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禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~
第十四章 クヌルギア
第十四章│第十話 波路
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破壊神アスタラとの試練が続いている。
時間の流れに呪術で干渉し、
外界ではほとんど時間は進んでいない。
外で待つ者たちも、
自分たちに出来ることに手を伸ばし、
またアルフォンスからの力の分配で、
その能力を伸ばしている。
南マスラ国の港湾都市ヒムラントは今、閑散としていた。いつもなら多くの大型商船が停泊し、あわただしく行き来する荷役の人々や、商人たちでごった返しているはずである。それが今、海外の船舶はもちろん、自国の船舶すら見当たらず、出歩く者の姿もない。
港の外れにあるマスラ人の荷役作業員たちが集まる酒場も、いつもなら時間に関係なく、多くの客でにぎわっていたはずだ。
しかし、今はひとつのテーブル席で呑む、四人の客しかいない。四人の客はどれも、昨日から出航する商船に乗るはずだったが、その予定がなくなり、宿を取る気にもなれずにうらぶれていた。
彼らは一度の航海で、長く土地を離れるため、特定の家を持たない。借りていた部屋はすでに引き払っている。仕事もできず、割高な宿を借りる気も起こらず。呑みたくなるのは仕方のないことだった。
「しっかし、なぁにが起きてやがるてんだ? この間はタッセルからの船が、二隻沈められたってな」
「もうこれで五隻目だってんだ。そりゃあ海峡も封鎖されるわな」
「だいぶ前から、浜の方じゃ大型の水棲魔獣が、傷だらけで打ち上げられてたらしいぜ?」
「漁業組合のいうことにゃあ、沖のいたるところで、海鳥が群がってたってよ。海底でなにかが起きて、小魚の魚群が上がって来てるんじゃねぇかって話だ」
マスラ海に起きている異変は、半年ほど前からその予兆があったという。
それまで獲れていたはずの魚が、いつもの海域でかすりもしなくなり、逆に今まで獲れなかった種類の魚が網にかかった。これらを皮切りに、ふだんは姿を現さない鯨が、浜に打ち上げられたりするようになる。こうした現象に直接関わるのは、主に漁師たちである。こうした気候の変動で、似たようなことは確認されたことがあった。だから、大きな騒ぎになることもなかったのだ。
しかし、マスラ沖を航行していたはずの、商船の行方不明事件が一件。その数日後に、一隻の大型商船が突然、沈没する事件が起こる。
沈没事件の時、近くを航行していた別の船舶がそれを目撃し、すぐに港湾都市ヒムラントの管理局へと報告が入った。
現在、マールダーを航行する多くの船は、その登録の際にカードを支給される。そのカードは冒険者ギルドで使用されている技術と似て、微量な情報の共有ができた。簡略化された文字を、ほんの数文字程度なら、本部と渡し合うことができる。符伝と呼ばれる技術だ。
これがなければ、問題はさらに大きくなっていたかもしれない。
事態を重くみたヒムラントの管理局は、南マスラ王室と協議の上、マスラ海峡を封鎖した。連絡は周辺の取引国にも伝えられ、すでにヒムラントに向けて出向していた船舶にも、それぞれ符伝が打たれている。
多くの船舶が中継地バグナス港に戻る中、被害を恐れたヒムラントに停泊中の船舶も、他港へと逃れていった。その移動中にも、再び三隻の船舶が行方不明、または転覆して航行不能となっている。
「冒険者ギルドも出てるってな」
「でも、海だぜ? 海底にゃあ冒険者だって、なぁんもできんだろう?」
「そりゃあ、そうだな。陸より海の方が広い。底の方なんざ、のぞくことも出来ねぇんだ」
解決の見込みは立っていない。海峡の封鎖は、南マスラはもちろん、取引先の国の経済にも、大きな影響がある。
港の静けさとは打って変わって、ヒムラントの管理局と南マスラ王室は、蜂の巣を突いたような騒ぎになっているのは言うまでもない。
※
タッセル王国商業船舶
ローズベル&エーテル・カンパニー号
一級航海士アルカーン・エルクマハル
報告日:聖王歴309年、月長龍の月、19日
南マスラ国ヒムラント港出港
聖王歴309年、月長龍の月、17日 抜錨
南マスラ沖の沈没事件を受け、当船はバグナス港に向けて航行中である。バグナスまで残す距離は280海里。本日19日、正午少し過ぎ、当船舶が目撃した現象を書き残す。
当船から150metほど先の海上に、海鳥の群れの姿あり。魚群を求めてだと思われた。しかし、海鳥の群れはあわてたように逃げ出し、その直後に海面が大きく持ち上がる。
海上に姿を現したのは、頭だけで当船の五倍はあると思われる、背中を甲羅に覆われた海龍に似た魔物。形状に既存生物とは、大きくかけ離れた様子が見られたことから、対象を魔物と判断した。
皮膚は藍色、黒く細かい斑点があり、ながい吻。亀のようなクチバシの歯、口角の辺りから左右とも二本ずつの長大な鋭い牙あり。
魔物は当船を鼻で数回確認した後、長い首をもたげ、当船の捕食を試みた。しかし、その直後に海底から爆発したような衝撃音と衝撃波。魔物の直下の海水が一瞬白く変わり、海面が大きく上昇。
魔物の甲羅が吹き飛び、ネコ科の獣の爪ででも裂かれたように、複数に切り裂かれて離散。魔物の下から別の何かが、攻撃したものと思われるが、姿を確認できず。
魔物のもたげていた首が倒れ、当船に直撃する恐れがあった。しかし、魔物の体を、無数の赤黒い触手のようなものが、海底から突き出して貫通。絡みついて上空まで持ち上げ、さらに突き出した触手が、魔物から巨大な魔石を抜き取るのが確認された。
魔物は膨大な黒い霧となって消失。その返す波で大きく海面が揺れるも、操舵長の機転で転覆を逃れた。
魔物の姿は消失。触手もすでにそこには確認できず。
船長の判断により、しばらくその場に投錨せず静かに停泊し、注意深く様子を見るも異変は起こらず。その後、船長の判断をもって、危機は去ったものとし、当船は引き続きバグナス港へと航行を再開した。
当船の乗組員であり、魔術師資格をもつ、三等航海士は『魔物の下に、二つの大きな魔力が感じられた』と証言している。また、魔物が他の魔物に対し、その体内にある魔石を、直接狙う事例は他に聞き覚えがない。
海上に現れたあの魔物も、これまでに確認した大型水棲生物であり、あの規模であれば大型商船程度は一撃の下に破壊できただろう。件のマスラ海域における、複数の海南事件に関わりのある、重要な出来事かと思われる。
『ローズベル&エーテル・カンパニー号 航海日誌より』
※
この航海日誌が、バグナス港管理局に提出された後、マスラ海域の異常現象はピタリと治った。
航海日誌に書かれていた『触手』と『二つの大きな魔力』については、なんら解明されていない。
現実、漁師たちが感じていた異変は治り、冒険者を乗せた調査船を、複数動員し航行したがなんら異常は起こらなかった。海峡の封鎖からニ週間後、調査船からの『問題無し』の報告を受け、南マスラ国王室は件の事件の終息宣言を出した。
※
ようやく変化が見えて来た。
アスタラを倒すたびにこちらは強化され、またアスタラも強くなって蘇る。そのうちに、神威や魔術は効かなくなって、倒すのがギリギリな状況が続いていた。
ここに来てから、寝食、休息は一切取っていない。ただただアスタラを倒し、お互い強化されて、また闘う。その繰り返しだ。
自分でも頭がおかしいと思う。
いくら時間停止を応用した、外界との時間の流れを隔絶した、この空間だからといってもだ。もうここで闘い続けて、そろそろ四年目に入ろうとしているんだぜ?
それだけ外界と隔絶されて、飲まず食わす眠らずで、殺し合い。戻った時にいろんなことを、忘れてそうだとか思ったが、どうもそうでもないようだ。
アスタラを倒した時に、何らかのリセットが入っている気がする。だから時間的にはそれだけ経っていても、感覚はここに足を踏み入れた時のままだ。
たぶん、アスタラが何かしら補助しているんだと思う。
アスタラとの会話は、戦い始める前と、アスタラが死ぬ時のほんのちょっと。その後は会話なんかしているヒマはない。アスタラにはプラグマゥと同じく、悠久の戦闘経験と知識がある。一つ一つの技に喰らいつけても、運用方法の幅がとんでもなく広いからだ。
さらに身体を部分的に鋼鉄のような硬度へと、自在に変えられるアスタラだからこそ、同じ体の構成でも戦略に若干の違いが出る。それでも、これだけ同じ相手と延々、死合いを繰り返していれば、さすがに俺だって相手の手の内は読めるようになっていた。
アスタラの突き出した神速の手刀、その肘に拳を打ち込んで、その体勢を逸らす。流れる腕、その空いた脇腹へ掌底を叩き込み、神威を放つ。
「 ─── 【滅】」
長いことアスタラへの、殺意と破壊衝動に駆られ続けたせいか、いつの間にか新しい加護が勝手に生み出されていた。
言霊と共に手の平から生まれた、半透明の黒く艷やかな球体は、あらゆる物を透過して狙った座標を確実に追う。移動速度は、軽く飛ばした紙飛行機より、少し遅いか同じ程度。もちろん普通に放っても簡単に避けられるだろう。
だが、遅くても確実に追跡し、目標に到達した瞬間、そこから直径30~40cntの範囲にある物を全て消滅させる。
「ぐぶッ!?」
アスタラの心臓付近が、小さくポッというまぬけな音を立てて、丸いトンネルが口を開けた。【滅】が発動したようだ。体内に真球の空間ができただろう。一瞬の間を置いて、夥しい量の鮮血を噴き出して、アスタラは床に崩れ落ちた。そして俺の中に、アスタラの力が流入してゆく。
アスタラとプラグマゥが似ているのは、おそらくアスタラをモデルに構築されたのがプラグマゥだからだ。見た目も同じなら、闘う方法も処理方法も似ている。
俺の中に流れ込んだ、膨大な歴代魔王の記憶が、おぼろげに断片的に過去を教えてくれる。七魔候は何度もリセットしながら、この星の創生初期に産み落とされた、環境維持装置。今は四度目の世界。彼らに記憶は残っていないが、未だにその使命を果たすために存在している。
そしてアスタラは最初の世界、ナナワルトルの代に降臨し、この地に堕天した神の一柱。
彼は護り続け、備えをして来た。ダイクとガストンの唱えたであろう『禁じられた詩』は、魔大陸を離れた戦士たちが、その最期を守り、未来の大浄化に挑む光となる。すでにその記録は失われ、なんらかの理由で形を変えて極々一部に伝えられていた。
オルドヴァの盟約
深淵の神アスタラ
ラロスの天秤
ラオ・ロギア
あの詩に残された単語は、ほとんど変わっていない。だが、詩の意味は不吉なものとしてとらえられている。
これらは俺の中でも言葉の響きと、魔王候補者として与えられていた【憤怒】の加護のせいで、どこか邪悪な言葉だと誤認していた。これらは死合いの合間の、わずかな会話の中に、アスタラから語られたナナワルトルの代の終焉と一致していた。
あの詩は呪詛ではなく、闘う力ある者の救済の祈りだった。
もう俺に【憤怒】の加護はかけられていない。すでに必要がないと判断したのだろう。だから闘いの最中に彼の思いや、願い、俺に望むものが刃を通して素直に伝わってくる。
彼は俺たちクヌルギアス家を生み出した親。
この大陸に数十億年もの間、護ることを約束した、慈愛の盾。三度の大浄化を抑えきれず、彼は人々を護る悲願を抱き続けていた。彼が俺に望んでいるもの、その真意はもう分かっている。
「……しかし、急に自分の本当の両親と再会して、生まれ故郷に戻れて、今度はそれらを創った神と対面か。里帰り率400%は超えてるなこれ」
そうひとりつぶやいていると、アスタラの再生が終わり、また俺の前に立った。
「本当にここまで到達するのは、君が初めてだよアルくん。私は元とはいえ、君たちでいうところの『真なる神』。それも『戦の神』相手に、神威を通すとは」
「ふふ。親にいいところ見せたいってのは、子の願いだろ?」
アスタラは笑い声をあげた。その目尻にうっすらと涙を浮かべて。
「君との闘いは心底、面白い。君は強大な力を持ちながら、常に何かを救うことを是としているんだね。正に君は私の悲願、奇跡の子だよアルくん。すでに君は私を超えている。だが君にはまだ伸びしろがある。まだ限界へ手を伸ばすかい?」
さっき斃した分のアスタラのエネルギーの吸収が終わった。もう意識が途切れることも、めまいを起こすこともない。延々と上昇を重ね続けていたアスタラからの力は、ここ数回、上昇していなかった。
「もちろん。それに俺も楽しかったよ。親を超えるのも子の願いだからな。最後までよろしく頼むよ父さん」
「くすくす……。泣かさないでくれよ、アルくん」
アスタラが構える。全くスキがなく、頭で考えた程度では、取っ掛かりすらつかめない完璧を超えた構え。そのはるかに高い難題を前に、自然と口元がほころんでいた。
※※※
桟橋に両親がいる。その後ろには民衆が、身動きも取れないんじゃないかってくらい集まっていた。さすがにこの人数が、全員桟橋に乗ると危ないからって、見送りの民衆は港から見守ってくれていた。
「イロリナ、手を」
「あ、うん。じゃあ父様、母様。いってきますね……」
船に渡された踏み板の上から、ロジオンが手を伸ばす。その手を取れば、私が両親と顔を合わせるのはこれが最後になるかもしれない。
私の体はそれほど遠くない時期に、この世から消失する。
アルの奥さんのソフィアちゃんとローゼンちゃんが、たくさん調べた上で言っていたのだから、間違いはないと思う。ランヴァルドさんとテレーズさんと同じように。だから怖いとかはなかった。
ただ、遺してゆく両親に申しわけなくて、肉体が失われるまでは、城に残ろうかと悩んだ。
でも、そんな私の背中を叩くように押してくれたのは母様。
─── 肉体があってこそ、貴女の求めた『冒険』は、輝くものになる
小さな頃からの夢。ロジオンといっしょに、彼の生まれ育った人界に渡り、彼の守ってきたものを見ながら冒険をすること。
ドワーフの職人ギルドから送られた『精魔合金』の腕輪。これがあれば魔力の枯渇が起きないんだって。クヌルギアス家ともなれば、私みたいに何の力がなくても、人界で生きていられるみたい。でも父様がどうしてもって、ドワーフたちにお願いして分けてもらったみたい。
これからこの発明が魔界を変えるって、みんな大騒ぎだった。ロジオンは人界の港と、人界の仕組みを整えて、魔界と人界の交易をもう考えている。
この船旅にその発案者のドニーゴさんも同行して、その後は好きに旅行するんだと、とてもうれしそうだった(顔が樹だからよく分かりにくかったけど)。
「イロリナ。体を大事にね。私たちのことは構わずに、世界を楽しんでおいで!」
「ふふふ、大丈夫ですよあなた。ロジオンがいるんですよ?」
「あはは、たしかにそうだね! むしろ頑張りすぎて彼が倒れなきゃいいけど」
父様の冗談に、彼は帽子を深く被り直したけど、出ている耳は真っ赤だった。
「言われなくても、俺がイロリナのことは全力で守る。任せてくれ」
彼の言葉に胸がきゅっとなる。母様は父様の腕に頭を寄りかからせて、涙をこぼした。
「もう……。見送りの時は、お互いに泣かないって、そう言い出したのは母様でしょ……!」
「ふふ……ごめんなさいね、つい。でも、これは母親としてちょっと防御不能な言葉だったわよ」
「あははっ、防御不能って。って、えっ! 父様─── !?」
「え? あ、あれれ……!?」
石のゴーレムをボディにしている父様の目から、涙がしたたり落ちていた。
「あはは、いやだな。雨水でも入り込んでたかな? ははっ」
「あなた……」
思わず私は父様と母様を抱きしめていた。
「……イロリナ。私たちはきっとまた会える。こうして不思議なことは、たくさんあるんだから」
「…………うん」
そうして私は離れると、両親から振り返り、ロジオンの手を取って乗船した。
出航の合図の鐘が鳴る。
私が生まれて育ったこの大陸アディリアオス。船はゆっくりとその桟橋から離れた。
「王女さまーっ! ご結婚おめでとうー!!」
「ロジオンこらー! 姫さまを泣かすんじゃねーぞッ!!」
人々からたくさんの声があがった。これが私の家族。両親と姉弟、そしてこの大陸のみんな。ここを離れるさびしさはもう消えていた。
これだけの温かい家族が、私にはいるのだから。
船は桟橋を離れ、白波を立てて進み始める。私が読んできた本の主人公たちも、こうして故郷から離れ伸びてゆくこの波を見つめたのだろうか?
「イロリナ、これを」
「ん? これは……すごくステキな魔術杖だね」
「アルフォンスが造っていたんだ。昨日の夜にようやく魔力の充填が終わってな。
……あいつのことだから、とんでもない性能だと思うから、慎重にな」
黒い魔鋼の芯に青白色のツタがからんだ意匠。持ちての先にはセイジンキキョウの装飾がついている。持った時に、温かいような馴染むような、ずっと自分の物だったように感じた。
「…………すごい。これ、ものすごい魔力が入ってるのに、それがすっかり隠されてる」
「ヒルデリンガと家政婦長のミルザが、交代で一週間、みっちり魔力詰め込んでるからな」
アルは幼い頃からお師匠さんたちに、いろいろな特訓を受けてきたといっていた。その中には鍛冶師の先生もいたって聞いてたけど、こんなすごいもの、十年やそこらの経験で作れるものなの?
「イロリナも魔術の訓練は受けていたって聞いたからな。冒険者になるんだ。ある程度は戦えた方がいい」
「そうだね~。でも、ふっふっふ! 私、母様の魔術訓練、免許皆伝だからね?」
「はぁっ! エルヴィラ様の……ッ!?」
私は武器はいまいちだけど、一応一通りは訓練してきた。でも、自分でもそれは向いていないと分かってる。でも魔術はちょっと自信があるんだ。師匠である母様は若い頃、この国でも五本の指に入る、魔術師だったのだから。
「そ、その杖は使わない方が良いかも……な。俺、いやな予感しかしないんだが」
「へへ、やーだよっ! これはかわいい弟からのプレゼントだもん。ヒルデとミルザの気持ちもこもってるんだし♪」
ロジオンはこわごわと、杖の端をちょんちょんつついてる。私はそんな彼がかわいくて、思わず抱きしめた。前はあんなに小さかったのに、今は私より少し背が低いくらい。それなのに、中身は大人で、今もこうして私のことを気にかけてくれている。
「私、すごく楽しみ。ロジオンの生まれた人界を旅できるなんて……」
「ああ。俺もずっとそれを夢見てきた……」
きっと世界はすてきなのだろう。私は本当に多くの人たちに守られているのだと、押された背中は未だに温かく感じていた。
大陸が少しずつ小さくなってゆく。
後に続く白波は、私が世界に出るその波路を、この世に刻み込んでいるように思えた。
ここまで読んだ
このページを保存して、トップページから続きを開けるようにします。
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