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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十四章 クヌルギア
第十四章│第十二話 確信
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破壊神アスタラとの試練を終えたアルフォンス。
その闘いの終わりは、
慈愛と祝福に満ちていた。
懐かしい面影を目にし、
アルフォンスはナナワルトルの塔を後にする。
そして、
天界では光の神ラミリアが、
時の神エイラと接触する。
『時間を進めている者がいる』
その言葉は、
調律の神の妹神エルネアの行方と共に、
時の神エイラの感情を奮い起こさせた。
ルミエラ市国は大きく揺れている。
ヴァレリー猊下は、枢機卿の後任にコンスタンティン司教を推薦。議会がそれを承認した。コンスタンティン氏は帝国派の旗手。デューイとアルマスなどという小物界の大物が、失脚した今、最も力のある帝国派の司教だった。
正直、私にはこの辺りの派閥問題はよくわからない。
ただ明確なのは、デューイとアルマスは策に溺れて失脚したところを、ホドールの黒舌化に巻き込まれたということ。教団内では『ふたりは高位聖職者でありながら魔物化した背教徒』という噂が強く大きくなっていることだ。あやつらは権力に溺れ、他の足をひっぱり、なんかいろいろ悪いことをしていたからいいとしよう。
問題はそれによって、教団内の力関係が激しく動き出したということ。
ああ、さっぱりわからない。なぜ神は、私に剣以外のことを突きつけるのか?
今日もヴァレリー猊下の部屋には、有象無象の者たちが、入れ替わり立ち替わり訪問している。時折、退室した後にこちらに寄ってきて、私に何やら要領の得ない台詞を耳打ちしてゆく者もある。
……すまんな。遠回りな言い方をされても、私の頭には残らないのだ。
まあ、次にあった時に、顔でも憶えていられたら、会釈ぐらいは返しておこう。
「はあ……。なぜ私はここに立っているのだろう?」
「あ、お疲れ様ですラブリンさん!」
「……私のことは家名のオウキッドと呼べと何度いえばわかるのだ。ケイン」
この若い騎士はケイン・アルバート・スプレマム。ヴァレリー猊下の教皇としての活動が本格的になり、それまで護衛の私が雑用も兼任していたが、重要な書類の作成や申請作業が増えたため増員された秘書のようなもの。
元は極光星騎士団でも第二師団にいたエリート。スプレマム家は子爵位にあたり、本人は有力な貴族の次男でありながら、危険な教団騎士の道に進んだ。なかなかに経典に対し、情熱的な人生を歩んだものだと思うが、任務中に大きなケガをして、今は現場を退いている。
「まぁだ提灯持ちの行列が続いてましたかぁ~」
「途切れるどころか、伸びてゆくだろうな。これは公務に差し支えなければよいが」
「そんなの最後尾にプラカードでも持たせて、ずっとここに並ばせておけばいいんですよw あ、ところで今ってどなたが面会中ですか?」
たしか今入っているのは、中央諸国でも南部商業地域の司教だったか。いや、もう憶えておらん。
「あー、あれだ。南部のパーシーとかいう司教だ」
「おっ、じゃあ問題ないっすね! この書類を渡してきちゃおうっと♪」
くやしいがこいつは優秀だ。子爵という中位貴族ともなれば、教団にはいる際に、最高学府であるルミエラ聖教大学に進むもの。だが、ケインはギリギリまでスプレマム家を支えるべく、中央諸国でも最難関である帝国大学を出ている。彼は教団を抜けたとしても、そうとうによい仕事に就くだろう。
私? 私か? 私は剣が好きだ!!
と、ケインが退室して、とたんに小走りでこちらに向かってきた。
「なにがパーシーですかラブリンさん! アランド大司教さまじゃないですか!! 危うく意識高く説法されるところでしたよ!!」
「……おエラがたに顔を憶えられるのも大事なことだぞケイン」
ああ、大司教だったか。『ニセ勇者伝説』のプロデューサーとの噂だが、役者のカール元第三師団団長と補佐のビエスコの行方はつかめていないらしい。定期的に報告書が送りつけられてくる以外は、こちらからの指令を送るのにも場所を特定できず、もっぱらカールたちは『世直しバカンス』に逃げたと囁かれていた。
ケインは未だ小声でぎゃあぎゃあと喚いているが、そんなことはどうでもいい。ちらりと彼の腰元に目をやると、そこにはガード分部に赤い宝石の埋め込まれた、白銀のレイピアが提げられている。
『ニセ聖剣』だ。彼も第二師団の騎士だった以上、これを与えられているのは知っているが、こうして目にするとなんだか哀れにすら思えてくる。彼も『呪力』を集める人夫に過ぎなかったのかと。
私の『聖剣シュレンディール』は壊れたままだ。アルフォンスの細工によって、見せかけの呪力を薄っすら放ち、疑いを向けられないようになっている。むしろ彼が加えた細工により、以前よりも剣としての性能は上がっているが、今はそれを握る気にはどうしてもなれなかった。
「私自身、いろいろと整理がついてきたのだろうな……。今さら、与えられた聖剣の真実が、じわじわとショックを広げている」
「え? なんですラブリンさん」
私はケインの両耳をつかみ、ギリギリと絞る。
「オ ウ キ ッ ド だ」
顔を真赤にしながらも、どこか嬉しそうに呻くこいつを見ていると、これが子爵の跡継ぎでなくてよかったんじゃないかと思ってしまう。
だが、今は彼の存在に助けられている。
仕事の面でもそうだが、このまだ言動にあどけなさの残る、とびきり優秀な青年とのおふざけ。それのおかげで教団に起きている問題のあれこれを考えずに済んでいる。
※
「では、その者の自宅にあった暗殺対象リストには、コンスタンティン枢機卿の名も記載されていたと……?」
先ほどケインが追い出されたヴァレリーの執務室。アランド大司教は鋭い眼でヴァレリーに顔を上げた。両脇の補佐は額に汗を浮かべ、緊張の面持ちでヴァレリーとアランドへと、視線を行き来させていた。
「はい。彼だけではなく、中央諸国の範囲に担当を持つ、司教職など高位の者たち複数がありました」
「…………反教団結社ですか」
一月ほど前に、中央諸国の小国バートマリ共和国の首都で、司教職ビトニク氏の暗殺未遂が起きた。犯人はその場で護衛騎士に殺害されたが、その身元捜査で、彼の単独ではなかったことが判明して騒ぎとなっている。
もちろんこの事件は、教団内の高官にだけ知らされた、極秘の情報である。
ビトニク司教は当時、地方での公演から首都の大聖堂に戻るところを、爆発力の高められた炎属性の魔道具で襲撃を受けた。馬車が停められた周辺からは、破壊力を増すための、風属性魔術の魔道具が仕込まれていたのが発見される。
そこに爆発型の魔道具を発動させ、さらに刃物を数点所持したその犯人が、確実に仕留めんと襲撃した流れだ。
大聖堂周辺の警備は厳重であり、司教が通る際には警備兵が付き添っていた。風属性の魔道具を仕掛けるのは、至難の技だっただろう。そもそも市井の平民が魔道具を持つなど、まずありえない。それも複数も使用されたとあれば、明らかに資金面でも何らかの背景があったことが想像できた。
最初から単独犯ではないだろうと予想されてはいたが、そこに浮上したのが反教団結社である。現在、帝国と教団は血眼になり、その情報を洗っていた。
「リストにあった名を連ねてみると。全て帝国派に属している、貴族籍の者たちですな。つまりこれは、帝国への同調に急進な活動が反感となったか。それとも権力意識に対する反意か。
……ヴァレリー猊下はいかがお考えに?」
「現段階ではわかりません。しかし、どのような考えがもとにあったとしても、暗殺などという凶行はとうてい受け入れられませんね」
そういってヴァレリーは立ち上がると、鍵付きの鞄からいくつかの書簡を取り出した。
「これは─── !」
その書簡をテーブルの上で開き、アランドは目を見開いた。
「昨今の世界情勢不安と、前教皇の失踪事件。この計画は前々から考えていたことです。これまでも教団には情報を集め、操作する暗部はありましたが、特定の高官の私兵のようなものでした。
……ホーリンズへの極光星騎士団侵攻など、かつてのオウレン枢機卿の問題もある。捜査権・監査・逮捕権を持った、独立機関の『中央情報局』を立ち上げます」
これまで教団に、対外諜報機関は正式には存在していなかった。これらは教団を護るための組織であり、また監査機関として、内部の腐敗を監視するもの。耳が痛い貴族籍の高官からは、反対が唱えられる可能性もある。
だが、教団内の帝国派の評判が低下している今、この監査機能を持った機関の立ち上げは、対外的にも『権力によって腐敗しない』と宣言するに等しい。
「対、反教団結社への施策であり、教団の情報収集と漏洩の対策であり、自浄作用があると対外的に示す。これは妙案でございますヴァレリー猊下!」
「多少の反対はあるでしょう。しかし、自分たちの身を護る勢力にもなるとすれば、暗殺者に怯える者たちも同意するでしょう」
ヴァレリーは草案をアランドに渡した。これでヴァレリーの手から離れ、実現に向けて教団は動くだろう。その草案にはいくつかの絶対条件があり、それを無くすことは不可能だと強調してある。
アランドは己の名を、この機関の設立に残すべく、補佐ふたりを連れ喜び勇んで出ていった。それを見届けると、ヴァレリーは軽くため息をつき、すっかりぬるくなった茶で唇を湿らせた。
「─── ご自身の敵になるかもしれない機関ですけどねぇ」
情報収集、漏洩防止、情報操作、捜査、監査、逮捕。実際は教団ではなく、このルミエラ市国としての独立機関である。これが後々に、教団に巣食う貴族上位主義と、権力からの腐敗への一手となる。
やがてはこの教団内の勢力図もすっかり変わってしまうかもしれない。ヴァレリーは窓を開けて空気を入れ替えながら、先ほど新人補佐のケインが置いていった書簡の束に手を伸ばした。
「おお、承認されましたか。ふふふ、また一緒に仕事ができますね。トニオ」
ヴァレリーは数少ない教団派トニオ司教の、中央諸国でも帝国に近い都市への配属を申請していた。これはその承認書である。
枢機卿にコンスタンティンを推薦し、トニオ推薦を取り下げていたヴァレリーだったが、今回の暗殺未遂事件を踏まえてトニオを中央に呼び戻そうとしていた。今はアケルを担当するトニオだが、やはり担当が中央に近いほど、その名声と力は高まる。
帝国派のコンスタンティン推挙の見返りではないが、これでトニオの躍進は止められることはない。ヴァレリーのお墨付きであり、反権力の民意に寄り添い、中央に力を持つ。これらの条件がそろっている。
ヴァレリーはふくふくと笑みを浮かべ、しばらく外の景色を眺めると、ベルを鳴らした。
「はい、猊下。なんなりと」
「次の方をお呼びしてください」
今日も長い一日となりそうだった。
※
─── ガチャッ
その音が聞こえた時、ソフィア様とスタルジャ様が弾けたように振り返り、しかし訝しげに私へとさらに振り返ったので御座います。私は逸る気持ちを抑え、しかし、執事としておふたりにこう答えねばなりません。
「いいえ、もう中にいらっしゃるのは、唯一人。アルファード様のみで御座います!」
一度はゴフェル様にしてやられましたからな。疑うのも無理は御座いません。そういう私も『だよね?』とエリゴール様と目配せをし合いましたとも。
いや、これは間違えようがない。この気を抜けば私でも気を失いかけない、強烈な魔力。もうこれは神気を漂わせた覇気といっても過言では御座いません。
「いよう! ただいま!!」
「「アルっ!!」」
おふたりは殿下へと飛びつき、三ヶ月ぶりの再会を、それはもう喜びあっておられました。
殿下は鎧をお召になってはおられず。武器も携帯されない、リラックスされたご様子で帰還されたので御座います。ナナワルトルの塔へ入られた時と、見た目は変わり御座いません。が、しかし……。
魂が震える……。
扉を開けた殿下をひと目見た時、その後ろに強者の軍勢を引き連れているような、心を揺るがす圧と気配を纏っておられたので御座います。
それはそうでしょう。私の中でも歴代で最高だと思っていた先代魔王フォーネウス陛下ですら、十一回もの破壊神討伐、言い直せば十一回の力の譲渡で最大限に到達なされた。
アルファード殿下は、私の数えに間違いがなければ……
─── 八百五十と七回
飲まず食わず、おそらくお眠りにもなられなければ、休憩らしい休憩もとられてはいなかったでしょう。塔とこちらとは世界が隔絶されているというのに、床と壁からジリジリと強大な力が動くのを感じておりました。
「……こ、これほど……! これほど……とはッ!!」
隣ではエリゴール様が膝を地につき、涙して御座いました。それも無理もないことでしょう。これは我々の理想の到達点。我が神、アスタラ様の悲願を今、人の身のまま神となる、終わりの継承者が完成した。
かつて悪魔として魔神界でまどろんでいた私が、この地に肉を持って顕現し、その稚拙な悪意をアスタラ様に叩き潰された。このクヌルギア家に仕えるようになったのは、四代目魔王の世。
アスタラ様はおっしゃられた。『この大地に慈愛を配り与えるこの一族を護れ』と。
最初は魔族などという人族の下につき従うのかと、屈辱に思ったもので御座いました。しかし、この地は素晴らしく、そしてクヌルギアスの血族は美しかった。みな一様に生きることに真摯であり、民の行く末、己の到達点への情熱。
それは魔神界でのまどろみ。水底から水面の先の世界である、このマールダーの大地を眺めているだけだった私には、あまりにも眩しく、尊く、心揺さぶられる光景で御座いました。
「エイケン……わしは、わしは夢をみているのか……?」
「……いいえ。エリゴール様、これはまぎれもなく、まぎれもなく事実。史上最高の魔王『骸の王』が今、お姿を……」
そこまでで、私は声が出せなくなりました。胸元に込み上げる無類の感激に、それが嗚咽なのか、震えなのかも分からず。
エリゴール様の感激と、私の感激は違うものでしょう。エリゴール様、いや代々の魔王は、私がアスタラ様の僕であるとは知らないのです。まして、アスタラ様の真の願いが、この地を、この星の生命を護る慈愛であるとは、誰も知らないのですから。
しかし、魔王としての完成形と、アスタラ様の夢見た人類の完成形とが、ここに在られる!
※
風呂ってなんでこんなにいいんだろうな。どんな回復魔術でも、体力回復薬でも、この『休むための儀式をしたぜ!』ってなれるのは風呂だけじゃないかなぁ。
セラ婆曰く、湯船にしっかり浸かるのは、体がほぐされるのもそうだけど、ちょうど良いダメージを一時的に受けているからだという。
自然に生きる生き物としては、お湯に浸かるのは不自然で、普通ではない温度と水圧でダメージを受けているとか。でも浮力で重力からも解放されて、服も脱いで、少し日常から離れることで心理的に解放される。で、わずかなダメージが回復する力の発動を促す。とかいっていたなぁ。
外の時間では三ヶ月ぶり、試練の間では単純計算で三年と四ヶ月。時間をずらした世界で、延々と戦い続けた。で、俺は試練の間から出たあとに、ずっとやりたかったことをすぐに実行した。
─── 肉、食いたい
延々と戦ってたんだよ? 『鍛えたら肉を食え。そして寝ろ』これがダグ爺の教えの第一歩だったのに、延々とアスタラ相手に鍛え続けて来たわけだ。そりゃあ肉食いたくなるよね。決して『ごはん好きな魔王』だからじゃないよ?
で、塔の帰り道で、ようやく出て来た魔獣の肉を焼いて食べてみた。すっごく美味しかったな。新鮮な肉を焼いている時から、その脂と肉の焦げる匂いとかもうねぇ。
でも、吐いた。
胃がね、長いこと何も入れてなかったから、仕事を放棄してたらしい。びっくりしたよね。美味しいし、体が求めてるだろうって思ったら、『あはは! 美味しいこれ美味しいうげろっ!』だもの。
自分の体の管理は、思ってる以上に思い込みでやってるんだなと思いましたよ。家政婦長のミルザに話したら、爆笑された後に、ペシっと肩を叩かれた。
「あまり無茶はされないでくださいまし、殿下。我々はそのためにおります。すぐに最適なお食事をお出ししますので、まずは湯浴みを」
で、お風呂に入って、なんかソフィアとスタルジャに突入されて、色々あって部屋で惚けていたらミルザが食事を運んで来てくれた。
ほのかにキノコの香りを移して、さっぱりする香草を乗せた、ミルクがゆだった。
えぇ、お肉食べたいのにって、心の中で五〜六回唱えてから食べてみたら、びっくりした。本当に体が求めてるのはこれかぁって思った。
すっかり平らげたけど、胃は拒否することもなく、心地の良い満腹感を得られた。風呂で温まった体が冷めてくるところに、ちょうど良い温かさのかゆが、胃をじんわりと温めて眠気を誘う。
寝台に倒れ込むと、自分の部屋の匂いがした。
この城を取り戻してから、クヌルギアに出発するまで、それほどこの部屋にいたわけではないけど。でも、部屋の匂い、清潔な寝具にあるこのリネンの匂いは、自分のいる場所の匂いになっていたんだなとしみじみ思った。
不思議だよね。材質はそれほど変わらないし、洗濯の時になにか香料を使うわけでもない。でも環境でどこか匂いは変わる。いつもと違うと少し不安。でも嗅ぎなれると、自分の居場所になるみたいな。
「ふふ……っ、臭いで居場所を認識するとか、犬みたいだな俺」
いや、きっと犬も猫も人も、本能的な安心は変わらないんだろうと思うんだけどね。こうして日常から離れて、自分の居場所に戻ると、そういうことを強く感じるものだ。こうして取るに足らないことを考えられる。こういう時間もまた、自分の居場所のまどろみだからこそできるのだろう。
まだ外は明るい時間だったが、それすらも心地よくて、気がつけば俺は深い眠りについていた。
※
ふと目を覚ますと、誰かが俺の頭をなでていた。
「ん……んん? あれ? 母さん……」
穏やかな魔石灯の灯りを背中に、母エルヴィラが寝台に腰かけ、身をよじって俺の頭をなでている。その隣にはカエルの石像を胸に抱いた、でかい魔導生命体の父オリアルが、寝台脇に立っている。
「ああ、思いっきり寝ちゃったよ。えぇっと、今って ─── 」
思いっきり、母に抱きしめられた。その上から、ちと冷たい父の石の腕で出し決められた。
「んん……どうしたの?」
寝ぼけ眼でそう問いかけると、母は泣いていた。
「よくぞ……よくぞがんばりましたね。アル。過酷な試練をこんなにも長い時間……」
ああ、やっと会えて、やっと城に戻れて。で、俺が三ヶ月間も破壊神のところから帰らなかったんだもんな。そりゃあ心配だったよなぁ。実際は四年近く戦ってたけど。
「ああ、ごめんね母さん。心配かけたけど、全部継承するのに時間がかかっちゃってさ……」
「そんなことはどうでもよいのです! あなたはなんて……なんて……」
心配かけちゃったかなぁと思ってだけど、それはそれ、またなにか違うらしい。母さんは俺を抱きしめて、俺の頭をなで続けている。その母さんの頭を、義父さんがなで続けている。
年齢的に恥ずかしいとか、そういう思いは不思議と湧いてこなかった。それ以上に伝わってくるのが、もっとなんだか重く感じていたからだ。どうしたものかと、少し戸惑い始めた時に、父が静かに、しかしはっきりと言葉にした。
『アルくん。いや、アルファード。これから君は魔王を名乗りなさい』
ここまで読んだ
このページを保存して、トップページから続きを開けるようにします。
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