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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第九章 適合者

【幕間Ⅹ】 ローゼン

 初めて彼女と出逢ったのは、鬼族の少年ニギラの、治療の準備をしていた夜だった。気配も無く突然現れ、薬学の知識にはしゃぐ、ちょっとだと思った。

 すぐその後に、俺とソフィアとティフォ、スタルジャを合わせた四人が、一瞬で敗北。更には夢の世界で、俺の武器の精達も含めた全員でも、敗北。

─── プロトタイプ

 太古の主神が生み落とした、制約を持たぬ無調整の生命、原初の種族モデル。『変な娘』から一転『ヤバイ奴』になった。でも、結局本当に強引な事や、無慈悲に命を奪うような事はせず、むしろ人の命を救う事への真摯しんしさが垣間見えた。人との関わりを避けながら、医の研究に心血を注ぐ彼女の姿を、いつしか『健気けなげな人』だと思うようになった。

 神界と人界の仕組み、そして神と人との過ち、そこから生まれた彼女の孤独な過去。

 プロトタイプとしての彼女の話に、歩んだ過去の理不尽さや恐ろしさを感じ、同情してしまった。と言っても、俺は彼女を、憐れんだワケじゃない。それでも人類が、生きて進む事を願い、関わらない孤独を選んで来た彼女を尊敬した。言葉ではどこかねてはいるけど、彼女は『憂いを持つ優しい人』だと、そう思うようになった。

 そして、鬼達から言われた『ありがとう』に戸惑う彼女が、可愛らしく映った。所々で俺に結納を迫るのは正直閉口したが、それは無茶苦茶な願望を言う事で、現実を茶化しているのだと思った。
 素敵な女性だ。だから、冗談で結婚を迫る彼女に、まさか真剣な気持ちなんてないと、そう捉えていたんだ。

 だが、彼女は本気だった。

 それは再会を果たした、俺の目覚めの瞬間に、分かった事だ。正直に言えば、彼女に女性としての魅力を感じた事は、何度もある。ただ、茶化して口説いてくる相手で、神と同等以上の存在で、こっちには婚約者五人もいるしで……。
 考えないようにしてたのが本音だ─── 。

「と、まあ、アルくんはそう思っていたと」
「はい……」

 ローゼンに手伝ってもらって、精神世界でアルファードと会った後、俺の部屋に婚約者連合が集結していた。ローゼンが『抜け駆け』と罵られるパターンかと思いきや、突入して来たソフィアの第一声は、想像の斜め上だった。

 ローゼンちゃんと、なさい。

 余りの言葉に『は? ローゼンをちゃんと翻訳? なにそれ?』と聞き返した自分も、たいがい斜め上の感性だと反省している。 『 婚 約 で す 』と、顔をグイッと近づけるソフィアは、再会した当初の『切り刻み聖女』な剣幕があった。

 俺は今、婚約者連合から、ローゼンとも結ばれる事を迫られている。ソフィアにローゼンをどう思ってるのかと聞かれ、今までを振り返っていた次第だ。浮気しまくって、女性陣に囲んで責められたみたいな話は聞いた事あるけど、婚約者の増員を迫られるのは聞いた事ない。

 うーん、何この状況……。確かにソフィアとティフォが、ローゼンに『婚約者〜』みたいな事を言ってたけど、何故、彼女達の方がこんなに必死なのか分からない。

「アル様。ローゼンは倒れたアル様を救おうと、それは必死だった。何も出来ないあたしは、見ている事しか出来なかったけど、そのあたしの胸が痛むくらいに。彼女の気持ちも、汲んでやって欲しい。ローゼンがいてくれるなら、よりアル様も安全になるから、あたしは賛成よ」

「エリン……」

 エリンはかつて、勘違いからローゼンに挑み、ペットにされ掛けた。そのせいか、普段からローゼンにちょっと及び腰だったのに、今は自分の事のように必死な顔をしている。

「私も賛成なの。ティフォ様が連れて来た時、アル様を見てローゼンすっごく慌ててたの。ペットにされてた時も、ヤな事はしてこなくて、甘やかされてたの。ローゼンの言動はアレだけど、本当は優しくて寂しがり屋さん。寂しくてこじらせてるだけなの」
「ユニちゃん。ありがたいのですけど、その言い方は、ちょっと胸が痛いのです……」

 ユニの天然のビーンボールに、ローゼンが喘いでいるけど、彼女の言わんとする事は分かる。

「んー、オニイチャ。ローゼンは、今までずっとひとり。あたしも、ずっとひとりだった。あたしは、オニイチャに拾われて、すっごくしあわせ。でも、もし今拾われてたとしたら、ティフォは、選ばれないの?」
「そ、そんな事はないッ!」
「あたしも、そーだったよーに、ローゼンにも、オニイチャしか、いない。オニイチャに、うけいれられなかったら、ローゼンはこれからも、ひとり」

 ローゼンが鬼たちの『ありがとう』を反芻はんすうしていた時の、嬉しさと寂しさの混じった、何とも言えないあの表情が浮かんだ。胸が酷く苦しい。これから彼女は、またいつか孤独になるのか……?

 人との関わりを諦めて来たローゼンを、鬼達に関わらせたのは、俺じゃないのか? 今は彼女も受け入れてもらえているようだけど、もしまた過去の世界のように、人に巻き込まれたりしたらどうなる。
 暗い場所で縮こまる、ローゼンの姿が頭に浮かんで、どうしようもなく切ない気持ちになってしまった。

「私もアルくんに振り向いてもらえなかったら、きっと荒れてたでしょうね。万引き、カツアゲ、クッキーサンドを剥がして食べる……。そんな人生に落ちていたかも知れません」
「……最後のは何だ?」
「リディは……幸せそうに見えませんでした。ともに歩むパートナーであるはずの、ハンネスとの絆を、あまり感じませんでした。生み落とされる順番が違えば、私がそうだったのかと思うと、酷く心が痛むんです」

 リディとハンネス。戦闘の呼吸は、合っていたようにも見えたけど、何かチグハグなものも感じられた。感情を与えられずに生まれて来たと言うが、そうだとしたら、あの悲痛な面影は一体なんだったんだろう。あの時リディは、ハンネスに強い依存と、別離不安を抱えているようだった。

 人は何度でも人生をやり直せるし、共に歩むパートナーだって選び直せる。でも、リディ達はどうだろうか。一緒に歩むはずの運命の相手が、自分に振り返らなかったら、使命を全うするまで孤独じゃないのか?

 いや、孤独は不安も恐怖も、そして自己否定さえも生む毒だ。まだ使命や、背負う運命があるだけに、人と同じようにモロくはないかも知れないが……。

 じゃあ、すでに使命すら失ってしまっているローゼンはどうなる?

 また、胸が痛んだ。彼女に対して気持ちもある。ソフィア達の言いたい事だって分かる。ただ、心の何処かでくすぶる、いくつかのモヤのようなものがあった。

「……ローゼンは大事な女性だ。けど、皆んなも大事でさ。スタルジャの事も心配で、なんだか今ここでその答えを言うにも、生半可な気持ちではいけない気がしてるんだよ俺……」

 ローゼンに気持ちを受け止めるにも、他に気を取られてて、失礼じゃないのかなと思う。スタルジャの気持ちだって、聞きたいしね。一夫多妻って、男の気持ちだけじゃダメなんじゃないかと、今まで五人と関係を結んで学んできた。

「アルくんは、スタちゃんが目覚めてから、ちゃんと話したいんですね?」
「ああ。ローゼンがそれで良ければ……だけど、どうかな」
「私はそれでも、全然構わないのです。私の時間は、吐き気がする程、残されているのですから……ぐすっ」

 そう言いながら、彼女は涙をこぼした。

「……! ローゼン……?」
「あ、違うですよ?ダーさんが、ほんとの本気で、真剣に考えてくれているんだなーって……。ちょっと込み上げちまったですよ♪ こういうの、大事にされてるみたいで、慣れてないのです」

 エヘヘと笑いながら、微笑む彼女の青い瞳が、潤んでいるのがまた、胸に刺さる。

「長くは待たせない。魔界の旅だって、君が居てくれたら、きっとすぐに─── 」
「私はご一緒しないのです」
「えっ?」
「私は人類の調律や、未来に関わることは出来ないのです。そこだけは曲げられません。だから、私はダーさん自身のヘルプをするですよ。あなたが困った時、いつでも帰れる港になるです」

 プロトタイプの誓いか。最後に死んだプロトタイプのふたりは、彼女の大事な仲間。それを殺したのは彼女自身だ。その誓いは、適合者の俺に加担する事で、大きく抵触する事になる。

「ダーさんから頂いた血の繋がりは、私の中に永遠に残るですよ。だから、ダーさんがどこにいるか、すぐに分かるですし、いつでも駆けつけられるです。私が手を下すのはご法度ですが、癒しとアドバイスくらいなら、港の女の範疇はんちゅうなのです♪」

 ローゼンはそう言って、ふくふくと頰を膨らませている。『港』とか、都合のいい女扱いみたいで、かなり抵抗のある言い方だが……。

 だが、魔界に行けば、本当にスタルジャは目覚めるのか? いや、どれ程の時間が掛かるのか、無事に帰って来れるのかどうか、保証なんかない。ここまで告白してくれたローゼンを、これ以上待たせるのは、それこそ不誠実じゃないか?
 男ならここで腹をくくれ。

「少しの間、ローゼンとふたりにしてくれないか?」
「「「……(コクン)」」」

 四人の婚約者達は無言でうなずき、廊下へと向かう。部屋を出る時に、ティフォの『クッキーサンドを剥がすのは』とソフィアにブスリと苦言を刺すのが聴こえて、肩の力が抜けた。
 静まり返った部屋には、寝台の上に俺と向き合って座る、ニコニコ顔のローゼンだけ。

「ごめん、色々考えていてくれたんだな……」
「はいです」

 ちゃんと話そう。俺の気持ちも、不安もちゃんと。

「俺は適合者として、ハンネスに負けた。今はまだ、勇者にも魔王にもなりきれない中途半端な男だ」
「はい♪ 始まったばかりなのです」
「……多分、こらからもっと運命は大きく動く。俺が生き残れる保証は無い」
「あなたの選んだことは、私の大事な人の意思。そんな大きな事から、逃げない人を好きになったです。誇りに思うですよ♪」
「ロジオンを怒らせたみたいに、またいつかヘソを曲げたりするかも知れない……」
「ずっと真っ直ぐな道なんて、この世に存在しないのです。多くの英雄は、伝説を残すわずかな時間以外は、たいてい地味なもんです♪」
「……君以外に、すでに五人も嫁候補がいる」
「ひとりの伴侶でも苦労しますが、マンツーだからこその苦悩もあるですよ? あんなにステキな五人となら、大抵のことは、楽しく超えられると思うです♪」
「俺、結構ヘタレだよ……?」
「プロトタイプの求婚を、真っ直ぐに考えようと受け止める人がですか? 五人を見れば分かるです。普段はヘタレでも、大事な時に、ちゃんと話せる人なのですよダーさんは♡」

「……プッ、なんだろうな、このやり取り」
「くすくす♪」

 なんか前にもこんなやり取りしたっけな。あの時はソフィアが俺みたいに弱音吐いて、俺が全部肯定したんだっけ。ローゼンにとっては俺だけだと、ティフォが言ってたけど、ある意味それは俺も同じか。ローゼンの代わりなんて、この世に存在しないじゃないか。

「……ダーさん。困らせてしまって、ごめんなさいなのです。迷惑なら振っていただいても、構わないのです。私があなたを大切に思えた事が誇りですから、あなたに『こうあって欲しい』で困らせたくはないのです」

 寂しげに伏せたまつ毛の奥に、青い瞳が潤んで揺れている。ああ、この後に及んで、彼女はまだ俺への影響を考えてくれているんだなぁ。きっと、こうして人類を憂い、支えようと生きた結果なんだろう。

 彼女は怪物なんかじゃない。苦しんで悩んで、模索し続けて来た、人よりも人らしい存在なのかも知れない。それが分かった時、俺の中にあったモヤモヤが、スッと消えて行った気がした。

「その心配はいらないよ。ありがとうローゼン、本当に君は優しいな……。ローゼン、君が好きだよ。女性として」
「ふぁっ、ふわわわっ! ま、まさか、どストレートに告白されるとは……。そ、想定外なの……です……あふっ」
「いきなり求婚した人が?」
「─── む? あ、やり返してるですね⁉︎」

 その前に君、すんごいネグリジェのままだけどな。恥ずかしがる場所が違うだろ。ふたりで吹き出して、しばらく笑い転げた後、俺は彼女の手を取った。

「ローゼン。俺と一緒に生きてくれ」
「─── はい♪」

 こうして俺は、ローゼンと婚約を交わした。
 六人目の婚約者は、ソフィアより遥かに年上の、ちょっと規格外な少女だった。

作者のつぶやき

とうとうローゼンとも婚約。
実を言うと、この物語を書き始めた時、他にヒロインを増やすつもりはなかったんですよ。
ハーレム物とかあんまり好きではなかったので。

ただ、エリンとユニを登場させて、魔術も使えるようにして、アケルをや旅立つ辺りで『なんかこの姉妹かわいそうだな』と思ってしまった。

ダルンでスタルジャを登場させた時も、実を言うと『死の丘=シノンカ』のロジックくらいしか考えておらず、ノリで登場させた馬族一家。
そこに奴隷として他の種族が混じっていたら話が膨らみそうだなぁくらいで。
で、森ではない草原で、遊牧民のように暮らすエルフがいたらどうだろう? とか思いついてしまったわけで。

スタルジャを『草原のエルフ』という設定にしたら、ガーッと話が膨らんできて、一気にスタルジャの故郷の話まで出来上がった次第です。
で、それこそ彼女を、両親の思い出が残る里に置いていくのは、かわいそうじゃあねぇかって事になり……。

ローゼンに関しては、プロトタイプの設定は初期から考えていましたが、彼女をそうする予定はありませんでした。
鬼族の『薬嫌い』を話しのきっかけにしたら、自然と色々欲しくなり、彼女をプロトタイプにしたら『命への強い感情』が綺麗にハマりまして。

で、鬼族の人々に感謝をされて、アルフォンスにちょっと良い事言われた時に『ポッと出の人間風情に、熱い説教たれられたのがですよ!』と暴れるシーンを書いた。
その時ですかね『あ~これは婚約するわ』とか予感したのは。

元はソフィアとティフォが、これみよがしにアルフォンスを取り合う予定だったものが、気がつくとこうなりました。
多分、二人が取り合う形で進めていたら、マンネリ化しやすかっただろうし、エスカレートの一途を辿るだろうなと思います。

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