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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第三章 密林国アケル

第十三話 適合者以上、勇者未満

─── ん……つまんない

 ソフィが言ってたヤツか、ホントに神威が使えないのは、まいった。

「ふきとべ」

 拳に魔力を一気に集めて、鶏ガラじじーが、粉微塵になるのを思い描き、殴りつける。

 ガイィ……ンッ!

 くそ、また細っちい剣で弾かれた。相手は弱い、あたしを殺せる術がない。力も弱いし、動きだって見えてる。なのに、なんでコイツを殺せない。
 細っちい剣がハエみたいに、ぴゅんぴゅん、ちと弱らすか。

 ゴオオオォォォォ……ッ!

 ガードしたじじーの左腕を殴り折って、吹っ飛んだ先に炎のブレスをおみまい。よくない肉の、焼け焦げる嫌な臭い。

「…………流石に今のは肝を冷やしましたよ、お嬢さん。しかし、貴女の神威ではやはり私を殺しきれない」

 消えないはずの炎が、すぐ消えた。なんだお前、そんなに水たっぷりには見えないぞ? ち、またハエみたいなチョロ剣か。

 ガガガッ、ガキィン、ギュンッ!

 小枝みたいなもの。あたしの両手ではたき落とせば、体にひとつも当てられない。
 なのにこの不快感はなんだ!

 ビッシィ!

「おや……これは、何とも禍々しい。触手ですかな? 神ともあろう者が、ずいぶんと魔物じみた奇術を使うものですな……」

 片足を触手で掴んで持ち上げる。あたしの触手は、じじーを貪り食べようと、一斉に飛び掛かる。

 ツパパパパン……ッ

「ぬ、きられた」
「恐ろしい程、俊敏に動かすものです。しかし、我が兄の剣の方が、いささか速かったようだ。目で追うのは造作もない」

 触手が切られた事はいい、どーせすぐに生やせる。でも、また殺しきれなかった。大体、なんでコイツは、あたしに絶対勝てないって分かってて、しつこく生き返る? 闘い始めから、もう何度も細切れにしてやったのに、すぐ生き返ってくる。

 めんどい。

 その時、向こうの方で、凄い神気が炸裂した。

「……おや、どうやら私の兄は、貴女のお連れ様に負けてしまったようだ……。私はハズレを引いてしまったのですなぁ」

 むこーで、このじじーと同じ顔のヤツが、ソフィに掻き消された。やっぱりアンデッドだな、全然悲しそうじゃない。

「おまえ、くやしくないのか?」
「フフフ……私の兄の事ですかな? それとも私を殺しきれない、貴女と当たった事ですかな?」
「兄のほーだ。双子、なんだろ? くやしくないのか、殺されて」
「……悔しくないと言えば嘘になります。ただ、私達は人に必要とされたいと、願っただけの屍人。それは永く永く続いた日々でしてね。少々、元の気持ちが分からなくなっているのですよ。今更、何故生きているのかと」
「ばかゆーな、お前はもう、

 じじーがおどろいた顔をして、笑い出した。何がおかしいんだ、分からん。

「まさにそこですよ。私達はもう、とっくの昔に死んでいるのに、未だに闘い続けている。
……いつまで? いつまでも。再び死してちりにならない限りは」
「なんだお前、死にたいのか」

 またじじーがぴゅんぴゅんして来た。何だ死にたいくせに、こいつも『死に際』とか『生き様』とか、勝手な事ぬかすヤツか。人のこーいう所がめんどい。
 思いくそ、顔面パンチを入れてやる。

 パァンッ!

 ん、まーた生き返るのか。ソフィがやったくらい、粉々にしなきゃダメか? それともパル何とかが言ってた、サブ脳を壊さなきゃダメなのか?

 ズ……ッ

「……う」
「おお、やっと一太刀届きましたな。……貴女にはどうと言う事もない、擦り傷でしょうが」

 肩を刺された。こんなものは、すぐ消える。だが、傷つけられた事はゆるせん!

 頭に来て脇腹を蹴り飛ばして、奥の壁に吹き飛ばす。じじーは体半分、壁で潰れたけど、また直ぐに立ち上がる。ホントめんどい、すごくめんどい。

 でも、ホントにめんどいのはあたしか。

 さっきから、イライラしてるのに、本気を出す気になれない。さっきソフィは本気の神威で、あの赤黒いバリアごと、相手をぶっ潰してた。……でも、あたしの本気の神威は、このじじーを殺せなかった。
 その理由は簡単、あたしに。ここはあたしの世界じゃない。あたしの覚悟は、オニイチャと一緒にいたいって事だけだ。

 だから、くやしい。あたしの覚悟では、このじじーを殺しきれなかった。

 最近、ソフィの力はどんどん上がってる。あたしも権能の一部は取り戻せたけど、何かが軽い気がする。昔のあたしはさいきょーだったのに……。

「フフフ、揺れておりますな。勝負の中にそのような顔を見せるとは、やはり貴女は何かが足りないよう……」

 パァンッ!
 ガッガッガッガッ!

 殴る蹴る、地面にじじーをすり潰す。

「うるさい。あたしは、お前らとはちがう」
「…………ええ、違いますねぇ」

 じじーがまた立ち上がる。あたしの胸が、痛いくらいドキドキ……こんなに不安になった事、なかったのに。

「貴女には、覚悟が足りないようだ。適合者と共に歩ける程の、世界に運命を賭ける覚悟が……。先の勇者は、決して強くはなかったと言いますよ? それでも世界を変えたのは、貴女の持たない覚悟があったからでは?」

 分かってる事を言われるのは、一番頭にくる。もう、付き合うのはやめだ。

「もういい。死ね」

 躍起になって、直接神威で潰すのはやめだ。殺し方は最初から分かってた。ただ、奇跡で肉体強化して、叩き潰せばいい。もう、ほんとーの神でない事を、いじいじするのはやめだ。

 ほら、あっさりだ。

 じじーめ、最期に『やはりハズレだった』とか、つぶやきやがった……。はやく帰りたい、オニイチャの胸に帰りたい。
 オニイチャの姿を探す。いつものおっきな、安心するあの背中が見えた。

 あそこに帰れるのなら、あたしは何もいらない。

 ※ 

「ジュドーも軽く捻り潰されましたか。次は私の番ですかね、貴方には到底、及びそうもない」

 ティフォが勝ったみたいだ。でも何だろう、あいつが妙に寂しそうに見えるのは。
 ……ただ、目の前のこいつも、何だか寂しそうなんだよなぁ。

「配下を失って悲しいのか、酷い顔だぞ」
「当たり前でしょう? 仲間を失って、平気でいられるなど、人族とは違うのですよ」
「…………それはお前達、魔族の事だろう?」
「フッ、つまりお互いがお互いをよく知らないまま、殺し合ったという訳ですよ。聖魔戦争なんて、人は着飾った呼び名で、過去の戦争を語っているようですけどね」

 んー、まあ、戦争とか国同士の衝突は、それぞれ都合良く情報操作するって言うしな。

「ああ、言い方が悪かったな、済まない。俺もお前達をよく知らないんだ。だから最初はてっきり、お前は俺と話がしたいのだと、そう思ってたんだけどな」
「ふふふ、そうですよ。私は適合者に選ばれた貴方と話してみたかった。かつて我々を追い詰めた勇者とは、どんな人物が選ばれ、どんな気持ちで動いていたのか、知りたかった」
「ほう……で、どうだ? 適合者以上、勇者未満の俺は」
「貴方で良かった。これが前回の聖魔大戦であったなら、我々が対立する事も無かったでしょうね。しかし、運命とは残酷だ、否応なく殺し合いをしなくてはならない、今この時に出会ってしまうとは」

 聖魔大戦は魔族の侵略が始まりじゃない。何となくそれは分かって来た。通り掛かっただけで、否応なく闘わなければならないのは、俺の知らない過去の遺恨があるからだ。
 この男からなら、真実が聞けるんじゃないだろうか?

「なぁ……教えてくれないか? 三百年前、どうして俺達は、戦わなければならなかったんだ……?」

「それももうそれを話す事は、出来なくなってしまいました。……今は本気の貴方と闘いたいッ!」

 ギィンッ! ガキッ、ギィンッ!

 パルスルの双剣が、更に速度を増している。いや、強くなったんじゃない、何かが吹っ切れたんだ。そんな手応えだった。

「私はね、魔族である事に、これっぽっちも矜持きょうじなど持っていないんですよ。兄の仇など、それも本当はどうだって良かった。適合者を潰す事、人に三百年の恨みを返す事、それに興味もなく、ただ従っている体を見せているだけだった」
「それも……幼い頃に孤独だったからか?」

 シャリン…………ザシュッ!

 パルスルの剣を払い、肩口を斬る。殺すつもりではなく、こちらはただ、体に叩き込まれた動きで反応しているだけ。その虚しい闘いに、今は俺の方が意義を求め始めていたのかも知れない。

「ええ……グッ、そうですよ。私は能力も、剣の才能も高かった。しかし、魔族への帰属意識は無いに等しい。兄の仇打ちだって、そうしなければ、貴方がた人の想い描く『血も涙もない魔族』と同じになってしまう……。たったそれだけの、私のプライドがそうさせた!」

 すでに回復を終えたパルスルは、闇雲に剣を突き出すが、それを寸で交わして腹に肘を抉り込む。

「ゲホォ……ッ! ぐ、うっ、が……」

 もう、俺の手にある二振りのククリからは、愉しげな声は聞こえなかった。

「……そ、それでも、貴方がこの国に入ったと知り、心は騒いだ……ケホッ。貴方を目の当たりにして、どうしても闘いたくなってしまった。
─── やっと分かったんですよ、自分は魔族なのだと」
「本能的に闘いを求めた……と? 魔族には適合者と相対する本能でもあるってのか」
「そんなものはありませんよ。ただ、貴方がさっき戦う覚悟の話をした時、私が挑みたくなった理由が分かった。……ただそれだけです」

 こいつは俺を見て、取り敢えず殺したくなって、それが……ああもう、さっぱり分からん!

「お前の言っている意味が、さっぱり分からん! 闘いたいのなら、死ぬ気で殺しに来いッ!」
「……ふふ、それですよソレ。エスキュラも私のように、望んで玉砕したでしょう……?」
「─── ‼︎ ……そんな報告も入っているのか、魔族の情報網もあなどれないな……」

 あの空洞内に、監視者でもいたのだろうか。魔王は神と同等の魔力を持つ、強大な存在だと言うが、そんな者がいるのなら有り得るかも知れない。
 しかし、俺の言葉に彼は笑っていた。

「違いますよ。彼女も貴方を見て、悟っただろうと思っただけなのですが……その通りだったようだ。……ははははっ! 私も魔族だったのだなぁ! はははははっ!」

 何がおかしいのか、自嘲ではなく、ただ愉しそうに笑っていた。

「……ひとつお願いがあります。これをお聞きくだされば、私は全てを賭けて貴方と闘い、貴方の怒りに落とし前をつける、と言うのはいかがです?」
「つまり、覚悟のない闘いを止め、アケルを恐怖に陥れた責任を、命で償うと言う事か。その願いはなんだ、言ってみろよ」

 パルスルはゆっくりと頭を下げた後、バツが悪そうに口元を歪めて微笑んだ。

「お顔を、見せては頂けませんか……?」

 静かに祈るようにそう言った。きっと死刑囚が最期に何かを望む時、こんな顔をするのだろう。こちらのスキを誘うための罠だとは思えなかった。俺はその表情に、何かが込み上げ、自然と兜に手を掛けていた。

「…………これでいいか?」

「はい……ありがとうございます。今、魔族としての覚悟が、全て整いました。ここからは、私の魂に誓って、貴方に全力で挑む事をお赦し下さい」

 一筋の涙を零した後、パルスルの瞳は妖しく紅く燃え上がった。手脚が異様に長く伸び、不死者と化した黒龍のような、大きく醜い萎びた四肢に変化する。四肢を覆う鱗、美しく透き通っていた紫水晶の角は、赤黒いマグマのような光を放つ、長大な凶器へと変貌した。
 見上げるような怪物、魔力と気迫はまるで別物。

 【不死の夜王】がようやく姿を現した

 ※ 

「ぐ……ッ」

 腹部への一撃が、頭の先まで突き抜けた。一瞬、意識が刈り取られそうになるのを、奥歯をガッチリ噛み締めて耐えきった。

 暗闇はただでさえ、平衡感覚を鈍らせる。されるのは耐えても、揺れた脳は何処が床で何処が天井かすら、迷わせる。

 【不死の夜王】

 何故、彼が夜王と呼ばれたのか、ようやく理解した。優男の姿から、アンデッド化した龍人のような黒く醜い姿へと、変化した後……一瞬で世界を暗闇に変えられた。

 速度もパワーも桁違いに跳ね上がった攻撃は、アンデッドの如く気配が希薄で察知出来ず、いきなりいいのを連続でもらってしまった。ガセ爺謹製の強化重鎧でも、衝撃から守りきれず、体の芯に重たく響いて来た。
 夜王の能力は、確かに俺の魂を変質させようと迫って来たが、漆黒の鎧はそれを何とか跳ね除けている。

 しかし、この暗闇の亜空間は厄介だ。

 何発か食らった後、ようやくこれが、彼の創り出した亜空間であると言うのだけは分かった。近づく者の魂すら穢す異端の能力は、全ての光を吸い尽くす、完全なる闇を創り出していた。

 ヒュボッ!

 微かな空気の揺れで、強烈な殴打が来るのが読めた。身を反らして、それをかわす。しかし、一撃目で揺れた空気に紛れて、膝が襲い掛かるのを追い切れなかった。

「……ゲホッ! ぐ……くそっ!」
「流石だ……段々と私の動きを、捕捉して来てますね。それに何度、深いのを叩き込んでも、貴方は平然と立ち上がる……」
「そこか!」

 双剣のククリを、声のした位置に振り切る。

 ドガッ!

 突如衝撃が走り、脇腹に蹴りを食らったのが、辛うじて分かった。ヤツからは完全に見切られている。

「─── 【斬る】!」

 蹴りを食らったその脚が離れる瞬間に、神威を放つと、無数の斬撃がパルスルを捕らえる手応えが返って来た。

 ガガガガガ……ィィ……ン……

 何かに衝撃が吸われるような、無力化の手応えだけは、柄から伝わって来た。ダメージの有無は捨て、その手応えから、パルスルの動きを予測した。

 ピシュン!

 わずかに切っ先で、皮膚を切り裂く感覚を得た。しかし、直後に反撃を受け、後方に吹き飛ばされた。

「……これだけ、私の方が有利な状態だと言うのに、貴方を仕留め切れる術がない。それに、貴方の放つ剣の奇跡は、重ねるごとに強まっている。本当に貴方は恐ろしい人だ」

 確かにそうだ、彼の攻撃を食らってはいるが、寸での所で体でいなして、深いダメージは避けていた。これが自分だけの力ではないとも、自然と俺は理解している。

 加護が、二人の女神の与える力が、この世界でも繋がっているのを確かに感じていた。

 心拍数は上がっているのに、心はさざ波ひとつなく、落ち着いている。と、その時、肌を不可思議な感覚が覆った。何も見えぬはずの目の前を、青白い光の鱗粉を撒く、黒アゲハがひらひらと舞った。
 ああ、こいつらも力を貸してくれていたのか……と、今更ながら実感する。

『主様、夜を切るのは誰であったか、お忘れか……』
「……夜切か⁉︎ 何故お前の姿が視える……」

『我は闇に生きる妖刀、今一時の夢を見せておる。さあ主様……我に夜明けを呼ぶ力を……!』

 その声に応え、頭の中に浮かんだ言霊を、言葉で紡いだ。

「─── 【夜切】我らが手に陽光を」

 宵鴉と明鴉が手から消え、一振りの妖刀が手の中に現れた。妖刀に魔力を吸われる、しかし、それが膨大な力となって、循環する。
 途端にパルスルのいる位置が、ハッキリと分かるようになった。夜切から歓喜が伝わり、それすらも俺の力に変換されていくのが分かる。体を駆け巡る、剣との一体感が最高潮に達した時、パルスルが飛び掛かるのを察知した。

「……俺はなぁ、早起きなんだよッ‼︎」

 パルスルに向けて、渾身の一閃を振り切ると、俺の視界に白い線が斜めに走った。

「…………ギッ……ぐうぅぁぁぁッ!」

 パルスルの悲鳴と共に、白い線が広がると、ガラスを割るような音を立てて、夜の世界が斬り裂かれた。地下空間の白い明かりの下、肩口から胸元まで斬り裂かれた夜王の姿が、目に飛び込んだ。

「……あ、与えられた奇跡も使わずに……亜空間ごと斬るとは……」

 呼吸は浅く激しい、これだけの深手では、流石に彼も回復が遅れているようだ。その姿に夜切が手の中で鳴いている。

「覚悟はいいな……?」

 俺の問いに、夜王は頷く。

─── 【斬る】

 剣閃が視界を覆い、赤黒い霧ごと無数の肉片へと斬り裂かれ、パルスルは床に散らばって行った。

 二人の女神が駆け寄って来る。俺は地べたに座り込み、二人を抱き止めた。姿が見えなくなって、また動揺したのだろう、ソフィアは涙ぐんで胸元に顔を埋めた。

「オニイチャ、ずっと、一緒だよ、ね?」

 ティフォは、俺の頭を抱き締めて、何度もそう耳元に呟いている。俺はその呟きに『そうだ』と、毎回答えて、彼女の背中を撫でていた。
 俺をずっと支えてくれていたのは、こんなに小さい背中だったかと、切なく、愛おしく思った。

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