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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第四章 草原のダラングスグル共和国

第十四話 ムグラ族

 ダルングスグル大砂漠の地下都市、ムグラ族の街『おわり三区』は、その名の通り砂漠の終わりに位置する。ここから先は掘り難い土質になるため、これ以上拡大はしないらしい。蜘蛛の巣状に砂漠を網羅している通路は、遥か西に600kmet離れた、シノンカ遺跡に通じている。(1kmet=1km 600km)

「あぁ〜? 砂漠さ歩いで行ぐつもりだったぁ? 馬鹿こくでねぇよ、そっだら事したらよぉ? 着く頃には干し肉だってぇ〜! あははははっ!」

 旅の目的と、ここまでの経緯を区長に話すと、長距離移動に同情を示しつつも爆笑されてしまった。

「だったらよぉ? こっがら取り敢えず砂漠ど真ん中の『だいたいまんなか一区』まで、特急車両さ使っでけぇー」
「特急車両?」
「ああ、オレらが移動すっ時に使ってんだぁ。『だいたいまんなか一区』くれえだったら、一日で到着すっがら!」

 砂漠の半分を一日で⁉︎ 魔道具みたいな物だろうか、真っ直ぐな通路があるとは言え、驚異的な移動手段のようだ。
 その日は夕食を振舞われた後、宿泊施設もあてがわれて、地獄の砂漠旅のはずが快適な一日目となった。

 ※ 

「─── こ、これに乗るの⁉︎」

 翌日、区長に案内されて、俺達は特急車両とやらがある発車場へとやって来た。移動用の通路とは別に、レールの敷かれた通路があり、貨物や人の移動用の乗物がでていると聞いていた。

「これって、昨日、お魚さん達を運んでたやつですよ……ね?」
「何だ心配かぁ? 大丈夫大丈夫、これは乗る用にでっかく頑丈にしてあっから! オレら、みぃんな使ってるしなぁ?」

 そう言いながら、無骨な銀色の金属の箱の蓋を開ける。箱の表面には所々ぶつかったような凹みがあり、ふたも歪んでいたのか『バゴン』と、強引な感じで持ち上げていた。中には三〜四人が入れるだろうか、結構広いが、内装もクソも無い、外装そのままの金属板が鈍く光っている。

「こ、これ、所々凹んでるけど、本当に大丈夫なのか⁉︎ 車輪がレールに乗ってるって事は、昨日のアレみたいに、ぶっ飛んで行くんだろ⁉︎ 雑過ぎねぇか⁉︎」

 流石スクェアク、俺達の言い難い事を、ズバリと言ってのける。機嫌を損ねるかなと思いきや、ムグラ達はケラケラと笑っていた。

「なぁんだ、そんなビビるでねぇよぉ。大丈夫だぁ。この凹みは荷物の出し入れでついたやつだし、事故なんか起きねぇよぉ! それにほれ、こんな頑丈!」

 そう言って、足でガンガン蹴っている。いや、そういう雑な所が信用出来ねぇんだがな?

「あー、一応他の仲間にも分かりやすく、印でも書いとくべなぁ」

 そう言って、箱の横に黒い塗料で『客』と殴り書いた。ダラダラと黒いのが垂れて軽いホラーだ。

「これ、後ろだけえらく強化されてるみたいだけど、何か理由があるのか?」
「んん? まあ、乗りゃあ分かるっぺ。ほれ、乗れ乗れ」

 そう言って、グイグイ押されて、俺とノゥトハーク爺、スクェアクが先頭にある箱に乗せられた。三人膝を抱えて座ると、蓋が被せられ、ガンガン叩いてめ込まれる。暗い、音がこもって怖い……。

 ん? よく見ると、繋ぎ目に隙間があって、そこから光が漏れていた。つい何となくそこから外を見ると、巨大なハンマーを引きずって、箱の後ろへ歩いて行く、屈強なモグラの姿が……。

「の、のう、アル様や。儂なぁ、嫌な予感しかせんのじゃが……」
「ははは、奇遇だなぁ、俺もだよ!」
「……これで期待する奴ァ、頭おかしいですって」

 遠くでくぐもった、ソフィアとティフォのくしゃみが聞こえた。マジかよ。

「ほんじゃ、そろそろ出発すっかんなぁ?」

 誰に言われるでも無く、三人耳を塞いで口を開き、あごを胸につけて縮こまった。対衝撃姿勢だ。

─── せーのぉッ! ズドガァァァンッ‼︎‼︎‼︎

 物凄い重力が後ろ向きに掛かる。男三人が箱の後方へ、グイグイ押し付けられ、グギギと歯を食いしばる。

 シュゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ

 尋常じゃない速度が出ているのが、振動と音、初速の重力で嫌という程分かった。慣性が働いて、段々と重圧が消えて行ったが、唸るような音と振動はそのままだった。
 こ、これを一日乗るのか⁉ 途中、何ヶ所かでトイレ休憩を挟むとか言ってはいたが。

 ズドガァァァン……ッ

 遠くで発車の爆音が聞こえた。後続が出発したらしい。

「アル様ァッ! これ、止まる時ぃッ! 後ろの奴らどうなるんだーッ⁉︎」
「もう! 考えるのはッ! 止せッ!」

 激しい振動の中、スクェアクの怒鳴り声に怒鳴って返す。ノゥトハーク爺は現実から逃げたのか、小さい精霊を喚び出して、指先で一緒に遊び始めた。

 しかし、いくら何でもあの一撃で、ずっと走る事は無いだろう。途中で止まったらどうすんの? とか、スクェアクに考えるなと言っておいて、段々と色んな事が気になり出してしまった。そんな感じで、少し余裕が出て来た時、体に掛かる力に変化が起きた。

「こ、これ、下り始めて……」

 スクェアクの言葉の途中、ガクンと箱が前のめりに傾く。

 ゴゴゴ…………ズガガガガガガッ!

「「「きゃああああああああぁぁぁッ」」」

 男三人、絹を裂くような悲鳴を上げ、再び後方に押し付けられる。ここまでは単なる助走だったと、ようやく理解出来た。

 レールには、登りと下りがあるそうな。

 案内されている時、途中に『こっちは下りだぁ』と言われたが、いまいちピンと来てなかった。今ようやく分かった、何故あんなに登りと下りのレールが離れていたのか、登りの発車場までかなり登ったのか。両方とも行く先に向けて、坂になっているのだろう。
 途中いくつか中継するのは、その都度、急傾斜を維持する為に、高い位置に乗り換えるのかも知れない。

─── は〜い加速ぅッ! ズドガァァァンッ

 どれだけ進んだのか、ぼんやりして来た頃に、再び後部に一撃。何が起きたのか全く分からないまま、俺達は悲鳴を上げ、高速で突き進んで行った。

 特急って、この追撃がたくさんありって事なのか!?

 中継地点まで、全く気が抜けない事に気がつき、グッタリして来た。今頃、女神二人はキャッキャしてるのかと思うと、情け無いような、あっちがおかしいような、複雑な気持ちになっていった。

 ※ ※ ※

「ほーい! お疲れさんねぇ〜。後ろのが全部着いたら開けるがらぁ、ちょっと待っててねぇ」

 物凄い衝撃で、前側に押し潰されていた俺達は、その声でようやく中継地点に到着したのだと理解した。二人共、何故かニヤニヤしている辺り、緊張の連続から解放されて、ハイになってるようだ。

「ぬふ、ぬふふふ」

 あれ? 俺も変な笑いが出てる。

「「「わーははははははッ!」」」

 気がつけば三人揃って爆笑していた。そのせいかな、後ろから迫る後続の音に気がつかなかったのは。

 ガコオォォンッ!

「「「ぐべっ」」」

 再び後部に押し寄せられ、内臓から変な声が出てしまった。それを繰り返す事三回、全員無事にクラッシュして、ようやく蓋が開けられた。

「初めてで特急は辛えべなぁ! まあ、すぐに慣れっがら大丈夫大丈夫!」

 そう言ってムグラが手を貸してくれた。なにが大丈夫なもんか。もう信じない。くそ可愛いけど、お前らの軽いノリは信じねぇからなッ!
 悪態をつこうにも、頭がクラクラして、その元気が出て来ない。後ろではマラルメが壊れたように笑い続け、ナウシュは何故か俺を拝んでいる。ケフィオスからの五人組の状態も似たり寄ったりだ。

「はぁ〜! 楽しかったですね♪」
「「ほんとほんと♪」」

 美女三人は、キャッキャしながら、弾んで歩いていた。

「……アル様さぁ」
「言うな! 分かってる、彼女らの名誉のためだ」

 スクェアクが、また直球で何かを言おうとしているのを察知して、俺は彼の言葉を遮った。

「ケタケタケタ……ちゅ、中央区まで、こ、これを……ふへへへ……繰り返すと言う……のかはははははは!」

 マラルメが完全に壊れたようだ。ナウシュともうひとりが、彼の脇を持って、ズルズルと運んでいる。

 同じ行程を繰り返す元気が出るまで、俺達はこの『おわりいっこまえ八区』で休憩した。温かい飲み物で、心の平静は取り戻したものの、恐怖で紙屑のようにくしゃくしゃになった俺達の顔は、もう元通りにはなりませんでした。

 ※ ※ ※

「はいなーっ! お疲れさんねぇ〜」

 ずっと箱の暗い中にいたせいで、全く時間感覚がないが、一日を終えようとしているらしい。
 『だいたいまんなか一区』に到着した

 途中、何回中継したのかも憶えていない。後半はもう、無言で休憩所に直行していたくらい、慣れたと言うか諦めたと言うか。何個か前の『難所』と言われた場所は、垂直落下かと思う程だった。
 もし、その前の中継地点で、三半規管を鈍らせる魔術を思い出せなかったら、箱の中は大変な事になってただろう。

「ありがとうな、もう帰っていいぞ」

 そう言うと、俺たちの首の周りを覆っていた、クッション代わりの召喚獣『ポンポンスライム』が消え去った。防御用の召喚魔術のひとつだが、戦闘で一度も使った事がない程弱く、初めて喚び出した。急加速の連続に、首がやられ掛けて、ようやく思い出した存在だ。
 アイツらが居なかったら、今頃ノゥトハーク爺辺りの首がやられてたんじゃないかと思う。

「はぇ〜、今のは魔術かい? そっがぁ、あんたら首長ぇもんなぁ、堪えるよなぁ。初めて見たよぉ、便利なもんだねぇ〜」

 モグラだらけで忘れていたが、彼らは獣人だ。多分、肉体強化に魔力は使えても、外に働きかける魔術化は出来ないのだろう。その内、ここにもエリンとユニが、タイロンと三人で、魔術印を教えに来たりして。三人が特急車両の箱の中で、慌てる様を思い浮かべたら、何だか和んでしまった。

「『おわり三区』の区長さんから、話は聞いてるでねぇ。宿も用意してあっがら、よ〜く休みなよぉ」

 そう言って、背中をピタピタとフレンドリーに触れて来る。騙されたらいかん、こいつらは可愛いモグラの皮を被った、超天然種族だ。笑顔でどんな破天荒をしでかすか、分かりゃしない……。

 とは言え、人柄は底抜けにいい。街を案内してくれている、ムグラの背中を見ていると、やはり顔がニヤけて来てしまう。

「こっちは商店街だぁ、飲み屋もあるし、暇だったら行ってみれ?」

 そう言って、様々な店の建ち並ぶ一角を示されて、俺の胸が高鳴った。街にはモグラだけでなく、ハリネズミ、アルマジロ、妙に丸い蛙……。
 よりにもよって、何故この面子なのかと目を疑う、小動物のオンパレードだった。

「ちょ……ちょっと待ってくれ。ムグラ族は、みんなモグラの姿をしているんじゃないのか⁉︎」
「あ〜ん? んな事はねぇよぉ。あ、そーかぁ、あんたら『おわり三区』から来たんだもんねぇ。あの辺りはまだ開拓中だから、みぃんなモグラと一体化してるだよぉ。この辺はもう開拓もねぇし、たま〜に砂漠で狩りするくれぇだから、好きに動物とひとつになってんだぁ」

 へ? 一体化?

「あー、そうじゃったのう。アル様達は知らんかったか、ムグラは獣人の中でも相当に変種でのぅ、他の生物と一体化出来るんじゃ」
「何それすごい! え、何でもいけるの⁉︎ ねぇ! ねぇ!」
「いんや、何でもって訳じゃねぇんだよぉ。なぁんも考えてねぇ奴か、人によ〜く慣れる奴でねぇと、拒絶されっちまうんだぁ」
「……て事は人は?」
「出来るよぉ? んでもなぁ、あんまし知能さ高ぇと、逆に意識さ乗っ取られっちまうでなぁ」

 そっかぁ、乗っ取られちゃうのか。ってか、人と合体しても意味ないしなぁ、ちょっと興奮し過ぎたか。
 ……う、女性陣がくすくす笑ってる。今、好奇心で思いっ切り地が出てた気がする。

「同時複数は出来るんかの?」

 彼らを知っていたはずのノゥトハーク爺も、若干興奮気味だ。安心したような、むしろ辛いような。

「魔力が高ぇもんは出来るねぇ。オレっちなんかは魔力はからきしだがら、出来ねぇけどもな」

 あ、獣人族が使う肉体強化と同じ感じの、内向きの魔力なのか。

「元はな、オレらは洞窟なんかの水場にいる、山椒魚の仲間でなぁ。なんでも一生子供の体のままで、完成体が決まっでねぇらしいんだわ。だもんでなぁ、自前の力は弱っちぐで、他の人の力借りるように進化したらしいのよぉ。古い言葉で『乗り移る』ってぇのが『ムグラ』つうんだってよぉ」

 なるほどなぁ、こう言っちゃあなんだけど、ケフィオスのエルフ達とは真逆なんだな。ムグラ族は自分より弱くてもいいから、他の力を借り、白髪のエルフは強いままにこだわって他を排斥して来たんだから。
んん? 待てよ……?

「な、なあ、獣人族の使う肉体強化も出来るのか?」
「ん、一応なぁ。でも魔力は小っせぇし、ひとつんなった生き物の力に由来すっがら、あんまり強くはなんねぇのよぉ」
「例えばだけど、魔術も使える高い魔力の人と合体して、それから強い魔物を征服して合体するなんて事は?」

 その言葉に、ノゥトハーク爺とマラルメが、あっと声を漏らした。

「ああ、出来るかもねぇ〜♪ そのまんま乗っ取られたら悲しいがら、やんねぇけどなぁ?」
「の、乗っ取らないと誓った上でならどうだ? 契約の魔術があるのだ、それでお前達の心はいつでも解放出来るとしたら……やってはもらえないだろうか!」

 マラルメが案内ムグラの手を握り、真っ直ぐに小さな眼を見つめる。

「……い、いや、ででも……お、オレ魔力弱ちぐで……は、はずかし……」
「魔力なら私が出す! 頼む! 一度でいい! 一度でいいから合体させてくれまいか!」

 モグラに『先っちょだけでいいから』みたいに合体を迫る、三十路風エルフの絵面は、なかなかにアレだ。

「ほ、本当に乗っ取らねぇか……?」
「大丈夫だ! 安全だから、優しくするから! ちょ、ちょっとだけでもいいから! ほ、ほら契約魔術の光だ、ここに誓うから!」

 ムグラは上目遣いで困った顔をして、鼻をヒクヒクさせて迷っているようだった。

「俺の魔力で戦ってみたくはないか?」
「そ、それは魅力的だぁ。最近、上のオアシスにデッケェ魔物が居座って、困ってるしなぁ」
「私と組めば、倒せるかも知れない。そうすればほら……君は英雄になれるんだ!  君、名前は?」
「え、英雄……ッ!? お、オレ、ジョセフ!」

 明らかにジョセフの顔がやる気になった。流石は子供のまま大人になる種族、英雄の二文字で、小さな眼がキラキラしている。

「んだら、ちょっとだけな。目ぇさ閉じてけろ……」
「む、分かった」

 ジョセフはマラルメの胸に手を当て、同じく眼を閉じると、全身にぼんやりと白い魔力の反応光が現れた。

─── 【獣魔合身】

 マラルメの魔力だろうか、急に膨れ上がると同時に、二人の姿が白い光に包まれた。白いシルエットが重なり、突如見上げる程に大きな姿へと変貌した。

「「「………………‼︎‼︎⁉︎」」」

 モグラの体が、大型の熊と同じか大きいくらいまで巨大化し、異様に筋肉が盛り上がっている。最早モグラではなく、巨大な爪を光らせる、大型魔獣の様相だ。その頭にあたる部分からは、これも肉体が強化されたマラルメの上半身が生えている。ムグラの肉体強化が、マラルメの魔力を使って、極限まで身体能力を引き上げているようだ。

「こ、これは……素晴らしい……」

 マラルメは、魔力の漲る自らの手を見つめて、歓喜に打ち震えるように呟いていた。

「どど、ど、どうなんじゃマラルメ! 早よ教えんか! どんな気分じゃ⁉︎」
「獣人とはこのようにして、肉体強化をしていたのか! 少ない魔力で効率的に、生命力に変換しているようだ。これは……魔術では再現出来そうにない」

 今、マラルメは、エルフ初の獣人式肉体強化を体験しているようだ。確かにあの魔力の流れは、魔術で再現するのは難しいだろう。あれは獣人の血肉と意思が、媒体となっているものだ

「アー、アー、んんっ、本当に喋れるみてぇだなぁ。いやあ、おったまげたよぉ、自分の体にこんなに魔力が溢れだのは初めてだぁ!」

 マラルメの顔のまま、ムグラ訛りで喋り出した。どうやら意識も主導権も、お互いに自由に両立させているらしい。

「「「なんだなんだ⁉︎」」」

 その姿に驚いて、ムグラ達がワラワラと集まって来た。皆、口々に珍獣珍獣と興奮している。

「見ろぉ! すっげぇだろぉ? エルフさんと合身してみたんだよぉ! 意識も自由なまんまでなぁ! ほれ、なんかアンタも喋るかぁ?」
「いや、これは凄い、意識が両立出来ると言う事は、片方が戦っている間に詠唱もブツブツ(by マラルメ)」
「あはっ、ダメだなこりゃ、この人、興奮してのぼせちまってるよぉ〜♪(by ジョセフ)」

 マラルメの顔で、コロコロ表情と話し方が変わるのは、異様なもんだ。しかし、これは想像以上にメリットが重なり合っている。ムグラの弱さをエルフが補い、エルフの力を最大限に引き出しつつ、獣人の戦闘能力が上乗せされた事になるわけだ。
 しかも、さっきマラルメが言い掛けていたが、魔術もやり様によっては、戦いながら魔術に集中する分担方式だって可能かも知れない。

「『強く在る道』『他者の力を得る事でより高みに登れる』…………まさか」

 ナウシュがそう言って、ソフィアの方を振り返った。

「ふふふ、ね、言ったでしょう? 他者と協力し合っていけば、いい事あるんですよ〜♪」

 ソフィアが微笑んでそう返すと、ナウシュはじめ、ケフィオス組がムグラに慌てて相棒を募り出した。ノゥトハーク爺とスクェアクも、ちゃっかり便乗している。

「あれ? スタルジャはいいのか?」
「うん、だって今のままの方が、私強くなるもん。それに、アル様以外と合体なんてしたくないし…… 」

 そう言って、俺の服の裾を掴んで、耳まで真っ赤にしながら俯いた。くそぅ、ここにもいたよ可愛い帝国! そんな中、ティフォは興味無さげに、ベヒーモスとじゃれ合っていた。

「ティフォは興味ないのか、合体技とかスゲェじゃん」
「ん? あたし、それ素で出来るから、べつにいーよー」

 忘れてたわ、そう言えばこの子、血肉を得た相手に変身出来るんだよな。里から出たばかりの時に、殺した熊から記憶を奪って、その熊耳だけ生やすとかやってたし。

「それにあたしは、タージャとおなじ。オニイチヤとしか、合体しないよ? 夜の意味で」

 そう言って触手を一本、俺の顔の前で変形させたが、危険を察知した俺の脳がモザイクを掛けているので何だか分からない。

「相変わらずのド直球、恐れ入るよ……。あ、それはしまいなさい。多分、公で見せちゃイケないやつだろ? モザイクかかってて何なのかよく分からないけど」

 合体した連中は、意気投合して『砂漠に魔物狩だぁ』とか言って、余ったムグラ達を連れてわいわい何処かへ行ってしまった。
 俺と運命共同体の女性三人は、ポツンと残されたが、せっかくだし『だいたいまんなか一区』の街をプラプラする事にした。

 ※ ※ ※

 こんな時の為に、小さな魔石も集めておいて正解だった。魔晶石しか無かった為に、価値が高過ぎて交換出来ないって、金欠に咽び泣いたものだ。ムグラにも貨幣経済があったが、ずっと独自に発展して来ただけあって、貨幣が全く異なる材質のものだった。

 どうもこの砂漠の地下には、珍しい鉱脈が数多くあるようで、更にはシノンカ霊王朝時代の技術が残っていて、貴金属も見た事がない物が多い。取り敢えず魔石はこの地でも有用らしく、すぐに現金化できた。意外だったのは、肉類が高値で買い取ってもらえた事だろうか。あれだけぶっ飛んだ流通技術がありながら、海の幸には恵まれていても、肉はほとんど出回らないらしい。
 そりゃあ砂漠の環境で、食肉に適した動物は少ないだろうし、家畜を飼育するにも草原がない。ズダ袋の亜空間にストックしていた、家畜の肉と、魔獣の肉が魔石より高額で取引してもらえた。

「せっかくだし、何か遊んで行くか。どうせ皆んなが帰って来るまで暇だしな!」

 そう言うと女性陣は歓声を上げた後、落ち着きなくキョロキョロし出した。よく考えたら、女神二人とは長く旅してるけど、それ程街で遊んだわけでもない。スタルジャはそれこそ、ロゥトと馬族の集落以外ほとんど出た事がなかったらしい。要は俺も含めて、街でプラプラ遊んだ経験が薄い四人なんだな。

「ま、何がどーなってんのか分からないから、ブラブラして片っ端から覗いて行こう。何か気になるもんがあったら、迷わず寄ろう」
「「「はーい♪」」」

 取り敢えずティフォは、どっか行かないようにと、手を繋いでおいた。しかし、それを見てソフィアとスタルジャも、ジーっと見てくる。仕方なくティフォを肩車して、二人と手を繋いで歩く事にした。

「そう言えばスタルジャは、今ソフィから色々教わってるんだろ? 得物は何か決まってるのか?」

 彼女は恐ろしく器用で、夢の世界での修練では、俺の呪いの武器シリーズを全て使いこなしてみせた。夢の世界だからこそ、呪いの影響は受けないが、現実ではそうは行かない。ムグラの金属精錬技術は高いようだし、良い装備でも贈ってやりたい。

「うーん、何でもOKだなぁ〜。そう出来るようにソフィア様には鍛えてもらってるし。あ、でも、槍と投擲武器は、よく褒められるよ♪」
「そうですね〜♪ アルくんの武器も、もう普通に使えるようになってますけど、スタちゃんの自前の装備も、そろそろ決めちゃいましょうか」
「え? 俺の武器って、呪い掛かってるからキツイだろ? 夢の世界なら大丈夫だろうけどさ」

 そう言うと、二人は顔を合わせてふふ〜んと笑っている。スタルジャがささっと、人の少ない場所に移動して、手を突き出した。

「─── 【魔槍フォスミレブロ】来なさい」

 彼女の手に、紫のオーブを無数に浮かべた黒い霧が集まり、一丙の槍が姿を現した。艶ひとつない、闇そのものの黒い姿、穂先は先が悪魔の爪のように曲がった、片刃の剣になっている。その刃には、細い三日月のような銀の彫りが入っていて、暗闇から微笑み掛けられているような怖気を生む。
 柄の先を補強する太刀打ち部分には、薄っすらと青黒い流動的な意匠が施され、そのせいか槍の長さが一見して掴み辛い錯覚を引き起こす。

 間違いない、俺の槍だ。彼女に呼応するかのように、槍全体に陽炎が薄っすらと揺らめいていた。

「それを握っても、正気で居られるって事は、マジで使えるみたいだな……!」
「ふふふ、それだけじゃありません。スタちゃん、フォスちゃんと『仲良し』してあげましょう♪」

「─── 【闇に微笑む銀の貴婦人よ、鬼哭を纏いて月光を斬り裂け】」

 強烈な圧迫感が魔槍から放たれた。秘められた力が解放され、スタルジャと力の循環を繰り返し、更にエネルギーを高める。その威圧感に、ムグラ達がわあわあ離れて行った。

「言霊まで⁉︎ 完璧じゃないか! 一体いつの間にそこまで……?」
「アル様、フォスミレブロからの伝言です。『夜切ばっかりでズルイズルイ、このエルフに力を貸して浮気してやる』だって。他の子たちも、皆んなジリジリしてたよ?」

 当てつけか⁉︎ いや、全然構わねぇけどな? それよりも、この感じは間違いない。

「もしかして……夢の世界で『会議室』に入ったか?」
「入ったってゆーか、拉致されちゃった☆ もう、散々愚痴に付き合わされたんだかんね? 武器にまで色目使うのは、考えもんだよアル様」
「使ってないし、むしろどう使うのか聞きたいくらいだ。まあ分かった、それならいつでも喚び出して使ってやってくれ。……ほんと、凄く頑張ってるんだなスタルジャは」

 途端に彼女の手から槍が消え、えへへと笑いながら抱き着いて来た。

「褒められた♪ 褒められたー♪」

 うん、スタルジャは喜んでいるみたいだけど、なぁんか槍からの視線が残ってる気がする。超間近でガン見されてる感じが……。

「ま、そんな感じだから、武器は見つかればいいやーくらいで、街歩きしよしよ♡」
「お、おう」

 二人に手を引かれ、頭はティフォにくりくり弄り回され、俺も気を取直して歩く事にした。外からの人が珍しいのか、一度は逃げたムグラ達が、またワラワラ集まり出す。

 いやね、ハリネズミに鼻をヒクヒクされながら、美味しいお店とか紹介されてご覧なさい。野ねずみにおすすめの雑貨屋を紹介されてご覧なさいな。

 俺がこの街に溺れるのに、そう時間は掛からなかった。

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