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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十四章 クヌルギア
第十四章│第二十二話 妹
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ハンネスたちを滅ぼす寸前まで追い詰めるも、
怒りの感情に極端に傾いたリディが堕天。
生命を奪う漆黒の雨に里が覆われる中、
聖剣を守っていたダグ爺の家の結界が破壊され、
聖剣は奪われた。
ハンネスは呪術での転移を図り、
リディとともに消え去る。
シモンは操られていた。
いや、正しくは『アザ』の継承で魂を作り変えられ、
この里へと導かれた。
シモンの魂にしがみつくその存在の自由を奪ったことで、
彼は正気を取り戻し、
全てを語る。
そして、
この未来を宝剣で予知していたシモンの両親が現れ、
深い謝罪の後に、
シモンは父親に殺害される。
聖剣を奪われ、
友人を失い、
感情が追いつかないアルフォンスは、
ティフォに拉致される。
世界かんいどー。もう何度もして来たから、油断してた。前の世界が魔力の薄い世界だったのもあって、あたしはこの世界のざひょー計算をしくった。
もうここにどれだけいたのか分からない。
真っ暗でつめたい。たぶん岩の中だな。ひとりごとをつぶやく口も、もう退化してしまった。
暇つぶしの素子測定も、魔力がうすれて、しこーのうりょくが追いつかなくなった。死ぬこともできない。でもこのまましばらくしたら、あたしもきっと、すべての力をうしなってしょーめつする。
─── 思えば、ずっとひとりだった
なら、ここでひとり消えても、しかたが……
ガァンッ、ドガァン! ゴッゴッ……!
ぜんしんの触覚まで退化してるあたしでもわかる。これは誰かが岩をくだいてる音だ。魔力も感じられる、人のいきづかいが聞こえる。
誰かがあたしに向かって進んでくる気配がする。ただそれだけで胸が熱くなった(胸は退化しているのだけども)。
あたしの周りの岩が砕けて、暗い空間へと落ちた。なんだ、そんなに深いところにいたわけじゃなかったのか……。
その空間に光が射した。
目も退化してたあたしには、それが刺すようなシゲキにかんじた。でも、それすらもうれしかった。
「……ああ、よかった。あいたかぁ」
入って来た声がそういった。声は少年といったところか。 ─── ⁉︎
あたしはとまどった。その少年があたしに抱きつくように、しなだれかかった。
「ぼくの……かぞく……」
そうささやくようにつぶやき、少年は眠ったようだ。すうすうと等間隔なこきゅーが聞こえてくる。
その少年からポタポタと、温かなものが落ち、あたしの体にふれていた。それが血液で、彼のケガから流れ落ちたものだと理解したのは、そこから生気と魔力をえられたから。
でもまだしゃべれるほどの口も器官も作れない。なんとか視界を確保するために、小さな目を作って彼を確認する。
ぼんやりとした、立体感のないモノクロの世界。そのコントラストの嵐の中に、その美しい少年はいた。
あたしを抱きしめて、満足そうな顔をして、眠っていた。
─── 家族。彼は確かにそうつぶやいた
あたしに向けたことなのか、だいいんぐめっせーじみたいなもんなのか。よくわからなかった(そもそもしこーのうりょくが退化しているのだけども)。
きっとあたしにくらべれば、人間の少年など、なんら足元にもおよばない年齢だろう。
でも、彼はあたたかかった。ふきかかる息も、年齢の割に鍛えられた肉体も、彼から流れ込む魔力と生気も。
やがて血液から彼の記憶が流れ込んで来る。でも、解析のーりょくがひどく落ちていたあたしは、よくりかいできなかった。
ただ、彼が家族を求め、ここに来るまでにたいへんな目にあったのは分かった。これくらいの子どもがなぜあんなにも魔物をたおせる? 彼の記憶から得たふーけいは、ふつうなら国軍がでるレベルの魔物との戦闘だった。
なぜ、こんな年の子どもがたたかう?
この子もあたしみたいに、いじめられたのか?
いや、ちがう。この子は家族がほしいんだ。今の家族とは血のつながりがない、けど、だいじにされてる。でも……。
「うう……ん」
寝返りをうった彼の目尻に涙が見えた。なにかが、胸の奥であたたかくなった。なぜだかわからない。こんなふうになったのは初めてのことだったから。
気がつくとあたしは彼に触れようとしていた。でも彼の頭に伸びたのは、手じゃなくて触手だ。まあ、よかろうもん。今はこれで。
「ん……ん。あれ? 君は……」
どれだけこうしていたのか、頭をなでつづけていたら、すっとまぶたが開いて、紅い瞳がゆれた。その時『この子は、あたしと同じだ』と、ただ瞳の色が同じなだけの彼にそーおもった。
彼はしばらくあたしを不思議そうに見つめていた。あたしは止めどきを失って、ただただ彼の頭をなでていた。
「君は……ローパー? いや、なんかちがう。ずっとなでてくれていたの?」
「─── 」
声が出せなかった。とーぜんだ口がない。
だが、少年はふふふと微笑んで、あたしを抱きしめた。
「ふふ……ありがとう。ありがとうな。さびしい夢をみなかったのは君のおかげだな」
「─── 」
この時ほど、声が出ないことをなやましくおもったことはない。彼はあたしと同じなんだ。そうおもったら、いとおしくて、胸がくるしくなった。
「そうだ! ぼくと暮らさない? 最近、ダグ爺とも家をわけたから、さびしいんだ」
彼の声が少し弱々しくなった。あたしはどう答えていいのか分からず、ただ頭をなでて返した。
「きみをなんて呼べばいいんだろう……。うーん、その前にいったいなんなんだろう、この子。オスなのかメスなのかもわからないや」
「─── 」
そりゃあそうだ。あたしだって今の自分がなんなのかすら分からん。こんなに矮小なじょーたいまで落ちたことない。彼にあたしのことなどなにもわかるはずが───
「うん。女の子っぽいし、妹にしよう! ぼくの妹になってよ!」
「─── !」
女の子!? なぜわかる? でも、妹ってことはあたしが格下か……。
「これからぼくたちは家族だ……」
そういって強く抱きしめられた時、まうんとはどーでもよくなった。なにより、彼から温かい魔力が流れ込んでいた。それは遠い記憶にある、ははうえの魔力と似ていた気がする。
「あ、そうだ! ぼくの名前はアルフォンス。よろしくね」
そういって笑う彼の頭や顔は粘液でテカテカだった。
※
ずっと『妹』だって、一緒に暮らしていた。『成人の義』で俺の爆発的に増えた魔力を得て、とんでもなくかわいい女の子の姿になっても。やっぱりしばらくは『妹』だった。
初めての冒険者の仕事で入った迷宮で、彼女と共に隔離空間に飛ばされて、初めて目にした本当の姿に呑まれた。
正直に言えば、岩山の空間で彼女と出会った時のことはあまり覚えていない。
ただ、ものを言わない触手の塊だった彼女は、俺の考えや気持ちをいつも見守るような仕草があった。ただの触手以上の存在だったよ。自分でも何いってるのかわからないが……。
で、これだ。
「はぁ……はぁ……。アル、すごかったな。ずっと、こうしたかった」
「ハァ、ハァ……。すごすぎて、腰が抜けたよ」
俺はティフォと結ばれた。彼女の勢いはものすごかった。やっぱり見た目の幼さがあるから、こうでもなければ俺はずっと足踏みしてたかもしれない……。
確かに彼女は強引だったけど、ベッドに押し倒されて唇を奪われた時、彼女が必死に我慢してきてくれていたのだと理解した。
『妹』は最初の呼び名。もう初めて出会った時から、彼女は年上の素敵な女性で、常に俺を見守ってくれていた存在。
分かっていたけど、ビビリな俺が見ないようにしていたことを、こうして形にして深く理解した。
「ティフォ……。今までどうしてたんだ? ずっと俺は ─── 」
「ん。あとでまとめて話す。でも今はもう少し、ひたらせろ?」
「ふっ、ふふふ! ほんと、ティフォだなw 俺の大事な家族だよ……」
自然と口から出た言葉。それに引っぱられたのか、岩山で初めて出会った時を断片的に思い出す。
「ティフォ。みんなの指輪、ありがとうな。でもさ、今一番それを贈りたい相手の君に、その指輪がないんだ……。あれはなぜ?」
ティフォは光って見えるほどの嬉しそうな微笑みを見せて、白くて小さな手のひらに、銀色の輝く指輪を出現させた。
「こうなるまで時間がかかる、そう思った。本当に繋がるその時まで、これはあたしのモノだけにしたかった。だからずっと持ってた」
涙が溢れそうになるのを堪えるのに必死だった。一体どこまで彼女はここまでの悲劇を見抜いていたのだろうか。
そして、この瞬間を自分の『初めて』にするために、ずっと大事にして来たんだ。
俺は彼女から指輪を受け取り、彼女の手に手を添えた。真っ直ぐにそのルビーのように輝く、俺と同じ赤い瞳を見つめる。
「ティフォ。俺の大事な人。ずっと君に支えられて来た。ずっと君に愛を教わって来た。これからは一緒に胸を張って、愛を育みたい。
─── 俺と永遠に一緒にいてくれ」
そういって指輪を彼女の薬指に通すと、それは明らかにサイズオーバー。ガバガバだった。
「ん、これは後でサイズを直し……」
首に腕を回されて、唇を重ねられた。情熱的に口中を小さな舌が攻めてくる。
……が、そのバランスが崩れて、俺は蹂躙された。
「はぁ……。はぁ……。やっとじゃな、やっとこの時が来た」
「 ─── ッ⁉︎」
そこにいたのは、かつて俺を完全に魅了した、赤毛の美の女神。力を取り戻した姿の大人ティフォだ。
完全に呑まれて、硬直していた。当たり前だ、はるかに年上なのに、見た目が幼いティフォにたじろいでいたのが、今は自力で大人の女性の姿となった彼女がそこにいる。
さっきまでユルユルだった指輪がしっかりとはまり、輝いて見えた。
「ふふふ、こうなるとわかっておったからな。ずいぶんと待たされた。ずいぶんと。
─── もう、気まずさはなかろう?」
「っッッ⁉︎」
ずいっと彼女の理想的な肉づきの、滑らかな脚が、俺の脚の間に滑り込む。
「……ここからは、手加減なしの オ ト ナ の時間じゃ。妾に永劫、消えぬ熱をくりゃれな」
すごかった。すっごいこえて、もうすごくてね。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜ッ☆」
※
セラ婆の家で細々と話をしている中、ダグ爺の耳がぴくりと動いた。
「フッ、若いのう……」
ソフィアとスタルジャは顔を染めてモジモジとしていた。
※
「よ、よお……。遅れてすまないな。話はどうなった?」
アーシェ婆の家の扉を開けると、もう酒臭かった。セラ婆のところに集まってると思ったんだけど、そこには眠っているセラ婆とガセ爺がいるだけで、ここに行けと言われた。
「話ぃ? そんなモンどーでも良いわ! それよりティフォ、よかったねぇ。やっと想いをとげたな! 逃すなよ?」
「うん。あたりまえ」
全部の毛穴から血が噴き出るかと思った。俺よりもなぜかソフィアとスタルジャが真っ赤になってる。
……これは全て聴かれていたか。
膝がカクカクするのを抑えながら、なるべく自然な仕草を装い、空いていた席に着く。
「で、今後の話は……」
「ハッ! 前調律者の後は追跡できん。聖剣は奪われた、どうこうもないじゃろ。今は騒ぐ時ではない。反省は後でして、今は結ばれた今を楽しめ小僧」
「「ぬぐっ!」」
俺とダグ爺が内臓から呻き声を出した。
ダグ爺は聖剣を守って来た。俺は全てを悟られていた言い方にうひょっとなる。ダグ爺が灰色の表情になり、俺は真っ赤。その風景を見てアーシェ婆が高らかに笑う。
「この状況でこれだけ心を動かせるんだ。この里最強の前衛の師弟ならではの余裕だね!
……負けたんじゃない。一杯食わされただけさ。じゃあ後はやることは決まっておろう?」
「と、特訓?」
「阿呆! 今は今を得て楽しめ。お前の『お帰りなさい会』だよ。考えて分からないことは考えてもムダだ。飲め、食え、笑え。今の幸せを絶対に失わないものとして、味わえアルフォンス」
言葉が出なかった。固まってる俺にアーシェ婆は盃を掲げていった。
「おかえり、我が息子。また立派になって帰って来たな。誇らしいぞ」
この里に帰って来て何度泣かされるのか。反射的に溢れる涙を気合いで止めながら、俺も近くの盃に酒を注いで返す。
「ただいま、母さん。父さんたちにも会いたくて、俺は帰って来たよ」
隣でダグ爺が涙の滝になってた。
※
「なるほど、なるほどなぁ。さすがはエルフじゃな! 波長で神威を阻害するか!」
アーシェ婆は風の境界のエルフたちの魔術に興味深々だった。術の研究では至れない、生きた知識だと大喜びだ。
隣ではソフィアとスタルジャが、ダグ爺と武術談義をしている。たまに立ち上がって、ガチの攻撃をして、ダグ爺が受け、ほうほうと感心していた。
ちなみにスタルジャの槍の腕は、すでにダグ爺を超えていて、ダグ爺がとろけたような顔でスタルジャに教えをこう姿はちょっといたたまれなかった。
「外の世界は良かったか」
アーシェ婆の問いに、俺は迷わず返していた。
「楽しいな。知らないことがたくさんあった」
「ふ、ふふふふっ! 送り出した側とすれば、最高の答えじゃな!」
ただただ、怖くてすごかったアーシェ婆が、初めて同じ高さで話をしてくれていることに、嬉しくて、自分が成長したんだと思えた。
「魔界の七魔侯爵に、セィパルネなんてのがいてさ。出力はすごいんだけど、全然術式を上書きされる前提がなくてさぁ」
「ぶはははっ! 力ある者の抜けじゃなw 耳が痛いわwww」
「あ、やっぱりアーシェ婆にもあるの? そういうの」
アーシェ婆はゲラゲラ笑って、呼吸がおかしくなるあたりで、目尻の涙を拭きながら言う。
「高き世界を見る者のあるあるよ。術式が独自で抜けぬと思い込むからな。ああ、楽しいな。それだけ優れた者だったのであろうw」
初めてみんなとお酒を飲んだ時、みんなと並べた気がした。でも今は、自分の体験でアーシェ婆を楽しませている。
この感覚はとても胸にくるものがあった。
「よし、順調に過ぎるほど、やはりお前は伸びたな。では、アタシらの話もちゃんと聴かせてやろう」
まるで冗談を言うように、アーシェ婆の口から、この里の歴史が語られた。
ここまで読んだ
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