えて、俺達に深々と頭を下げた。

「この通り、今は娘を休ませてやりたいのですが、皆様はどうかこちらに泊まっていって下さいな。お礼もお話も、たくさんさせて頂きたいのです」

 三人娘も快諾したので、聖地に泊まって行く事にした。アネスは若返って、今はそんなにジゼルと違わないのに、所作とか表情はやっぱりお母さんぽく見えるから不思議だ。ミィルが空腹でフラフラしていたので、取り敢えずそっちを何とかしてやらないとな。……妖精って、飯必要無いんじゃなかったっけ?

 ※ ※ ※

「─── ああ……こんなに熱くて、肉厚な逞しいモノ、何百年振りでしょう……。あっ、よだれが垂れてしまいました。頬張り切れないのが、少し切ないですけど、このはしたないのもまた……」
「こういうのは、はしたないくらいが、良いんじゃないか……。今夜くらいは、下品にさ……?」
「ふふ……意地悪ですのね。ああ、でもこの大きくて長いものを、夜空の下で頬張るなんて。胸がときめいてしまいますわ」

 そう言って、アネスは恥ずかしそうに辺りをキョロキョロした後、両手で掴んだソレへと、愛おしそうにむしゃぶりつく。

「ああ、バーベキューは豪快なのが良いんだよ。柔らかい部位を選んで仕込んだけど、あごが疲れるなら、ナイフもあるから」
「アルくん! このお団子みたいなのは、何のお肉なんですか?」
「それはレッドデビルホーンの肩肉と、ミスリルクロスボアのあばら肉のミンチに、ネギ生姜混ぜ込んだヤツだよ。多少、味もついてるけど、そこの壺のタレを塗って炙ってから食べるといい」

 最初はミィルのために、簡単な食事をって思っていたら、彼女の食欲は想定を遥かに超えていた。アネスもジゼルも、この聖地の影響で、ほとんど食事を必要としなかったからか、ここにはささやかな台所しかない。急遽、外で炭を起こして、バーベキューにしたら、そのままパーティーへと雪崩れ込んでしまった。
 精霊神の体となったアネスは、食事を摂らなくても良い体ではあるが、匂いにつられて一口食べたら火が点いてしまったようだ。

「ますたー、これ、おぉいひぃねぇ♡」
「それはバグナスの南海沖で漁れた怪魚、ナイトメアパイクだったかな?」

 さっきまで無言でガッついていたミィルが、頬袋をパンパンにしながら、目を細めている。こっちのは串に刺さずに、薄く切った切身に軽く香り付けをして、チーズと交互に重ねて焼いてある。
 ミィルには大き過ぎるのだが、魔力で綺麗に切りながら、断面を溢れるチーズと肉汁を目で楽しんではかぶりついていた。一体、この小さな体のどこに、それだけの物量が収まるのか、不思議でならない。

「うわぁ、いいなそれ、私も食べよ!」

 伸びたチーズの糸を、あむあむ食べている妖精の姿に焚きつけられ、スタルジャが手を伸ばす。体内で休ませていたミィルの影響か、やや肉食寄りになっていたスタルジャは、最近は乳製品にも興味を持つようになっていた。ミィルの横に座って、同じくチーズびろ〜んをしながら、ニッコニコで怪魚のチーズ焼きを楽しんでいる。

「皆さん、おはようございます〜♪」
「「「おはよ〜」」」
「あら、ジゼル! もう起きて大丈夫なの? 体の具合はどうかしら?」

 心配するアネスに、ジゼルはニコッと笑い返すと、Vサインを決めてみせた。

「国中の情報を一気に読み込むのは、まだ無理だけど大分慣れて来たよ。今は情報をカット出来るようになったから、全然平気♪ それより、はぁ〜いいにおい!」
「おう、ガンガン焼いてるから、好きなだけ食ってくれ! ドワーフに家畜肉食い尽くされたから、魔獣肉ばっかだけどな」
「わっ、お肉! 懐かしいなぁ、聖地に来てからは、全然お腹減らなかったのに。う〜スッゴイよだれ出て来てアゴいたい……」

 腹が減らないってのも、どんな感じなんだろうか? 下手すると『食べる』って行為のために、人生の大きな時間を使ったり、場合によっては機嫌にも関わるしな。
 ドワーフ達も保護されてる間は、ほとんど酒以外口にしなかったらしいし、その酒すら極たま〜にだったそうだ。当初は不貞腐れたりしてたけど、しばらくすると皆んな大人しくなってたって言うから、食欲が無いと悟りに近づくのかも知れない。

「そんじゃ、まあ、皆んなそろった所で、乾杯でもするか」
「「「はーいっ!」」」

 上等なワインを開けて、全員がグラスを片手に集まった。アネスに音頭を頼むと、えらく恐縮していたが、どう考えても彼女が一番の功労者に違いない。恥ずかしそうに頰を染め、目を閉じて色々と思い返しているようだ。

「……まずは、シリルの再起に。そして、この聖地の新たな三百年の安寧に。ジゼルの巫女就任と、ミィルの女王就任。ふふふ、色々あり過ぎてニヤけてしまいますね。
─── そして、私を解放して下さった、全ての皆様のために……乾杯」
「「「かんぱーいっ!」」」

 アネスは数百年振りの酒に、うっとりとして喜び、ジゼルは久し振りの肉料理と、初めてのワインにはしゃいでいた。何しろジゼルにとっては初めての酒だし、すぐに酔っ払うのではと心配していたが、流石は獣人族ザルだった。

「うふっ、うふふふふふふふ♪」

 むしろ、母親たるアネスの方が、さっきから笑い続けていた。それとなくセーブさせようと思ったが、ワインボトルをがっちり持って、離そうとしない。ミィルも散々食べて転がっていたと思っていたら、いつの間にかまた肉を焼き始めた。その横では酔っ払ったスタルジャが、エルフ語とダルングスグル語のちゃんぽんな、童謡のようなものを歌っている。

 途中、ジゼル達のストックしていたハーブを借りに台所へ向かうと、ソフィアも鼻歌交じりについて来た。何だかソフィアも機嫌がいい。酒精に当てられたのか、少しだけ赤味のさした頰が、艶々していて思わず見惚れてしまった。俺の視線に気が付いたソフィアは、くすくすと笑いながら、俺に身を寄せた。

「楽しそうだなぁソフィ」
「フフ、最近お料理が楽しくて♪ でも、気分が良いとしたら、アルくんのおかげですよ。……アネスさんを救ってくれて、ありがとうございます」
「んー? どうしてソフィがお礼を言うんだよ」

 俺の問いに微笑んで、少し首を傾ける。整ったエメラルドの瞳を潤ませて、どこか熱っぽい表情をみせた。

「巫女としてのアネスさんの今までは、何処か私達神の背負う姿勢に似てるなぁって。そう思ったからこそ、感情移入してしまったんでしょうね。彼女の半生を聞いていたら、すごく悲しくなってしまって……」

 そう言ってソフィアは、俺の胸に額をつけて、胸元の服をきゅっと握った。薄暗い台所の片隅で、ふたり寄り添う。外からは皆んなの楽しげな声が、小さく聞こえている。

「制約があるのは、時に怖くて苦しい事もあるんですよ? それを貴方が救う姿を見て、何だか少しだけ勇気がもらえた気がするんです」

 制約か。ソフィアにも神としての制約があるんだもんな、今だって本当は俺に話したくても話せない何かがあるんだろう。微かに震えている彼女の背中が、何だかいつもより小さく感じて、思わず抱きしめていた。

「辛い制約なら壊してしまえばいい。壊せないなら、制約に掛からない所まで、進めてしまえばいい。解決策はいくらだってあるはずだ。俺がそばにいるから、一緒に考えよう」
「ッ! ─── はい!」

 胸に顔を埋めた、彼女の肩が震えている。泣いているのかと思ったら、くすくすと笑いを堪えているようだ。

「……どした?」
「フフフ、でもアルくんが強引に制約突破したら、私も禍々しくされちゃうのかなって。くすくす」
「邪神オルネアと髑髏どくろ騎士かぁ。もしすっごい活躍したとしても、絵本には出来ねぇよなぁ、子供が眠れなくなる」

 そんな事をいって笑いながら、皆んなの元へ戻ると、スタルジャの歌にぐらぐら揺れるアネスと目が合ってしまった。

「はら、あるふぉんす様は、この会の主役なのに、オルネア様とどこへシケ込んでいたのれすか? ムフフ、いけない人れすね〜☆」
「シケ込むとか言わないの、主役でもないしな。ハーブ借りに行ってただけだ。そう言えば、聞くタイミング逃しちゃってたんだけど、ティータニアの事を『叔母さま』って呼んでたよな?」
「そうれす! わらくしの、母上は初代シリル王の母、妖精女王エルデ。おばさまは、そのいもーと君であらせられるのれす……ドヤァッ」

 シリル建国は今から二千年程前の話だ。となると、ここにいるアネスは、少なくともそれくらいの年月を生きてるって事になる。

「あれ? 妖精ハーフの寿命は人間の二〜三倍だったよな、アネスは長生き過ぎないか?」
「へっへぇ〜♪ それは最近の王族の話れす。みーんな、とっくに妖精の血はうすれてますかられ? わらくしはその点、元祖妖精ハーフなのれすよ。あれ? 遠回しにばばー扱いしてます? てきとーなこといってると、嫁ぎまふよ?」
「ああ、そうか。王族を総称して妖精ハーフって呼んでるけど、直接妖精の血が入ったのは昔の話だもんな」
「む〜か〜しぃ〜? まぁた、ばばー呼ばわりしましたれ? あたまに来ました、もう嫁ぎます、つつがなく嫁ぎますよわらくしは!」

 精霊神のからみ酒とか、生きた心地しねぇなおい。アネスは『むふ〜よめいりよめいり』とか繰り返して、グリグリと顔を押し付けている。

「……それにれすねぇ、もう、母娘そろって、ぜーんぶ見られてしまいましたから、責任をとってもらわないとダメなんれすよ?」

 はははと笑いながら、さりげなく【睡眠キャスグ】の魔術を重ねがけしているが、ことごとく跳ね除けられている。何だこのベラボーに高い異常耐性は……。

 その後もパーティーは続き、ソフィアまで酔い乱れて散々だった。俺はと言うと、端の方で気配を消して、ベヒーモスを膝に乗せてチビチビやるしかなかった。この時ほど、ベヒーモスに癒された事はない。

─── この日、シリルの歴史に残る事件が起きていたのを知らず、俺達は楽しんでいた

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