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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第九章 適合者

第十話 守護神契約

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悪夢のような敗北から少しずつ前に進み始めるアルフォンスたち。

エリンとユニはより強くなる事を近い、
姉妹で協力する事を誓いあった。

アルフォンスたちは、
スタルジャを囚われた精神世界から救い出すために、
あらゆる方法を探っている。

そんな最中、
再会したディアグインから、
神威を妨害する方法を教えられる。

すぐに研究を始めたローゼンにより、
ソフィアの神威を抑え込む訓練が始まった。

そして、
更にその副産物として、
ローゼンは守護神契約の秘密に辿り着いていた。

 褐色のつややかな肌を、ぬるま湯で絞った布で拭く。眠り続けるスタルジャは、ソフィア達が毎日清拭してくれているが、俺も気がついたらこうしてせめて顔位はと拭っている。肌の乾燥を防ぐため、彼女の健康状態を見るため、そして少しでも関わっていたいという気持ちからだ。彼女は綺麗好きだったし。

 まぶたがピクピクと、わずかに痙攣した。夢を見ているのだろうか? うなされる事は無いが、彼女の中で何らかの処理がされている。彼女の意識が、奥底にでも確実に息づいている証拠だ。

「じゃあ、始めるですか?」
「ああ。頼むよローゼン」

 ベッドの隣に置かれた椅子に座る。ローゼンはスタルジャの額に、宝石の埋め込まれたサークレットをそっとはめた。彼女の作った魔道具だ。

 奇跡の波長を調べていたローゼンは、守護神の契約にも、独自の波長がある事を見つけ出した。魔術による契約と、守護神の契約は、根本的に違う。魔術による契約はそれを履行する為に、術式でペナルティをつけたり、強制力を持たせるだけだ。力を分け与えたりは出来るが、魂に深く繋がるような、運命に影響する契約は出来ない。
 それに対して守護神の契約は、運命すら変える程の、深い魂の結びつきが発生する。守護神とされる、高度に研ぎ澄まされた魂の持主以外、普通の人にはその契約は不可能だ。これから俺は守護神として、スタルジャを契約者に、守護神契約を結ぶ。

「魔王としての『魔力の分配』は、ご存知の通りスタちゃんにも行われているです。その繋がりは一方的ですが、契約に似て、かなり深い所に繋がってるですよ。そこを利用するです」
「そう言えば、魔力は魂の器に溜められるんだもんな。魔力を人に渡す魔術ってあるけど、あれって結構大それた事だったのな」
「本来、魔力の譲渡だけでも、一般的には高度な技術ですからね〜♪ それを無意識にやってしまう魔王の特性って、それだけでも驚異的なんですよ?」

 椅子に座る俺の両肩に、ソフィアが後ろから手を置いて、うふふと笑う。守護神でもない俺は、これから彼女に、契約の誘導役をやってもらう。

 守護神と契約者は、深く魂にその絆で結ばれる。ミィルを媒体にした、夢の世界の構築が不可能だと分かった今、スタルジャの精神世界にアプローチするために試す価値はある。ソフィアはオルネアとして、ひとりの適合者としか契約出来ない。そして、ティフォを始め、普通の守護神では、相手の意識が無ければ契約出来ない。魔王の力で、スタルジャの奥深くに魔力で通じてる俺だからこそ、契約締結の可能性があった

「じゃあ早速、ダーさんの『守護神契約』始めるですよー。契約自体は、経験者のソフィたんに任せれば、問題ないです。後は勝手に分配される魔力を、このサークレットが、守護神契約の波長に換えてくれるです」
「アルくん、何もしようとしなくていいです。頭の中にスタちゃんの事をイメージして、そこに集中してて下さいね」
「分かった─── 」

 頭にスタルジャの姿を思い浮かべる。浮かんだのは、シリルの妖精王宮殿で、初めて踊った夜の彼女だった。月明りの下、共に歩むと誓った時の、嬉しそうな彼女の笑顔がはっきりと浮かぶ。あの顔は忘れられない。

─── 其は命運の栄賛えいさん、魂のちぎりなり……【 受 諾 せ よ 】

 ソフィアの声と共に、肩に置かれた手を通して、温かな何かが全身を駆け巡る。その圧力が、上がったり下がったり、こそばゆい感覚が体内の奥底で感じられた。

 直後、膨大な数の風景が、頭の中を流れていく。これはスタルジャの記憶だろうか……。一瞬にして流れていくそれらの中に、彼女の感情が温かく冷たく、柔らかく鋭く俺の中に触れていく。様々な人々の顔が、景色が浮かび、彼女を形作るものが垣間見えた。そして最後に彼女の両親の温かな笑顔と、俺の笑顔が浮かんで、光の中に消えた

「……終わりましたよ。確かにアルくんの守護神契約は、スタちゃんと結ばれました。あれ、アルくん……?」

 頰に涙が伝っていた。何が悲しいとか、そういうのはない。ただ、涙だけがポロポロと溢れた。

「俺ってさ、あんな顔で笑うんだな……」

 最後に浮かんだ俺の顔は、自分の思っている印象とは、どこか違っていた。スタルジャからは、ああ見えているのかな。

「ふふ。アルくんの笑顔は素敵ですよ? スタちゃんだって、早く生アルくんが見たいに決まってます」
「そうだと……いいけどな」
「─── 無事、完了したですね?」

 自分ではよく分からないが、ソフィアは自信満々に、契約が結ばれているのが見えていると言う。ローゼンはウキウキした様子で、無地の加護カードを取り出し、スタルジャの手に持たせた。その手に、透き通った結晶のようなものを、そっと触れさせる。成人の儀に使われる『マナの雫』を、擬似的に作ったものらしい。儀式の流れで行けば、これで契約が確定して、加護や能力を授かる。人によっては、同時に魔力も跳ね上がったりするわけだが……。

 スタルジャの体から、青白い魔力の光が、そよぐように吹き出した。その魔力の高まりが余りに強大で、建物の危険を察知したソフィアが、結界でスタルジャを覆う。

 ドム……ンッ‼︎

 球体状の結界の中から、強烈な閃光が発せられ、空気が大きく揺れた。音も遮断するソフィアの結界でなければ、今のでこの屋敷は崩壊していたかも知れない。光が収まると、結界の中では粉々に砕けたベッドの瓦礫の上に、仰向けに寝たままのスタルジャの体が浮いていた。

「こ、これは……。相当な強い契約ですよ? スタちゃんの魔力が、アルくん並みに……」
「だ、大丈夫なの……か?」

 結界が解かれ、浮いていたスタルジャを抱き上げると、彼女の手に握られていた加護カードがパシュッと光った。

「あ、加護が書かれたみたいなのです。どれどれ〜♪ あっ…………」
「何だよ? どうなったって?」

 ローゼンは加護カードを、後ろ手に隠すようにして、後退っていく。

「うぐっ、ほ、ほら。女の子の個人情報なのです。殿方のダーさんは、遠慮するとこなのですよ」
「いやいや、ちゃんと契約出来てんのか、確かめないとダメだろ⁉︎」
「そうですよローゼンちゃん。独り占めはいけないんですよ?」

 それでも渋るローゼンに、久々の触手発動で身動きを奪う。いや、普通なら彼女にそんな事しても、簡単に触手を引き千切られるだろうが、動揺していた彼女は『ひゃうん♡』と甘い声を出して縛られた。
 その手からスタルジャの加護カードを取って、内容を確かめる─── 。

◽️スタルジャ

守護神Ⅰ【※※※※※】
守護神Ⅱ【すごい半端者】

加護Ⅰ【※※※※※※】
加護Ⅱ【すごいヒモ】

「─── ブフォッ⁉︎」
「は、はぁッ⁉︎ この『Ⅱ』の方が俺なのか⁉︎ 前々から思ってたけど、これ誰が書いてんの? 何でこんな攻める姿勢なの⁉︎」
「「ぎゃははははははッ‼︎」」
「オイそこのふたり、笑ってんじゃねえッ‼︎」

 ローゼンも俺から隠そうとしてくれてた割に、ソフィアが崩れると、決壊するかのように笑い崩れた。『すごい半端者』の『すごいヒモ』って何だよ。確かに勇者でも無ければ、魔王でもないんだけどさ。これじゃあ、ただの甲斐性無しじゃねーか!

「ぶひっ、ほ、ほら……取りようによっては『凄い』って、高評価の意味かも知れないじゃないですか。ひ、表記が……ぷぎっ、紛らわしいだけで……ぷがっ」
「ブタ鼻鳴ってんよ?」
「キヒッ、ダーさんは、ヒヒ……。は、初めてのウヒッ、守護神契約なのですヒヒ……。こ、これから……あ、だめ、フヒヒヒヒ」
こらえかた気持ち悪いよ?」

 もう何しても笑いにしかならないふたりを、廊下に転がしておく。粉々になったベッドを、何とか魔術で再構築して、スタルジャを寝かせた。誰の屋敷か未だに聞いてないけど、どえらい高級品なのは分かるし、怒られるのは嫌いだ。
 スタルジャは安らかな顔で、すうすうと寝息を立てている。もう、魔力は馴染んだのか、さっきまでのような爆発的な圧力はもう無い。でも、これでスタルジャと繋がれたんだよ……な?

 俺には守護神や加護を、判別する力は無い。彼女から流れ込んだ、記憶や感情も、特にくっきりとは残ってない。ただ、胸の奥には、気苦労が重なった時に残る、気怠い疲労感のようなものだけが残っていた。

 ※ ※ ※

 くつくつ……。

 うれしい音、甘酸っぱいにおいと、鍋の音。目がさめたら、私はパパお気に入りの、ロッキングチェアで寝ちゃってたみたい。

「……ん、あれ? ママ?」
「ふふ、やっと起きたわね。こっちにいらっしゃい、そろそろ出来上がりよ。味見してみる?」
「え! もしかして、ベリージャム⁉︎ するする! 味見するーっ!」
「本当に好きねぇ〜。ふふふ、じゃあね、まずは手を洗ってらっしゃいなスタルジャ」
「はーい」

 ベリージャム! ママのつくるベリージャムは、里一番だってみんな言ってる。私もママのベリージャム、だいすき!

 コンコンコン……コンッ

 パパはまた、農具のお直しをおねがいされたみたい。

「パパ? こんどはだれから、おねがいされたの?」
「ああ。ヘイロンが結婚するからな。道具を分けてやりたいって、ファム爺さんから頼まれた」
「んふふ〜♪ けっこんかぁ〜、ステキだなぁ!」
「─── まだ早い……いや、ずっとうちに居てもいいんだぞ、スタルジャ」
「ええ〜、私だって、花嫁さんになってみたいもん! う~ん。でも、パパとママとずっといっしょも、いいかも……」
「スタルジャ、パパのお仕事のじゃましちゃだめよー?」

 パパは、寂しそうに私を見上げていたけど、ママの声に気がついたら、また作業に戻った。パパはクワにはまっちゃった石を、叩いて外そうとしてるみたい。ずいぶん古い道具みたいだけど、パパがお直しすると、いつもピカピカになる。私はそれを見るのもすき。仕事中のパパは、あまりおしゃべりしてくれないけど、そういうのもかっこいいと思う。
 でも、今はとにかくジャム! おけで手を洗って、すぐママの所にもどった。

「はい、どーぞ。お試しくださいな。ふふふ」

 ママがヘラからこそぎとったジャムを、さじにのせて、ふぅふぅして差し出してくれた。

「─── あむっ」
「どーお?」
「はぁ〜♡ おいしいっ! ママのジャムだいすき!」

 ママはしゃがんで、私を抱きしめてくれた。お日さまにあてたお布団みたいに、やわらかくてあったかくて、やさしいイイにおいがする。

「大好きよ、スタルジャ。ずっと一緒よ……」
「えへへ。うん、ずっといっしょ!」

 抱きしめられたママの肩の向こうに、閉めっぱなしの鎧戸が見える。古い戸だから、すき間ができてて、外の光がもれていた。あれ? 私、いつから寝てたんだろう。今日は一日、なにしてたんだっけ……?

「あ、ねえママ。今日はパンをやく?」
「そうね。今夜はパンにしましょうか」
「それなら私、ヒエン豆つんでこよーか」

 お豆のパンは、パパの大好物だもんね♪畑からつんでくるのが、私の仕事。

「あなたは、お家にいればいいのよ」
「え、でも……」
「大丈夫。ここに一緒にいればいいの」

─── カンカン……カンカンカン……

 パパ、まだがんばってる。私も何かしてあげたいんだけどなぁ。そう思って、パパの方を見ると、パパも手を止めてこっちを振り返った。

「……もう遅い、お家にいなさいスタルジャ」
「はぁい」

 もう遅いのかぁ。どれくらい寝てたのかな、私。あれ? そういえば、最近いつ畑にいったっけ。昨日はだれと遊んだっけ……?

 あれ? さっき、鎧戸の隙間から、光が見えてたよ……ね。窓の近くに寄って、すき間から外を見る。やっぱり外は、まだ明るいじゃん。どうしてパパは、もう遅いだなんて、うそをついたんだろう。

「あれ……あのお兄ちゃん、ニンゲン……⁉︎」

 道をはさんで向こう側に、人が立っていた。黒い髪で紅い眼、体が大っきくて、ちょっとカッコいい。でもニンゲンだ。この里にニンゲンがいるなんて!

 私初めて見る。そのお兄ちゃんが、こっちに向かって必死に何か叫んでるけど、声が全然出てないみたい。

 カン……カンカン……カンッ

 パパのカナヅチの音の方が大きくて、お兄ちゃんが何を言ってるのか、ぜんぜん分からない。でも、何だろう、あの人。あんなに離れてるのに、すき間からのぞいてる私に向かって、話しかけてるみたいに見える。それにあの人……初めて見るのに、どこか懐かしい感じがする。

「ねえママ? あそこにニンゲンのお兄ちゃんがいるよ」

 そう言って振り返ろうとしたら、ママはいつの間にか私の後ろにいて、私の両肩に手を置いた。

「お外はダメって言ったでしょ……。それにニンゲンは……絶対にダメ」
「ど、どうして?」

 ママの声が、なんだか怒ってるみたいに聞こえた。

 カン……。ガンッ、ガッガッ……

 なんだかママの顔が怖くて、振り返れない。さっきはあんなに、温かかったママの手が、今はすごく冷たく感じる。

「ニンゲンは怖いの。忘れたのスタルジャ……?」

 え? 私、なにを忘れたんだろ? ニンゲンなんて、初めて見たのに─── 。

「ま、ママ─── ッ⁉︎」

 後ろから私の肩をつかむママの手。その内の指が二本、へんな方向に折れ曲がって、紫色に腫れ上がってる⁉︎ 綺麗な爪が割れて、私の服に血が滲んでる。胸がドキンと激しく痛んで、動けない。

 ガンッ、ガッガッガッガッ、ガキッ

 パパの金槌の音が、どんどん激しさを増して、胸が締め付けられる。まだ石を取ろうとしてるの? なんだかすごく恐ろしく聞こえて、私は身動きが取れなかった。でも、それ以上にママが怖い。

「ま、ママ……。その手……どうしたの? す、すぐに手当……しなくちゃ……!」
「いいのよ。もう、遅いわ……」

 私の肩に何かがポタポタ垂れて、服を濡らしていく。黒ずんだ赤が、私の服にみるみる広がっていた。

「い、いや! イヤァァ……ッ‼︎」
「やっと……思い出した……? 冷たい子ね、あなたは。お外に行くなって意味、思い出したかしら?」

 ガンガン、ガキッ、ガン……ガランッ

 金槌を床に放る音がして、急に静かになった。パパの深い溜息、続けて咳込む声が聞こえた。

「ゲホッゲホッ……。もう……ダメだ……ゲホッゲホッ」

 その瞬間、頭の中にある光景が浮かんだ。自分のお腹に突き刺さった槍を、何とか外そうとして、力尽きたあの日の父の姿。

 そうだ……ふたりはもう死んだんだ! 
 ふたりは……私の目の前で、殺された─── !

 頭が混乱する、目がぐるぐる回る、吐気がして胸が詰まって息が出来ない。その私の頰を、母の血塗れの手が添えられて、無理矢理振り返らされる。顔の左側が、酷く腫れ上がった、赤黒く変色した顔。男達に目の前で蹴り殺された、あの忘れたくて、忘れたくない、最期の母の顔そのままに。

『……お外に出たら、あなたを守って、いけないじゃない』

 死ぬ。また、人が死ぬ。私を守って、人が死ぬ……! 大切な人が、奪われるッ⁉︎

「うあっ、ああ……ッ! ああああああああああああ……‼︎」

 部屋は再び、暗闇に飲み込まれて、真っ暗になってしまった。

 ※

 夢……これは夢か……?

 ロゥトの集落だろうか、ランドエルフの農村の風景に、よく似た場所に立っていた。空気や風は感じられず、これが現実世界ではないと、すぐに分かる。その判断力や、冴えた感覚があるこれは、夢ではない。
 夜切の夢の世界にも似ているが、それよりも現実感が無く、なにかが歪んでいる気がする。風景がどこか平坦な感じのする、そんな無音で曖昧な、空気感の無い世界だ。

 ここはやっぱり、ロゥトの集落に間違いない。少し歩き回って、すぐにそれが、確信に変わった。見覚えのない建物もあるが、俺の知っている家も、いくつか見られる。そして、俺が滞在している間に築いた、作業小屋や水路なんかが無い。これは、過去の風景。馬族『月夜の風狼家』に襲撃される前の、スタルジャの故郷の姿だ。

 ロゥトで俺達が滞在したのは、襲撃に焼け残った、スタルジャの家だった。彼女の実家の位置は、しっかりと頭の中に残っている。

 彼女に会えるかも知れない!

 だが、その希望はすぐに絶たれた。彼女の家の周囲が、闇に覆われていて、近づく事すら出来なかった。

「…………! ………………‼︎」

 スタルジャの名を呼び、語りかけようとするが、声が一切出ない。

『アルフォンス⁉︎ でかしたーッ‼︎』

 急に聞き覚えのある声が響いた。

「ミィルかッ⁉︎」
『そんな大声出さなくても、聞こえてるよー!』

 不思議な事に、スタルジャに向けた声は出ないが、ミィルに向けた声ならば出るようだ。

「ここはやっぱり、スタルジャの精神世界なのか?」
『そう。アルフォンスが結んだ契約で、すっごく深い所に、足がかりができたんだ』
「でも、スタルジャの所に近づけない……! 彼女に声が届かないんだ!!」

 いや、聞くまでも無い。何故、こうなってるのかは、俺自身が何故か、ちゃんと理解していた。

『まだ、契約が浅いんだね』
「……ああ、でも、でも……ここまで来れた!」

 ローゼンとソフィアに助けてもらって、守護神契約を済ませた夜、唐突にここに繋がった。『効果があった』その事実が余計に、この手が届かぬ状況を、酷く焦りといら立ちへと変えている。

『大丈夫だよ。ここまで繋げてくれたんなら、あたしももう少し、スタをつつけるかも。ありがとうね……アルフォンス』

 ミィルの気持ちが、嫌という程伝わってくる。それは、スタルジャを通して、ミィルとも繋がっているからだろうか。普段感じにくい、ミィルの温かな気持ちが、スタルジャを慈しむ気持ちが伝わる。

 その時、目の前の闇が形を変え、景色に変化が訪れた。その光景に愕然としながらも、中心にあるその姿に、俺の胸が高鳴った。

「スタルジャ‼︎」

 漆黒の円の上には、スタルジャの見て来たであろう過去の辛い記憶が、いくつもダブって繰り返し再現されている。その中心には、眼を閉じて耳を塞いで立つ、彼女の姿があった。何度も、何度も、彼女の名を呼び、語り掛けるが、こちらに気がついていないようだ。

「どうすればいい、教えてくれミィル!」
『うん……。今はまだ、どうにも出来そうにないね……』
「…………クソッ‼︎」

 目の前に彼女がいるのに、俺はまた何も出来ないのか⁉︎ ここ最近、どうしてこう、歯痒い思いばかりさせられてしまうのだろう? スタルジャの体が、数回びくんと動いて、表情が歪んで行く。今正に、彼女は闇から、辛い過去を見せつけられているのだろう。

 世界にノイズが走る。今日はここまでらしい……。俺の体が急に軽くなり、意思とは別にその場から、引きずり出されるようにして離された。

『アルフォンス、大丈夫。もっと契約を強くすればいいんだよ。起きたらさ、スタにたくさん話かけてあげてよ。諦めないで、何度でもスタが大事だってさ、何度でも何度でも教えてあげてよ』

 ミィルの泣き出しそうな声が響く中、俺はスタルジャの精神世界から、切り離されてしまった。

 眼を開いたら、自分のベッドの中だった。

 この高鳴る胸の苦しみは、俺の悔しさなのか、それともスタルジャの苦痛か。少しでも近づけた喜びよりも、彼女の苦しみを救ってやれない、如何ともしがたい歯痒さが残されていた。

作者のつぶやき

魔剣傷による後遺症『精神的外傷(トラウマ)』。
スタルジャに残された後遺症は、正に彼女の過去のトラウマから、目を逸らせない世界に閉じ込められる事。

そして、アマーリエの予言が確かなのならば、その足跡を辿ることで『宵の眠り』から覚めるという。

神威の研究から編み出した『守護神契約』によって、アルフォンスは夢の世界で、スタルジャの近くにまで行くことが出来ました。
少しずつ、希望が見えてきたところです。

ちなみに僕のトラウマと言いますと。
小学校低学年の頃、夜中にふと目を覚まして天井を見ると、薄っすらとした明かりの中で自分の顔の真上に何かある。
よく目を凝らしてみると、それはG。
しかもGの交尾中。
あまりにもあんまりな光景に、思わず布団の上で身じろぎすると、Gカップルもピクリと反応。
その反射的な動きで、ペアセットで天井から落下。
僕の顔にそのまま落ちて、逆さのまま足をバタバタ……。

元々Gは苦手でしたが、あの事件依頼、完全に恐怖でしかない存在となりました。

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