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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第十四章 クヌルギア

第十四章│第二十五話 継承

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ハンネスとリディから、
故郷ラプセルを救ったアルフォンスたち。

しかし、
聖剣は奪われ、
友人であったシモンを失う。

『おかえりなさい会』の後、
ティフォとエリンが今までどうしていたのかを聞く。

ハンネスに斬られ、
海に沈んだ二人は、
なぜか傷が治っている状態で、
海底の岩場にある空間にいた。

アルフォンスがソフィアを精神世界から救い出し、
契約が復活したその影響で、
ティフォが力を取り戻す。

それを待っていたように現れたのは、
陰の神ネイだった─── 。

天界の高位の神々が、
今、人界に手を差し伸べている。

『時間を進める者』
『闇の力』

その言葉の真意はまだ不明なまま。

「 ─── つまり、回復術とは異なり、元の状態へと急速に復元する、時間魔術の応用が術式の基盤ということじゃ」

 アーシェ婆の家の地下で、魔術講座が開かれている。ソフィア、ティフォ、スタルジャ、エリンが椅子に座って、熱心に聞いていた。

 アーシェ婆とダグ爺とで、しばらくの間、彼女たちの基礎を見極めて、集中特訓をすることとになっている。

 てっきり、俺が受けたような地獄の特訓が開かれるのだと思っていたら、そんなことはなかった。むしろ彼女たちの知識や技術を、アーシェ婆は嬉しそうに聞き、それに合わせた魔術の視点でアドバイスをしている。

 ……俺の十年間はなんだったんだろうな。

 ソフィアとティフォは奇跡を使えるのだから、今さら魔術なんて重要視しないだろうと思っていたが、熱心どころか奇跡と組み合わせてどんどん開眼している。

 リディが俺たちの魔術を目にしてから、研究を重ねて、自分やハンネスに何重もの術式をかけていたのが刺激だったようだ。

「……あ、てことは鼓動が止まるのを引き鉄に、術式を発動させるのが【自動蘇生イムシュ・アネイブ】なんですね!」
「ふむ、さすがソフィアじゃな。そう、単なる回復魔術では、回復が追いつかず肉体が魂を放り出してしまう。その瞬間に肉体のみ時を戻すのが、最初の段階ということじゃな」

 今は【蘇生アネイブ】の講義だったが、ソフィアはそこから【自動蘇生イムシュ・アネイブ】の仕組みにまで至ったようだ。俺の時は、講義の時に応用したアイデアで先走ると、即熱湯だったんだけどな。ずるい。

「…………これを応用したら、肉体強化の限界を超えた時に、体が崩壊するのを阻止できないかしら?」
「それは非常に良い視点じゃな! 獣人族の大いなる強化につながろう。……いや、それ以外の種族でも、制限を超えた強化魔術が可能になるやもしれぬな」

 エリンは魔術印を封印した。その代わりに肉体強化の限界を突破している。だが、驚いたのはその後だ。

 本人すら自覚がなかったが、陰の神ネイとの契約で、なんと彼女は魔術を使えるようになっていた。

 発覚したのは、最初の魔術講座の時で、獣人族が肉体強化に魔力を転換しているのを見ようとした時だ。

『うん? なぜこの魔力経路で、魔術が使えぬ?』

 アーシェ婆いわく、獣人族の魔力の経路は独特で、それこそ肉体強化にしか魔力を使えないもの。しかし、エリンの魔力経路は、明らかに魔術を行使するためにつながっているという。

 エリンの背中に手を添えて、アーシェ婆が魔力と術式操作をして、一番簡単な【火炎弾フラム・ブレッド】を起こした。魔力経路が整っていなければ、アーシェ婆の技術でもエリンの手から魔術の発動は不可能なはず。

 だが、見事に火炎の球が出現して、上空へと突き進んでいった。

 初めての魔術行使以来、エリンは魔術にハマっている。小難しい術式を、理論立てて組み立てていく魔術印より、体で魔力を感じながら術式を操れる魔術が性に合っていたようだ。今後この事実が彼女をどんな戦士にしていくのか、楽しみなような怖いような。

「これ、アルフォンスッ! ぼーっとしておるなら『種族別解剖図鑑』を持ってこんか!」

 俺はここで何してるかって? 助手ですよ。そしてこの扱いです。この思わぬ帰郷で、以前よりもストレートに息子扱いをしてくれるようになったのはいいけど、なんか扱いが雑になった気がする。

 ……余計な気づかいがなくなったってことかな?

 俺は理不尽さに口を曲げつつ、かすかに胸が温かくなるのを感じながら、アーシェ婆の蔵書庫へと走った。


 ※


 アルが強いのも納得しちゃった。

 ダグ爺の理論はすごくシンプルなのに、向かい合ってみると、それが無駄を削ぎ落とした闘いの叡智えいちの集結なんだってわかる。

 私の槍術もアルから教わったし、ソフィやティフォ、そして槍本人のフォスミレブロからも仕込まれた。みんながどれだけすごいのかは、夢の世界での鍛錬たんれんで嫌というほど知ってる。でも、ダグ爺と向かい合うと、自分の持っている力が出せないような、動きにくさをすごく感じる。

「どうしたスタちゃんや、呼吸が乱れておるぞ」

 そうダグ爺に指摘されてハッとなる。

 きっと今はアルの方がダグ爺よりずっと強いはず。でも、力や速さじゃなくて、動きにくい。気がつけば自分のペースを崩されて、負けないにしても決定打を打てるタイミングが持てなかった。

 これが戦術なんだと思う。

 精霊術を得て、すごい人たちに闘い方を教わってきて、私に足りなかったものはここにあると思った。

「とはいえ、急に呼吸法を変えるというのも辛いものじゃろうに、たいしたものよなぁ。師匠がよかったのであろう」
「ふふ、私の槍の師匠はアルだよ? じゃあダグ爺がすごいんだね」

 ダグ爺がによっと頬を持ち上げて照れている。あ、今ならスキだらけかも。一気に間合いを取ろうとした時、ダグ爺は槍を下ろして、あごひげをなでていた。

「しかし、その前に誰か……。教えたのではなく、見せた者がおったであろう? スタちゃんの槍にはその背中を追うようなものを感じ取れる」
「……!!」

 ちょっと、いやかなりびっくりしちゃった。

「それはきっとパパ。私のお父さんが里一番の槍使いだったから」
「ふむ。かなりの者であったことだろう」
「ふふ、アルたちに比べたら全然だと思うよ。小さな集落だったし」

 そう答えるとダグ爺は嬉しそうに笑った。

「グハハハ! スタちゃんよ、そうではない。単に強さではなく、背中で闘い方を見せるのは、その者自身の強さよ。何を守るべきか、何を渡すべきか。それを知っている者の存在は、見た者に通すべき一本の道を与えるものだ」

 気がついたら私の目から涙があふれていた。

「おお……すまぬ、不躾ぶしつけに踏み込んでしもうたか」
「ううん……違うの、嬉しくて……」

 パパからも私は受け継いでいた。それがダグ爺にもわかるくらいに残っていた。そう思ったら、パパもママも、ただいなくなってしまったんじゃないと思えた。

「……そうか。うん、そうか。少し休んでおるがいい」
「え! まだ続けて大丈夫だよ!」
「いや、呼吸法は馴染むまでが大事でな。今は少し高揚しておる。心に凪がくるまで待ってやるのも肝要よ」

 そういってダグ爺は私を休ませ、エリンに手招きをした。

「どれ、次はエリンちゃんじゃな。呼吸法と歩法がどれだけ馴染んだか見てやろう」

 エリンが立ち上がってダグ爺に向かって歩いてゆく。その瞬間に違和感を感じた。それはダグ爺も同じだったみたい。

 目を見開いて、口元をニヤリと吊り上げていた。


 ※


 守護神というものは、本来その加護を受ける者の家族、先祖、または前世の本人の願いが作用するもの。それらを背負って出生してくる時に、すでにその運命への願いは、我々に細い絆を繋ぐ。

 本人が生きてゆく中でうものではなく、そうした本人とそれに関わる存在の願いが、守護契約へと運ぶのだ。

 つまり、そうした物が自分たちにはないと思って生きている者たちや種族には、我らとの縁は結ばれることはない。

 だからこそ心底驚いた。

 これまで獣人族と契約を結んだことはなく、かつて諸国漫遊で手合わせをした程度でしか、彼らというものを儂は知らぬ。

「エ、エリンちゃん……? ま、まさか一晩で、呼吸法と歩法をものにしおったのか!?」

 まとう空気すら乱さず、足を止めた赤豹族の少女は、伏し目がちにしていた褐色の瞳を上げてこちらを見る。その所作しょさだけですでに『武の呼吸』を何十年も続け、大地と己をつなぎ止めた者の風格が見て取れた。

「…………森の中は呼吸も歩き方も、合わせていかないと危険な時があるの。すぐに適応するのは獣人族にとって、狩りの基本、戦士の基本よ」

 背中に冷たいものが流れるなど、一体いつ以来のことだろうか。あの不届き者の調律者のふたりにも感じなかった、本能の震えを感じた。

「……面白い。面白いッ! グハハハハハ!! 獣人族の戦士とは、これほどの器を持つのか」
「…………」

 少女はスッと構えを取る。それは同じく、昨日教えたばかりの構えに、なんらかの工夫が加えられているのが分かる。

「爪か。なるほど、最大の武器である爪を活かすには、人の間合いを想定した構えは、いささか窮屈きゅうくつであったか」
「…………問題ないわ。もうイメージはできているもの」

 アルフォンスにも、あやつの連れてきたどの少女たちにも勝てぬことは分かっておる。しかし、勝負には勝てずとも、まだ己に足らぬものを教えてやることはできると思っておったが……。

 これは想像以上であった。

 どこかぼんやりとした印象のある娘ではあった。地頭の良さもあろうが、これは獣人ならではの身ひとつで生き抜いてきた、種族の特性であろう。

「よかろう。参れ!」



 いやあ、一合目の手合わせで、魔導生命体ゴーレム躯体くたいをもう壊したかと思っちゃったわい☆

 表と見せて裏、実が虚になり、己の場へと相手を引き込む。儂の与えたわずかな知識を、すでに戦術として成立させる域にまで達しておるとは……。

 これはやり遂げねばなるまい。

 この少女に儂の全ての力と知識を与え、アルフォンスの隣に立たせてやる。これこそが儂の新たな生きがいとなろう。

 とか思っておったら、その翌日にはスタちゃんまで化けておった。

 なんでも『エリンを見ていたら呼吸や歩法の意味が分かった』とか。正直、己のこれまでの歩み、積み上げてきた時を思うと、やりきれなさはある。

 だが、武の高みを再認識し、若者が成長する姿を目にし、家族というものを理解してゆく時間とは斯様かように良きものであるとはな。

 しばらくすると、向こうからソフィアちゃんとティフォちゃんがこちらに歩いてくるのが見えた。

 うん、あのふたりには絶対勝てん!

 この後は、知識を授ける座学で進めてゆこうと儂は決意したのだ。


 ※


「ちょっ! 落ち着けって二人ともッ!!」

 その日の夜、ちょっとした騒動があった。 

 銀の錫杖しゃくじょうを構え、魔力を高速で循環させるアーシェ婆と、瞳を金色に輝かせて曲刀の柄に手をかけるダグ爺。

 夕食の後のささやかな呑みの席は、瞬間的に膨れ上がったアーシェ婆の魔力の余波で、しっちゃかめっちゃかになっていた。今もその魔力の渦は、食堂内につむじ風のように暴れている。

 殺気にあふれたふたりは、まさに一触即発の状態だ。ここは何としてもふたりを止めないと不味まずい!

「彼女も俺の嫁なんだよ───ッ!」

 俺の指さす方向で、瓶底眼鏡びんぞこめがねをかけた女性が、にへら顔で心細そうに立っている。そう、ローゼンだ。

 まだ里の結界は修復が終わっていないとはいえ、どうやってここに転移してきたのやら。そして彼女が突然現れた瞬間に、アーシェ婆とダグ爺が全力の戦闘モードに入った。もちろんローゼンの存在は話してあったのだが、何の前触れもなく突然現れた彼女の、人智をはるかに超えた力に思考回路がぶっ飛んだらしい。

「「…………えっ?」」

 うわずった声が重なった。さすがは里の武闘派のふたりだ。考えるより先に強者に挑もうとするとは……。

「…………あ、えと、おじゃまだったでしょうか……? 私、ローゼンと申しますです……」

 ちょっと間をあけてふたりが『いやいやいやいや』と、取引先にやらかした時みたいな早口の取りつくろいが始まり、ローゼンは即座に酒を飲まされていた。

 しどろもどろでローゼンを歓待するふたりも、緊張で真っ赤になってるローゼンも、明らかに速いペースで酒を呑んでいて、初対面はグダグダな様子ですぐに終わった。

 ……ガセ爺の酒を持ってきたとか、自分で言ってたのになアーシェ婆。あの火酒をがぶがぶ呑んでたらそりゃダウンするわ。三人ともだけど。

 なんだかよくわからないまま、その夜は俺たちで三人を運び、後片付けをして寝た。

 が、それもつかの間の休息だった。


 ※


「みんなズルい。私だって実家のご挨拶したいしされたいのです」

 夜中に目を覚ましたローゼンの前で、なぜか俺たちは正座をしていた。

「いやぁ、だってぇ……。ハンネスが出たり、色々あってさぁ? ちょっと連絡忘れてたっていうか」
「忘れてたんですか? このローゼンちゃんのことを?」
「あ、いや、ちがっ」

 てっきり怒られるかと思ったら、ローゼンが口を開けたまま、呆然ぼうぜんとしている。

「えっ? なに、どうし……」
「ティフォちゃんっ!! エリンちゃんっ!!」

 ローゼンがふたりに飛びついてわんわん泣き出した。もう次から次へとなんか起こるから、落ち着いて説明したりするヒマもないんだよね……。


 ※


 翌朝、俺たちは里の近くの開けた場所で、ティフォを囲うようにして集まっていた。

 別に彼女がなにかやらかして、集団で説教しているとかではない。いや、ある意味でやらかしたようなものだったが。

 ティフォは広場の地面に描かれた魔法陣の中心にペタンと座り、重ね合わせた手の平の上に、黒い綿ボコリのような物を乗せている。

「では、ダーさんもソフィちゃんも準備は良いですね?」

 俺たちがうなずくと、ローゼンはティフォの両肩に手を置き、合図を出す。

 念じるように深く目を閉じたティフォから、白い蒸気のような物が抜け出して、その場に集まると球体へと変化してゆく。

 ローゼンはティフォの前に山と積まれた魔獣たちの素材に、物質変換ぶっしつへんかんの術式をかけながら、ティフォの方に目配せをした。

「ん、肉体のじょーほーは抜き出した。いつでもどーぞ」

 ローゼンはさらに術式の展開を加速させ、彼女の周りで対象様々な魔法陣が浮かび上がって回転を始める。

「……【物質復元アートフェル】」

 ローゼンの術式が発動すると共に、ティフォの手の中にあった黒い毛の塊から、膨大な光る文字が流れ出して魔獣たちの素材の山へと流れ込む。

「─── 【掌握】」
「─── 【 今 一 度 土 塊 に 光 を 灯 せ 】」

 俺の『つかみ取る』神威と、ソフィアの神の奇跡が重なった瞬間、積まれていた魔獣の素材が光り出した。それは一度液体のように広がった後、中心に向かって集まり、巨大なシルエットを描き出す。

 ソフィアの奇跡がさらに神気を膨れ上がらせ、強烈な閃光を放つと、強い風がシルエットから外に向かって吹き出した。周辺の木々がその中心から発せられる、強烈な魔力にビリビリと振動して、森全体がざわめく。


─── にゃ~ん


 光と波動が収まると、そこには小さな黒い子猫が、くすぐったそうに目を細めてちょこんと座っている。そう言うと可愛らしくも聞こえるが、その頭には闘牛のような形状の黒い角が生えている。

「ベヒーモス!」
「にゃ~ん!」

 胸に飛びついたベヒーモスが、ノドをゴロゴロ鳴らして、必死に頭をくりくりと擦りつけている。ふわふわ柔らかい毛と、日向のような匂い、少し高めの温もりに彼の存在が実感できた。

「ふふふ、計画は成功なのです。ベヒちゃんの一部が残っていたのは、本当に奇跡だったですよ♪」

 そう、ハンネスに斬られて、黒い霧となって消えたはずのベヒーモスが帰ってきた!

 昨夜、酔から醒めたローゼンは、ティフォとエリンとの再会に涙し、これまでの経緯を聞いてポツリとこぼした。『今もティフォちゃんの魂に、ベヒちゃんの魂が抱っこされてるなら、戻せるかもしれないですね』と。

 ローゼンの案は、魔導生命体ゴーレムを作成するのと同じく、なるべくベヒーモスと構成の近い魔獣の素材を材料に躯体を構築。ベヒーモスの肉体の一部を設計図として、より以前と同じ状態を創り出して、魂を定着させるというものだった。

 一番の問題は、一度は死んだベヒーモスの肉体は、魔物の特性上、消えてしまっていることだった。

 と、そこでティフォがあることを思い出した。

『ん、それなら、あたしのポシェットに残ってる、かも』

 ティフォの使っている小さなポシェットは、俺の亜空間の倉庫と同じく魔道具で、その空間は時間の流れと遮断されている。ティフォはよくベヒーモスをポシェットの中へ、ぞんざいに彼を突っ込んでいた。

 ポシェットの中に、ベヒーモスの毛が残されていた。

 ……整理しないティフォを、厳しくしないでおいてよかったよ本当。色々なことが起きて、少し凹んだところもあったけど、ベヒーモスが戻って来てくれた。

 と、ティフォの前にベヒーモスが立ち、神妙な顔で目を閉じた。

「ん、お前はあたしの下僕の契約だったな?」
「にゃ」
「そして、ひじょーしょくだった」
「にゃー……」

 そういえば『非常食』って言ってたな。

「ん、あたしが死にかけた時、あたしはお前の魂を、たべた」
「にゃ」
「お前は一度しんだ。もう契約はない。じゆーにしろ」
「イヤイヤ、ゴジョーダンヲ」
「「「─── !?」」」

 いや、ベヒーモスがしゃべれるというか、俺が魔物と話せるのはわかってるけども、このタイミングで急にかわいい子猫の鳴き声から切り替えるのか!?

「ボク、ズットツイテイクヨー」
「ん、そうか。じゃあこれからは、ともだちだ」

 ティフォがいった『あたしはお前の魂を、たべた』は正しくは、ティフォの魂と同化して、彼女を救ってくれたってことだけど、ある意味ではそうなのかな? ふたりとも言葉足らずだから、主従関係を解消してサクッと友達になる流れはちょっとよく分からない。

 でも、とにかくベヒーモスが帰ってきたんだ。


 ※


「あら、もうできてしまったの? 本当にスタちゃんは覚えが速いわねぇ」

 セラ婆の庭の樹の下で、ふたりはテーブルにお茶会セットを並べ、まるで祖母と孫娘が他愛のない会話を楽しむように精霊術と回復魔術の講座を開いている。

 ローゼンがベヒーモス復活のために施した術の流れは、すぐにアーシェ婆の耳に入り、優先的にセラ婆の魔導生命体の躯体が制作された。ローゼン考案の方式は、特に肉体の再現性が高く、魂の定着に非常に優れていた。

 セラ婆が躯体に馴染んで起き上がってから二週間。ふたりはこうして毎日、お茶を片手に知識の継承を行っている。

「でも、まだ魔術の操作はできるようになったばかりだもん。効果の高い回復魔術は時間がかかりそう……」
「ほほほ。なにもひとりでやらなくてもいいのですよ?」
「え? 誰かに手伝ってもらうの?」
「いるでしょう? あなたの言葉を聞いてくれて、魔力やマナの根源ともいえる存在のおともだちが」
「……あっ! 精霊にお手伝いしてもらってもいいんだ!!」

 新たな知識にああでもないこうでもないと、フル回転でイメージしては興奮するスタルジャを、セラ婆はただただ微笑んで眺めていた。

 彼女が魔導生命体ゴーレムの躯体に魂を移して数日は、工房にこもり切りだったガセ爺も、心配して付き添っていた。しかし、ふたりの様子を見て、彼はまた工房に戻り、一心不乱に図面台の前で集中している。


─── 守護神はその存在を忘れ去られた時に消滅する


 セラ婆がこうして過ごすようになった、スタルジャとの楽しくも、発見と好奇心に満ちた知的な時間。明らかに立ち振舞に精彩が差し始めたのを、もう誰もがわかっていた。

 アーシェ婆とダグ爺が夢見た理想郷。

 消えゆくはずの存在が、最期に穏やかな一時を過ごせる場所を創り出す。彼らの夢が実現できることを、樹の下で笑うふたりが証明しているようだった。

作者のつぶやき

マールダー世界地図 | https://morimori-labo.monster/novel01/2026/04/14/mp01_map/

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