Episode
禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第七章 キュルキセル地方
【幕間Ⅷ】 舅の意気込み
これは、アルフォンスが母エルヴィラを救出した直後のお話。
私の名はオリアル・マルデル・クヌルギアス。第二百八十九代クヌルギア王、通称『魔王』その王太子にして、かつては正統なる後継者であった。
魔王城の悲劇から三百年、いつの日か再開できる我が息子の運命に備え、肉体を失って尚、おめおめと生き延びて来た。すでに私には魔王たる資格は無し。あるのは、愛する者達と、魔界への憂いのみ。
その息子が、満を持して帰還した。アルファード。我が息子の成長は、私の想像を遥かに超え、憂苦のつかえは大きく取り払われた。しかし、新たな懸念材料も、彼は持ち帰って来てしまった。五人の婚約者達だ。
愛の形に決まりなどはない。魔界では人界のように、一夫一妻制を強いてはいないのだから。しかし、我が息子、そして魔界の未来にあだなす存在が混じっているのであれば、私は心を鬼にして排除しなければならないだろう。私は彼女達の人物像を、つぶさに観察する事を、心に誓ったのだ。妻が生還し、喜びに浮かれているばかりでは、いつ、足下をすくわれるか分からぬのだから……。
妻は魂が弱り切り、今は深く眠っている。今はまだ、私がしっかりとしていなければならない……!
今、妻の処置を婚約者のひとり、獣人族の娘のユニとやらが行なっている。妻の容態も気になる所だが、それを任せる以上、この娘を見極める必要があるようだ。
『ユニ……と言ったか。その魔術印は何かね?』
「今お母様に施しているのは【言霊倍化】なの。本来なら、言霊の力を増幅させて、魔術の効果を上げる補助魔術。でも、今は弱り切った魂に元気を取り戻させる為に、皆んなのプラスの言葉が届くように応用してるの。大事な、とても大事な人だから」
グッと来た─── !
いや、まだだ、まだ信用するには早すぎる。
『う、うむ、ありがとう。それ以外にも色々と展開させているようだが?』
「体力の低下を底上げする為に【肉体強靭】と、緩やかに回復する【継続治癒】。あとは前向きな気持ちになれるように【祝福】を。これなら、良い夢も見られるの」
この若さで一体、いくつの属性の魔術を使いこなしていると言うのか! 今挙げた魔術だけでも、火属性、水属性、光属性の中級から上級。 それを詠唱も無しで、指先に描いた魔術印を操り、妻の回復を完全にバックアップしていた。
『素晴らしい腕だ。回復系と補助系の魔術に、大いなる才を持っているようだが、これを一体どこで……?いや、それ以前に獣人族は魔術が扱えぬはず、魔道具も使っていないようだが』
そう問うと、彼女は少し恥ずかしそうに微笑んで、妻に術を施しながら答えた。
「アル様のおかげなの。アル様のお陰で、私たち獣人族は魔術も使えるようになって、全ての種族が今は手を取り合ってるの。アル様に恩返しをしたいけど、戦闘ではお姉ちゃんには敵わないし、私なんかより強い人はいっぱいいるの。だから、私は闘うみんなを守るために、使える魔術は何でも使える、サポーターになろうって思ったの」
『……そうか。それは素晴らしい心掛けだ。さぞや姉上も心強い事であろうな』
「くす、お姉ちゃんは凄く強いの、でもアル様やソフィアさんたちには遠く及ばない。私たち姉妹は、必死なの。だから、お互いに支え合って頑張るしか無いって、よく言ってるの」
グッと来たァ─── !
ええ子やないか……。
いや、いやいや、まだだ、まだ私はしっかりしなければ……
「でも、お父様も凄いサポーターなの」
『……へっ?』
「ここで三百年も頑張って来て、アル様を奮い立たせたし、お母様をここまで支えて来たの」
『い、いや、私は妻には何も……。それにアルファードには殺せなどと……。あの子が奮い立ったとすれば、それはあの子の運命への姿勢であろう』
そこまで言うと、娘はこちらに振り向き、やや垂れ気味の優しげな目を細めて微笑んだ。
「ううん。それでも途中で諦めずに、アル様とお母様を引き合わせたの。だから救われる道が開かれた。それに、アル様の事を思って、わざとサバサバしようとしてるの、私は分かってるの」
『ッ⁉︎』
「ありがとうなの。お父様が居てくれたから、アル様は笑っていられる未来を、少しでも多く得られたの」
天使かッ⁉︎ これは猫耳の生えた天使だな⁉︎
『こ、こちらこそ、礼を言おう。我が息子を支えてくれる其方の心、私はこれ程までに心強く思うものはない─── 』
これ以上は泣いてしまいそうだ(涙は出ないけども)。私はツヴァイに後を頼み、その場から離れる事にした。
※
廊下を出てしばらく、今度はユニちゃんの姉であろう人物と出くわした。彼女の横には、巨大な魔獣が数体横たわっていて、すでに血抜きの処理もされているようだった。
『エリン……だったか? その魔獣は一体?』
「皆んなの元気を出すためよ。肉は人のやる気を高める力があるから」
『この短時間で、これだけの数を獲って来たのか……⁉︎』
いや、数だけではない。よく見れば単に大型と言うだけでは無く、魔界でも危険視される種類のものが含まれている。人界の魔獣や魔物は、魔界に比べれば脆弱なものが多いとされるが、これを単独で狩り集めるとなると……。
「こんなもの、ものの数には入らない。私は早く、アル様達と肩を並べなければいけない……。これは修練でも何でもないわ、アル様に元気になってもらうため」
『う、うむ。私は肉体と共に摂食を失って久しいが、確かに食は人の力を高める。ご苦労であったな、さぞかしアルファードも喜ぶであろう』
そう言うと、彼女はやや寂しげな顔で、口元に苦笑を浮かべた。
「アル様は優しい。だから、辛い事も顔に出さない時がある。あたしは、そう言う時にどうすればいいのか分からない。だから少しでも元気を出させてあげたいんだ」
グッと来ちゃった─── !
いやいや、落ち着きなさい私、しっかりと彼女の人となりを見極めなくては!
『ユニちゃ……いや、妹君からも話は聞いた。君たち姉妹は、アルファードの事をよく支えようと頑張っていてくれているらしいな』
「ユニが? ふふ、あの子と私はまだまだだから、死ぬ気で頑張らないとアル様のために役立てない。せめてスタルジャには追いつかなきゃ」
『スタルジャ……あのエルフの娘の事か』
「あの娘は凄い。精霊達の信頼を得て、人族なのにソフィアさんやティフォ様に、肩を並べようとしてる。それだけじゃない、自分の辛い過去と向き合って来たから、その分みんなの心を誰よりも分かろうとしてくれる。強いっていうのは、こう言う事なんだって教えてもらった」
信頼か。この娘達は、ともすればライバルの関係にあると言うのに、お互いを想い合っているようだ。獣人族は強靭な肉体に、折れる事のない闘争心が宿ると言われている。この屈強な娘の根底には、闘争心を凌駕する、心の強さへの理解があるのだな。
『ふむ、それを理解出来ていると言うのであれば、其方もすぐに強者となろう。アルファードも幸せ者だ』
そう言うと、彼女はニコリと微笑んだ。妹の笑顔にも感じたが、この純真そのものの笑顔の破壊力は、一体なんなのか!
「あたし程度で幸せに感じてもらえるのなら、アル様はここに帰って来ただけでも、幸せを感じたはず」
『……?』
「あの記憶は確かに衝撃的……。でも、アル様を支えようとしたあなたやイングヴェイ、そして家族から愛されていた過去の一端も含まれていたわ。あたしは、ここであなたが支えて来た時間は、何よりもアル様の道を照らすものだと思う」
『そ、そうだろうか……!』
彼女は『そうだ』と深く頷いた後、急に頰を赤らめてモジモジとし出した。そして、上目遣いで私を見上げ、消え入りそうな声で問う。
「あ、あの……! あ、あなたを『お父様』と呼んでも……いい……です……かにゃ?」
グッと来ちゃうんだもんねぇ─── !
魔界に人界の獣人族を誘致しよう! もう、それしかない……!
私を持ってるツヴァイまで、何故かズキュンってしてるのが、伝わるもんね!
『あ、ああ……! いいとも……!』
これ以上は顔が緩み切ってしまいそうだ(石なんだけども)。その場を去るツヴァイの、スキップ混じりの動きに、私はイングヴェイ酔いを耐えるのに必死であった。
※
翌日、妻が目を覚ました。
会話は一言二言の簡素なものであったが、許されるのなら、もう飛び跳ねたいと思った(蛙なだけに、でも動けないけど)。愛する我が妻、永遠のアイドル、エルヴィラが弱々しくも微笑みかけてくれたのだ! きっと、ユニちゃんの魔術も効いていたに違いないし、エリンちゃんの優しい気持ちが、作用したのだろう。そうに違いない。
おっといかん、浮かれている場合ではない。オリアル・マルデル・クヌルギアスよ、お前は息子の為に、残りの三人を見極めるのだろ!
フワ……ッ
ん? 何やら部屋の中を、微かな光が飛んでいる。それはエルヴィラの近くを愉しげに飛び、時折体に触れているようだ。
これは精霊か? 魂だけの存在となってから、こういった存在もより鮮明に見えるようになったが、この方星宮内で見かけるのは初めての事だ。安らかに眠る妻に、悪影響はないようだが、これは一体……? そう思って見ていたら、もう一体、またもう一体と増えて、妻の周りや私の周りを飛び回っている。気になった私はイングヴェイの……何番目だか忘れたが、彼に頼んで発生源を探る事にした。
『─── これは……其方の仕業であったか』
方星宮最下層、妻が隔離されていた階層に、光の奔流とも見まごう程の、精霊の渦が生じている。そこで舞うようにして、精霊達と戯れているのは、婚約者のひとりスタルジャだった。昨日、エリンちゃんから聞いていた通り、彼女は精霊達と近しい存在であるようだ。
「あ、お父様。おはようございます。あー、えっと、本日はお日柄も良く、お父様に置いてかれまして? あれ?」
『むしろ、今、私が置いていかれそうだ。ああ、いや、そう畏まらなくても良い。それは一体何をしているのだ?』
そう言うと、長い耳の先まで真っ赤にして照れ笑いを浮かべ、バツが悪そうに口を開いた。
「うー、ごめんなさい。私、こういう時にちゃんと喋るの、慣れてなくて。なんだかエリンが『緊張で言葉遣いを荒くしちゃった』って凹んでたから私まで緊張しちゃった。あ、今は精霊さん達にお願いして、この建物内を良いエネルギーの通り道にしてもらってるんです」
『良いエネルギー?』
「この宮殿は地下にあるでしょう? 堅牢な守りで安心出来るけど、ちょっと足りないの。お日様のエネルギー、風のエネルギー、空から注ぐ雨が連れてくる水のエネルギーとか」
『うむ。確かにそうかも知れないが。それが何だと言うのかね?』
そう彼女に問うと、はにかんだ表情で上の階層を見上げた。
「私にはユニちゃんみたいに、人を癒す力は無いし、エリンちゃんみたいに元気付ける力も無い。だから、この建物内にいる人達に、良い事が起きるようにって、精霊さん達にお願いしていたんです」
『そうか。それはありがたい。精霊達とは話せるのかね? 何と言っている?』
「ここには悲しい想いが、詰まってるって……。でも、人を想い、支えようとするお父様の優しい心があるから、きっと直ぐに良いエネルギーが満ちて来るだろうって。みんな応援してくれてる」
『…………』
「あ、ごめんなさい。悲しい想いとか言っちゃった……」
『いや、気にする必要はない。精霊達の言う通りだ。これからはそのように、快方に向かうよう祈るばかりだ』
と、彼女は突然私に深々と頭を下げた。どうしたのかと尋ねれば、彼女は目の端に涙を浮かべて言った。
「私、アルに助けてもらったんです。凄く悲しい毎日で、自分が狭い憎しみの世界にあったのを、彼が救い出してくれました。だから、その彼を産んでくれたご両親も、私の運命の恩人なんです」
『あ、いや、私は何も……』
「いいえ、私は彼に一生をかけて、お礼をして行きたいんです。彼の大切な人は、やっぱり私にも大切で……。それに、私もご両親にお会いできて、嬉しくなりました」
『それは……どうしてだね?』
「彼がきっと、これからもっと明るく笑えるようになるから。過去の事とか、これからの事は大変だけど、でも、彼が愛されていたってよく分かったから。だから、私も彼の帰るお家のために、がんばろうって」
グッと来たよのさァッ─── !
……たぁッ、危ない危ない!
こんなんで信用していたら、アルファードに近づく女狐を見逃してしまうぞオリアル! ちゃんと見極めねば!
『ふむ、恐らく厳しい闘いとなるだろう。辛く困難な時もあるであろう……。アルファードの事を、それでも支えてもらえるだろうか?』
「もちろん‼︎ 彼となら辛くても、その先の楽しい事を信じて歩けますから。それに、だからこそ、この宮殿に幸せが満ちるようにって妖精さんにお願いしたんです」
『ここの幸せ? 君たちの幸せではなくてかね』
「例え私が途中で尽きても、私が彼に愛想をつかれても……。彼が幸せになれる場所があるなら─── 」
ちょ……っ! なん? この子なんなん? エルフって天界の良いとこだけ集めた生命体なの⁉︎ あの長いお耳は、愛を集めるためなの? わっ、イングヴェイが激しく縦揺れを始めたよ⁉︎ ヨゴレの彼には、この少女の純真さは毒だったんだ!
『い、いかんイングヴェイ、退避ッ退避ーッ』
何度か柱に激突しながら、こけつまろびつ、我々は退却するしかなかった。
※ ※ ※
数日後、アルくんとイングヴェイ軍の、圧倒的な闘いを見て、オリアル、卒業しました。アルくんはまだ、クヌルギアの鍵の影響で、力の制御に苦労してるみたいだけど大丈夫大丈夫。
そして、何よりみんなの心のこもった看病のおかげかな? エルヴィもどんどん元気になって、重湯からお粥に切り替わったんだ♪
みんな色々やってくれて、私もな〜んかエルヴィにしてやれないかなって思って、倉庫に放ってたアーマード雨蛙ゴーレム出して来ちゃったもんね。そろそろ果物くらいなら、エルヴィも食べられるかな? そう思ったら、いてもたっても居られなくて、背中にカゴ、手には竹竿を持って柿もぎに出かける事にした。外に出るのはどれくらいぶりだろうか♪
『ふんふ〜ん♫ おや?』
玄関から、外へと続く無限階段まで差し掛かった時、小さな人影が現れた。赤い髪の女の子、最初見た時は際どい格好してたけど、今は旅の町娘って感じに落ち着いている。こうして見ると可愛らしいだけの子だけど……。
─── 異界の神だ
うむ、オリアル・マルデル・クヌルギアスよ、お前、すっかり忘れていたな? 残りふたりの婚約者は、神だ。神は時に人の運命を利用する、畏れるべき存在なのだ! もし、闘いとなれば勝てぬだろうが、アルファードの為、私がしっかりしなければ。さあ! 何を企む、異界の神よ!
「あら? おふたりともお出かけですか?」
『ぬっ⁉︎』
お、オルネア! いつの間に私の背後に立っていたと言うのだ⁉︎
『ソフィアだったか? 私は妻に果物でもと。其方は何故ここに……』
「わあ、奇遇ですねお父様。私もそう思ってちょうど出て来たんです♪ 確かここに来る時、森で柿の木を何本か見たので」
「ん、ティフォも、いきたい」
何かあれよあれよと言う間に、気がつけば私はふたりの神に挟まれて、柿もぎに向かう事になってしまった。こう気さくな態度を取られると、どうにもやり難いが、相手は調律神オルネア。もしや、この異界の神と示し合わせ、私の身に何か企てているのではあるまいな?
よかろう、このオリアル、貴様らの化けの皮を剥ぎ、息子アルファードを守り抜いてみせようではないか!
「はぁ〜、お外の空気もやっぱりいいですね♪ あら、ティフォちゃん、何か元気無いですけどどうしました?」
「ん……? ん……」
そう、先程から赤髪の神は、俯いて何やら挙動がぎこちない。
これは何か、良からぬ企てを……
「あ、さてはアルくんのお父様の前で、緊張しちゃってるんじゃないですか?」
「うー……(コクリ)」
『……へっ?』
緊張? 何故? 異界の神が何に緊張してると言うのか。そう思っていたら、異界の神はうつむいたまま、何やら呻き声のように声を発した。
「……お、おー……お……」
『お? 何か言いたい事があるのかね?』
「お……おお」
『はっきりと言いなさい。一体どうしたと……』
その瞬間、彼女は潤んだ紅い瞳で私を見上げ、上気した顔で艶やかな唇を開いた。
「お…………おとーさん……」
─── ズッキュウゥゥーン……‼︎
ちょ、やめ! やめだやめだ! ハァッ⁉︎ こんな可愛い娘を疑うとか、頭おかしいだろオリアルよぉッ‼︎ 思わずよろけた私を、背後から何かがそっと支えた。
「永らくゴーレムを使ってらっしゃらなかったんですね? 無理をなさらないで下さい、私、お手伝いしますから」
エメラルドグリーンの瞳を、少し眩しそうに目を細めて、調律神オルネアが微笑んだ。これが本当に調律神オルネアなのか? よもや『愛の女神』では無いのか?
危ない危ない、この娘は紛れもなくあのオルネアなのだ。勇者に加護を与えた、リディと同じ現し身、世界の運命に手を加える最強の守護神。
─── 勇者は……壊れた。アルファードには、何を望むと言うのだ
本来神に隙などあるまい、何を企てているかは分からぬが、むしろここで行動を共にすれば何か尻尾を出すかもしれんな。
『い、いや、心配ない。少し外界の光が眩しくてな、つまずきかけただけの事。私の事は構わずとも良い』
「あ、ほらティフォちゃん、あそこに柿がなってますよー♪ お父様も早く早くー☆」
『聞いて……ないだと?』
あまりの天真爛漫さに泡を食っていたら、私の手をティフォちゃんがおずおずと握って来た。
「おとーさん、いこ?」
『うん』
かつてエルヴィラが、我がクヌルギア王家に嫁いだ時、私は彼女にこう言った。
─── 可愛いは正義
まさか妻と我が子ふたり以外に、この言葉を思い浮かべる事となるとは。気がつけばティフォちゃんを肩車して、柿もぎを楽しんでいた。
「きゃっ! 毛虫……!」
カカカカカカカ……!
オルネアがまた何やら奇跡を使って、わずかな難を豪快に切り抜けていた。何だろう、やる気の空回り? 神の奇跡のムダ遣いではないかと、ちょっと気になる。
「はぁ〜♪ こっちは大分採れましたよ、そっちはどうですかー?」
「ん、ソフィ。こっちもたくさん、たのしー」
ははは、そうだろう、そうだろう。
『って、ソフィアくん。君のそれ、渋柿じゃないか?』
「へ? 渋……?」
『知らなかったんだね、柿には甘い甘柿と、酷く渋い渋柿があってね。たいていは、こういう風に四角くてどっしりしたのが甘いんだ。その先が細いタイプのは、高確率で渋いんだよ』
「はわわ⁉︎ こ、こんなに採っちゃいました。何かこっちの方がスタイリッシュだったので……」
オルネアが地に項垂れて膝をついている。神が失敗に落ち込むのか? その光景に唖然としていると、ティフォちゃんが話しかけた。
「ん、ソフィ、さっきから、妙にはなれて採ってた」
「だってぇ〜、お父様の前でいいかっこしたいじゃないですかぁ。あっちの方がたくさん見えましたもん」
何だこれは。涙目で渋柿に謝っている姿に、神の威光など微塵も感じられないが?
『だ、大丈夫。干し柿にすればまた美味しくなるから、無駄ではないよ!』
「ふぐぅ〜、本当ですかぁ……良かったぁ」
『ほ、ほら、こっちの甘いのをひとつ剥いてあげるから、元気出して』
流石はイングヴェイのゴーレム、かつての私の刃物捌きと、なんら遜色なく動く。サッと切り分けた実をひとつ、涙目のオルネアに渡すと、パァッと表情が明るくなった。
「おいひぃです〜、これ、ほんとおいひぃです〜♪」
「あ、おとーさん、ティフォもティフォも」
『はいはい』
そのまま休憩にして、三人で秋の森を見上げながら、だらーんと足を伸ばして座っていた。
「お母様、喜びますかね〜♪」
『ははは、エルヴィラは柿が好きでね。きっと喜ぶよ』
「オニイチャたちも、よろこぶ?」
『うん、ふたりとも一所懸命採ったからね、みんな喜ぶさ』
ふたりの女神が顔を合わせて、ウフフと笑っている。何となく、アルくんがこのふたりを選んだ理由が分かった気がする。これは放っておけないよね。他の三人も純粋でいい子達ばかりだけど、このふたりは何て言うのか『無垢』だ。このふたりがいたら、アルくんは変な方向には絶対に落ちて行けないだろうなぁ。
『ソフィアちゃん、ティフォちゃん。アルくんをよろしく頼むねぇ』
「「はい!」」
一気に五人も娘が増えてしまったなぁ。この中に早く、娘のイロリナも戻してやらなきゃね。私はこの家族の幸せに、どれだけの事が出来るだろうか?
久しぶりに眺める空は、秋の深まりを告げる、高く澄んだ青色が眩しかった─── 。