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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第三章 密林国アケル

第十五話 アケル国賓級会談

 ボイン……ッ バシッ ボイン……ッ

 不細工にったロープが、地面と木の太い枝に固定され、ロープの真ん中につけられた布の球が叩く度にバインバインと跳ね返る。
 途中立ち寄った村で、不思議なロープを開発した老人に、何か使い道はないかと渡されたのがこのロープだった。ただの糸ではなく、ゴムと呼ばれる木の樹液を固めた、妙に弾力性の高い糸でってある。色々と用途が考えられそうだが、いかんせん切れやすく、暑い日にはベトついて難儀するという大きな欠点があった。

 まあ、失敗作だな。

 その出来損ないのロープを一本貰った(押し付けられた)ので、使い道に頭をひねっていたら、ティフォが欲しがったのであげた。で、出来たのがこの謎の遊具だ。天地にピンと張ったロープ、その中程についたボールを叩くと、ビョンビョン跳ねて反撃してくる。タイミングよく叩くと、左右にブレながら、いつまででも叩けるようだ。時折、ストレートを叩き込んで、勢いよく返って来るのを、避けながらまたパンチを打っていた。

 その遊びはすぐに、獣人の子供達に見つかり、きゃっきゃっと騒いでは、ボールを叩き出した。流石獣人族、子供とは言え、高い動体視力と反射神経で、幼い子供でも上手にパンチを叩き込んでいる。ティフォはニコニコジト目で、子供達を褒めたり、ジャブの打ち方やフットワークを教えたりしていた。

「子供って、やっぱり可愛いの」

 いつの間にかユニが隣に立っていた。新しい遊具に夢中になる子供達を、目元をほころばせて眺めている。

「無邪気でいいよな。って、俺もまだまだ子供みたいなもんだけどさ、ははは」
「アル様は……大人なの」
「ん?」
「アル様は、素敵な大人の男性だもん」

 そう言って、顔を赤くしてうつむきながら、俺の服の裾をぎゅっと掴んでいる。

「……そ、そうかな……分かんない事だらけだよ俺なんて」

 苦し紛れにそう返すと、潤んだ瞳で俺を見上げて、悪戯っぽく微笑んだ。

「それなら……色々やって大人になればいいんだもん」
「い、色々……ね……。く、ははは、よーしお兄さんも球打ちに挑戦しちゃうぞぉッ!」

 そう言って小走りで子供達の方へ逃げると、子供達は歓声を上げて受け入れてくれた。

「……もう、アル様の意気地なし」

 そんな声が聞こえた気がしたが、逃げ切れればこっちのものだ。ユニの破壊力は凄まじい。時折まざる、上目遣いの甘えた物言いは、自慢じゃないがフリーだったら完堕ちしてた自信があるぜ!

 ソフィアとティフォ、二人と心で繋がれた今、俺はこれ以上のドキドキを充てがわれたら、悶死してしまう。茂みの向こうで、誰かがメモを取っているが、綺麗な白金の髪が見えている。後で優しく問いただしておこう。

「みなさーん、準備が整いましたよー」

 この村の族長の奥さんが呼びに来た。今夜はご馳走を振舞ってくれるらしい。
 中央部への一時帰還の旅は、そうして順調に進んでいた。

 ※ ※ ※

「お帰りなさいませ、アルフォンス様、皆様……よくぞご無事で!」

 中央部首都に着くなり、大勢の人々に出迎えてもらえた。恰幅のいいギルドマスター、ミシェルが涙ながらに深く頭を下げて、そう挨拶をした。一足先に帰還していた冒険者達や、獣人の面々も、一緒に出迎えて野太い歓声を上げている。
 人獣魔連合の北部州奪還、そしてアルフォンス達による大樹海の主『不死の夜王パルスル』の討伐は、今やアケルの人々の熱狂の的となっていた。

「ただいま。北部首都は……残念だったが、魔族は討伐したよ。もう、アンデッド騒動は起きないだろう」
「はい……お聞きしておりますとも。ありがとうございました……本当に。さあ、まずは支部にお上がり下さい。いくつか大事な報告と、お客様がお待ちです」
「お客様?」
「一人はアケルの総督、パジャル大統領と、もうお一人はアルフォンス様のお知り合いの方ですよ」

 大統領が来ちゃったの? まあ、国難だったもんなぁ……緊張するから嫌だなぁ。もう一人は俺の知り合い? 誰だろう。
 そうして案内されるままに、俺達はギルド支部へと歩きながら、街の人々の歓待を受けていた。

 ※ 

「おおッ! そなたがこの度の英雄……いや、何と精悍せいかんな若者か……!」

 そう言って、長いあご髭を蓄えた、初老の男性がソファから立ち上がって俺の手を求めた。ターバンに、絣の帯が基調の民族衣装に身を包んだ、体格の良い武人の風格を持った男。

「私はこのアケルの首長、パジャル。此度は我々を取り巻く危機を救ってくれた事、心より感謝しますぞ!!」
「ああ、いや、たまたま通り掛かって、友人達を助けるためだったし……気にしないで欲しい」

 しどろもどろになりかけた俺に、大統領は豪快に笑い声を上げた。

「ね、申し上げた通りでしょ大統領? こういう奴なんですよ、この男は」

 横から聞き覚えのある、野太い声が響く。

「ガストン⁉︎ 何でこんな所に?」
「おう、久しぶりだなアル! ソフィアもティフォも元気そうで何よりだ! ……なぁに、魔導船の回収がてら、顔でも出しとこうと思ってな!」

 そう言って、恥ずかしそうに頭をボリボリ掻いている。どこの世界に支部をほったらかして、お使いに来るギルドマスターがいるってのか。まあ、単純に会いに来てくれて嬉しいけど。

「アルフォンス殿には、バグナス領も、我らアケルにも返し尽くせぬだけのご恩が出来てしもうた。何か欲しいものが無いかと、彼にも相談したが、俗物的な欲がないと聞いて、困っておった所でしてな」
「んー、まあ、お礼される事は特に……。あ、ひとつだけ大統領にしか頼めない事が……」
「おお! 何でもいい! 何かあるのかね⁉︎」

 今後の獣人達の到達するであろう、円環した社会の形と、魔術の獲得による力関係の予測。大統領にそれらを説明して、俺は彼らとの協力体制により、アケルの人間族との融和政策を打診した。

「マジかお前……ッ!! 獣人族が魔術を使えるようにしたってのか⁉︎ しかも、噂の魔術付与の魔道具、お前が作ったやつだったのかよッ!?」
「ああ、元々は彼ら自身でアンデッドと戦えるようにって考えただけなんだけどな。一緒に旅をしてたゲッコー族の男が、そこら辺をヒントに、古い魔術技法に辿り着いて、獣人族にも魔術行使が可能になったんだ」
「…………なるほど、それは素晴らしい。このアケルとしても、巨大な戦力の増強、国力の膨大な上昇を得られるか。よく分かった、社会的地位のバランスは、放っておいても彼らに傾くだろう。
だが、これだけ分かっておれば、人間族と獣人族の融和は良い方向に進められる」
「それは良かった。是非とも平穏で力ある国に育て上げて欲しい」

 そう言うと、パジャルは目を丸くして、また大笑いをした。

「それでは……我々への褒美ではないか! これでは恩義が増えるばかりだ! ううむ、ではその問題は我々の課題として受けると約束するとして……。そなたの願いが出るまで、我々はそれを待つとしよう」

 そう言って、俺に標章を手渡した。金のメダルにアケルの国章が刻まれ、銀細工の装飾があしらわれた、見事な標章だった。

「これは我が国の紋章に、獣人族の友好の言葉を刻んだもの。実は南部の有力獣人族の者達にも頼まれていてな。名誉市民……いや、国の英雄として、そなたに永遠の恩義を示した証。今後、我が国に立ち寄る際は、慣れ親しんだ故郷として帰って来られるが良い」

 なんだかむず痒い所もあるけど、もう一つの故郷という言葉が、すごく嬉しかった。

「……ありがとう。その言葉に甘えさせてもらうよ」
「ふふふ、アルくん、色んな所から実家扱い受けてますね」

 ソフィアの言葉に皆が笑っていた。

「と、そうそう。後、俺からもお前に贈り物が、あんだよ。ホレっ」

 ガストンが思い出したように、何かをぞんざいに投げてよこした。

「ん? これは…………S級バッジか?」

 小さな袋には、俺とティフォの分だろう、二つのS級章がケースに納められて入っていた。

「中央がアルとティフォを正式にS級冒険者に認定した。はっきり言って、お前らにはあまり役に立たないかも知れんが、これから先は、どのギルドでも色々と有利な特典がつく。特に情報と金だな、大人しくもらっとけ」
「ははは、いや、助かるよガストン。前は変な渋り方しちゃったしな。有り難くS級の認定、受けさせてもらう」
「へっへっへっ、登録からS級まで半年足らずとか、史上最速記録じゃねぇか! 次はダラングスグル共和国に入るんだろ? あっちは冒険者が少ねぇから、足取られたく無けりゃ、あんまし見せんなよ?」
「あー、草原と騎馬族の国なんだよな? 分かった、気をつけておくよ」

 ティフォにもS級章を渡すと、手に取って眺めた後、ポーチに刺した。

「ぶにゃんっ⁉︎」

 針で刺されたベヒーモスが、叫び声を上げる。

「おっ、なんだなんだ、可愛い子猫じゃねぇ……ぇ……え⁉︎」

 ガストンは猫好きだったのか、ゴツいのに意外な人だと思ったが、様子がおかしい。

「……そ、それ……ベヒーモス……⁉︎」

 大統領と二人、後ずさる。

「ん。あたしのペットで、ひじょーしょく」
「……ぐみゃん」

 何て神妙な顔をするんだベヒーモス、受け入れているのか⁉︎

「アケル周辺国から、ベヒーモス率いる、空の超大型魔物軍団が樹海で暴れてるって、緊急事態警報が来てたが……まさかお前ら……」
「ああ、やっぱりそうなってたか、はははは。いやあ、空からの戦力はすごく助かったよ。自分の羽で飛べるって、浪漫だよなぁ」

 パジャルは笑い、ガストンは頭を抱えていた。

「おおい、中央になんて説明すりゃいいんだよぉ……。新人S級冒険者が魔物で攻め入るとか、魔王じゃねぇんだからよぉ」

 ティフォに痛い目に遭わされたベヒーモスが、俺の肩に飛び乗ってゴロゴロ言ってる。こんな可愛いの連れた魔王だったら、仲良くなれそうなもんだけどな。その後はミシェルも加わって、国賓級会談にも関わらず、昼間っから火酒を片手に色々と旅の話で盛り上がっていた。

 アケルの未来が明るく感じられる、そんなゆるい会談だった。

 ※ ※ ※

─── 【針雷ニード・スンデル】!

─── 【水蜻蛉みずとんぼ

─── 【火炎弾フラム・ブレッド】!

─── 【水蛇みずへび

─── 【疾風の衣フィルミッド】!

─── 【防御陣タリアン

 タイロンとエリンが、魔術縛りで模擬戦を繰り広げていた。その横ではソフィアとユニが、同じく魔術による、模擬戦を行なっている。俺はティフォと二人、剣技と触手混合の、組手練習だ。

 タイロン達の向上心は分かるが、ティフォはやはり少しでも戦いに有利に立ちたいと、最近、妙に武術指南を求めてくるようになった。ナチュラルに強い彼女は、戦闘のセンスの塊みたいなもので、俺がヒィヒィ夜切から学んだ技術を、一目見ただけで使いこなしたりする。武術のみなら、最初は拮抗していたが、あっさりと覆された。
 最近は俺も触手ありで、修練をするようになった。

「なぁ、これで俺が3ダース居ても勝てなくなったんじゃねぇか?」

 触手の先が、俺の喉元で止まってガチガチと歯音を立てている。もう何度目かの一本負けに、清々しくさえあった。

「ん、だめ。オニイチャ、全然本気だしてない」
「ああ……ごめん、現実世界だとどうにもなぁ」

 ティフォとは夢の世界で、毎日のように修練に励んでいる。夢の中でなら、どんな事が起きても、目覚めれば現実に影響がない。だからそこでは、本気で何でもぶっ放せるのだが、どうしても現実世界では手加減が必要だ。相手を傷つけてしまうし、とんでもない大破壊を生んでしまうからだ。

「ん。そだね、オニイチャ本気だしたら、この辺、さばくに、なる」
「んー、それもあるんだけどさ。惚れた女に本気で戦える奴はいないだろ……」

 俺とティフォの攻撃は、防御無視の一撃必殺みたいなもんだし、現実での模擬戦はごっこに近い所がある。

 ボッ!

 ティフォの顔が真っ赤だ。無闇に彼女のツボを押してしまったらしい。手をワキワキしてる……これ、襲われる奴だ!

「ま、まあ、と、とにかく。防御の精度といなし技を効果的に発する修練にはなるからさ……現実ではこれくらいで勘弁してよ……ね?」

 ぐわっぱ!

「ヒィッ、御無体ごむたいな!」
「うはは、よかろうもん、よかろうもん!」

 無数の触手が物凄い勢いで躍り出ると、俺の手足を掴もうと、次々に襲い掛かる。

─── 【舞い踊れ! 宵鴉、明鴉!】

 剣の腹で触手を弾きながら、ティフォに踏み込む。それを読んでいた彼女は、完璧なコースで俺のあご先に拳を合わせる。

 パシィッ!

 直前で俺の触手がティフォの拳を払い、首元を狙って一閃。それすらも読んでいた彼女は、くるりと後ろに回転して、俺のあご先に蹴りを振り上げる。半身でかわし、彼女が体勢を整える前に、触手を放つ。……が、彼女の触手がそれを全て弾いた。

「ん、今の、よかった」

 触手を消して、ティフォは満足そうに言った。

「ティフォの修練にならないのは、申し訳ないからな、ちょっとだけ冒険したけど……。やっぱり傷つけるのが怖いわ」
「んふふ……♡」

 目元を紅く染めて、抱きついて来るのを、俺も抱き止めて頭を撫でた。

「……イチャついてるのか、殺し合ってるのか、さっぱり分からん……」
「流石にあの戦いには入っていけないの」

 タイロンとユニがポツリとこぼした。気がつけば、そこにいた全員がこっちを見ている。

「次はあたしが相手だッ! アル様、覚悟しろ」

 エリンが両手に魔導印を浮かべて叫ぶ。うーん、こっちはこっちで、手加減難しいんだよなぁ。

「アル様、もうすぐ、この旅が終わってしまう。あたしにも貴方の闘い方を残してくれないか? いや、むしろ、あたしに貴方のつけた傷を残して欲しいんだ!」
「……なに言ってんだよ、お前は」
「あたしが三人の、足下にも及ばないのは分かってる! でも、闘い方を突き進めて、いつかは貴方達と肩を並べていたいんだ! だから頼む、貴方に相応しい女になれるよう、貴方の力の片鱗でもいいから、見せて欲しい」

 そう、もう少ししたら、南部の獣人達がやって来る。
 起きた事を伝えて、今後の話をしたら、俺達はタイロン、エリン、ユニの三人と別れる事になる。この旅で、彼女たちのやるべき事は、大きく見えて来ていた。

 獣人族の強化と連携。

 それは後に、族長の跡取りとなるであろう、彼女達こそが適任だと思う。

「…………分かった。相手をしようエリン。魔術も肉体強化も、全ての力を使って掛かってこい!」
「たぁッ!」

 その後、ユニとタイロンにも、闘い方を体で示した。彼らはまだまだ強くなる。獣人族の明るい未来は、もう目前だろう。

 ……その時はそう信じて、笑い合っていた。

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