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Episode

禍々☆パラディン ~初恋は実らない方がいい~

第十四章 クヌルギア

第十四章│第二十四話 記憶

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ハンネスとリディから、
故郷ラプセルを救ったアルフォンスたち。

しかし、
聖剣は奪われ、
友人であったシモンを失う。

『おかえりなさい会』の後、
ティフォとエリンが今までどうしていたのかを聞く。

ハンネスに斬られ、
海に沈んだ二人は、
なぜか傷が治っている状態で、
海底の岩場にある空間にいた。

アルフォンスがソフィアを精神世界から救い出し、
契約が復活したその影響で、
ティフォが力を取り戻す。

それを待っていたように現れたのは、
陰の神ネイだった─── 。

■第十四章第二十四話 記憶 268

 遠くで地鳴りのような海流の音がする中、海底深くのどこかに開かれたその空洞に、満月に似た光の円が浮かんでいた。

 陰の神ネイ。

 主神マールダーに次いで、光の神ラミリアと対をなす、最高神の一柱である。

 マールダーの人間族なら誰もが知る『創世記』の存在であり、人界に現れたと言う記録はない。自らをそう名乗るこの光からは、確かに優しく育み、見守るような温かさが感じられた。

 しかし、ティフォは異界の神。エリンは精霊ガグナ信仰である。

 『ああ、はあ』と言わんばかりの、ポカンとした表情に、蒼銀の光がやや揺れていた。

『……わたくしは、陰の神ネイなのです』
「「……」」

『話を……続けても?』
「「どうぞどうぞ」」

 さすがのふたりも『なんかショックだったんだろうな』くらいは感じていたようだ。二度名乗った声に明らかな揺れがあった。

『人々が暮らす世界は、光の世界と、陰の世界があります。目に見える光の世界と、そこで起こったことが育まれ、成果となる陰の世界です』

 ティフォの触手の揺らぎが止まった。エリンの尻尾はやや膨らみ、やはり動きを止めている。

『今、陰の世界に変革が訪れようとしています。瓦解がかいへと突き進む光の世界。その時間を進めようとしている者がいるのです』

 ハンネスとリディのことか。それともアルザス帝国のことか。エリンはそんなことを思い浮かべるも、やはりよく分からず黙っていた。

『その負のエネルギーすら、陰の世界では成果となり、力が生まれてしまうのです。
……このままではかつて隔離された闇の世界と、この世界との境界があやふやになりかねません』

 蒼銀の光が数回瞬くと、ふたりの体もその輝きを発して、かすかな風が起こった。

『あなたたちに祝福と加護を与えましょう ─── 』

 ふたりを包んだ輝きが、激しい閃光を放ち、膨大な魔力と神気が噴き出す。

 そして、ティフォは真紅のドレスに身を包んだ、燃えるような赤い髪の女性へと姿を変えた。エリンは肌色が褐色になり、眼に鋭い光を灯している。

『まずは力をつけなさい。海底の世界は広い。陸とは比べ物にならない存在が数多くひしめき合っているのです。貴女たちがこの海域の主ゴランモールを下したことで、しばらくは他の強者が集まってくるでしょう』

 ふたりの思惑と、陰の神の思惑とが一致した。ハンネスとリディは倒さねばならない。そのためには今のままでは、むしろアルフォンスの足を引きかねないとさえ思っていた。一方、ネイは海底で強者を倒し、力をつけろと言っている。

『海底でいられるだけの力と能力は与えました。これより、時が来るまで力を蓄え、オルネアの選定した調律者の支えとなるのです。……闇の力には、そうしなければ太刀打ちできないでしょう』
「よかろう。わらわはこの世界になんら義理を持たぬ。しかし、我が婿殿むこどののためとあらば、陰にでも光にでもなってやる」
「…………私もそれでいい。戦士として私は、いくつもの壁を越えなきゃならないのよ」

 ふたりの言葉に蒼銀の光は、微笑むようにきらりと輝いた。

『きっと険しく、苦しい道となるでしょう。どうか貴女たちの力を貸してください。貴女方に月の加護のあらんことを』

 そう言葉を残し、蒼銀の光が消えると、そこは再びぼんやりと壁の光る空間へと戻っていた。

「やるしかないわねティフォ。この海の ───
……あなた、なんで姿が戻っているの?」
「ん、このほーが、水の抵抗も軽かろー」

 ピピピピ……ピーピピピピ……

「それ、なんの音なのよ?」
「ん、海底と陸上との、面積の差をけーさんした。約2.7倍。水圧は……ゲロやばい」

 どう考えても無謀むぼうなことである。陸で生きるふたりにとって、水中での闘いはかなり不利となるだろう。空気がない。動きが重い。速度が落ちる。超々水圧は簡単に人など握り潰すだろう。

 だが、ネイの加護を受けたふたりは、自然と理解していた。それらに対応し得る能力が与えられていることを。


─── ドゴオオオオォォォォンッ!


 ティフォがおもむろに岩を殴り、壁を吹き飛ばすと、猛烈な勢いで海水がふたりを押し流した。

「や、やるなら一言いいなさいよティフォ!」
「まーまー、おんなじおんなじ♪」

 ふたりは海底へと押し流され、暗い深海の世界にいた。

 そのふたりをさらに深い闇の底から、巨大な光る目が見つめている。あの空間で膨れ上がったふたりの魔力と神気に、呼び寄せられた海底の強者だろう。

「ん、さっそく来たな」
「……あの空間から出て急に始まったわ。空腹感」

 ふたりは顔を見合わせて、足元の気配を見下ろした。

「「ちょうどいい。ご飯にしよう」」

 そうしてふたりの海底世界での修行と、間引きが始まった。

 陸上では考えられない巨大を持ち、はるか数千年を生きた、海底の強者たち。ふたりはそれらに挑み、その肉と力を食らい、力を蓄えていった。

 陸上と変わらぬ速度、破壊力を持つまでに、さほど時間はかからず。ふたりは着実に力を蓄えていった ─── 。


 ※


「…………そうして、私はより強力な破壊を得るために、魔術印を封印。獣人族として生まれ持った肉体強化を、極限まで鍛え上げたのよ」

 肉体強化は魔力を獣人独自の経路で体内に循環させ、筋力や五感を強化する特殊スキルのようなものだ。

「極限までって、かなり危ない橋を渡ったんじゃないか?」
「ええ。何度か体が弾け飛びそうになったわね。それを回復しながら、耐え得る体に強化して、いくつもの壁を超えたわ」

 おっかねぇ。ただでさえ深海の水圧がアホみたいにかかる世界で、体が弾け飛ぶまで強化に魔力を注ぐとか、自殺行為といっていい。だが、彼女はここにこうしているし、リディを吹き飛ばした時の動きは、もはや人を辞めているレベルだった。

「その肌が黒くなったのって、陰の神の影響なの?」

 スタルジャがおずおずと聞く。彼女もダークエルフ化するし、そこらが心配なのだろう。

「たぶんね。私たち獣人は、人族みたいに成人の義とかやらないし、特に守護神がつくって話も聞かないわ。ネイと繋がった時に肌は黒くなったし、保護色かしらね?」

 加護を確認してみれば、確かに『陰の神ネイ』と表示されていた。

「ティフォちゃんも加護を受けたんですか? 神が他の神から加護を受けるとか、聞いたことないですよ」
「ん、受けた。魔力も神気も、何倍にもなった。オニイチャ……ア、アル・・だって、タージャと契約してる。けっこー自由」

 そう言われてみればそうだ。ん? じゃあソフィアもラミリアから加護を受けたら……。嫌がりそうだな。うん。

「ん、それにあたしは、ネイとつながったことで、少し考え方がかわった」

 そういうと、ティフォは俺の方に向き直り、恥ずかしそうにほおを染める。

「ん、オニイチャ……ア、アルの……ああっ面倒くさい! 今まで通りで呼ぶ! オニイチャとさえ一緒にいられれば、あたしはそれでよかった。でも、今はちがう」

 エリンはもう知っているのか、なんだか優しい微笑みを浮かべてティフォを見ている。『がんばれ』と言っているようにも見えた。

「オニイチャといられるなら、あたしはこの世界だって変えてみせる。これ以上の苦難をものともしない、際限のない力を手に入れて、星すらも喰う。そんなしょぞんです」

 にっこりと微笑むティフォ。輝きすら放つその笑顔に胸が苦しくなるほどときめいた。

 でも俺以上に反応していたのはソフィアだったようだ。彼女は目尻の涙を拭いながらうんうんとうなずいている。

「ありがとう。ありがとうなティフォ。そこまでいってもらえると、俺もこの世界を是が非でも存続させるって思いがさらに強くなったよ」

 胸に飛び込んで来たティフォを膝に乗せ、しばらく抱擁しあった。

「あ、そういえばエリンたちは大丈夫だった? アルから流れ込んでくるすっごい量の魔力」
「……あれは辛かったわw ティフォなんか口から延々と空気吐きながら、海底のクレバスに沈んでいったのよ?」

 スタルジャとエリンのきゃっきゃと語らう、俺のクヌルギアで魔力爆発祭りの思い出話に、ソフィアもティフォも加わって盛り上がっている。

「……だって。強くなりたかったんだもん」

 ポツリとつぶやくと、呪いの武器たちが騒いでいた。『あれは良かったぞ主様よ! あと何度かあってもよい!』みたいな声が聞こえてくる。

 そりゃあお前らは『魔力喰い』だからな。得られれば得られるほど強大になるんだし。

「それにしても、ふたりが来てくれたタイミング、バッチリだったよ。すごいな。どうして里だとわかったんだ?」

 そう、ふたりと離れて二年近くになる。よく里にいると見抜けたもんだし、最初から闘う気まんまんだった気がする。

「ん、だってオニイチャが、あたしの名前を呼んだから」
「ん? 名前……?」

 ああ、『七人の戦士』にいく前の、物理結界ぶつりけっかいの穴を探してた時か。あの時、里を一緒に出てきた頃のティフォを思い出して、辛くなったんだ。

 初めてソフィアとスタルジャの前で、ティフォがいないことへの悲しみを口にして、ティフォの名を言葉にした。

「ティフォもエリンも、あれからずっと気配がなかったから、てっきり俺はさ……。あまりにも辛くて、ずっとふたりの名を口にしたり、辛いって気持ちを言葉にするのを避けてたんだよ」
「「…………」」

 ふたりはうつむいて小さく震えている。彼女たちだって戻りたかったろうに、暗くて過酷な海の底でがんばっていたんだよな。俺が『辛くて』とか言ってしまって、傷つけてしまっただろうか?


─── ガッ‼︎


 ふたりに両方からつかまれて、あっという間にベッドに連れていかれそうになるのを、なんとかソフィアとスタルジャが止めてくれた。

「むしゃぶりつきたくなるのも分かりますが、話が進まなくなりますから、ね? 落ち着きましょう」

 ティフォとエリンは頼りになるが、妙なところで、天然かつ強引なのを思い出した。危うくソフィアとスタルジャの前で、ふたりがかりで襲われるところだった……。

「ん、とにかく。ひとざとの近海にちかよるのは、だいたい食らった。そこでオニイチャの声が聞こえて、飛んでった」

 相変わらず言葉が足りないティフォの気持ちを要約すると『これより、時が来るまで力を蓄え、オルネアの選定した調律者の支えとなるのです』とネイに言われたその『時』は、今だと思ったそうだ。

「とにかく、ふたりが無事で良かったよ。本当に。生きていてくれて、ありがとう」
「「…………」」

 あ、これはまたベッドに連れ込まれるやつだ! そう身構えた時、スタルジャが気をらそうと、あわてて間に入ってくれた。

「と、ところで陰の神の言ってた『闇の力』って、なんだったの⁉︎」

 うん、それだ。ネイの言う『時間を進める者』。


─── 『今回はバランスの崩れ方が、ヤバイだけじゃないよ。ぜーんぶ、壊そうとしてるのがいるの。うーんとね、ずっと隠れてたけど、そろそろ動き出すみたい。その手下はねえ、アルフォンスが生まれるちょっと前から、もう色々マールダーで動いてる』


 かつてシノンカでラミリアが口にした、予言めいた言葉。越権行為えっけんこういへの神罰のせいで、ただでさえ舌ったらずな言い方だったが、ネイの言葉とも一致している。

「何か『闇の力』ってのと、『時間を進めている者』ってのは関係があるのか……?」

 思わず口にすると、ティフォは珍しく難しい顔をして唸っていた。

「んー、たぶん、ちがう。かくしょーはないけど『闇の力』は、こことは違う世界。かくりされた場所にいる」
「……こことは違う世界?」
「ネイはぜんぶは言わなかった。んーん、言えなかった。でも、けーやくでつながって、なんとなくわかる」

 言葉にするのがそうとうに難しいようだ。しばらくみんな黙って見ていたが、唸ったままのティフォをそのままに、みんなでああでもないこうでもないと話しはじめた。

 しばらくすると、俺たちの後ろで『ボムンッ』と音がして、ティフォが大人ティフォになっていた。

「ふむ。やはりあの姿だと、言葉と知性が追いつかぬ。まだこの姿では疲れる。手短に話すぞ?」

 ソフィアたちも見かけた姿とは言え、やはりまだ見慣れないからか、圧倒されて見惚みとれていた。もちろん俺もだ。

「この世界の運命は、大きな分かれ道を進んでおるようじゃ。完全なる好転か、完全なる破滅か。それらは、いくつかの道が混じり合い、思わぬ形でそのどちらかに進む」
「……極端な結末。白と黒……」

 メルキアで聞いた宝剣の予言が脳裏に浮かんで、思わずそうつぶやくと、ティフォがこちらに微笑んだ。

「婿殿も強い運命故、肌では感じておるようじゃな。ハンネスと婿殿、白と黒が入れ替わるような、各々調律者の混乱も、そのあやふやで極端な未来の影響を受けておるのやもしれぬなぁ」

 俺が魔王の系譜けいふなのにも関わらず、調律者に選ばれた。ハンネスは適合者ではなかったのに、人界の調律者となり、魔界の調律者ともなった。

 これらが原因ではなく、向かう未来が極端な二択しかなくて、色々な運命が引っ張られてる……?

「つまり……
─── 『闇の力』と『時間を進めている者』は関係がないってことか」

 ティフォは目を閉じてうなずく。

「無論、確証はない。しかし、シモンに残された気配と、この世界の向こうから見つめてくるような気配は別物というのはわかる」
「シモンさんの血に、あのアザの記憶があったんですか⁉︎」
「否。ただ、意思の残留、思いの色とでもいえばよいかのぅ、種を裏から支配する意思。そう感じ取れた。そして、ハンネスの血じゃが ─── 」

 思わず『あっ』と声を出しそうになった。ティフォはハンネスを触手で貫いていた。その時にハンネスの記憶を抜いていたのなら、大きな手掛かりになる!

「残念ながら、あやつの記憶には、極極端な記憶しか残されてはおらん。あやつは世界を己にとってゼロか百かに分け、その時の強い刺激しか頭にない」

 肩を落とす俺たちにティフォはふふふと笑い、悪戯っぽく続ける。

「そう急くな。じゃからこそ、あやつの記憶に『ジョルジュ』の存在は残っておった。ただし、それがまた極端なのだ」
「……極端?」
「突然、好意的になっておる。自分以外には父か王か、想い人しかいないあやつがじゃぞ? 魅了の魔術でもなく、突然、ジョルジュという老人に好意的な目を向けておった」

 シモンの過去の話でも、シモンにアザを継承した男ボグズに、彼は妙に信頼感を得たと言っていた。

「それは……。神威……ですか?」
「おそらく」
「「 ─── ⁉︎」」

 ソフィアとティフォのやり取りに、俺たちは驚愕きょうがくした。同時に俺は純然じゅんぜんたるヴァンパイアのシモンに、それも真祖になりたてで高揚こうようしていた彼を、きつけられるとしたらそれしかないとも思えた。

 ティフォはまだハンネスの手記の内容を知らない。だが、ハンネスの血から得たおぼろげな記憶と一致している。父親、王、カルラ。そして牢獄で面会に来たジョルジュ。

「こんなものがあるんだが……」

 俺はハンネスの手記をティフォに渡して、かいつまんで内容を聞かせた。だが、ティフォはただ目を閉じて、手記に手を当てているだけだ。

「 ─── 面白い」

 突然目を開いたティフォは、俺に手記を返して、妖艶ようえんに微笑んだ。その扇情的せんじょうてきな表情にまたも胸がどきりとなる。

「だいたい妾が得た血の記憶と近いようじゃ。ただ、これを長いこと懐に入れておった男の残存思念も多いに混ざっておるが」
「……リ、リーディング⁉︎」

 ソフィアが思わず大きな声を出した。いや、俺らもみんな驚いていたが。リーディング。物や場所に残る残存思念を読み解く技術。

 特に神気が高まった様子もなかったし、元々やっと人の姿になれた時でも、力から記憶を得る能力があったくらいだ。彼女が持つ特性や超能力のようなものなのだろう。

「やはり妾が感じておる、隔離された世界のものとは異なっておるのぅ。『時間を進めている者』があのアザにまつわる存在なのだとすれば、やはり『闇の力』とは関係がないと捉える方がよいな」
「あ、ああ……。今は正解を調べようがないからな。そこまで分かればかなり頭の負担が減るよ。しかし、すごいなティフォは!」

 と、俺の前に美しいウェーブヘアーの頭が差し出された。どうやら『なでれ』らしい。たじろいだが、なんとか男気を発揮してなでておく。

「……つい、いつものクセが出てなぁ。妾も婿殿には調教されたものよの。ふふふ……」
「調教って……」

 ティフォの能力には驚かされたが、結局はアーシェ婆の言う通りなのかもしれない。

 今はあれやこれや頭を捻ってないで、今を大切にしようと思った。

 その夜は久しぶりに大人数で雑魚寝をした。元の姿に戻り、バンザイをするような姿勢で眠るティフォを見て、本当に帰ってきたんだなと改めて実感した。

作者のつぶやき

『時を進めている者』はどうやら“ジョルジュ”のようです。
そして新たに出てきた『闇の力』の存在。

時代が大きく変わる時に、不特定多数の大きな要因が、たまたま現れる。
現実の歴史でもよくあることですね。
まるでシナリオがあるかのように、世界が進んでゆく。

どうもハンネスを倒せば終わりではなさそうです。

面白かったら、その分だけ押してね
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