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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十四章 クヌルギア
第十四章│第十七話 悪手
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アルフォンスの故郷ラプセルに現れた勇者ハンネス。
それを阻む強固な結界が、
何者かの手引きで弱められ、
その侵入を許してしまう。
アーシェ婆とダグ爺により、
ハンネスとリディを迎え撃つが、
その攻撃を一人の男に阻まれる。
薬師シモン。
彼は今、
その師匠であるセラ婆の喉元に、
刃を突きつけ人質にしていた。
里に転移して来たアルフォンスたちは、
数々の門番たちを倒しながら、
とうとう最終関門『七人の戦士』と闘いを繰り広げ勝利を納めた。
「─── 【蘇生】」
ん? 七人の蘇生が始まらないな。魂がいるのは分かるんだけど、なんだろうこれ。さすがに門番を失うと、これから先が心配だから、生き返らせようって思ってたんだけど……。
その後も二回くらい【蘇生】を発動したが、彼らの魂は反応しなかった。
「アルくん。彼らは生物ではないですよ?」
「えっ?」
言われてみればそんな手応えを、最初に【光あれ】で二人斃した時に思っていたっけ。
「彼らは元守護神ですね。人々からの信仰が無くなってしまい、存在が消え去るギリギリのところを、契約したことで仮初の肉体を得ていたようです。守護神ではなくなったことで、魂の消失はさけられましたが、この世界からは出られなくなっていたようです」
ソフィアがこの白いドーム状の空間の術式を読み解いていた。任せていた弓の戦士もあっという間に斃していたみたいだし、この世界の術式まで短時間で解析するとか、知覚力どうなってんだろう? 彼女の成長がちょっとかなり恐ろしい。
いや、そんなことよりも、門番たちのことだ!
「それって、実際の魂を核にした魔導生命体だったってことか?」
「はい。それが一番近いかと。さすがに肉体までは魔術や、上位の神の奇跡でも作成は不可能ですからね~。この空間を保存庫にして、なんらかの生体を変換した肉体に近いものに、魂を核として埋め込んでいたようです」
魔導生命体は死体や自然物で躯体を組み上げ、術式を膨大な数で仕込んだ、魔石なんかの核を入れ込んで動かすものだ。それ自体でもかなりな知識が必要で、今の人界で自立した思考で行動する魔導生命体を作れる術者はおそらくいないだろう。
すでに仕組まれた行動を、その時の状況や鍵言をきっかけに、その通りに行動する自律したものならできるだろうけど。
「なるほど。こうして世界ごと創り上げておけば、確かに魂を囲い込んで、核にすることも不可能じゃないな。頭おかしいくらい超絶高度な術式が必要になるけど」
「これは一朝一夕で生まれたものではなさそうですね。理論上可能だとしても、壮絶な執念がないとここまではできませんよ」
「ここに来るまでに現れた魔導生命体だって、ほとんど自律じゃなくて、自立に近かったもんなぁ……」
「ええ。正直いって、解析していて何度か眠りそうになるくらい、どちゃくそに難解でしたよ」
調律の神であるソフィアですらこれだ。ちょっとアーシェ婆のセキュリティへのこだわりが異常なんだよこれ。
この関門に来る前に現れた関所の魔導生命体たちも、とんでもない技術力だったけど、もしかしたらこの七人の魔導生命体化で派生した産物なのかもしれない。
自立式は自分で考えて行動を組み立てるもの。自律式は組まれた物を利用して、行動をとるものだ。
似ているようで、その技術のレベルは次元が違うってくらいにかけ離れる。
例えば単に侵入者を排除する戦闘型の魔導生命体の場合。通常の自律型は侵入者の魔力や呼吸、心拍数などをフラグにして、それを排除するための攻撃を組まれたものの中から実行する仕組みだ。
だから細かな違いや変化までは拾いきれずに、目につくもの全てを殺そうとしたりする。
対して自立式の魔導生命体となると、それはもう人と同じだ。敵か味方かを自分で判断して、その経験を積み、時に苦悩すらするという。それは行動が成長していくことにもなり、最早、生きている存在といってもいい。
マドーラとフローラはどっちなのかと問われたら、ちょっと分からないとしか言いようがない。修理をしてくれたローゼンから説明は受けたけど、さっぱりだった。
「んじゃあ、ここの術式を利用して魂をつなぎとめて、同時並行で肉体を作ってやるしかないか」
「それともうひとつ。さっきの蘇生魔術で気がついたかもしれませんが、守護神に【蘇生】は通用しません。つまりアルくんのお師匠さんたちも……」
「 ─── ッ!」
完全に意識の範囲外だった。まず俺がダグ爺たちを本当にすごい人たちだと、信じきれていなかったのもある。ここに来てようやく、俺は心の中で認めたらしい。ダグ爺たちは同じ人ではなく、守護神であり、俺と同じ理に生きてなどいなかった。
「……どこか。…………どこかさ、血は繋がっていても、家族でさ。同じ存在で、存在とかなんて考えない近いものだって思っていたんだ」
自分でそう口にして、自分でその時、理解した。
─── ああ、俺、家族が本当に欲しかったんだな
記憶を失っていても、きっとあの両親や、姉さんはもちろん。あの城にいた人々の面影を、幼い俺は記憶のどこかで愛していて、無意識のうちに求めていたのかもしれない。
里の修行は大変だったし、実際、嫌いになりかけたことだって何度もある。これは本心。
大変で辛かったけど、俺はダグ爺たちに『肉親』を望んでいたんだな。違う存在とか、異なるものとか、そんなことを考えない存在だと。お互いに無私で受け入れ合える存在だと。
ダグ爺たちが人ではないなんて、そんなことはずっと前から気がついていた。でも、見ないようにしていたんだと思う。さすがに有名な守護神だったとは思いもしなかったけど。で、ここまで自分のポンコツさに気がついて、同時に分かったことがある!
「彼らは間違いなく、俺の親なんだ。【蘇生】が必要にならなくてもすむように、守り切らないとな」
「…………うん。そうだねアル。お父さんたちを私たちで守ろう。その最速の答えは、まずこの門番さんたちを起こさなきゃだね」
ソフィアが二人きりの時のしゃべりかたになった。信じられないくらい、美しい微笑みをたたえている。彼女の距離感のない話し方を初めて目にしたスタルジャは、すごく驚いた顔をした後に、なんだか俺らの中で一番嬉しそうな顔をしていた。
「ねえ、アル。擬似的に肉体を作るなら、何か媒体はない? 私、ここの精霊たちにお願いして、さっきの人たちの体の構成を調べるよ」
スタルジャの表情は、今までに見たことがないものだった。母性っていうのかな。『ああ、これで何も心配は要らなくなった』って無条件に思える優しい顔と表現すればいいのだろうか。
俺は彼女たちの力を借りて、この里の最強の門番たちを、もう一度この世に戻すことに成功した。
と、その時に思い出したことがあって、俺は思わず叫んだ。
「んん? アーシェ婆は、俺の成人の義で人の姿を取り戻したティフォに、何度も殺されては、【自動蘇生】していたぞ⁉︎」
※
「ぐはぁ……っ! ぬぐ!」
さすがはかつて人界最高クラスの『戦の守護神』であり、『剣聖』の加護を与えてきた守護神ですね。
ハンネスと私の二人かがかりの攻撃でも、防御すらせずに受け続けているというのに、この『戦神ダーグゼイン』は倒れず。あのヴァンパイアが人質を取っていなければ、どうなっていたのかわかりません。
もう致命傷ともいえる深手は何度も受けたはずなのに、見上げる巨体で何度でも立ち上がり、『さあ来い』と言わんばかりに体を開いて待ち受ける。
なぜ? 彼らはただの守護神の成れの果て。放っておけば消えるような存在です。途中、ハンネスからいくつかの声をかけられた気がしますが、それよりもこの存在がどうしてか気になって仕方がない。
私は調律の神の化身リディ。神の力をこの人界で余すところなく扱える権限を持つ存在。そしてハンネスこそは私の契約者。彼はあの半端者とは違い、完全なる神の力に並ぶ加護を受けた、選ばれし者。
なのになぜ、この人界と魔界の最高に位置する加護を受けた、ハンネスの攻撃に屈さない!
軍神は再び立ち上がり、不適な笑みをこぼした。
「…………くっだらんなぁ。強い力だけをポンと手に入れた者の弱さよ。どれだけ頭を使い、心を使い、体を使い切るか。それをやってこなかった小僧の児戯よな」
「きっ、き……きさまぁっ!」
思わず私は、消えゆく守護神程度だというのに、全力で【斬る】神威に想いを乗せて放っていた。
バシュゥ…………ゥゥ……
「…………えっ⁉︎」
私が殺すと決めて放った神威は、あの老いた軍神の目の前で、さざ波に砂が呑まれるように消え去っていた。彼が死ぬはずの事象は起こらなかった。
「ぐっはっはっはっは……。小物よのう。なぜ意思の力だけで、儂を滅せられると思ったのか」
龍族の中でも最高峰の存在。彼らが持つ、怒りによって金色に輝く瞳を向けて、血まみれの軍神は立ち上がる。
「な……っ、な、貴方は一体……っ!」
理解が及ばない。ただの守護神。ただ老いさらばえ、忘れ去られて、消えるまでの時を待つこの存在が……。
─── なぜ、私よりも神気を高く持っている!
チラリと横を見れば、ハンネスは怯えたように立ち尽くしていた。彼は元来、臆病だ。予想を超えた相手にこうなることは、ある程度は予想がつく。しかし、これは……。
「…………儂が高位の神にでも見えたか、小童」
その言葉は、私の目をまっすぐに見て放たれた。この、調律の神オルネアの化身である、私に対して! 怒りのあまりに、私は最大の権能である【聖なる灯】を呼び起こしていた。
だが、呼び出す先から消えてゆく。
「くだらん。くだらんなぁ……。生まれ持って強いが故に、強い力で押せば勝てると思うたか。幼い。児戯。傲慢の果ての、自己顕示欲。取るに足らんな小娘」
わたしはその言葉に、完全に呑まれていたのでしょう。なりふり構わず、存在すら忘れていた自分の杖を取り出して、今持てる最大の破壊を起こそうと握り締めた。
「天界のガラス人形よ。滑稽じゃぞ? お前が怒りを向けていた龍人も、老いさらばえたキサマの『勇者』とやらも、もうとっくにここにはおらんが……分からんかったのか」
この言い方に違和感を覚えた時、龍人族の巨体がブレ、重なるように小さなシルエットが現れた。
そこにいたのは、腹部に深手をいくつも負い、黒いローブを血で濡らした老婆だった。
「 ─── ⁉︎」
老婆は全身を血に濡れた黒いローブに、ぬらぬらとした輝きを灯して、こちらに愉快そうな笑顔を向けていた。
「バーカ! 幻術すら見極められぬ神などどこにおる。とっくの昔にここは前線から過ぎておるわ!」
「…………き、きさっ」
「怒りの感情に呑まれ、現実を簡単に見失いおって。キサマが調律の神だと? ふん、キサマなんぞより、まだ黒い触手の『妹』とやらの方が、世の中を知っておったろうな」
白髪の老婆を睨む先に、ヴァンパイアの男が目に入った。呆然と立ち尽くす、『癒神セラフィナ』の喉元に、刃物を当てたまま硬直している。彼らも幻術に支配されているのでしょう。微動だにしていません。
「時は稼いだ。好きにせい。ここまでの運命なぞ、とうの昔に見えておったわ。そこの低脳な吸血鬼が、そろそろ心の限界を迎えそうじゃ。あれもキサマらが仕込んだんじゃろ? じゃが、結局何もできておらん。
─── くだらん神じゃな小娘」
白髪の老婆は、私の手で腹部を貫かれても、私を卑下する笑いを止めなかった。
※
このジジイ! なんでこんなに強いんだよ!
あの剣聖イングヴェイより強いんじゃないかもしかして!
「ひ、人質がこっちにはいるんだぞ! 目には入らないのか!」
そう揺らぎをかけてみると、龍人族の老人が愉快そうに笑う。
「ぶっ、ぐはははははははっ! どこにおる、その人質とやらは」
「 ─── えっ?」
僕は驚きのあまりに、さっきまで白い顔の男が、長い白髪の弱そうな老婆を羽交締めにしていた方向を見た。そこにはただ樹が経っているだけだった。意味がわからず、リディの方を振り返るが、そこにあるのは暗く湿った木々があるだけ。彼女の姿も、人質を取るヴァンパイアの姿もなかった。
「くっ、はめられたのか。ふ、ふふ……。人質がなければ、僕に勝てるとでも?」
「ああ。その通り」
「 ─── !」
竜人族の老人は、気持ち悪いくらいにゆっくりな動きで、構えを取ってニヤリと笑う。
「ふふふ、全く意味が分かっておらんようじゃな、古き調律者よ。なら、分からんまま踊れ」
※
分からない! 分からない分からない分からない!
なぜ、不遜なだけの手負の老婆を仕留めようとして、この神の化身である私が、両腕を吹き飛ばされた⁉︎
彼らが扱う児戯のような魔術は、発動する気配もなかった。ただ突然、不快な臭いをともなった爆発が起こった。
「ぐぅあああっ、うぐぅうっ!」
両腕の根本から衝撃波で吹き飛ばされ、鼓膜も眼球も、内臓まで深刻なダメージを受けた私は激痛に喘いでいた。しかし、さすがにあの手負いの老婆もそうとうな深傷だったようですね。膝から崩れ落ちて、地面に座り込んでいます。
「おう、アーシェ婆。ここは儂がやるから寝ておれ。腰がつら〜いって前からいっておったしなぁ♪」
「フッ、ガイセリック。遅い登場じゃな。姫のことはダーグゼインに任せた故、ここにはおらんぞ?」
「はっ、はぁ? 姫ッ⁉︎」
新しく現れた小さな老人は、ドワーフ族の守護神か。書簡の通りですね……。しかし、あのヴァンパイアの少女が持ってきた書簡のとおりだとすれば、なぜあのドワーフは私に対して物怖じせずに向かって来るのか。
まさか、書簡の内容自体、虚偽であって、私たちははめられた⁉︎
……いえ、それはないでしょう。老婆は死の淵にあり、現れたドワーフの守護神は何ら戦う力を持っていない。
先ほどの爆発は、単に何らかの化学反応を利用したもの。確かあのドワーフは『炎槌ガイセリック』。武器や道具の創造の守護神です。
戦う力はない。しかし、今私は確かに死の淵に追いやられた。己にかけてあるあの【自動蘇生】が発動されるには至りませんでしたが、何らかの手立てを他にも持っていると見た方が良いでしょう。
─── 念には念を入れておきましょう
私は再び杖を握り締め、炎槌に対して構えると、最大まで神気を練り上げた。
※
「……よいかガイセリック。あの小娘の力は本物じゃ。おそらく真の肉体のアタシとダーグゼインが、束になっても敵わぬ」
アーシェ婆が儂にこっそりと話しかけよった。
「うむ、そうじゃろうな。その体ももうもたんのじゃろう? ならば儂がここで時間を稼ぐしかあるまい」
「すまぬなガイセリック。……その体ではあまりにもリスクが高い。死ぬなよ?」
「ふん。じゃったらとっとと何とかせい。儂は非戦闘員じゃぞ?」
アーシェ婆と話しているうちにも、あの神の化身は、完全に肉体の修復を終えておる。さらに莫大な神気を、里全体を震わさんばかりに荒ぶらせ、儂に杖の先を向けておった。
「……あの小娘。感情がいやに稚拙じゃ。アタシの挑発にホイホイ引っかかっておった。揺らすならそっちじゃ」
「うむ。伝承が確かなら、調律の神の化身は、感情を持たずに顕現するらしいからのう。……それにしては昂っておるようじゃが。ま、ひとつやってみるとしようかのう」
しかし、かなりな深傷じゃな。アーシェ婆の肉体が時折ブレては透けておる。もう闘うことも叶わんじゃろうが、ここにこの姿があるだけでも牽制にはなろう。
アーシェ婆が『星読み』でこの日が来ることは分かっておったし、儂らもそれを聞かされていた。まさかこの老いさらばえた今、真の神と戦う羽目になるとは思わんかったわい。
「さて、そこの小娘よ。儂は炎槌。この里は我ら以外の存在を認めてはおらん。姑息な手を弄して、人界に謀を持ち込むとは、情けないとは思わんか?」
おお、確かにアーシェ婆の言う通りじゃな。空気が震えるような怒りを見せておる。
「黙りなさい劣等種。私は貴方に口を開くことを許してなどいませんよ……?」
これは次の一撃で終わらせるつもりじゃな。膨れ上がったとんでもない神気が、こよりのように研ぎ澄まされて収束しておる。
「ふん、驕るな駄作よ。お前さんがまともに調律できんかったから、この里が必要になるほど、世が歪んだんじゃろうが。少しは現実を受け止めんか」
来るッ!
とてつもない殺意。前髪の陰で見えぬ数の目だけが鋭く光ってこちらを射抜いた。
─── カッ‼︎
ただただ単純に切り裂く奇跡の刃が、化身を中心として、扇状に広がりながら放たれた。こりゃあどんな防具でも、防ぐことは不可能じゃろう。なんだって神とはこうも、無駄に抜きん出た力を持つのか。一体何と戦うつもりでこんなものを備えたのじゃろうか。
「 ─── アルベリオンよ。仕事じゃあッ!」
儂は手の中に姿を現した、何の変哲もない古ぼけた長剣を握り、その人智を遥かに超えた破壊の刃に、ただ振り下ろした。
ギィィ ─── ンッ!
濁った金属音を立てて、神聖剣アルベリオンが奇跡の刃を受け止める。
神聖剣アルベリオン。かつて北方の伝説に謳われた、神々の創りし一振りの剣。こやつは持つ者に必ず勝利をもたらすとされる、規格外の存在よ。
「 ─── ッ⁉︎」
化身の怒りの顔が、驚愕の色に染まる。その直後に、あやつの奇跡の刃は消え去り、アルベリオンが強烈な光を放つ。
「ほれ、返すぞ。化身よ!」
アルベリオンから放たれた奇跡の刃が、化身の体を縦に真っ二つに切り裂く。
これこそがこの剣の規格外な能力よ。受けた攻撃を吸収し、相手にそのまま返す奇跡。神には神の武器じゃと思っておったが、これほど綺麗に返すとは、もはやカウンターじゃな。
儂にはあんな恐ろしい攻撃を、剣で受け止めるなんざ、そんな芸当はできん。剣技なんざ試し斬りに必要な程度しか持っておらんからのう。そんな儂でも、ただ相手の攻撃にアルベリオンをぶつけただけでこれよ。
こんな破格の武器を、そんじょそこらの奴に持たすわけにもいかんし、さばくこともできん不良在庫じゃったがな。この日のためにあったのかもしれんなぁ。
アル坊の奴じゃったら渡しても構わんが、奴は今アレじゃからな。粉々にされてもかなわん。
「アーシェ婆よ。儂は仕事を終えたぞ。そろそろ……」
「気を抜くでないガイセリック! あやつはまだ ─── ‼︎」
振り返ったその時、発破でもしたような音が弾け、天空にまで赤黒いオーラが柱となって立ち上がった。
これは……怒りか? それも強烈な怒りの感情の爆発じゃ!
見れば化身は切り裂かれた半身同士を、神経や筋繊維のような細かい線で結びつけ合い、急速に再生しようとしていた。怒りに震えるその顔、赤黒い水でもぶちまけられた彫刻のようなその顔の目から、血の涙が筋を作って流れておった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ ─── ッ‼︎」
儂はにわかにも勝利しかけたことを呪った。アーシェ婆は『奴は感情が稚拙』じゃと言うておったが、そこを突くのは悪手だったのかもしれん。
あやつがプライドを賭けて放った神の奇跡を、剣士でもない儂が跳ね返して土をつけた。
感情を持たぬはずの化身が、強大な怒りの発露によって今、覚醒した ─── 。
ここまで読んだ
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