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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十四章 クヌルギア
第十四章│第十六話 鍵
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アルフォンスの故郷ラプセルに現れた勇者ハンネス。
それを阻む強固な結界が、
何者かの手引きで弱められ、
その侵入を許してしまう。
アーシェ婆とダグ爺により、
ハンネスとリディを迎え撃つが、
その攻撃を一人の男に阻まれる。
薬師シモン。
彼は今、
その師匠であるセラ婆の喉元に、
刃を突きつけ人質にしていた。
里に転移して来たアルフォンスは、
ソフィアとスタルジャと合流し、
結界で阻まれた里へと急ぐ。
その時、これまでの森の異変に、ただただ静かに身を潜めていた鳥たちが、一斉に空へと逃げ惑った。空にひしめく鳥たちのシルエットと、けたたましく叫び合う鳴き声がざわめき、晴天の空にかげりがさす。
その発端となったのは、目の前に浮かぶ拳大の小さな光のずれた円に向かう、一人の男にあった。
その男は両手の人差し指と中指だけを立て、巨大なオーケストラを指揮するように、ゆっくりと腕を広げた。無詠唱。指先で描く魔術印。その膨大な術式演算が、世界の理を書き換える。目には見えない。しかし、そこに描かれ出す膨大な術式の演算は、この大地の理を全て数式化するかのように膨大で、残酷で、美しい。
それを目にできる者は、心打たれただろう。だが、その恐怖を上回る美しさを理解できない者には、壮絶な災害の前触れとも取れる世界の揺らぎであった。
─── 世界が歪む
膨大な数の白くぼやけた文字列が、繭を作るように、この地に張られた結界に沿って流れ出す。
「受託せよ。我は鍵なり」
その鍵言は、まるで世界の底の鍵を開けたかのように、大きく細かく、上下に揺れながらその偽りを解いた ───
※
真っ暗な世界。でも、知らない世界じゃない。遠くに血管みたいなマナの流れが赤い光の集まりで見える。二つの岩が置かれた境界。そこを歩くまでもなく、こうして物理結界の鍵を解いたら、そこに転移させられていた。
「ソフィ、タージャ。大丈夫か?」
「「うん!」」
さっきまでふたりが居た位置から声が聞こえた。転移魔術に似た機構だろうか、違う次元の狭間に一度送られているようだ。ここを抜けて里に進むには、あの七人の戦士に勝って、先のゲートに向かう必要がある。
「最後の関門に挑む。行くぞ?」
答えを聞くまでもなく、もうすでにふたりは臨戦態勢だった。その意志統一をした直後、水の底から這い上がるような感覚を得て、闇が払われた。
─── 真っ白な半球状の広い世界
俺は帰って来た。このラプセルの最後の難関。あの七人の戦士の世界へ。
「 ─── 【光あれ】」
彼らが白い床から浮かび上がるその前に、七つに分けた座標に、光の神ラミリアから得た最強の破壊を発動する。七人の影が立った瞬間、強烈な光の筋が、狂ったように暴れ出した。耐魔が出来なかったのは、杖と戦鎚のふたりの戦士だったようだ。床に武器が落ちる乾いた音が響いた後、赤熱した空の鎧が転がり落ちる。
残り五人は耐魔に成功しつつも、光の神の凄絶な熱量をほこる【光あれ】を逃し切れず、鎧の隙間から煙をあげて倒れた。でもすぐに立ち上がるだろう。つまり魔術をはるかに凌駕する神威を、耐えられる相手だと確定している。生半可な魔術は通用しないと思うしかない。
「ぐぅあ……ッ! キサマ!』
中央にいる剣士風の、一切反射のないマットな黒い全身鎧の剣士が、膝をつきながらも呪詛を吐く。俺はあえて街のチンピラのような態度と口調で、それを煽る。
「時間がねえんだよ。ここを通れるか、通れねえかじゃねえ、とっとと道を開け。付き合ってるヒマはねえ」
俺はもうすでに一度、彼らを見ている。どんな装備、どんな体格、どうやって出てくるかも里を出る時に見ていた。なら、戦略の中に組み込める。彼らが生えてくる場所、その重要な臓器のある場所に、ラミリアの加護『光あれ』をそれぞれ置いておいた。
出て来て実体化した瞬間に、臓腑から焼かれる流れだ。しかし、流石だな。果てたのは二人だけか。
「ソフィ、タージャ。弓と杖、それぞれ頼む」
「 ─── アル⁉︎ 残り三人を相手にするんですか⁉︎」
残りは大剣、戦斧、剣。これくらい超えられないと、義父さんの強さを超えたとは言えない。なんせ、俺を背中におぶって、こいつら七人を斬ったのが義父さんだからな。
「ずいぶん悔しそうだな。こうなると分かっていたんだ。そもそもが、あの時武器を見せていたお前たちの驕りだ」
「戦の時点で備えておったか……。其方の言う通りよ小童。してやられたわ!
─── 前より通る者よ、死をもって我らが力を知れッ!」
ラプセルの里への最後の関門。その戦いが始まる。
※
─── 少し前、ラプセル
「セラ婆! 来たぞ、どこにおる!」
西の薬庫の小屋まで来たが、なぁんも気配がない。ここにあやつが立ち寄った気配はある。しかし、もの毛の殻じゃ。
「セ、セラフィナ! どこにおる‼︎」
呼び方を変えたが、なんら反応もない。あやつなら気がつきそうなもんじゃが、そうなるとむしろ『言霊』にすら反応できん状況か……! そこでようやく理解した。あの結界の外の敵は、確かに強いが、時間稼ぎでもあったのか!
無駄な呪術の血生臭い臭い、あれはあまりにも分かりやす過ぎる。とうの昔から、この里の守りを割る算段はついていたんじゃ! あの時、戦う力のなかった者は誰か。狙いは最初からそこだった。いや、その前にもセラフィナが床に伏すなどという、ありえんことがあった。
もう、そこから詰められていたか!
「ノーミードよ! 儂に力を貸してくれ! この地の精霊全てに頼む! 儂を癒神セラフィナのもとへ‼︎ もう時間がない、なんとしても……!」
ほどなく、ノーミードの照れくさそうな笑い声が聞こえて、儂は里の結界の端に転移された。
※
着いた場所は、里の結界の内側にあたるなんもない森の中じゃった。だが、ただの間違いではないとすぐに分かった。
─── 骨でも折ったか
しかし姿が見えん。精霊たちはなぜ儂をこんなところに? と、少し離れた場所に生えておる巨木が、うっすらと輝いて見えた気がした。精霊術か! あの樹に宿る精霊に、セラフィナは何かを仕掛けていったに違いない!
すぐに駆け寄り、その樹に手を当てて目を閉じ、耳をすませた。
─── 吸血鬼ガ……連レテ……行ッタ……
幼児のような声がかすかに聞こえた。同時に頭の中に直接、この精霊の目にした風景が送り込まれた。
「…………シモン? なぜあやつがッ⁉︎」
儂の怒声で樹の精霊は静まり返ってしもうた。じゃか、セラフィナを連れて向かった先はもう分かった。
「あの方角は、今まさにダーグゼインとアーシェスが迎え撃って出た場所じゃな……ッ!」
走り出す儂に、辺りの精霊たちが術をかけているらしい。息が切れることもなく、風景がどんどんと過ぎ去ってゆく。セラフィナはこの里の精霊たちを愛しておった。だからこそ奴らは行けと言うておる。儂にあやつを救えと ─── !
※
猛烈な正拳突きの連打、その腰のわずかな揺らぎを利用した、音よりも速い上段回し蹴りをスレスレで躱す。が、その蹴りは正中線を超えた瞬間に引き戻され、躱すために逸らした身体の鳩尾を狙って、横蹴りに変化した。
俺は小さく回り込んで、その蹴り足の膝と肩をつかみ、軸足をすくい上げる。蹴りが伸びた瞬間の勢いを、そのまま体を宙に持ち上げる力に変え、頭から床に叩きつけた。
『 ─── ぐぶぅ……ッ!』
頸椎の砕ける手応えと、肺から押し出された息が、鈍い呻き声を漏らす。確実にするために、仰向けに倒れたその首を、足刀で蹴り下ろした。その衝撃で首が千切れ、床に重たい音を立てて、頭部が転がってゆく。
「ふむ。お前ら魔導生命体ではないな? 精霊に似た何かだ」
体術の戦士を下した直後、その消えゆく姿にそう感じていた。だが、その言葉に返事はなく、背後から巨大な戦斧が、白い衝撃波を生み出して通り過ぎる。膝を落として身を下げて躱しつつ、横なぎに迫った長剣を、夜切で滑らせていなした。
斧と剣。そのどちらの攻撃も、人間の動体視力では捉えられないだろう。即座に次の攻撃へと繋げる剣士の猛攻に、斧の戦士は次の動作への力を溜めている。向こうではソフィアが弓の戦士と。スタルジャが槍の戦士との戦いを繰り広げていた。
─── 強い
あの時に感じた『死のビジョン』に間違いはなかったと確信する。時折り交える強烈な殺意が、それこそフェイントのようにイメージを支配し、次の攻撃への誘導にされていた。その剣士の凶暴なまでの殺意の陰で、かするだけで肉が弾け飛ぶであろう、悪夢のような斧の猛撃が放たれる。
斧の戦士の攻撃は重い。その分、スキが生まれているのは分かっている。だが、それすらも餌にして、剣士が刈り取りにくるのだ。それぞれが神の如き技量と力を持ち、しかも連携の呼吸は、超高度な魔術の術式のように緻密で正確だった。
また斧が力を溜めている。剣の速度が急激に高まり、小回りの利いた技の組み立てで攻めてくる。完全に死角となる位置から、必殺の切り上げが迫ったのを、夜切でいなしにかかる。
だがそこに迫る剣はなかった。
殺意のフェイント。完璧なタイミングで挟まれたそれに、いなす構えがアダとなる。視界がブレて、現実の世界に引き戻されると、すでにその長剣が俺の首に迫っていた ───
「うわああああぁぁぁッ!」
漆黒のフェイスガードの向こうに、にやりと歪む剣士の口元が見えた。
「……なぁんてな♪」
剣士は俺の首を狙う前の、殺気のフェイントを放った瞬間の、棒立ちに近い姿勢のまま混乱していた。その首に手を回し、直接体内に術式を展開する。
「 ─── 【轟雷】」
魔術への耐性は異様に高い。流れる術式をほぼ無意識にでもジャミングするだろう。だが、極限まで短縮をかけられた、超圧縮の術式の塊を、驚いた瞬間に直接打ち込まれたらどうだ?
『グッ……ぬうあああああぁぁぁぁッ‼︎』
胸部の中心から上半身を覆うサイズの、雷球が生み出され、その端から体内に雷撃が流れる。【轟雷】は雷撃系の上級魔術でしかない。こいつらには超上級、神級でも届くかあやふやだ。
わざわざこれを選択した理由はふたつ。
本来なら雷球が生じて、その内部でエネルギーを高めて、強烈な稲妻を生み出すのがこの術だ。だが、それを体内に発生させられると、エネルギーを高める前に感電が始まり、最大の殺傷力には届かない。その分、エネルギーを高めようと術式は、長い時間をかけて雷撃を連続して発生させる。
つまり、発動したら目的のエネルギー生成に達するまで、術式が自然と感電させつづけるってことだ。もうひとつの理由は、簡単だ。
「へへ。完全に連携が崩れたな!」
今まさに力を溜め終えた、斧の戦士が技の発動に躊躇を見せた。筋力を高め、全身に魔力の循環と膨張を促し、神の領域に至る大技を、神でもない存在が放つ。……そんなもん、思惑がズレたら、フリーズするしかなくなるだろ?
「 ─── 【滅】」
戦斧を振りかぶって、一瞬だけ気を揺らしたそのガラ空きの胸元に、掌を添えて神威を発する。
ぽっ
魔の抜けた音がひとつ。同時に胸元を真円の穴を開けた戦士が、全身から溜めていた魔力を上記のように立てて倒れた。
─── 黒髪。あの時の童か
あの時に言われたセリフは、あれから何度も思い返したものだ。
「さあ、前から来たぞ。あの時の童が」
雷撃を耐え抜いた剣士が立ち上がり、一瞬で再生するのを横目に、そう言い放つ。
「…………貴様、なぜあの父親よりもはるかに力を持ちながら、わざわざ付き合う? いや、無粋か。刃で語ろうか強き者よ」
ん? なんか最後のセリフは覚えがあるな? そんなくだらないことを思って、思わず笑みがこぼれてしまった。
「邪魔なのは消えたな。あれからずっとこの時をイメージして来たんだよ。さあ、答え合わせを楽しもうじゃないか。ふふ、ふははははははッ!」
なんか俺、悪者っぽいな。でも血なのだろうか、楽しくて仕方がない。急がなきゃ行けないって思いもある。それ以上に、何年も上を見させてくれたこの強者に、挑める瞬間がたまらなく愉快で仕方がなかった。
※
やっぱりアルはすごい。三人相手にして、あっという間に二人倒してる。それも多分、全然本気なんか出してない。繋がりがつよくなったからかな、彼が闘うために力を高める時まで、肌でわかるようになっちゃった。
体術の人を倒した時も、今、斧の人を倒した時も、彼は心から楽しんでいたのが分かった。闘うよりも、なんだか謎々を出された子供が、少し頭を捻って答えを見つけた時みたいな感情だなぁって思う。
「シィ ─── ッ‼︎」
黒い槍を雷みたいな速さで、連続して放ってくる相手。一本の槍なのに、穂先が七つあるように見える。この人もやっぱり人間じゃないんだなぁって思う。すごく強い。私の記憶の中にいる、ロゥトの槍使いの名手エノク。パパのイメージの何百倍も……いえ、次元が違う遣い手。
それにどうも魔術も精霊術も、この人にはあまり効かないみたい。
うーん、あんまり手に残るあの感じが好きじゃないから、出来れば一対一で武器使う闘いが好きじゃないんだけどなぁ。ただ、そうも言ってられないね。
「 ─── フォスミレブロ。おいで」
言い終わるより速く、私の手にこの世のものとは思えないほど美しい槍が、一番欲しい位置で現れる。胸がひとつドクンと打って、この子の感情が繋がってきた。
「ふふふ、そうだね。楽しいね。こんなに強い槍の人いなかったもんね〜」
ふと見たら、槍の人は襲いかかって来るのをやめて、少し口を開けてこっちを見ていた。
「精霊たちの力は通じにくいみたいだけど、私たちが強くなるのは問題ないよね。
─── さあ、みんな今から遊ぶよ。力を貸して」
すぐその後に、槍の人の断末魔とフォスミレブロの『せっかくの相手だったのに、高めすぎなんだよ……』って声が聞こえた。
※
はあ、ティフォちゃんのことを思い出して、酷く沈んでいたアルくんが心配でしたが、問題ないようです♪ だってあんなに楽しそうに、夜切ちゃんと歌うみたいに、剣士の人を削っていってますから☆
しかし、この人は五月蝿いですね。
「あの、もうあなたの矢をつかむの、両手にいっぱいなんですけど」
そう言ってみれば、さらにヤケクソみたいに矢の連射ですよこれ。
うん、すごい腕だなと思いますよ? 天界に『弓の神』がいたら、彼女でしょうね。物理的な弓と矢の力だけではなく、さまざまな術式を載せて来ますし、本人も近接戦闘に持ち込ませない足が秀でている。
「床に置いておきますね? もう持ちきれないので」
「 ─── 」
守護神の類いなんでしょう。人ではないし、生物ではないし、魔導生命体でもない。妖精に近い気配が、隠されてはいますが、端々に感じ取れます。闘いを好むでもなく、義務だから全力ってかんじですねぇ。契約でもあるのでしょうか?
「わかりました。やめられないのですね?」
「 ─── 」
細かい穴がいくつも空いたフェイスガードをつけた顔。それが一瞬、戸惑ったように見えました。
「では、終わらせますね〜☆」
……カカカカカカカカ……キュン ─── ッ!
切り刻む奇跡を、極小の点に凝縮する。かつて私がアルくんを誘拐犯と勘違いして、神威を放った時、彼は『面だからなんとかなった、点だったらどうなったか』そんなことを言われました。
その後にティフォちゃんが使っていた、凝縮する神威を、アルくんは何度か使っていました。それに【掌握】なんて加護までアルくんは得てましたしね。彼とティフォちゃんばかり繋がっているようで、ちょっとジェラシーだったんですよ!
『 ─── ……』
弓の彼女は額に穴を開け、その周りがジリジリと焼ける音を立てて、うっすらと肉の焼ける臭いを残して倒れました。
「うん、やはりイメージがつかみやすいですね。アルくんの加護カードしかり、うーんこれは……」
─── ザンッ!
あ、アルくんの方も終わったみたいです♪ なんら神威を使わずに、技量だけで下したみたいですね☆
多分、剣技のみで言えば、このマールダーにはあれ以上の存在はいないんじゃないでしょうか? ここまでの闘いも五分もかかってないですし。
それくらい、あの黒い鎧の剣士は抜きん出た力を感じていましたけど。ん? そう言えば、ローゼンちゃんが『剣の鬼』なプロトタイプがいるとか言っていましたけど。ま、我が夫で調律者の敵ではないですよ! 見てくださいあの彼の高笑い。
やっぱり私の夫は、人間やめてますね♪
※
世界は変わる。それは戦の形もそうであった。我らは忘れ去られ、ひっそりとこの世から去り、精霊の粒子となる。そう思っていたのだ。そこにダーグゼイン様とアーシェス様が現れ、我らに『理想の精霊の里を造らぬか』とおっしゃった。
その理想とは、精霊らしく『目的のため』に命を費やすものではなく、『人のように己の幸せを夢見る場所』だと。
我らはそれが理解できなかった。己の幸せとは何か? これまで多くの人々に、我らは加護を与え、その成長と魂の磨きに多幸感を得た。
しかし、それは己の意思であったか?
虫や獣のように、預かり知らぬ奥底に息づく『本能』ではなかったか。己の今までの選択が、降って湧いた、他の意思ではなかったか。この自問自答は、ただそれだけで己を磨くに値する時間であった。初めて、己を求めたのだ。初めて、己という欲を持ったのだ。そして、沸き起こる『己は己』。この想いはそれまでの飽くなき剣の道の先にある、大いなる光に思えた。
そして、それは今でも輝きを持って、我が胸にある。
もはや肉体を持てるだけの、人々の想いを失っていた我らは、滅びるしかなかった。それをアーシェス様は『召喚獣』として契約し、この地に魂を結んでくださった。忘れもせぬ。アーシェス様が契約を結ぶ時に、我らに下さった言葉。
─── 生などくだらん。無駄に思え。それが次の生の光になろう
我らはこの関門で仕事を与えられ、しかし、義務は与えられなかった。共に里に生きるものとして、良からぬものは滅せよとだけ。しかし、それも『仕事がないと腐るじゃろ? そんな程度じゃ』とニヒルな笑顔でそうおっしゃられた。
長い余暇であった。
それこそ多くの欲を考え、それこそ多くの光を胸に得た。そして現れたのが、童を背負ったハイエルフの剣士であり、まさに何ひとつできないままの敗北。剣の守護神として生を受け、初めての敗北であった。
気持ちが良かった。これほどの理にかなった敗北はなかった。だからこそ、その童が大きくなり、里から出て来た時は、胸がときめいたのだ。こやつこそ、我に輝かしい最期を与える存在ではないかと。
果たしてそれは、正しき予感であった。
武に愛され、武を愛し、同じくそれらを愛する者に心を割く。おそらく、あれが本気を出していたなら、最初の光の御業ひとつで消されていただろう。体術、斧、剣。全てにおいて、ダーグゼイン様の面影を見、ハイエルフの剣士の業を見た。
ああ、これほどの人の成長と、継承の美しさを見たことがあっただろうか?
我はやはり守護神なのだ。人に力を与え、その運命を共有する守護神なのだ。彼は言った。
「さあ、前から来たぞ。あの時の童が」
そしてこうも言っていた。
「そもそもが、あの時武器を見せていたお前たちの驕りだ」
あの時から、我らと戦うために月日を費やし、そして我らを軽く凌駕した。なんと、なんと美しい輝きか! ダーグゼイン様とアーシェス様の御大には申し訳ない。だが、我はようやく『欲』を得た。
─── 次も人に力を与える存在となりたい
我が生に悔いなし。我が欲に誇りを思おう。遠くで『あねいぶ』とか聞こえたが、若者の言葉はわからん。
ここまで読んだ
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