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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第十三章 骸の王

第十三章|第六話 蠢動

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アケルで勃発した『聖教戦争』も終結。
しかし、異端弾圧とも取れる戦禍に、
世界は帝国派と反帝国派とに分断され、
大きなうねりを生み出していた。

タッセル王国を南部諸国連合に加えることに成功し、
シリル以降の南部の結束は高まりつつある。

その激動の最中、
アルフォンスは、
ソフィアとスタルジャの二人と結ばれた。

南部諸国の憂いも治まり、
アルフォンスは再び、
魔界への想いを馳せる。

─── 魔界、パルモル平野地下、アーキモル宮殿

「……ギ、キィ……ッ! じょ、女王さま……お逃げ……く……」

 白銀の外骨格をバターのように斬り裂かれた兵隊アリが、弱々しく女王ペルモリアに手を伸ばした。

 グシュン……ッ

 その頭部がブーツに踏み潰され、大きく手足を痙攣させて兵隊アリは事切れた。後から後から押し寄せる兵隊アリ達は、強力な結界に阻まれ、通路から玉座の間のわずかな空間にひしめいている。そして結界内の玉座の周囲には、おびただしい数の兵隊アリ達の骸が転がっていた。

「き、貴様は……一体……!」

 ペルモリアは怒りに震え、魔力を限界まで高めてもがくも、その体を拘束する神の奇跡は跳ね除けられなかった。朝日のような美しいブロンドに、灰色がかった藍色の瞳の青年は、兵隊アリを踏み潰した足を退かし、ペルモリアへと歩み寄る。

「僕は一応これでも魔王やってたんだけどね。まあ、知らなくて当然かぁ……」
「 ─── ! もしや貴様、勇者ハンネスか‼︎」
「あれ? 魔王が僕だって事、漏れちゃってた? それに、僕をその呼び名で……いや、もういいかな。ずいぶんと踊らされたものだけど、今はこの世に、たったひとりの適合者だからね」
「な、何をわけの分からぬ事を……! 貴様の事は聞いておる、その首跳ね落として……」

 しかし、ペルモリアは動けない。それをくすくすと、墨色のドレスを着た女が笑う。白金のショートカット、絵画の如く整ったエメラルドの瞳。もうひとりの化身、リディである。強力な結界も、ペルモリアの動きを封じている【拒絶】の呪いも、彼女が放った神の奇跡であった。

「……動けない体で……勇ましいものね……。でも、諦めて下さい。あなた達七魔侯爵は、ただ生かされていただけなのですから……♪」
「なに……? 何を言っておる……! 貴様らの目的はなんじゃッ‼︎」

 ハンネスはその問いに、口笛でも吹かんばかりの上機嫌で『知りたい? 教えちゃおうかなぁ』とボソボソとつぶやく。その態度に激昂したペルモリアは、体を動かそうと牙を剥き出すも、首から下の体は動く事を忘れたかのように応じなかった。

「この魔界に縛られ続けたのは、僕が魔王としてエルネアに選ばれたから。リディが居ない間は、流れ込む膨大な魔界のエネルギーに耐え切れないから、ずっとここにいたんだけどね……。大きな魔力の器も取り戻した、いつでも人界に戻れるのに、僕はここに縛られた」
「…………」
「僕の目的の為に必要だった物がさ、何処かに隠されちゃったんだよ。それは人界にあるのか、はたまた魔界にあるのか分からなかった。本当はさっさと魔界なんか見捨てても良かったんだけどさ、それが見つからないと困る。でも、もうそれも必要がなくなっちゃった♪」

 『嬉しくて堪らない』そんな今にも笑い出しそうな表情で、両の拳をギュッと握り締める。

「三百年だよ? 三百年も探していた物の場所を、教えてくれた娘がいてねぇ♪ 人界の最果ての秘境なんだって! でもね、そこにはとんでもなく強いのが何人かいるらしいんだ」

 演技がかった様子でうつむき、自ら肩を抱くようにして縮こまる。数秒、そうした後、彼は急に両手を広げてペルモリアを満面の笑みで見上げた。

「でも、もうなぁんにも憂いはなぁい♪ だからね、君達七魔侯爵を殺して、その力を奪う事にしたんだ♪ 君達の強大な力は魅力だからね、今までも欲しいとは思ってたんだけど……。ほら、君らが死ぬと天変地異起こるんでしょ?」
「き、貴様らァッ‼︎」
「あと三人も殺らなきゃいけないんだ、時間が惜しいから、もういいよね〜☆」

 ハンネスは漆黒の曲刀を腰溜に構え、刃に神気を宿らせる。斬撃での一閃、今の彼ならそれだけで、ペルモリアの命を奪う事など容易い。

「じゃあね……ッ!」

 振り下ろされた刃から、光輝く斬撃が放たれた。舞散る血煙、両断された上半身が地に落ちる。

「……ッ⁉︎」

 だがその瞬間、上半身からヘラのような腕が伸び、鋭い岩の槍がハンネスに襲い掛かる。両断されたのはペルモリアでは無く、その足元から飛び出した、この宮殿のもうひとりの住人。

「……! チャールズ! おまえ……ッ⁉︎」

 血の海に転がる上半身、オケラ型のタンダウロ族チャールズが、ペルモリアの盾となり、土魔術でハンネスに一矢報いたのだ。しかし、その石槍の魔術も、ハンネスを覆う結界の前に砕け散り、届く事は無かった。

「……ちっ! む、無念……うぐっ、で御座いますなぁ……」
「チャールズ! お前は世話役であって、我の配下ではなかろうッ! 何故、何故命を粗末に……‼︎」

 チャールズは触角を弱々しく動かしながら、ペルモリアの声の方に首を向ける。

「へ……へひっ、ひ、酷いですね、女王さま。ワ、ワタクシ……ずっと貴方様を……ぐぶっ!
『女王』とお呼びして……たでしょ? チッ!」
「……し、舌打ちをする……配下があるか馬鹿者……」
「御守り……出来ず……申しわけ…………」
「寝るなチャールズ! チャールズッ‼︎」

 パチパチパチパチ……

 チャールズの亡骸に叫び続けるペルモリアの耳に、小さな拍手が響いた。

「いや凄いね、びっくりしたよ!  まさか結界内で、足下に潜って隠れてたなんてね! それはオケラかい? よく田舎の畦道で見たもんだよ懐かしいなぁ〜♪」
「き……さッ……まぁぁ……ッ!」

 ペルモリアの目が、怒りに紅い光を灯す。だが、ハンネスはそれを涼しげに見ながら、再び曲刀を構えた。

「言ったよ? 時間が惜しいって ─── 」

 玉座の間の広く高い天井に、斬撃の音が鳴り響いた。


 ※ ※ ※


─── ルミエラ市国、ルミエラ宮殿内議事堂

 窓の外に写る新緑、初夏を迎えたこの議事堂内は、その爽やかな気候を忘れさせる緊張が張り巡らされていた。厳粛な沈黙を破り、役員の声が高らかに響く。

「……全四十一票中、ヴァレリー猊下が三十七票! よって、新教皇選挙はヴァレリー猊下の当選に御座います……!」
「「「うおおおぉぉぉッ‼︎」」」

 投票権を持つ司教位、協議会員達、そして高位聖職者達が立ち上がり、議事堂内は喝采に包まれた。壇上の左の椅子には、帝国派司教のベテラン立候補者、そして右の椅子から立ち、深々と礼をするはヴァレリー。

 今、彼の教皇就任が確定した。

 四十一票中、ヴァレリー票は三十七、内一票は相手候補者、残りは無記名が三票。教団内の圧倒的勢力を持っていた帝国派は、ヴァレリーのホドール奪還成功以後は形骸化しつつある。何より、帝国派の筆頭であったデューイ、アルマス両司教の失脚から、ホドールに於いてその両名が『魔族化』した事が帝国派の内部崩壊を大きく促した。

 無記名の三票は、その内、未だ横の繋がりで帝国貴族との癒着の強い帝国派の『もう分かんね』の現れである。頭を下げたままのヴァレリーに歓声が浴びせられる中、司会進行はそれを沈めて言葉を結ぶ。

「この度はお忙しい中、この教皇選挙にご参加頂きまして、まことにありがとうございます。ヴァレリー新教皇聖下、おめでとうございます。今後は即位に向け、また皆様のお力が必要となる事でしょう、何卒よろしくお願い致します」

 再び議事堂に割れんばかりの拍手が上がった。

 ヴァレリーは体を起こし、少しやつれた顔に笑顔を浮かべ、聖職者達に手を挙げて応じると、一足先に議事堂から退出する。彼の姿が扉の向こうに消えても、しばらくは拍手が続き、その後はそのまま即位への様々な話し合いが行われる事となった。

「おめでとうございます……ヴァレリー聖下」
「あはは……まだ実感は湧きませんが、これもラブリンさんや、支えて下さった皆様のお陰です」

 一般聖職者の通行を禁じられた通路で、女騎士が声を掛けると、ヴァレリーはいつも通りの朗らかな調子で応えた。当選したからといって、すぐに何かが変わるわけではないのは当然の事だが、彼の纏う空気は、初めて会話を交わした時と全く変わっていないと女騎士は感じた。
 ただ、少しやつれ、青白い顔をした彼からは、浮世離れした雰囲気が漂っていた。

「七日間の禁足、お疲れ様でした。だいぶ、おやつれになられていますが、大丈夫ですか?」

 教皇選挙の告示から一ヶ月間、立候補者は宮殿からの外出を禁じられ、投票日の一週間前からは専用の部屋から一歩も出る事は許されない。古くから続くこの伝統は、賄賂などの不正防止と、暗殺防止の為に定められたものであった。

「ははは、大丈夫ですよ。聖門修験に比べれば大した事はありませんでした。あれは辛いから……」
「ああ、司祭以上の聖職者が受ける修行ですか。一冬を山で過ごすとか」
「騎士団の修練に比べれば、肉体的な辛さは無いですけどね、寒くてひもじくて。疲れてるのに眠れないんですよ。最終日の朝日を見た時は、文字通り光の神を感じた思いでしたね〜」
「この七日禁足は、どう過ごされてたんですか? そのおやつれ具合を見るに、大変だったとは汲み取れますが……」

 ヴァレリーは立ち止まり、深く溜息をついた。

「なぁんも無いんですよ。寝台とトイレと水場。それだけ」
「え? 何か儀式とか、正座して過ごすみたいな事もないんですか?」
「はい。なぁんもありません」

 教皇選挙に参加出来る程の者であれば、普段は激務に置かれている職位にあるものである。それが単純に何も無くなり、ただひとり孤独に大人しく過ごすというだけでも、人は疲弊するものである。

 そして、選挙への不安や興奮を受け止める者の無い時間は、それらを膨らませて追い詰められるもの。過去にはこの七日禁足で、重圧に負け逃げ出した者もあったという。

「……なるほど、意外でした。そこにも試練があったんですね」
「まあ、そこら辺は別に大丈夫でしたよ」
「では何故そんなにおやつれに?」

 ヴァレリーは己の腕を掻き毟るように掴み、女騎士に振り返る。

「ほ、本が一冊も無いんですよ⁉︎」
「は? 本……ですか?」
「普通そんなつまんないとこに閉じ込めるんなら、新聞のひとつもね? いや、経典の一冊もあると思うじゃ無いですか! 文字が、文字が無い……っ!」

 ヴァレリーは重度の活字中毒である事に、今更気がついたのだという。

「自分で書こうにも筆記用具すら許されませんでしたからね⁉︎」
「あー、文字……ですかぁ……はあ」
「あっ、その感じ『全く共感ないわ』って所でしょ⁉︎ ホンット辛いんですからね⁉︎ 途中から部屋の壁の塗料のヒビとか、床板の模様が文字に見えないかと頑張ってましたよ!」
「重症じゃないですか……。途中からって、いつからですか……?」
「入室から鐘の音を二回聴いた辺りですね」
「四時間経ってないじゃないですかそれ」
「普段ならそれくらい文字に触れない事もあるのになぁ。無いと思うと一気に震えが……」

 彼は床板の模様に文字を見出し、解読する作業に没頭して、気を紛らわせようとしていたという。人並みに本は読むものの、剣を振る方を選ぶ女騎士には、全く分からない世界であった。

「……で、読めたんですかそれ」
「パンがどうこう言ってましたね……」
「参考までに、禁足の間の食事はどんなんでした?」
「芋を潰したものと、質素なスープでした」
「それ、パン食べたかっただけじゃないんですか……?」
「 ─── ! 真理ですか、今真理を説かれましたかラブリンさん⁉︎」

 そこでようやく彼の活字中毒に加え、パン中毒も発覚したのである。こうしてヴァレリーの教皇即位は決定した。そしてそれは、歴代教皇の中でも語るべき事の余りに多い、激動と悲劇の代の幕開けでもあった。


 ※ ※ ※


「はえ〜『教皇ヴィゴール退位、新教皇はヴァレリー枢機卿』ね。ずいぶんと若いんだな……って、最年少枢機卿から最年少教皇へ? 大したもんだ」

 ツェツァルサガトの南諸国連合本部の一室で、紅茶を片手に新聞を読んでいた。確かヴァレリーって、ちょっと前にホドールで起きた、大規模な魔族化を解決した英雄だって聞いたが……。

「ん? ペルグス政府は反政府運動の鎮圧に、帝国の介入を要請⁉︎ アホか、乗っ取られるだろそんなもん。帝国の交渉担当は宰相のローフィアスか、最近どこに言ってもこの名前を耳にするなぁ」

 チラッと新聞から目を上げると、ソフィアとスタルジャはおしゃべりに夢中だった。

 最近、ふたりは前にも増して仲良くなってる。一夫多妻で横並びのスタート、ふたりとはそれぞれ深い関係になれたけど、そのふたり同士はどうなるかと心配だった。だが、そんな心配は全く不要だったようで、最近はこうしてよくキャッキャと楽しそうに話し込んでいる。

「でね、でね! そこの猫、お客さんの買物カゴ見ると、とりあえず頭突っ込むんだよ♪」
「はわぁ……。触らせてくれるだけでも神なのに、そんなに近寄ってくれるとか、むしろ悪魔ですよそれ! ちょっと午後にでも行ってみますね、それは由々しき問題ですよ」
「あはは☆ 目が怖いよソフィ、そんなにガッついてたら逃げられちゃうよw」
「あ、また感情が暴走してましたね♪ 最近可愛いもの見聞きすると、過集中しちゃうんですよ〜☆」

 そう言いながら、ふたりして刺繍をちくちくと縫っている。何の刺繍なのか聞いてみたけど『内緒♪』と、ふたりにハモりながら突っぱねられた。……寂しい。

「……ボソボソ(可愛いと言えば、アルくんですよ。アルくんの……ったら、……で)」
「……ボッソボソボソ(あ、分かる……。必死で…………で可愛いよね……フフフ」

 これだ……。時折、ふたりが内緒話しながら、チラチラとこちらを見てたりする。一体どんな内容なのか、俺の『地獄耳デビルイヤー』では、ちょぼちょぼとしか拾えないが、時々際どい話をしてたり。

 お、俺なんか変だったりするのか⁉︎ もしそれが夜の話だったりしたら、とんでもなく恥ずかしいし、不安になるんだが!

 最近南諸国連合に加わったタッセル人に、一夫多妻家庭持ちの人がいたから、それとなく聞いてみたけど『それは新妻同士の共感共有ですよ、小鳥同士のさえずりと同じ、平和な証拠ですわ、ヌハハハ!』だそうだ。それなら良いんだけど……寂しい。

 ただ、平和なのは確かだ。

 世界は帝国派と反帝国派の分断と混乱で、いさかいは絶えないし、魔族化が激化して至る所で騒ぎも起きているのだけども。助っ人が加わってくれて、分断抗争も魔族化問題も、俺達の出番が激減してる。
 特に助っ人として大きいのが……

 バゴォーンッ! ガラガラガラ……

 突如轟音と共に壁の一部が吹き飛んで、瓦礫と粉塵が部屋に立ち込めた。白い体に黒い虎縞の入った龍が、煙の中で小さく縮んで少女の姿へと変貌すると、トタタと軽やかな足音を立てて俺の膝に飛び乗る。

「ただいま〜主人様ぁ! ハリードの黒舌はみぃ〜んなブッ潰してきたよ〜☆ えらい? ねえ、えらい⁉︎」
「あ、ああ。ありがとうな、流石だよディア。もう偽魔族問題はディアに任せっきりだなぁ。ボソっ(あと玄関から入ろうな?)」

 神龍ディアグイン。今は彼女が世界各国に発生した黒舌を、片っ端から狩りに行ってもらっていた。

 因みに俺達はこれを魔族化や魔族ではなく、偽魔族と呼んでいる。あれを魔族とするのは無理があり過ぎだし、教団や帝国が動くためのデマだしな。偽魔族は体が硬く、魔術耐性が高いが、弱点が額の奥の結晶と分かりやすく、また動きが鈍い。その点、超高速で飛び回り、強烈な龍種の力を持つ彼女は、ハマり過ぎなくらいに相性が良かった。

 最近は夜のローゼン道場にも、ディアは講師として参加しているそうだ。彼女の背負うエルフ達の魂の記憶は、かなり高度な魔術を知っていて、魔術師系の冒険者達に大人気なのだとか。
 頭を撫でようと持ち上げた俺の手に、ディアは自分から顔や首回りを押し当てて、グリグリしてくる。

「最近はね、偽魔族を見つける方が難しくなって来たの。ギルドの人達もみぃんな頑張ってるからだね!」
「そうだな。皆んなどんどん強くなってる。ローゼンとディアのおかげだよ。ボソボソ(あと玄関から入ろうな?)」

 彼女はひと仕事終えると、こうして建物の強度無視で飛び込んで来ては、褒めて褒めてと甘えて来る。もう何度も『入る時は玄関から』と教えて来たが、仕事を終えると嬉しくて抜けてしまうらしい。正攻法では効果が無いと分かり、最近は聞こえるか聞こえないかの小声で呟く事で、深層意識に刻み込めないかと実験中だ。
 今の所、その効果があるかは、ちょっと分かんない。

そっと【物質復元アートフェル】の術式を展開して、壊れた壁を元通りに直す。修復は一瞬だが、この魔術も一般的には有り得ないものらしく『時々、南諸国連合本部が廃墟の姿になる』なんて都市伝説が生まれているようだ。動体視力の高い冒険者あたりからは『龍の巣』とか呼ばれているらしい。

「これでそろそろ、魔界に戻れるかなぁ」
「だいぶ時間が掛かってしまいましたね〜。ロジオン本部長の進捗具合はどうなんですか?」

 ソフィアがディアを撫で撫でしながら、上機嫌で尋ねた。元々そうではあったけど、最近のソフィアは小さい子供や可愛らしい動物を愛でるのに執心している。妻になったと言う事実が、母性を爆発させつつあるとか何とか、ミリィやアネッサはそう予測していた。
 ディアはその愛でる対象の中でも、ソフィアの一番のお気に入りらしい。

「ロジオンからの定期連絡は受けてるよ。ヒルデリンガの伝手も凄いらしくて、そろそろ七魔侯爵は全部周り切れそうだって」
「次こそはアルのお姉さんたち、助けてあげたいね! ユニとローゼンはどうするの?」
「ああ、ローゼンとは昨日の夜、文章でちょっとやり取りしたけど、ユニが今ガンガン成長中らしくてさ♪ あと少しって言うから、今回は俺達だけで先行しておこうかって」
「あ、それは大事ですね! ユニちゃんはまだまだ強くなりますし、あの柔軟な発想力は驚異的です! 私もそれがいいと思います☆」

 スタルジャも嬉しそうにウンウンと微笑んで頷いていた。本当にユニは愛されてると、こういう時に実感して、こっちまで胸が温かくなる。

「ユニもそうなんだけどさ、もうひとつ良い知らせがあるんだよ。
ローゼンが頑張って修理してくれていたマド ─── 」

 ズドガァァァンッ!

 ついさっき復元魔術で直した壁が、再び粉塵を上げて吹き飛んだ。モヤモヤの向こうから、逆光に照らされて、ふたつのシルエットが浮かび上がる。

「あー、こいつらの素体が完成したって、昨日な……」
『『パパぁ〜っ☆』』

 背後に空気の白い壁を生じ、黒と白のシルエットが、破城槌の如く俺の腹部に突き刺さる。この嫌に硬い闘気、間違いないマドーラとフローラ!

「げぼぇ……っ⁉︎」
『『パパァッ! 会いたかったよパパァッ‼︎』』
「強い強い! なんか背中から『ヒィィィン』って音出てんぞお前らッ⁉︎」
『ローゼンがね、全く新しい技術を組み込んでくれたのーっ☆』
『魔導炉加速機だっテ〜♪ パワーも速度モ、理論上一万倍出せるんだヨ〜☆』

 ああ、道理でタックルが見えなかったよ。それにこのグイグイ来る頬擦り、多分シャツの下は酷く擦り剥けてるはずだ。

「それを俺に使うなッ‼︎」
『ええーっ⁉︎ 星をも砕く愛だよーっ⁉︎』
『エ……っ、大河をも干上がらせる火力だヨ⁉︎』
「火力って言ってんじゃねーかフローラ! 愛を力押しすんな‼︎ 内臓出るかと思ったわ!」

 ふたりはニッコニコで顔を寄せ合いながら、俺の顔を覗き込んだ後、スタッと立ち上がってくるんとスカートを翻して回った。

『『ただいまパパ♪』』
「おかえり、マドーラ、フローラ。ローゼンには良くしてもらったか?」
『うん! ローゼンちょー強いよ⁉︎』
『テスト運転で闘ったけド、けちょんけちょんのぼろぞーきんだったヨ☆』
「そ、そうか……そりゃあ仕方ないよ、ローゼンだもの」
「まあまあ、マドーラちゃんにフローラちゃん、久しぶりに会えたんですし、クッキーでもどうですか♪」
『『わーい、じょーしつな糖質すきーっ☆』』

 部屋のテーブルで、ソフィアの用意した焼菓子と、スタルジャの入れた紅茶で、魔導人形姉妹とディアが至福の表情になる。しばらく魔導姉妹の新たな力や性能を聴いたり、ディアから偽魔族の情報を聞いたりして、和気あいあいとしていた。

「そう言えば、ローゼンからマドーラとフローラの事は聴いてたけど、また急にどうした? お前ら飛んで来たみたいだし、ここまで大分遠かったろ?」
『走行性能のチェックも兼ねてだよーっ☆』
『排熱機構のチェックも兼ねてるヨ〜っ♪』
「なんかよく分からんけど、えらく性能アップしたのは確かだな……」

 ここはダラングスグル共和国でも南に位置する都市だ。ローゼンのいるメルキアからは、飛翔魔術でも数日は掛かるだろう。ディアの飛行速度と、いい勝負かも知れない。

「フフフ、野暮ですよアルくん? マドーラちゃんたちは、早くアルくんに見て欲しくて来ちゃったんですよ〜♪ ね?」
『『そだよーっ♪』』
『あ、あとねーっ、ロジオンから伝言があるよーっ☆』
『ロジオンから音声情報が届いてるヨ〜っ☆』

 魔界にコマドーラは連れて行って居ないが、緊急用にローゼンからもらったマドーラ達の核部品の一部を渡してある。リアルタイムで会話は出来ないが、緊急連絡用に声を保存したものが聴けるそうだ。

『『今聞くーっ?』』
「ああ、頼むよ」


『ガガガガ……ザザ……アルフォンス……聞こえるか? ロジオンだ。
緊急事態だ、魔界でハンネスが暴れてるッ‼︎ すぐに来てくれッ‼︎』


 旅の準備ならいつでも行けるようにはしてある。ソフィアとスタルジャとうなずき合うと、直ぐに出立の用意に取り掛かった。一応、マドーラとフローラには『そういう事は先に言え』と突っ込んで置いた。

─── ハンネスと再戦

 今の俺なら、きっと刃はアイツに届く。
 呼ばずとも姿を現した夜切を掴み、俺はその鼓動を確かめた 。

作者のつぶやき

再び動き出すハンネス。
最早、魔界に縛られる必要も無いと判断した彼は、七魔候の力を奪い、とうとう本格的に動き出すようです。

『三百年も探していた物の場所を、教えてくれた娘がいてねぇ♪ 人界の最果ての秘境なんだって!』

嫌な予感しか、しないです。

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