本文へ移動

Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第八章 アルカメリア冒険者ギルド本部

第十七話 剛の毒、賢の毒

あらすじを見る

封鎖された『栄光の道』を避け、
南アルザスの森林『緑の帯(ランヤッド)』を抜け、
神獣の守る洞窟をひた走りに越えて来たアルフォンスたち。

魔術の扉を過ぎた先は、
『預言者アマーリエ』の言葉にあった、
ファルブ山の麓の草原に繋がっていた。

しばしの休息をし、
夜空に現れたのは、
月の極大化現象『ネイの福音』。

魔に連なる者たちの魔力が増幅されるその夜、
セオドアはアルフォンスに約束の履行を求めた。

『俺を殺してくれ』
魔公将として、
勇者ハンネスに継承された微弱な契約を、
アルフォンスの手で断ち切り、
魔界の泉へと転生させる約束。

魔公将の性質から、
それはただの殺害ではなく、
魔王との闘いの下に転生される運命が求められる。

 月が生命を産み、太陽は生命を育む 。古代より伝わる、月にまつわる数々の神秘から、人々にそう信じられてきた。
 満月の夜は出生が最高潮に達し、生命の誕生を起こすかたわら、血をたぎらせ精神をたかぶらせる。その神秘の力は魔力をも上昇させ、魔に属する者達の能力を、普段以上に大きく引き出す。

─── ネイの福音

 数年周期で訪れる、月の異常接近現象は、それらの神秘的な月の力を何倍にも上昇させる。満月による魔力の因果関係は立証されてはいないものの、確実に起こるその現象は、月に巡るマナが働きかけているのではないかとも言われていた。
 特にその恩恵は、魔物や魔獣など『魔』に属する者達に顕著に与えられる事から、闇の神ネイの祝福だと言われている。

『さあ俺を、殺してくれよ、親父どの!』

 獅子の顔、全身を包む鋼のような筋肉は、人の域を遥かに超えた百獣の王のそれだ。燃え盛る太陽を思わせる、黄金のたてがみが闘気に揺らぎ、月下に煌々と輝く。己の倍はあろうかと言う、獣面鬼神の如きセオドアに、アルフォンスが対峙する。白いシャツが月明かりに染まり、青白く幽玄と、月の如くその姿を浮かび上がらせていた。

『ああ、セオドア。俺がお前を、殺してやる……』

 アルフォンスがそう返すと、二人は野営地から離れ、草原の中央へと進んで行った。

 セオドアは魔公将である。アルフォンスを魔王として認め、その配下につくと決めたのならば、主である魔王自身に殺されねばならぬ。それは太古より繰り返されて来た、魔界の王と魔公将、その主従の理。アルフォンスが魔王の証のひとつ『クヌルギアの鍵』の一部を手に入れ、彼と再会を果たした時、セオドアはその約束を取り付けていたのだ。

 殺めた魔王の力が高ければ高いほど、その技に込められた魔力が強大であるほど。互いに斬り結んだ力と力、その迸るエネルギーが高いほどに、再構築された魔公将のポテンシャルは上昇すると言う。その無情な条件に、セオドアは全てを賭けて真なる王を求め、アルフォンスはそれを受け入れていたのだ。さもなければ、セオドアは永劫、己を持ちきれぬあやふやな存在として生きるしか無い。

 ならば、今宵の満月こそが、絶好の好機である。ネイの福音の下、全力の殺し合いをするために

 ※ 

 頭上を覆う巨大な月、その光に照らされた静と動。対照的なふたりの男の間に、それぞれの闘気が渦巻き、草原をざわざわとなびかせる。

『鎧、着けなくていいのかよ親父どの、怪我しても知らねえぞ?』
「ああ、は要らない」
『ハッ! 流石にちょっと傷つくぜ。だがよ、俺にだって意地があンだ、せめてあんたを本気にくらいはさせなきゃなッ‼︎』

 次の瞬間、セオドアはすでに、アルフォンスの間合いを制していた。ふたりを囲っていた背の高い草叢が、唐突に断ち切れて舞い上がり、四本の光の残像が宙に残される。瞬きよりも速く、一気に間合いを詰めたセオドアの放った、凄絶な爪のひと振りであった。

 舞い散る草切れに遅れて、直線上の遥か遠くにあった岩が、木っ端のように砕け散る。鋼鉄の城門であっても、チーズのように切り裂くであろうその凶悪な斬爪ざんかくに、離れて様子をうかがっていたエリンとユニは思わず唾を飲んだ。

「肉体強化も使わずに、あの身体能力は……。ちょっと流石に、アケルの獣人にもいないの。アル様、大丈夫だよね?」
「……強い。それにあの魔力量、強化に回したらどれ程の戦士になるっていうのかしら。でも、心配いらないわユニ。相手はあのアル様なのよ」

 舞い上がった草の幕が晴れ、そこには不敵に口元を歪ませた、セオドアの姿だけが立っている。

『かぁ〜ッ! あんた本当にまだ魔王じゃねえんだよな?』
「ああ、こんな爽やか青年に、楽しい事を何ひとつ知らないまま王になれとか、冗談キツ過ぎだろ」

 背後に立つアルフォンスは、セオドアの脇腹へ、鞘に納まったままの夜切の先を向けて答えた。『抜身ならば終わっていた』と言わんばかりのポーズに、セオドアはフッと笑みをこぼす。

『どうせ魔力量じゃあ、敵わなねえんだから、せめて獣化だけで一撃かましたかったんだけどよ。贅沢過ぎたか。……【肉体強化】ァッ‼︎』

 爆発的な魔力が、瞬間的に高まった直後、アルフォンスの肩口で空気が弾けた。術の発動から上段回し蹴りを放つまで、その余りの一瞬の出来事に、再び獣人姉妹は感嘆の声を漏らす。

「一瞬!? あの一瞬で強化し終えた!?」
「すごい! 魔力の流れを完全にイメージし切ってないと、あんな速度はムリなの!」
「セオドアの戦い方は、老練な戦士タイプだと思ってたけど、 魔術師の資質も一流だったのね」

 獣人は魔力の保有量が高い。しかし、魔力を本能のまま肉体強化に使う事は出来ても、魔術を使うために体内で練り上げるような運用には向かない。だからこそ、魔道具や魔術印によって、魔力を強制的に術式化するしか出来なかった。

 代わりに肉体強化の技術は、人類では最高の素質を持って生まれてくるともされる。それでも、このセオドアの肉体強化の速度は、獣人姉妹が驚くに値する、異常なものだったのだ。

「ハリード自治区に現れたオルタナスは、スライムと同化したと言っていました。霧の女王エスキュラも、古代の蛇神のような姿から、最期は少女に戻りました。 魔公将は他の魔物と、同化する能力があるようですね」

 ソフィアの見解に、エリンは眉を寄せながら、うなずいた。

「セオドアは……獣人じゃないって事ね」
「え? じゃあ、アースラさんも、龍人族の亜種みたいな感じだったけど、違うってこと?」

 さっきまで近くにいたはずのアースラの姿が見えず、スタルジャは辺りを見回すが、すぐにまた二人の戦いに目を奪われた。セオドアの猛然としたラッシュが、草原に暴風の如き唸りを響かせ、アルフォンスに襲い掛かる。正拳、爪撃、貫手、肘、膝、そして縦横無尽の足技が。そのどれもが、一撃必殺の威力を乗せて放たれた、超一流の体術である。

 大勢が一斉に剣を振るうような、絶え間の無い風切り音が続く。時折、それらの攻撃がアルフォンスを捕らえたかに見えても、すぐに彼の像がボヤけ、セオドアの攻撃が空を切る。

『チッ! ─── 【火属ファイア性付与・エンチャント】』

 セオドアの言霊が苛立たし気に紡がれた瞬間、アルフォンスの鳩尾みぞおちに向けて放たれた前蹴りが、閃光と爆音を立てた。

 【属性付与エンチャント】は、対象物に魔術の力を与える、補助魔術の一種である。火、水、土、風、光、闇、あらゆる性質を持った魔術を、武器や防具にそなわせる事が可能となる。例えば、火属性の魔術を付与された剣で物を切れば、切り裂かれた傷口が燃え上がるなど、殺傷力を大きく上げる高等魔術。

 それまで紙一重でかわし続けていたアルフォンスも、鞘の先で衝撃を逃しながら、後方に大きく飛び退いた。しかし、着地の隙を与えずに、燃え盛る足跡と火の粉の線を残して、セオドアは一気にアルフォンスの懐へと踏み込んだ 。

『─── 【爆炎フラム・榴散グラネイド】ッ‼︎』
「……!」

 全体重を乗せて、セオドアの巨大な拳が打ち抜かれた瞬間、その体に付与されていた火属性魔術が爆発する。その爆炎から放出された無数の火球が、まるで意思を持ったかのように、アルフォンスへと襲い掛かり小爆発を繰り返した。

「「「─── ッ⁉︎」」」

 その余りにも苛烈な爆炎の連続は、空をも焦がし、見守る五人娘達に動揺を走らせる。だが、セオドアはそれで止まる事なく、背負っていた鉄板の如き大剣を構え、在らぬ方向へと振り下ろす。

 ガ……ギイィィ……ンッ‼︎

 凄まじい音と衝撃波が、草原をさざめかせ、山々に轟いた。辺りに散る火花が閃光となって、巨大な満月の明かりを、空へと押し返す。

「今のは流石に焦った。付与した属性魔術を、一瞬で攻撃魔術に置き換えるとは、考えた事も無かったよ」
『どぉこがだよ! 火傷ひとつ負ってねえし、今も涼しい顔して、俺の大剣受け止めてンじゃねーか! なぁんでそんな細っちい得物で、俺の武器が受け止められてンだ? なんなんだよ、その魔剣はよぉ……。いやンなるぜ』

 ふふ、とアルフォンスは笑みをこぼすと、鉄塊の大剣を押し返し、夜切の青白い刀身を翻して虹色の光をきらめかせた。夜切が如何な業物とは言え、セオドアのあの一撃を物理的に真っ向から受けては、確かに軽く弾け飛んでいただろう。

─── 何故、剣身よりも遥かに大きな怪物を、達人は両断せしめるのか

 かつて炎槌ガイセリックの投げ掛けた問いを思い出し、アルフォンスは己の愛刀との絆を、誇らしく感じていた。

「武器の剛性と弾性、角度。身体による衝撃の吸収といなし。そして切っ先まで覆う闘気。……それと、相棒との信頼関係だな」
『訂正だ。いやンなるのは、その魔剣じゃねえ、親父どのの剣技だわ』
「いや、俺の剣技はまだ、直剣のクセがキツイらしい。刀を使った戦い方じゃないって、よく夜切に叱られる」

 アルフォンスがその名を口にしただけで、言霊が紡がれ、夜切はアルフォンスの生命力をエネルギーに変えて更に剣気を上昇させた。

『確か……カタナだったか、魔界より遥か西、最果ての島国のモンだったっけなァ。なるほど、どっちもバケモンか、不足はねえやなッ‼︎』

 セオドアの大剣の一閃を、妖刀のしなやかな切先が、青白い光を残して柔らかにいなす。その凛とした金属の擦り合う音を皮切りに、形状もサイズも全く違う刃と刃の、肉薄した剣舞が始まった。いつものセオドアには、不釣合いなほどに長大だった大剣も、獣化でふた回りも巨大化した今、最適な得物となっている。

(なるほど。ろくに刃も引かれてない、鉄塊みたいな剣。これでもなければセオドアの力に耐え切れない。そのためか)

 セオドアの剣技は、その見た目に反して、老獪ろうかい。一撃がかすめるだけでも、戦闘不能必至の悪夢のような膂力りょりょくと質量を誇りながら、それら全てが次の一手へと流れるように繋がっている。誘い、引き込み、嵌め込む。巨体をフルに活かし、計算され尽くした脚の運びが、アルフォンスの行動を制御していた。

 ギイィィ……ン! シュラァ……ン!

 段々とアルフォンスの対応に、回避から受け、いなしの頻度が増えて行く。セオドアの仕合の組立てが、彼の剣技に追いつこうとしている証左であろう。気がつけば、ふたりとも笑みすら浮かべて、針一本の上を歩むような命のやり取りを楽しんでいる。
 やがてふたりの闘気と剣気が高まり、周囲の草がその気に触れるだけで、風に散るほどの高まりを見せた時。

─── 両者が動いた

『……グゥオオォォォォッ‼︎』
「すぅ─── 」

 切り上げた大剣を引く動きを、そのまま腰溜めの動作に切り替え、セオドアが吼える。猛烈に高められた闘気が、空気とぶつかり、光の粒子を舞い上げた。対してアルフォンスは細く鋭く息を吐き、右手で夜切を中段に、左手で顔の前に手刀を立て祈るように構える。彼の体からは闘気の類いが消え、静かに髪と衣類が風を受け、ざわめいていた。

 ギャリッ!

 大きく踏込み、投擲とうてきするようなモーションから、逆手に握られた鉄塊の大剣が、横薙ぎに一閃。風切り音すらないがしろに、アルフォンスの首へと迫る。

 速度、範囲、威力。そのどれを取っても、ガードすら不可能な絶望の一撃が、月夜の草原に煌めく。大剣がアルフォンスを捕らえる瞬間、そこにいた者達は、セオドアの前に突如現れた青白い半月に目を奪われていた。

 キュンッ! シャリィィ……ン!

 鈴の音のような、涼やかな金属の擦過さっか音が響き、セオドアの剣先が地面に突き刺さる。その勢いにセオドア自身の体も浮き上がり、地面に叩きつけられると、その喉元に青白い妖刀の切先が突きつけられていた。

『─── グッ⁉︎ ま、参った……!』

 呆然としながら、思わず降参を告げるセオドア自身が、己の言葉に驚いている様子だった。それを見ていた五人娘も、思わず息を呑む。

「い、今のは……⁉︎」

 エリンの震える声に、スタルジャが緊張の面持ちで説明をする。

「片手で構えてた刀の腹で、セオドアの剣の重心に引っ掛けたんだよ。闘気を消して、逆にセオドアの闘気を刀に吸い付かせて、テコの原理みたいに刀をグルンって回したの。あんなに勢いがついてたら、セオドアも自分の力で投げ飛ばされちゃう」
「よ、夜切の奥義? でも、あれって上段からの斬りおろしに当てる、返し技じゃ……?」
「うん、そう。多分、アルも横薙ぎの攻撃に使うのは初めてだよ。『霞鏡月かすみきょうげつ』。本当は剣を回す残像で、ぼやけた満月みたいな円が浮かぶんだけど。横からの攻撃に合わせて、タイミングをずらしたんだね。だから半月みたいな残像が浮かんだみたい。あんな使い方、実戦でいきなり出来るなんて!」

 上から縦に下される軌道なら、弾くだけでも防ぐ事が可能だが、横ぎの軌道を下に向けてさばき、相手を投げ飛ばすともなると勝手が違う。元よりアルフォンスが努力の人であるのは、夢の世界での鬼のような修練で分かっていたつもりでも、その裏付けとなる才能をまざまざと見せられて彼女達は言葉を失っていた。

 だからこそだろう、アルフォンス自身が一番緊張していた事には、誰も気がつかなかった。それを食らったセオドア本人でさえ。

「ふぅ。剣技勝負はもういいか?」

『ああ、やるんじゃ無かったぜ。こんなに差があるとはな……』
「いや、最後のはちょっと危なかった……」

 そう言って、額の汗を手の甲で拭い、アルフォンスは微笑む。つられてセオドアも歯を見せて笑うと、むくりと起き上がった。

『敵わねえだろうとは思ってはいたが、これだけおっかねえ闘いが出来りゃあ、思い残す事はねぇな♪』
「もうお前自身の小手調べも終わりか。単純に剣士として見れば超一流だ。これまで闘った中で五本の指に入るよ。これが戦士として、魔術だの罠だのを織り交ぜられてたら、もっと苦戦したと思う。最後は剣だけで挑もうとしてたろ?」
『へへ、察しが良過ぎンだろ親父どの。そうだとしての挑戦はここまでだ。一応人間界で傭兵として剣を振ってきたからな、剣の腕だけで挑んでみたかったんだ』
「たくっ、本当は半分も力出てないんだろ? よくやるよ……」

 アルフォンスがそう苦笑すると、セオドアはキョトンと目を丸くした後、豪快に笑い出した。

『あンだよ、もしかして全部お見通しだってのか? いつから気づいてた?』
「今確信しただけだよ。さっきの獣化の鍵言『剛なるは孤、寂寥せきりょうの毒を求めん』だったか、セオドアらしい言霊だが『』しか詠まれてない。そもそも『賢剛王』の『』がどこにも見当たらない」
『ンだよソレ! 俺が賢くねえみてえじゃねえか!』
「ははは、そう言う意味じゃない。それに、今までの魔公将達との闘いは、人の範疇はんちゅうを超えてた。最強の魔公将『賢剛王』って言う割には、申し訳ないが中途半端過ぎる。アースラについても謎が多いんだ」
「あら? パパ上さま、ワタクシの事が気になりますの♪」

 頭上からはんなりとした声が響いて、上空からアースラがすぅっと降りてくる。

「ああ、今まで聞いた魔公将とか、魔界の話の中に、アースラの話が皆無だ。ふたりは夫婦だと言ったが、馴れ初めらしい話も無ければ、ふたりがいつ魔公将同士合流したのかの話もない。賢剛王がペアなんて話も聞かないしな。魔公将に同化の力があるのなら、その逆もまたあるんじゃないかってな」
「流石はパパ上さまですわね♪ セオの力だけでなく、ワタクシの存在にまで思い至りましたのね。それでこそクヌルギアの王に相応しい、高き叡智と洞察力です」

 アースラは地に降り立って、セオドアの隣に立つと、抑え切れないといった笑顔で語り出す。

「人界にやって来た時、ワタクシたちはまず、人を理解しようと考えましたの。でも、それには賢剛王のままでは、力があり過ぎて、人界に溶け込む事すら危ぶまれましたわ」
『で、俺達はふたつの存在に別れて、協力関係を作る事にした。力も知性も下がるが、むしろ絶対に裏切らない二人組って方が、色々と生きるには都合が良いからよ』
「セオドアは男性的な部分、攻撃性や野心、論理、そして力を─── 」
『アースラにゃあ、女性的な部分、慈しみや優しさ、理想、そして知性を─── 』

 そうして、セオドアとアースラが生まれたってのか……!

「そ、それって、魔界で転生した時、ふたりの人格はどうなるんだ⁉︎」
『心配ねえよ! 元々が同じ人格、今は離して強調してるだけだ。消えたりするワケじゃねえ。親父どのが消そうとしない限りな』
「そんな事するはずがないだろ!」

 魔公将は、主である魔王の思い通りに、人格すら作り変えられる。セオドアの哀しげな表情に、思わず声を荒げると、ふたりは顔を見合わせて笑った。

「うふふ、それだからあなた様をお慕いしているのですわ♪」
『ああ、早えとこ俺らをよ、解放してくれや。あのクソハンネスの契約からよ』

 アルフォンスはしばし目を閉じた後、深く静かに頷いた。その仕草にアースラは、目の端に涙を浮かべて微笑むと、謡うようにそれを唱えた。

─── 【賢なるは孤、無情の咎を求めん】

 白い龍人の姿となった彼女は、セオドアと手を取り合い、歓喜を噛み締めるような表情を浮かべる。そして、ふたりの口から、最後の鍵言が告げられた。

─── 【賢、剛、孤独の毒を煽りて、孤高の道を歩まん】

 神気にも似た、莫大な魔力が噴き上げ、世界を白く塗り潰す。ふたりの影が重なり合い、更に魔力が跳ね上がると、今度はその影の中心に向かって魔力が凝縮されていった。

 そして訪れる静寂。巨大な月が煌々こうこうと照らす草原に、まるで最初からそうであったかのように、それは立っていた。膝まで伸びた真っ白い髪、ガラス細工のように整った両眼に光る紅い瞳、白いローブ様の衣服からスラリと伸びた長い手脚。
 中性的なその若者は、にこりと優しげに微笑むと、アルフォンスに一礼する。

「ああ……やっと逢えました父様。ボクは魔公将、人界に渡った最後のひとり。
─── 賢剛王プラグマゥ」

 凛と澄んだ声が、まるで言霊のように、心に働き掛ける。目の前の美しい青年が、アルフォンスの深層からかすかな震えを呼び起こさせた。

 この魔公将は、間違いなく今までの魔公将とは比べ物にならない、絶対的強者だ。アルフォンスは、そこにいるであろうセオドアに語り掛けるつもりで、一言呟いた。

「やっと出して来たお前の本気、ちょっと俺には荷が重過ぎなんじゃねえか? 勝てるか分かんねえよ、流石にこりゃあ……」
「ふふふ、ご冗談を。貴方の持つ運命の大きさは、ボクなんか小脇に抱えても、何の障害にもならないくらいでしょう?」

 こいつを小脇に抱えられるくらいじゃないと、魔王にはなれないと言う事かと、アルフォンスは苦笑してスッと手を挙げた。

「─── 【着葬クラッド】ッ‼︎」

 ここに来て、初めてアルフォンスは鎧を着けると、最初から最大出力の魔力を噴き出させた。それだけ、今目の前にいる存在が、桁外れな力を秘めていると感じ取っていた。

作者のつぶやき

実は元々、
最後の魔公将の事については、
何も考えずに書き進めていました。

全体の流れから、
そろそろ伏線を出さなきゃなと考え始めた時、
『実は別々のキャラが、それぞれ最強の魔公将の分体だったら、話し膨らまね?』とか思っちゃったわけで。

なんら設定を考えていなかった『アースラ』を、
一人の人物像から切り離された女性的な部分として、
物語に登場させたのです。

とんでもなく賢くて強い賢剛王なので、
女性キャラでも、
どこか女性に偏っていないキャラとして描く。

登場する割合として、
出すぎず出なさすぎず、
キャラは立っている。

これはぶっつけで書いていくには、
なかなか骨が折れるものでした。

当時は毎日更新で投稿していましたからね。
下手に後から書き直しも出来ないですし。

とは言え元々が、
考え込んで練り込んで話を作るタイプではないので、
パズルのように必要な会話を組み立てていくのは楽しい時間でした。

【続きは下の『次へ』】

\ ▼どちらかをクリックで応援お願いします!▼ /

このまま読む

同章の他話

関連資料リンク

コメントをどうぞ

コメントは承認制です。当方で承認されるまでは記事内に掲載されません。

過剰な煽り・加害性等が認められる場合や著しい事実誤認等が含まれている場合は承認しません。

承認後でも、問題があると判断した場合はこちらの判断により削除する可能性がございます。

※メールアドレスが公開されることはありません。