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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第三章 密林国アケル

第二話 誘拐事件

「ま、また、掛かりやがった!」

 暗闇に白い光の柱がひとつ、焚き木の爆ぜるような乾いた音を小さく響かせ、ぼんやりと浮かび上がった。見張りの一人が声を潜めてそう言うと、同じくその様子を見ていた複数の男達が、身を乗り出して拳を突き上げた。

「アニキ! あんたスゲエよ! アンタの言ってた通りじゃあねぇか‼︎」
「……これで、これで見張りの数をグッと減らせる!」
「ああ、枕だって高くして眠れるってもんだぜ」

 男達は目を輝かせ、でも目を伏せたまま、俺の事を至近距離で囲み、尻尾をで付けて来た。 あ、これ、たまに街で猫にやられるヤツだ。

「お……おう」

 野郎どもに喉ゴロゴロしながら囲まれるのは、非常にアレだが計画は成功。戸惑いつつも皆と喜びを分かち合った。

 今やってたのは、魔術付与のお試しを兼ねた、村のアンデッド防衛策の実験だ。赤豹族への魔術付与をするにあたり、直接付与するには問題があった。『有効時間の限界』だ。 俺の魔力を多く込めれば、それだけ長く付与時間が伸びるが、俺が居なくなったら意味がない。
 アンデッドに致死性の効果が高い、光属性の魔術を付与した魔道具を作り、彼らの魔力を利用する形が望ましい。その実用試験として、俺は村を囲う堀を作り、光属性魔術を付与した仕掛けを考案した。

 堀の実験は大成功だ。

 ソフィアとティフォに頼んで、村の柵の外をぐるりと囲う、幅5met、深さ3met程度の堀を造ってもらった。(1met=1m)流石は神の奇跡、ほんの数十秒で堀は完成、施工前の現場検証の方が遥かに時間が掛かったくらいだ。俺はその堀の底に、村人達に作ってもらった鋭い竹槍に、魔石と魔術印を施して設置。落ちたアンデッドが触れると、光属性の【浄霊フォデング】が発動するように仕掛けた。

 触れるだけで術が発動するのに、わざわざ竹槍を仕込んだのにも理由がある。アンデッド以外の獣や魔獣が落ちた時に、暴れて魔術印を壊されないよう、さっくりと仕留める為だ。その外周には人が落ちないように、ある程度の高さにロープやツタを張ってもらい、知能の低いアンデッドだけが落ちるように工夫もしてある。

 夜になると、何処からともなくやって来るアンデッド達は、その後も次々に堀に落ちて、端から消滅して行った。掛かったのがアンデッドだったら魔石が落ちてるし、野生の魔獣だったら素材が採れるしで、臨時収入も見込める欲張り仕様。

「オレ達の魔道具の方はどうだいアニキ! いつ頃出来そうなんだ⁉」
「今、婦人会のリタさんが中心になって、銀細工の得意な女性陣に大量生産してもらってる。皆に行き渡るには三〜四日掛かるって言ってたが……。まあ、それまで待っててくれ」

 罠の仕掛けに満足した彼らは、早く自分達の手でアンデッドを撃退したいらしい。奴らには爪や武器が効きにくく、傷を負わされれば自分もアンデッド化してしまう。彼らのような接近戦専門には、かなり相性の悪い敵で、相当に苦い思いをしていたようだ。

 俺は魔術付与の術式を、魔力と相性のいい銀細工で再現し、戦闘の衝撃に耐えられるよう、硬い素材にそれを埋め込む提案をした。元々、銀細工は赤豹族の女達が担う、大きな収入源となっていた技術。魔術付与の発動と魔力の運用の為の術式が組み込まれて、かなり精巧な作りだが、彼女達は問題なく再現している。
 俺の提案は即座に形となり、銀細工技術に秀でていたリタのひらめきで、特に強度の面で改良を重ねられ生産に踏み切った。

─── 彼らの反撃も秒読み段階だ。

 ※ ※ ※

「黒いソフトハット……? ああ、君達二人をさらったって言う、あいつらの事か」

 エリンとユニが悔しそうにうなずく。黒いソフトハットは、俺達がアンデッドの気配に気づいて駆けつけた時に、仲良く喰われていた奴らが被っていた。その後に、森の中から迫って来た集団も、皆それを被っていて、大の大人がお揃いとかちょっと気持ち悪いなと思っていた。

「あたし達は、奴らにさらわれて、何処かに連れて行かれる所だったのよ。奴隷市に連れてくって、確かに聞こえたわ。でも、あたし達以外に運ばれてるのは居なかったし、馬車から何から、最初から準備されてたみたいで……」
「不特定多数の獣人が目当てじゃなく、最初から君達が狙われてた疑いがあるって事か」

 この世界には非公式ながら、奴隷の売買が存在している。亜人の奴隷は人気が高く、特に獣人族の若い娘は、高額で取引されるらしい。身体が丈夫でよく働き、魔術を使えない為、強制服従の呪いである奴隷紋を壊される心配もないからだ。……後はその見た目に、一部、熱狂的な想いを持つ層も多いと言う。
 それを思い出して、チラリと二人を見ると、頰を赤らめて目を伏せ、その恥じらいの仕草とは裏腹にピンと尻尾を立てている。
 あ、いかん。ちょっと分かるかも知れない……。

「ゴホンッ! あー、そいつらに報復したいのか?」
「……ちがう。アイツらの気配が、またこの近くに集まって来てるのよ。何か起こるかも知れないから、あ、アル様に、迷惑かけたくなくて」
「もしかしたら、あの人達は同じ獣人族に雇われたのかもって、話してたの。そうなると今、客人として滞在してるアル様にまで、何かしてくるかも……!」

 同じ獣人族が彼女らを狙った? 何故、そんな足のつきそうな事を……。

「それって、本当は犯人の目星がついてるって事か?」
「「─── ッ‼︎」」

 分かりやすいなぁ。尻尾がボワッてなったよ?

「まあ、俺も狙われる危険があるって言うなら、敵の事は知って起きたい。ここを出るにしたってさ」

 あ、今度は尻尾がションボリした! これで勝負好きとか、絶対ポーカーとかやっちゃダメな人種だぞコレ。

「……確信はない……ないけど、多分犯人は─── 」

 ※ ※ ※

…………オニイチャ、こっちは五人確保…………

…………おう、こっちも……五、六人か、確保した。ソフィアが先に何人か確保して、合流地点に引きずっていってるから、そこに向かおう…………

…………あいー♪ じゃね♡ (オラッ、立て、コラァ)(ギャーギャー)…………

 念話切れてねぇって、どっちが与太モンか分かんねぇよ。まあいい、こっちもコイツらをサッサと連れて行かねば。

「オラッ、立てコラァ! キリキリ歩かねぇと、口からひん剥いて中身裏返しにすんぞ、ッタラァ‼︎」「「「ヒィィ……ッ‼︎‼︎」」」

 黒いソフトハットの面々を、この村の周囲から探すのは、どんぐり拾いより簡単だった。アラクネの元守護神ミトンから授かった、としての能力で、森中に子蜘蛛を散らせば直ぐに見つかった。
 混乱を避ける為に、とりあえず男達を村から離れた静かな場所に集め、尋問を開始する事にした。

 ※ 

「……なあ、お前ら。この中に『バリアントダガー』って知ってる奴はいるか?」

 尋ねられる内容が余りに違うからか、男達の目に困惑の色が走った。

「はぁ? 何言ってんだオメェ、そんなもん俺達が知るわけがね……」

 バシュッ! 
 ギッ、ギイイィィ……ッ!

「「「ヒッ!」」」

 不可視にしたまま触手を放ち、繁みの中でさっきからこちらを狙って居た、やや大型の肉食魔獣を死なないように突き刺した。その血が垂れるのを、わざと男達に浴びせるように引っ張り上げて、俺の足元に押さえつけた。
 いやに胴の長い、イタチに似た魔獣は、体をくねらせて暴れながら喚き散らしている。

 ギイイィィ……ッ‼︎ ギッギギィッ!

か、何でお前が全員の頭ん中を知ってるんだ? そのハナっから否定しようとする口調は、何か俺達に話せない、後ろめたい事があるってわけだ。それに俺らが聞きたい事も、知ってるって事だよな」

「…………ッ⁉︎ な、何言ってやがんだ! 知らねえから知らねえって、言っただけだろうが!」

「あー、やっぱり知らねえか【称賛のバリアントダガー】って。ほれ、こう言う刃物なんだけどよ」

 さりげなく言葉に入れたダガーへの言霊は、俺の手にしっかりと返事を返していた。一人大声を張り上げていた男の、その隣の男の胸倉を掴んで引き寄せ、ダガーを顔の前に近づける。
 足元ではイタチ型の魔獣がわめき散らしていた。

 ギイイィィッ‼︎ ギギギィッ!

「ヒッ……な、何だよ! そ、そいつを黙らせてくれ! 悲鳴が……悲鳴がうるさくて敵わねえ! くそッ、何だってんだよ、この短剣が……」
「まあ、これをジィっと見ててみろ」

 一番怯えながらも喚いていた男は、やや寄り目になって、不審げにダガーを見つめた。

 ギギッ、ギイイィィーッ!

「─── う、うあぁッ⁉︎ な、なな、何だこれ! や、やめてくれ! そそそ、そんな……そんなもん見せねぇでくれぇッ‼︎ やめ、やめて! やめて下さいやめてください……ゥゲェボ……ッ」

 それまでただ刃先を見つめていた男が、突然取り乱して吐瀉物をまき散らし、ブツブツ言いながら頭を抱えて震え出す。

「あーあ。壊れちまったよ。……こいつはもうダガーの説明は聞けねえなぁ」

 ギイイィィッ! ギイイィィーッ‼︎

 男達の体が、後ろに逃げるように、わずかに仰け反った。
 俺はガセ爺雑貨店、高級呪い不良在庫の『バリアントダガー』の刃先を指で押し、たわむ様子を見せながら、このダガーの説明を誰にでもなく続けた。

「これは……とある古い国のな、拷問用に作られた道具なんだよ。この細い先が爪とか眼とか、色んな隙間に良く入りそうだろ? 数百年……随分と良い働きをしたらしくてな、コイツが出てくると、どんな悪党でも泣き喚きながら全部ゲロっちまったらしい。
─── 知りてぇよな、どんな道具なのか」
「し、しし、知りたくなんかねぇ! 早えとこ、そんなもんどっかにやれ! そ、それよりコイツに何しやがった! テメェ後でどうなるか分かっt」

 ギイイィィ…………ギ、アガああああああッ! あグがあああああああああッ!

 俺の足元で押さえつけられた魔獣に、軽く刃先を触れさせただけで、獣の唸り声の質が弾けるように変化した。さっきまでの怒りや威嚇の声から、苦痛に喘ぐ断末魔の如き悲痛な叫び声と化している。魔獣の肌に触れていただけの刃先を退かすと、ジュウッと音を立てて細く煙が上がった。

 刃先の方からは、ドス黒い極細のミミズのような蟲がワナワナと大量に蠢き、ポトリ、ポトリと地面に垂れては煙を上げていた。

「バリアントってのは『勇敢な』とか、そう言う意味がある。コイツに出会うまでに、秘密を黙り続けて来た奴の、そこまでの勇気と忍耐へのレクイエムなんだってよ」

 ぐが…………ぎ………………

 魔獣はピクリともしなくなり、叫びも止んでしまった。地獄の苦しみを物語るように見開いた目が、ただただ地面の一点を眺め続けているが、呼吸に揺れる腹の動きは、そのまま繰り返されている。

「もう静かになっちまったけどな、コイツは死んだわけじゃねぇ。蟲に脳を乗っ取られて、延々と脳内で地獄の苦しみを体験させられてるだけだ。ほら、瘴気しょうきが出てきたろ? マイナスな感情に、魔力まで腐れ始めたって訳だ。さて、いくら俺を狙ってたとは言え、流石に可哀想だ、もう寝かせてやろう」

 そう言って魔獣の首をへし折ると、力を失ったその眼は、救われたように安らかに閉じられた。死が救いとなる程の何かが、この魔獣に繰り広げられていたという実感を、男達はその姿から理解したのだろう。

 カチカチカチカチ……

 男達から奥歯のぶつかり合う、怯えの音が重なり出した。

「ああ、そうそう。先に壊れたお前らの仲間はな、蟲にやられた訳じゃねぇ。このダガーに染み付いた、何千人って囚人の怨念を見ちまっただけだ。心配するな。正気に戻してやるよ」
「は、話す、話すよ! なんでも……なんだって話すから、ソレだけは許してくれ……ッ‼︎」

 一番最初に強がって喚いていた男が、泣きながら地面に頭を擦りつけると、そこにいた全員が同じようにすがり始めた。

「オニイチャ、あたしが記憶奪えば、一瞬だったよ?」
「んー? どう考えても常習犯だからな。脅かされる側の気持ちを、知っておくのもいいだろ?」

 『鬼の髑髏』の俺の後は『仏の聖女』ソフィアが尋問を引き継いだが、彼らは我先にと今回の事件の真相を暴露していた。

 ※ ※ ※

「ってぇ事は、うちの孫娘をさらったのは、南方州知事の差金ってんだな?」

 ソフィアから説明を受け、赤豹族の族長は牙を剥いた。
 黒いソフトハットの連中は、この密林国アケルの最南を治める『南方州』の、首長の政治的な狙いが絡んでいた。簡単に言えば、州に与えられた権限で、この南方州の経済と宗教体制を帝国寄りに、変遷したがっていた人間族の州知事だ。
 それを強く反対していたのは、人口の半数以上を占める獣人族達で、特に発言権の大きい複数の種族の弱体化を図ろうとしていた。結束の強い獣人族とは言え、一枚岩ではなく、実はいくつかの派閥に分かれている。そこに目をつけ、このアンデッド騒動の中、複数の事件を同じ獣人族内で起こさせようと目論んでいたようだ。
 エリンとユニをさらった黒いソフトハットの男達は、州知事が直接雇った訳ではなく、州知事に色々と握らされた武力派の獣人族の差し金だった。

「髭犀族か。よぅし、さばいてインテリアにしてやらぁッ! オラァッ! 若い衆集めろ、カチ込みだックラァ!」
「まあまあ、お爺さん落ち着いて。口調がプロの人になっちゃってますよ?」

 ソフィアがそうなだめながら、族長の目を覗き込んでいる。なんかみるみる内に族長が、大人しくなってるけど、あの女神なんかしたよねあれ。

「それに、証言だけで確実な証拠もなく、いきなり殴り込みをかけたら、思うツボかも知れませんよ? 武力派のサイさんはもちろん、黒幕の知事さんは、皆さん獣人族同士の対立が狙いですからね」

「じゃあ、どうしろってんだ。泣き寝入りしろってのか?」

 族長が不機嫌そうにソフィアをにらむが、当の彼女は涼しげに微笑んで、軽やかに言葉を紡いだ。

「─── 眼には眼を、歯には歯を。黒いソフトハットの彼らを、籠絡してみてはいかがでしょうか?」

 

〜〜〜〜アルフォンスのズダ袋の中〜〜〜〜

☆夢の世界の廊下、最奥の会議室にて

【夜想弓セルフィエス】
【称賛のバリアントダガー】

─── きゃっ、きゃっ!
─── 名前呼ばれちゃった!

【槍】
【斧】

─── うぬぅ……
─── ぐぬぅ……

【???】

─── うふふふふ……

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