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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第四章 草原のダラングスグル共和国

第十話 精霊術

 ケフィオスの闘技場、場内に張り巡らされた天秤の呪いの中、二人は対峙した。二人の巻き上げる魔力の奔流ほんりゅうは、重力すら奪い去ったかのように、服や髪をふわふわと浮かせている。

 方や、白髪のエルフ。ケフィオスの若き長、マラルメ。
 方や、緑髪のエルフ。ロゥトの悲運の少女、スタルジャ。

 今までなら、顔を合わせる事すらなかったはずの両者が、真っ向からにらみ合う。静まり返る会場に、髪を空に舞わせる二人の情景は、まるでそこ以外の時間を止めてしまったようだった。

「春の運び手、始まりの風。『風の精霊フラウ』よ─── 疾風の衣を与え給え」

 マラルメの短縮詠唱が完了すると、緑色に光る風をまとい、空に浮かび上がる。タイロンが使っていた、俊敏性を上げる魔術だが、彼の魔術は更に空を駆ける力を与えていた。

 ダンッ

 空を蹴り、風の力で加速しながら、スタルジャに回り込む。と同時に、更にマラルメは追加詠唱を重ねた。

「焔よ、ヘーゲナの海より、盟約の使徒を起こせ……
─── 【猛炎虎ファルハン業炎狐ユグノー】!」

 宙にいくつもの巨大な炎の塊と、発熱した白い火の球が無数に現れ、意思を持ったかのように飛び回る。空気が焼け、唸りを上げながら放射する猛烈な熱波は、魔法陣の施した結界すら赤熱させた。
 マラルメが指先で指し示すと、それらはスタルジャへと一斉に襲い掛かる。

「【泥鯰ゴイフェル】─── 叩き落として」

 熱された空気中の塵が焼け、細い白煙すら消え去る程の高熱の中、スタルジャがポツリと言った。まるで友達に頼むような、軽い言葉で。

 ドッポォォ……ンッ

 突如、床が泥沼と化すと、泥を大きく持ち上げて巨大な魚の尾ビレが現れた。龍種の翼の如き巨大な尾ビレの一振りに、宙をひしめいていた炎獣達が、ジュウと音を立てて沼に叩き落とされた。その直後、再び沼の中心が大きく持ち上がり、巨大な鯰がマラルメを一飲みにせんと、大口を開けて顔を出す。

 バクンッ!

 瞬時に加速してマラルメはかわそうとするが、余りにも巨大な鯰の口は、逃げる場所も与えずに一口にする。その瞬間、鯰も沼も消え去り、風の力を奪われたマラルメが地面に叩きつけられた。

 スタルジャの周囲を、小さく縮んだ鯰の精霊が、愉しげに泳ぎ回っている。その鯰に触発されたように、次々と精霊達が姿を現し、彼女周りを飛び交い出した。

「おのれッ、小娘ッ」

 怒りに顔を歪めたマラルメが、魔術杖を振るうと、銀色に光る矢が幾条もの線を曳いて、彼女へと突き進む。

「【風の精ウィル】─── おいで」

 その一言で突風が吹き遊び、魔力の矢が小枝のように巻き上げられ、天井近くで消失する。その一瞬に、マラルメは神速の踏み込みで迫り、杖の先でスタルジャを突く。

 しかし、彼女の姿は、薄緑色の光をブレさせながら掻き消えた。直後、マラルメの背後、大分距離を置いた場所に、彼女は小さな旋風つむじかぜと共に姿を現わす。

「……草原のエルフの実力は、この程度なの? 天秤の呪いで、私の力は貴方に合わせて下げられているのよ? もう少し、工夫したらどう?」

 さして大きな声でもないのに、彼女の言葉が、会場にシンと大きく響く。人の心に刻み込むかの、呪術にも似た、強力な言霊が動いていた。

 ヒィィ……ィィ……ン……

 更にマラルメの口は軽やかに動き、複数の魔術言語を同時に読み上げ始めた。

「多重詠唱か⁉︎ 本当に存在してたのか!」

 詠み上げているのは四つか五つか、人の扱う音域を超え、神の声の如き高音が耳鳴りを呼ぶ。

「ほほぅ、流石よくご存知ですじゃ。エルフでも高位、ハイエルフに伝わる秘技。それを知るとはアルフォンス様、貴方の御師は余程高位な……?」
「精霊族だ。でも、多重詠唱は話で聞いた程度だ、教わる事は無かった。人間の喉じゃ無理だってな」
「……精霊族! そうでしたか……道理で。流石はアルフォンス様の御師、無駄がありませぬのう。より感覚的に魔術を扱う、無詠唱の遣い手であるアルフォンス様には、時間の無駄じゃろうて」

 ノゥトハーク爺が興奮気味に言う。成る程、それなら確かに俺も似たような事はしてるな。さっきの蘇生魔術だって、ほぼ同時に属性反転掛けてるし。

「そんな事より、スタルジャの心配しなくていいのか?」

 興奮が冷めないのか、ノゥトハーク爺は髭を弄りながらブツブツと、あーでもないこーでもないと考え込んでる。

「ぬ? ああ、あっちはよろしい。が違いますわい。どうせ最初から勝負では、ありゃあせんじゃろうて……」

 ……うーん、その通りだなぁ。最初に宣言した通り、スタルジャはマラルメに全てを出させて、真っ向から叩き潰すつもりみたいだ。やろうと思えば、端っから完全無力化も容易いだろうに、敢えて後手に動いて圧倒している。
 本来、戦にはそんな気の抜けた真似は、最悪手だろう。何が起きるのか分からないのが戦いだ。しかし、余りにその実力差が大きければ、強者は弱者の動きを、コントロールすらする事が可能になる。
 ……今の彼女がそうだ。それを知るノゥトハーク爺もスクェアクも、何とも詰まらなそうに戦いを見ている。

「─── 【魔導四重奏マギ・ピドワラウド】!!」

 マラルメの多重詠唱が完了し、同時展開する鍵言が宣言された。

 マナを重くして動きを奪う魔術。魔力と同調して魔術耐性を下げる魔術。空気を圧縮させる魔術。爆炎を放つ超上級魔術。全ては殺傷能力の高い、爆炎の魔術を成功させる為の、同時発動。

 スタルジャの周囲の景色が歪み、四方に超高音の光の柱が、逃げ場を奪うように立ち上がる。白熱した光の粒子が、彼女に向けて集中し始めると、熱に生じた上昇気流で風が回転し始めた。スタルジャのいる中心部は、一体どれ程の熱量があると言うのか……。

 会場の結界を易々と通り抜けた熱波が、これだけ距離があると言うのに、チリチリと肌を焼く。

「─── 【赫灼点ヌェウクレイア】ッ!」

 光柱に囲まれた中央に向かって、熱が集中、白い光が溢れ出す。そこに魔術印の浮かぶ黒い環が、スタルジャを包んで幾つも重なり囲い込むと、こちらにまで届いていた光と熱波が遮られた。
 熱のロスを無くすための、耐熱防御結界。スタルジャに向けて、光の粒子が更に加速すると、途轍とてつもない閃光が視界を白一色に染め上げた。

 直後、轟音一閃。爆心地に向かって一瞬風が吹き、爆風となって吹き返す。

「─── 【召喚サモン:ラピリスの白壁】!」

 魔法陣を取り囲むように現れた光の騎士達が、一斉に大楯を構え、衝撃を凌ぐ。

「スタルジャ─── ッ‼︎」

 俺の叫び声は、爆炎魔術に掻き消され、凄絶な衝撃波が突き抜けて行った。

「く……っ、スタルジャ……スタルジャはッ⁉︎」

 魔術にエネルギーを消費され尽くした、魔力の残滓ざんしょうが視界を白ボヤけさせている。天井からはパラパラと、白い壁材が落ちて来ていた。スタルジャの姿を必死で探していると、何かが俺の腕に抱きついた。

「オニイチャ、だいじょぶだよ? その必死さ、むー、ちとけてくる」

 ティフォが口を尖らせて、そう言いながら指をさす。

 そこには冷気を垂れ流す、銀色のまゆが浮いていた。

 それが音を立てて崩れ落ちると、強烈な冷気が電光を伴いながら溢れ出る。マラルメの魔術によって熱せられた床に、冷気が触れた瞬間、無数のヒビが走った。

「ふぅ……」

 辺りには未だ、爆炎魔術の生み出した炎属性の相が、橙色の光をほんのりと漂わせている。そこに薄緑色の髪を漂わせ、白い息を吐きながら、スタルジャは佇んでいた。

 彼女は俺に気づくと、頰を染めて微笑んだ。薄緑色の髪が橙色の光に照らされ、白金色に輝いているようにも見えた。
 その美しさに思わず息を呑む───。

「…………なんと……美しい……」

 強大な魔力を一気に消費し、地に膝をついていたマラルメが、ポツリと呟く。その声にスタルジャは微笑みを消し、彼をただジッと見据えた。

「大した魔術ね……でも、言ったはずよ? もう少し、工夫したらどうって」

 マラルメは苦しげに目を閉じて、力無く座り込んだ。もう、戦う意思は残されてはいないようだ。

「貴方の魔術は、絶大なものだわ。でもそれは貴方ひとりの意思に過ぎないの。私はその強力な魔術にも、精霊達の知恵を借りて、火傷ひとつ負わずに防げた。孤高である事は、結局は生きる強さに、結びつかないのよ」

 精霊術の真骨頂だ。

 人は弱く、精霊もそのひとりひとりは強力でも、力の使い方は一辺倒。それを術者が媒介して、人智を超えた力と使い方を導き出す。
 その思考が、今の草原のエルフに対する答えにもなっている。

 マラルメは驚いた顔をした後、力が抜けたように苦笑して、ゆっくりと深く頭を下げた。

「…………お前達の考えは正しい。ランドエルフよ。私達には、それを見習う必要があるようだ。
─── 気づかせてもらえた事に、心より感謝する」

 天秤から力が消え、ゴトリと重たい音を立て、ロゥトの三人の髪が入れられた皿の方へと、大きく傾いて沈んだ。

 意思の天秤の儀式は、ランドエルフの誕生と意思を認めたのだった。

 ※ ※ ※

 ちゃぷん……

 大浴場にひとりで入る贅沢ぜいたく。数種類のハーブが詰められた布袋が、点々と湯に浮いている。そのひとつを掴むと、甘く爽やかな香りが、鼻の奥をくすぐった。

 エルフは綺麗好きだ。

 ロゥトの集落にも湯に浸かれる浴槽があったし、こうしてハーブを入れたり、香油を垂らして身を清めていた。なぁんも無いお湯より、こうやって何か足されてると嬉しくなるのは、俺がガキだからだろうか?

 いや、気持ちいいもんは、いいもんだ!
 いつもと違う気持ち良さって、機嫌良くなるよな?

 たっぷりの湯に浸かっていたら、なんだかパガエデの初入浴を思い出して、吹き出してしまった。

「……ふふ、パガエデのやつ、最初はアワ食ってたよなぁ」

 スタルジャに臭いとストレートに言われ、泣きの入ったパガエデを、魔術で加工した即席の浴槽で風呂に入らせたっけ。熱い湯に入った経験が無いからか、身体を洗ってる時から熱がってたけど、浴槽に入った瞬間に『あつぅいッ』って。

 妙にいい発音で叫びながら、飛び出して、釣り上げた魚みたいになってた。その後も暴れるもんだから、浴槽内で滑りまくって。浴槽で溺れる奴は、初めて見たなぁ。

 キィ……ッ

 と、思い出し笑いしていたら、木戸の開く軋んだ音が聞こえた。

(あれ? 今、俺用に貸し切りにしてくれてんじゃなかったっけ?)

 『意思の天秤』の後、ケフィオスとロゥト、それぞれのエルフ同士で会談になった。途中までは俺や女神達も参加していたが、想像以上にスムーズに進んでいたため、ソフィアとティフォの俺達三人は退席した。

 正式に『ランドエルフ』は認められ、夜は一転、歓迎会になるらしい。

 それまでの間にと、旅の疲れを癒すために、この風呂を用意してくれた。今までのシコリが残るかと心配していたが、あれだけの力を見せた事と、死人が出なかった事が良かったのだろう。一挙に歓迎ムードとなっていた。
 その辺のエルフの感情は、人間と少し違うのだろうか、切替が速いと言うか、合理的なのかも知れない。これが人間だったら、グチグチとお互い難癖つけちゃう気がする……。

 カポーン

 さっき入って来た誰かが、身体を洗っているようだ。肌寒い気温の中でこの湯量、もうもうとした湯気でよく見えない。ノゥトハーク爺か、スクェアク? 
 いや、シルエットが妙に小さく見える。

 

(……まあ、誰でもいいか。白髪のエルフだったとしても、別に俺に遺恨はないしな)

 んん?

 身体を洗い終わったのか、椅子から立ち上がる後姿が目に入った。一瞬だけ湯気が流れて、白く小さい、丸いお尻を突き出したのが見えた。

 ひた、ひた、ひた……

 石敷きの床を歩いて、こちらに近づいてくる音と、白いシルエットがある。

「─── いや、えぇッ⁉︎ ちょ……ッ!」
「ふふ……お疲れ様〜♪」

 タオル一枚で前を隠したスタルジャが、頰を赤らめて、手をひらひらさせる。

 スレンダーながら、程よく薄い脂肪と、しなやかな筋肉。タオルに隠れる細い腰のくびれの下に、隠しきれない腰から腿の女性的な曲線。血色の良い艶やかな肌に、水滴が輝いていた。

「そ、そそ、外に『使用中』て……!」
「うん♪ だから来ちゃった♡」
「お、俺じゃなかったらどーすん……!」
「ええ? そんなの魔力ですぐ分かるから♪ あ……もしかして、他の人に見せたくないって思ってくれてる? んふふー、よいしょっと」

 慌てふためくこちらを他所に、彼女は浴槽の縁を跨ると、ざぶざぶ歩いて俺の隣にちゃぷんと座った。浴槽内のタオルはマナー違反、それをしっかり守った彼女は、湯に浸かる瞬間にそれを頭の上に乗せた。
 ど、どうしよう。み、見えちゃった……。

「くふふ、アル様、顔まっかーだよ?」
「……ちょぶ、ぼ、どどど、どして?」

 動揺が振り切れ、なんか猪の鼻詰まりみたいな声を出してしまった。

「あははは! ……照れてるんだぁ、アル様、かわいい……♡」

 落ち着け俺、相手は九十八歳、九十八歳……!

「お、おま……! 嫁入り前の娘がなぁ!」
「うん! もうすぐ入るね……♡」
「ぎゃふんっ!」

 喉から変な音が出ちゃったよ……。
 いや、確かに彼女の気持ちは聞いたし、俺もついて来いって言ったけど、やっぱりまだほら、出逢ったばっかと言うか……ねぇ?

「…………めーわく?」

 クリっとした瞳を揺らせて、少し泣きそうな顔をして見つめて来る。

「いや、ち、違う! め、めめ、迷惑なんかじゃあ……ない!」
「うふ♪ やったぁ……!」

 そう言って俺の腕に抱きついて、肩に頭を預けられてしまった。俺の腕には、彼女の信じられないくらい柔らかい肉が触れ、濡れた髪が肩に貼りつく確かな刺激。俺のアルフォンスが、ゴールマインして、適合者の完成。
 もう自分で何言ってるのか、分からない。

「この黒いの……もしかして神代文字?」
「えぇ! 俺の黒いかな⁉︎ ……ああ、これね」

 深読みし過ぎた俺を他所に、彼女は俺の首回りから背中に掛けて、ソフィアに昔施された神言の紋様を指で触れていた。

「ああ、ちょっと昔にな……」
「何だろう……すっごく護られてる感じがするね」

 流石、霊的に鋭いエルフ。一目でこの神言がどんなものか、感じ取ってしまったみたいだ。

「それに、すっごい筋肉だねぇ……」

 そう言って、鎖骨から胸にかけて、指を這わせた。

「……おうふ! あ、う、げふんッ」

 つい漏れた声を咳込んで誤魔化すと、隣からくすくすと甘い笑い声が聞こえたが、そちらを見る事が出来なかった。
 それからしばらくの間を空けて、彼女は俺の顔を覗き込んだ。

「ふふっ、あの時、すっごく、嬉しかったよ?」
「……あの時?」

「ほら、マラルメの【赫灼点ヌェウクレイア】を受けた時、アル様が……私の名前を叫んだの」

 ああ、流石にヤバイかなと心配になった時か。確かに彼女の名前を叫んで、取り乱してたなぁ、ティフォには嫉妬されたが。

「ははは……ちょっと心配になっちゃって。スタルジャが強いのは分かってるんだけど、つい」
「えへへ、そーいうの。そーいう心配を、男の人にちゃんと向けてもらえたの、初めてだから」

 そう言って、またギュッと体を密着させて来た。あ、うん、これはマズイね、腕とかの柔らかさじゃないねコレ。この柔らかさはアレだ、うん、そのあれだ。
うーん、九十七、九十八、きゅう……ッ⁉︎

 俺の脚に彼女の脚が乗り上げた。

 腕に絡んでいた彼女の手は、俺の胴へと回される。動悸で湯面に小さな波紋が立っているのに気がつき、余計にドキドキしてしまったが、よく見れば彼女からも波紋が立って重なり合っていた。
 彼女も緊張しているんだと思えば、少しだけ気持ちが楽になって、ようやく彼女の顔を見る事が出来た。潤んだ瞳、顔を紅潮させて、尖った耳まで真っ赤に染めている。その艶やかな唇が、微かに動いた。

「…………ねぇ、アル様?」
「ん! な、何……かな?」

 声が上擦る俺を抱く、彼女の腕に力が込められた。

「私……がんばったよね?」
「ああ、凄く格好良かったよ。マラルメに対しても堂々としてて、天秤が傾いたのは、スタルジャが真っ直ぐな気持ちで頑張ったからだよ……」

 彼女は鼻の上に小さなシワを寄せて、くすぐったそうに笑うと、更に顔を赤くして上目遣いに俺を見つめる。

「─── 『』ください」

(ご? ご……! ンごォ……⁉︎ あ、あの二人、余計な入知恵を……!)

 戸惑う俺の頰に、スタルジャの唇が押し当てられた。

「私とじゃ……イヤかな……?」
「ば……ッ! イヤじゃない、ごめん、正直ビビってる……だけだ、情けない……よな」

 なんかまた、余計な事を口走ってる気がする。でも、彼女は耳元でくすくすと笑っていた。

「んーん、えへへ。私もビビってるよ? でも、がんばらなくちゃ……て。あなたが大好きだから」

 彼女の弱々しい声が聞こえた時、自分の考える様々な不安を超えて、愛おしさが突き上げた。

 ちゅ……っ ちゅぷ……

 抱き寄せて唇を重ねた。それまで押して来ていた彼女は、一転してビクっとしながら、弱々しく戸惑うように応える。しばらく重なってから離れて、お互いを見つめ合うと、スタルジャは涙を零して呟いた。

「…………こんなに私だけ、幸せでいいのかな」

 俺は彼女を抱きしめて、耳元で何度も繰り返していた。

「いいんだ……。幸せになっていいんだよ、今までの分も」

 彼女の嗚咽が止まった頃、二人苦笑して見つめ合い、しばらく抱き合った後、今度はお互いで唇を求め合った。

 彼女の背中は、腕の中でより細く感じられて、儚さと切なさが募る。この小さな背中で、彼女が背負って来たものは、どれだけ重かったのだろうか。

 精霊と繋がり、共に歩む生き方を得た彼女に、もう孤独な思いはさせたくない。そう思って強く抱き締めれば、彼女もまた強く体を密着させて来た。

 不安を消してあげたい。

 出来れば、彼女が胸を張って満たされている世界を─── 。
 今はただ、大事だと伝える事しか出来ないのだと、そう思った。

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